【三洋電機製MSX2+】PHC-70FD(WAVY70FD)を整備した
PHC-70FDを入手した
ひょんなことからノーメンテで物置に放置されていたPHC-70FD(MSX2+パソコン)を入手しました。

ずいぶん古いパソコンですが傷や樹脂部分の変色はほとんど無く、見た目の状態は大変良いです。
とはいえノーメンテでかなり長期間放置されていたためか、入手したときは以下のような状態…。
- キーボードの一部のキーが反応しない。
キーマトリクスの一部が接触不良を起こしているのだろう。 - フロッピーディスクを読まない。
シーク音は普通だがスピンドルモーターから変な音が鳴る。なんか回転も早すぎるような。 - 電池が液漏れしている。
シールド板金が一部錆びている。 - FM音源・PSG音源は鳴ることは鳴る。
…けど音がスカスカ。チャカポコドラムがさらに冴え渡っている。 - BASICとROMカートリッジは問題なく起動する。
すでに起動しなくなっている機体も多い中、正常に起動するだけでも十分。まあこれだけ動いていれば余裕で直せるでしょう。
将来劣化破損するであろう箇所の予備修理も含めて、以下の修理をすることにしました。
- キーボード修理
- フロッピーディスクドライブ修理
- 電解コンデンサ換装
- 板金の錆の除去
PHC-70FDというのは、今は無き三洋電機が販売していたMSX2+規格のパソコンです。
同社のパソコン・ワープロ(死語)などと共に鳥取三洋電機で製造されていた模様。他社のMSX規格のパソコンはいかにもオモチャな外観だったのに対し、三洋電機のMSXはシックなデザインが特徴的でした。おそらく業務用途も想定してのデザインでしょう。
このモデルも作りが非常に堅牢で樹脂部分の変色もほぼ無いなど、他社製MSXと比較して耐久性が高いように感じられます。
ていうかMSXって何ぞ?
たまたまこのページに流れ着いた人のために一応説明。
MSXは主に1980年代に販売されていたパソコン規格の名称です。
マイクロソフトとアスキーが規格を提唱して、その情報や基本設計を各メーカーに提供していました。IBMのPC/AT規格みたいな感じですね。
以下のような特徴もあり、公には30社弱が参入した模様。最終的には全世界で400万台以上売れたようです。
- 『カートリッジを装着するROMスロットを備えておりテレビに繋げて使う』というスタイルは、当時大流行していたファ○コンと同じだった。
- マイクロソフトのBASICがROM内に実装されており、プログラミングも可能。
- ゲームもできるパソコン=ただの玩具ではない、ということで保護者の理解を得やすい。
- パソコンとしては安価ということもあり購買の敷居が比較的低い。
当時としても突出した性能ではなかったことが幸いし、ロシア(旧ソ連)や中東諸国向け製品も積極的に製造・輸出されていました。(枯れた技術の組み合わせで構成されており、輸出規制に引っかかる要素が無かった。)
…が、1980年代後半になると他機種との性能競争で完敗し、まさにあっという間に衰退。
しかし、
- 汎用半導体で構成されており、設計情報も公開されていることから個人レベルでも製作可能
- 基本的な機能はハードウェアで完結しているという手軽さ
- BIOS経由のアクセスを前提とした互換性の高さ
- ハードウェアレベルでプラグ&プレイを実現できる、基本設計の堅牢さ
…なども相まって2000年代前半にMSXPLAYer(公式エミュレータ)が公開されたり、1chipMSX(実機)が製品化されるなど、すでにビンテージパソコン枠にありながら世界中に根強いファンがいる愛されハードなんです。
今更ですがMSXの敗因は下記ではないか…と思ったりしてます。
- 連続メモリ空間がたったの64キロバイトしかないZ80(CPU)バス空間を拡張できず、メモリ拡張をメモリマッパーに頼ったこと
- アナログテレビ接続(RF/コンポジットビデオ/Sビデオ出力)を前提としたため解像度が上げられなかったこと
- ビデオチップであるVDPは表現力こそ拡張されたものの、描画性能が当時としても低すぎたこと
…MSX2+の時点で規格仕様が拡張され、これらの課題が解決されていれば…PC/AT規格の代わりにMSX規格のパソコンでWindowsが動作する未来があったかもしれません。
え?turboR?? ……そんなものあったっけ?
ちなみに
興味がある人も居ると思うので基板の写真も載せておきます。
紙エポキシの両面基板ってなかなかレアです。
部品面
写真左上が電源回路。スイッチング電源により+5V、±12Vが生成されます。
その右、写真上中央が映像・音声回路です。VDP(V9958)とDRAM(HM50464)周りだけはデジタル回路なのでノイズが回り込まないよう、GNDが分離されているのがわかります。
その他、RFモジュール・コンポジットビデオ信号生成(MC1377P)・カセット入出力のアナログ回路が載っています。カセット入出力回路のオペアンプはBA14741がはんだ面に実装されています。
写真右上はFDDインターフェイス・プリンタインターフェイスの関連回路が載っています。FDDインターフェイスはTC8556AFが使用されていますが、はんだ面に面実装されているため部品面からは見えません。
写真右下がMSXシステムのチップを1チップ化した MSX-Engine とその周辺回路です。FM音源のYM2413が載っているのが見えます。
また、はんだ面にT9769が載っています。このチップは、MSXを構成するにあたってのCPU周りの回路(Z80-CPU、8255相当のPIO、リアルタイムクロック、PSG)をワンチップに集約したものです。
写真左下がスロット周りの回路。M60013-0148というカスタムゲートアレイがはんだ面に実装されています。このICにはおそらくメモリマッパーとアドレスデコーダ回路が実装されていると思われます。
はんだ面
はんだ面はフラックスだらけでお世辞にもキレイとは言えません。
はんだパレットを使わずにはんだ槽で実装しているのか、QFPのパッケージもフラックスまみれです。おそらくSMT→はんだ槽→手修正→ハーネス後付け、という工程で製造されていると思われます。
今そんな工程設計したらアホかと叱られます。これだけ見ても時代を感じますね…。

