【古くても高性能】直流安定化電源 菊水PAB18-5.5を整備した
菊水電子工業 PAB18-5.5といふもの
PAB18-5.5というのは、菊水電子工業製のドロッパ型安定化電源装置です。
ずいぶん昔に父親からもらった物ですが、欲しくてもらったわけでもなかったため、「重くてデカイし電圧の微調整もできなくて不便だなあ」ということでスペックを細かく確認することもなく忘れ去っていました。
で、最近になって物置をゴソゴソしていたら久々に発見。よくよく調べてみると出力は0Vから可変できるし、5.5Aも出力できる。しかも菊水電子工業製じゃん!!ということで、せっかくだから使える場面があれば使おうと思い立ちました。(笑)

…とはいえ、気になることがいくつか。
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製造されたのが1989年より前
この記事を書いているのは2020年。製造から30年以上も経過している辺り、もう骨董品の域に達していますね。 -
その間、ほぼ物置に放置状態(だと思う)
物心付いた頃にはすでに物置に置いてあったのでいつ置かれたかは不明ですが、夏は暑く・冬は寒い物置に放置されてきました。電解コンデンサは間違いなく死んでいることでしょう。 -
電圧の微調整ができない
一応、電圧調整は粗調整と微調整の2つのボリュームが付いているのですが、粗調整のボリュームはちょっと触れただけで1Vくらいは平気で変わってしまうので怖い…
というわけで、ある程度ばらして整備しつつ気になる部分も改善してみることにしました。
すさまじい耐久性
ひとまず物置から持ち出した段階では、ホコリがすごいなあ…という程度。外装を外してみたところ、MOS-FETではなくパワートランジスタが使われているあたり時代を感じる作りではありますが、コンデンサの液漏れも一切なし。(この製品が作られた当時はMOS-FETなんて物はこの世に存在しませんでした。)




配線もしっかりガッチリ配線されていて接触不良も無さそうですし、これは電源入れてみるか?!ということで恐る恐る電源を入れてみました。
…なんとまったく何の問題もなく、あっけなく正常動作しました。昔の製品は丈夫だと言いますが、すさまじい耐久性だ……もう整備なんか必要ないんじゃないかと思えるくらい。(笑)
でも多分電解コンデンサは死んでいるだろうし、パワートランジスタのヒートシンクのシリコングリスもきっとカピカピになっていることでしょう。あと、リレーの接点も心配なので清掃ついでに分解整備します。
ちなみに取説は菊水電子工業のホームページから入手できます。
| PAB Series TYPE LL 直流安定化電源 取扱説明書 | https://manual.kikusui.co.jp/P/PAB_TYPE_LL_J.pdf |
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こんなに昔の製品でも資料を公開してくれているとはありがたい。さすが菊水。
取説に概略回路図や調整方法まで載っていて、壊れたらユーザーで整備して使う前提で作られています。取説にも「壊れて部品交換した場合は再調整して」と書いてある…まるでエンジニア同士の引継書のようだ。さすが菊水。
そのためか配線なども切れないように非常に頑丈に取り付けてあり、ちょっとやそっと構造物を動かした程度ではびくともしません。さすが菊水。
もうね、菊水に骨抜きにされました。これはきちんと整備して、後生大事に使うことにしよう…
ちなみに、中身は全部手組みで国内生産。1989年頃に定価5万円程度で市販されていたようですが、こんなに凝った作りの手組み製品は今だと一体いくらになるんでしょうね。
清掃する
分解自体はそんな難しくないので割愛しますが、内部に溜まったホコリは若干油分を含んでいるようで、掃除機で吸い取ってもびくともしません。まあこれは長年倉庫に放置されていたので仕方ないですね。
というわけで、ケミカル類を駆使して清掃しました。
腐食性を無視すれば何でもアリですが、さすがに配線が溶けたり金属筐体が錆びたり…というのは勘弁なので今回は下記を使いました。
電子部品にかかっても問題ないと思いますが、できるだけかけないように気を遣いながら使いました。必ず換気の良い場所で使いましょう。できれば外でやった方がいいです。
- シールはがし(強力タイプ)
主に外装の清掃に使いました。シールやちょっとした汚れは、シールはがしをちょっと吹き付けて2〜3分放置してからメラニンスポンジでこすると落ちます。
もちろんフロントパネルの刻印は一切落ちないのでご安心を。
主成分はリモネンです。使っているとオレンジの香りが辺りに充満して良い匂いだと思うでしょうが、あまり吸わない方が良いです。
- パーツクリーナー(強力タイプ)
本来は自動車やバイクの部品の脱脂をするためのものです。今回は油分を含んだホコリ飛ばすというか流すというか…のために使いました。めちゃくちゃよく落ちます。
ホコリも一緒に流れて落ちるので、下には新聞紙などを敷いておいた方が良いでしょう。
主成分はペンタン・ヘキサン・ヘプタンの辺りの混合物のようです。独特の匂いがします。
- メラニンスポンジ
これはおなじみ。水をつけてこするだけで汚れがよく落ちます。
基本的に内部のホコリはパーツクリーナーで流し、外装はメラニンスポンジに少量の水を含ませてこすり、落ちなければシールはがしを使う…という感じで掃除します。
新品同様まではいきませんが、これだけでもわりときれいになります。
電解コンデンサを交換する
電解コンデンサは下記の7タイプ9個が使われていました。昔の製品にしては意外と少ないです。
| 容量/耐圧 | 個数 | タイプ | 場所 |
|---|---|---|---|
| 4.7uF/50V | 1 | ラジアル | リモート制御コネクタ付近 |
| 10uF/50V | 1 | ラジアル | 基板上 |
| 47uF/25V | 1 | ラジアル | 基板上 |
| 470uF/50V | 1 | ラジアル | 基板上 |
| 4700uF/35V | 3 | ラジアル | 基板上 |
| 470uF/25V | 1 | アキシャル(チューブラ) | フロントパネル裏 |
| 10uF/50V | 1 | アキシャル(チューブラ) | フロントパネル裏 |
これらをすべて新品に交換します。もとは一部85℃品が使われていますが、今回は全部105℃品に交換しました。新しい部品は外形が少し小さくなっていたりします。技術の進歩ってやつですね。