キーボード修理
筐体を分解すること自体は大変容易です。樹脂のツメで嵌め込んであるような部分は一切なく、本体裏側のネジを外すだけで上蓋・下箱を分離できます。(FDDケーブル・連射基板ハーネス・LEDインジケータハーネスを外す必要はありますが。)
上蓋を外してメインロジック基板を露出させると↓こんな感じ。
1980年代後半の製品だけあり、主要機能を実装したチップはVDP(V9958)とYM2413以外すべて表面実装になっています。

キーボードは右下のフレキ2本で接続されています。
だいぶピッチが広いフレキですが、このうち何本かが接触不良を起こしているっぽい。

下写真はキーボードを外したところ。ここからさらに裏面の樹脂ツメを外すことで簡単に分解できます。
ジュースなどをこぼしても下のメインロジック基板にかからない親切設計。キーパッド部分はシート状になっており、剥がして清掃することができます。

フレキを外したところ。
厚紙にアルコールを染み込ませたものを抜き差しして清掃しするのですが……厚紙が真っ黒になりました(涙)。そりゃキーボード利かんわ。

フロッピーディスクドライブの修理
多少長くなるのでこちらの別ページをご覧くださいませ。
電解コンデンサの換装
この機体が製造された当時は高誘電率系のセラミックコンデンサや固体電解質のコンデンサが無かったこともあり、通常の電解コンデンサが多用されています。
電解液漏れは無さそうですが予備修理としてすべての電解コンデンサを換装します。
まずは電源周り。トランス電源かと思ってましたが、ちゃんとスイッチング電源が使われています。
セラミックコンデンサや固体電解コンデンサに換装するとフィードバック回路が発振する可能性があるので、一般的な電解コンデンサを使う必要があります。

| アドレス | 定数 |
|---|---|
| C502 | 330μF 160V (有極性) |
| C555 | 220μF 25V (有極性) |
| C556 | 22μF 16V (有極性) |
| C156 | 470μF 10V (有極性) |
| C554 | 22μF 16V (有極性) |
| C553 | 470μF 25V (有極性) |
| C552 | 1000μF 10V (有極性) |
| C551 | 2200μF 10V (有極性) |
| C187 | 47μF 16V (有極性) |
| C186 | 47μF 16V (有極性) |
セラミックコンデンサや固体電解コンデンサはESR(等価直流抵抗)値が一般的な電解コンデンサに比べると非常に低く、フィードバック回路を含む制御系に使用すると制御系が過剰応答して発振が始まり、それが原因で機器が破損することがあります。
今回も同様の可能性があるので通常の電解コンデンサを使用します。
続いてオーディオ・ビデオ周り。
セラミックコンデンサに換装するのは音質・画質に大きく影響するので、電解コンデンサに換装します。
オーディオ用の高品質電解コンデンサへの換装で画質・音質とも改善するでしょう。
ただ、オーディオ用の高品質電解コンデンサは外形が大きいため実装方法には工夫が必要です。