あとリモート制御コネクタ辺りをいじったついでに、リモートを無効にしておきました。取説の回路を見るとわかりますが、リモート端子の接触が悪くなってオープン状態になった場合、出力電圧がMaxまで振り切れて出力されます。
古い製品ですし接触不良なんていくらでも考えられるのと、リモート制御なんて使わないので配線をショートさせてフロントパネルのボリュームだけが有効になるようにしました。いきなり出力電圧が20V弱まで振り切れるかもしれないなんて、恐ろしすぎですので。
ちなみに外した古いコンデンサの容量を測定してみたところ、1個たりとも容量抜けしてませんでした。
どんだけ丈夫に作ってあるんだよ(笑)
ボリュームを交換する
気に入らなかったポイントの一つ、電圧調整と電流調整のボリュームです。
とくに電圧はちょっと触れただけで0.5V〜1Vくらいは平気でずれてしまいます。低い方にずれるならまだ救いようがありますが、高い方にずれて繋いだ物が壊れた日にゃあもう…というわけで交換します。

変更前のボリュームは以下でした。
| 型番 | 抵抗値 | カーブ | 調整対象 |
|---|---|---|---|
| RA25Y20S | 5kΩ | B | 電圧(粗調整) |
| RA20Y20S | 300Ω | B | 電圧(微調整) |
| RV24YN20S | 1kΩ | B | 電流制限 |
このうち、電圧(粗調整)と電流制限のボリュームを多回転型に変更します。電圧(微調整)はそのまま残すことにしました。
今回は手っ取り早く、秋月電子で売っている BOURNS 3590Sシリーズの精密多回転型ボリュームに変更しました。バーニャダイアルはいらないので買ってません。秋月電子の解説はバーニャダイアルを使わないと精密調整できないようにも読み取れますが、バーニャダイアルなしでもちゃんと10回転の精密調整ができます。
| 秋月電子通商 | http://akizukidenshi.com/catalog/ |
|---|
ここで気をつけないといけないのが配線の仕方です。もとの配線はボリュームの2番ピンと3番ピンをショートして使われています。

しかし上記の多回転型ボリュームでこれをやると抵抗値が非常に狭い範囲しか変化しなくなるので、2番ピンと3番ピンはショートさせず1番ピンと2番ピンに配線します。(3番ピンは何も接続しない)

パワートランジスタ類のグリスを塗り直す
パワートランジスタ類のグリスはもうカピカピになっているかと思いきや、まだまだ全然でした。(笑)
とはいえ30年前のグリスですし、当然ながら最近のものの方が放熱性能が良いに決まっているので塗り直しました。
パワートランジスタ類を外す
塗り直すにあたり、まずはヒートシンクのパワートランジスタ類を外します。
左側のヒートシンクにはパワートランジスタのドライバトランジスタ(1つ)とパワートランジスタが3つ、右側のヒートシンクにはブリッジダイオードとパワートランジスタが3つ付いています。
ドライバトランジスタとパワートランジスタには雲母板が付いているので、これも割らないように外します。無理に剥がそうとすると割れてしまうので、ヒートシンクに貼り付いて取れない場合はそのままパーツクリーナーできれいにすれば剥がれます。
付いているスペーサー類も組付け順を忘れないようにはずしていきましょう。これらはヒートシンク本体とパワートランジスタを絶縁するために付いているものです。血迷っても捨てないように。
外した後は、パーツクリーナーできれいにしましょう。トランジスタやブリッジダイオードは完全密閉されているので、パーツクリーナーがかかっても問題ありません。雲母板(7枚)も同様にきれいにします。

ヒートシンクも清掃する
外したヒートシンクもパーツクリーナーできれいにします。


組み付ける
あとは元通りにすれば良いのですが、ここで注意。
パワートランジスタの裏側は電極になっています。PAB18-5.5の筐体は0V電位になっており、ヒートシンクも同様。つまりパワートランジスタの裏側とヒートシンクは電気的に導通してはいけません。

まずはパワートランジスタの雲母板にグリスを塗って、ヒートシンクに貼り付けます。少々塗りムラがあってもネジで固定すれば密着するので構いません。

あとはパワートランジスタ類の裏側にも少量のグリスを均等に塗り、もとの位置にネジで取り付けていきます。こちらも少々塗りムラがあってもネジで固定するときに密着します。逆にあまり塗りすぎるのはホコリが付着してよろしくないです。

一通り取り付けたら、ヒートシンクとパワートランジスタ・ブリッジダイオードのリード(足)の導通がないことを確認しましょう。正常ならだいたいどのピンも数kΩ以上になるはずですが、もし数Ωの場合は組付けに失敗してショートしていることが考えられるのでもう一度組み直します。(ショート状態で電源を入れると壊れます。)
全部組付け終わると以下のような感じになります。

リレーの接点に復活剤を塗布する
PAB18-5.5の中には2枚の基板が入っており、それぞれにパワーリレー(いずれもRHIV2 24V)が載っています。
このリレーは出力電圧に応じて入力電圧(トランスのタップ11.5V・17.5V・22Vのいずれか)を選ぶために使われています。これでパワートランジスタの損失を減らしているわけですね。
このリレーもカバーを外し、接点に接点復活剤を吹いておきます。
リレーを交換しようかとも思いましたが、さすがに新品では売ってないですし傷んでいるわけでも無さそうなので今回はやめておきました。
出力ターミナルを交換する
もとの出力ターミナルはこんな感じ。

一見すると問題なさそうに見えますが、よく見ると日に焼けて真ん中が割れています。外した写真が以下ですが、色あせて劣化しているのがわかります。これも新しいものに交換しました。

ターミナル自体は秋月電子から購入したものです。真ん中の緑(GND)は穴を広げないとターミナルが挿さらないので穴を広げる加工をしています。まるで元からこういう製品だったようにも見えますね。

裏側は以下のように配線しています。
コンデンサはアキシャル(いわゆるチューブラ)型が付いていましたが、アキシャル型は需要が少ないのか入手性が非常に悪いので一般的なラジアル型に変更しています。
GND(真ん中の緑端子)は基準電位の端子です。緑色の配線で筐体に接続しています。(写真ではちょうど隠れていますが、メーターのネジに共締めしてます。)

あとは金具の加工です。これはGND(真ん中の端子)と-極を接続し、基準電位を筐体(0V)に合わせるためのものです。PAB18-5.5は複数台直列に接続して使うこともできるのですが、1台だけで使う場合はGNDと-極をショートさせて使います。
いちいちリード線でつなぐのも面倒なので金具をヤスリで加工しました。

こんな感じで装着します。

LEDを交換する
最後は電源LED。もともとは以下のようにLEDがホットボンドで筐体に固定されているだけです。どうせ光りゃいいだろ的な投げやり感満載ですねえ。


完全に気分の問題ですが、パネル取り付け型のLEDに変更しました。


きれいになった!
一通り組み上げたあとの写真が下記。もちろん正常に動きました。

機能に関しては何も変わってませんが、中身の部品は新しくなったので2050年くらいまでは使えるかなあ(笑)。