| アドレス | 定数 |
|---|---|
| C137 | 220μF 10V (有極性) |
| C148 | 220μF 10V (有極性) |
| C142 | 10μF 25V (有極性) |
| C143 | 10μF 25V (有極性) |
| C141 | 10μF 25V (有極性) |
| C158 | 220μF 10V (有極性) |
| C155 | 100μF 10V (有極性) |
| C145 | 330μF 10V (有極性) |
| C146 | 330μF 10V (有極性) |
| C144 | 330μF 10V (有極性) |
| C153 | 220μF 10V (有極性) |
| C157 | 470μF 10V (有極性) |
| C152 | 22μF 10V (有極性) |
| C151 | 22μF 10V (有極性) |
| C150 | 22μF 10V (有極性) |
| C160 | 220μF 25V (有極性) |
| C183 | 47μF 16V (有極性) |
| C185 | 47μF 16V (有極性) |
| C184 | 47μF 16V (有極性) |
| C115 | 100μF 16V (有極性) |
| C114 | 47μF 16V (有極性) |
| C180 | 220μF 16V (有極性) |
| C108 | 220μF 10V (有極性) |
| C202 | 470μF 10V (有極性) |
| C130 | 220μF 10V (有極性) |
| C117 | 1μF 50V (無極性) |
| C179 | 1μF 50V (有極性) |
| C176 | 1000μF 10V (有極性) |
続いてROMカセットのスロットとゲートアレイ部分です。
この辺りのコンデンサは完全にデジタルロジック系のデカップリングコンデンサなのでセラミックコンデンサに換装することができます。

| アドレス | 定数 |
|---|---|
| C188 | 4.7μF 25V (有極性) |
| C198 | 47μF 10V (有極性) |
最後は MSX-Engine チップ周りです。
C102・C106はデジタルロジック系のデカップリングコンデンサなのでセラミックコンデンサに換装することができます。
C112・C113はFM音源周りなので電解コンデンサを使いましょう。

| アドレス | 定数 |
|---|---|
| C102 | 100μF 10V (有極性) |
| C106 | 2.2μF 50V (有極性) |
| C112 | 47μF 16V (有極性) |
| C113 | 47μF 16V (有極性) |
オーディオ周りにセラミックコンデンサを使ってはなりません。
高周波特性が良すぎるため、異常に高音が強調された聴くに耐えない音質になってしまいます。
換装後の写真も参考までに載せておきます。MUSEを多用しているせいでゴテゴテですが換装前後では明らかに画質・音質とも上がりました。まさかここまで変わるとは。(ただ劣化箇所が元に戻っただけかもですが…)

板金の錆取り
液漏れ電池が入れっぱなしになっていたせいで、板金が錆びてボロボロになっていました。
放っておくと錆が広がって基板に付着してショートする可能性があるので錆取りをすることにしました。
↓板金の黒くなっている部分が錆びている部分。

ところがこの錆、かーーーなり重症のようで…
- ケチャップ付け置き(2時間)後に磨く → 表層ごく一部の錆は落ちた
- クエン酸付け置き(1晩)後に磨く → ほぼ効果なし
- 錆落とし薬剤で付け置き(2時間)後に磨く → ほぼ効果なし
- ワイヤーブラシで磨く → 表面のボロボロは落ちたがまだ本丸は残っている
…という感じで、えらい苦労してもまだ綺麗にならない有様。
最終的に粒度80の耐水サンドペーパーで水に浸しながら磨く…というのが一番効きました。だいたい1時間くらい磨いて下写真のような感じ。

まだ黒い部分が残っていますが、どうも黒変した部分はすでに化学的に安定な状態になっているため無理に剥がない方が良いそう。外から見える部分でもないので、錆止め油でコーティングしてここまでとしました。
まとめ
ここまで清掃・整備したことで、とても調子良く動くようになりました。動作している写真を載せときます。
MSXといえば家族に多少迷惑がられながらリビングのテレビに繋いで使うモンなので、もちろんリビングで撮ってます。

MSX-FANって懐かしい…と感じる方も居るのではと。それにしても大昔のフロッピー、まだちゃんと読んでくれるのね。
