96−1.虚偽・嘘


最初は、何も嘘なんてなかったはずだった。




「それで、あなたはアレンとはどんな約束をしたって言うの?」

私はカインを部屋に招きいれた。
ムーンブルクで魔物が発生するという一騒動を終え、
私は今日はムーンブルクで泊まっていくように伝えた。
だから、今日はまだまだ時間はたっぷりあるのだ。

部屋の中は凍える寒さの外と違って暖かい。
私達は紅茶を飲みながら、しばし休息することにした。

話題はカインのアレンとの約束事についてだった。
どうやら2人は旅を終えて別れる間際に
なにやら約束をしたのだそうだ。

「うん、びっくりしたんだけどね、アレンに今度
 真剣勝負をしようって言われたんだよ。」

「えぇ・・・!?」

それを聞いて私は正直、今更?と思ってしまった。

もう戦いの日々は終わったのに。
むしろ終わった直後に、そんな事を言うアレンの発想に驚いたのだ。

以前にもアレンとカインが真剣勝負をしたことは、ある。
だが、それは強くなりたいという修行のようなもので、
あの時期、戦うため、強くならねばならなかった私達に必要な事だっただろう。

「マリアも驚いた?僕も驚いたんだけどね、
 でも、アレンがすっごい満面の笑顔でそんな事を言うから、
 約束しちゃったんだ。」

「満面の笑みで・・・?そ、そうなの。
 それでアレンは何て?」

「死なないように修行してろって〜。
 怖いよね。」

「・・・・・。」

アレンにとって剣とは、単に世界を救うための
手段と言うだけではなかったのだろう。

だから、今になってもそんな事を言うのだ。
そして、恐らく、アレンとつりあって戦う事が出来る人間なんて他にいやしない。
それがあって、アレンはカインにそんな事を言ったんだろう。

「けほっ・・。」

そんな考え事をしていると、カインが一つ咳をした。
思わず、私は顔をあげた。

「大丈夫?」

「うん。あのさ、マリア聞いてよ。
 僕もしかしたら新しい魔法が使えるようになるかもしれないよ。」

「え、新しい魔法?すごいわね。それ本当?」

「うん、アレンと戦うんだったら、
 少しくらい強くならないと駄目だしねー。」

そう言って笑った直後に、
カインは今度は少し顔を顰めて再び咳き込んだ。

今日はカインは少し体調を崩しているようだった。
少し微熱もあった。
だから、心配に思って私は彼にムーンブルクで休んでいくように言ったのだ。
あまり遅くまで話し込んでいる場合ではないだろう。

「カイン、やっぱりあなた風邪を引いてるのよ。
 もう早く休んだほうが良いわ。
 私が悪かったわね。遅くまで付き合わせてごめんなさい。」

「あ、いや・・・大丈夫なんだけどね。」

「明日になってもそんな調子だったら、
 また明日もサマルトリアに帰さないわよ。
 それじゃ、困るでしょう?」

まぁ、私は明日も彼がムーンブルクにいても何も困らないのだが、
カインはカインでサマルトリアでなにやら色々忙しいらしい。

「う・・・、うん・・・。」

そうして、私は半ば強引に話を終わらせた。
だから、私はカインの新しい魔法については何も聞かなかったのだ。


翌朝。
顔をあわせるとカインは昨日より元気そうだった。
早めに休んでやっぱり良かった。

「マリア〜、おはよう。」

「おはよう、元気そうね?良かったわ。」

「うん、この通りだよ。昨日は色々ありがとう。」

そう言ってカインは両手をグーにして握って見せた。
私はその様子に笑った。

「でも、マリアは何だか疲れてない?
 目の下に隈が出来ているよ。」

「え、やだ・・・本当!?」

私はあわてて、両手で顔を覆った。
そうなのだ、実は昨夜私は考えた事があって
カインを休ませた後も夜更かしをしていた。

サマルトリアに帰る前に完成させたかったのだ。

私が差し出したのは、丸い水晶玉だ。
それが2つ。

「どうしたの、その水晶玉。綺麗だね。」

少し不思議そうな顔をしているカインに、私はその水晶玉を渡した。

「あなたに一つ渡すわね。
 これで、私達離れていても会話ができるのよ。」

「えっ・・・!?これで?」

「そう、私の魔法力をこめているの。
 あなたがこれをサマルトリアに持って行けば
 何かあれば水晶に話しかけてくれれば、
 私と会話が出来るはずよ。」

「ほ、本当に!?そんなことができるの?
 すごいねーマリアは・・・。」

驚いているカインに、私は少し誇らしげに笑みを浮かべた。
たまたま読んでいた魔法書で見つけた魔法使いならではの伝達方法だった。

「何かあったら、これで連絡をしましょう。」

「うん、分かった!
 じゃあ、また今夜にもやってみるね。」

嬉しそうに頷いたカインに、私も満足だった。





***



私達は、それから何度となく水晶を使って会話を楽しんだ。

「これは、どういう仕組みで話が出来るの?」

不思議そうにカインが、水晶をつつきながら
尋ねてきた。

「これは、人の魔法力に反応しているのよ。
 だから、魔法使いじゃないと使えないの。」

「ふーん、そしたら、例えばアレンは使えない?
 誰でもどこでも使えるって訳じゃないのか〜。」

「そうね。それは難しいわ。」

こんな水晶一つで世界中の人と会話が出来れば、
それは便利な事だろうが、実際には難しい。

「そうだ。ねえ、マリア。
 今日ね、クナさんがサマルトリアに無事着いたよ。」

カインが話題を変えた。

クナはムーンブルクの兵の1人だ。
マリアと同様、数少ないかつてのムーンブルクの生き残りである。
だが、生き残る事が出来たのはムーンブルク崩壊の際、
その場から逃げ出したことによるものだった。

そのことに対して、私は特に何も言うことは無いと思っている。
むしろ、生き残ってくれていた事に感謝をしている。

だが、本人は自分のその臆病な所を少しでも克服したいらしく、
武者修行をしたいと私に願い出たのだ。
そこで一番近い国としてサマルトリアに行く事になったのだ。

「そう、無事着いたのね。良かったわ。
 多分近々私にも正式なクナからの報告が来るわね。
 でも正直あなたから聞いたほうが情報が早いかもしれないわね。」

「え、あ・・・。そっか。僕から言わない方が良い?
 きっとクナさんからちゃんと報告とか行くと思うし。」

「良いわよ、クナに抜き打ちで何かあったら教えて頂戴。
 修練をサボってたら、何しに他国まで行ってるのって
 私はムーンブルクの女王として、しっかり注意しないといけないし。」

私は少し意地悪そうにそう言った。

「わー、怖い。
 なんかスパイみたいだね、僕。
 でもクナさん大丈夫そうだよ。真面目な性格だし、
 しっかりしてるし、きっとうまくやっていけるよ。
 むしろ、サマルトリアってたるんでるんじゃないかって思ってそうー。
 あそこの王族皆のんびりしてるなー、大丈夫かって。」

「あ、その報告はその報告で、
 クナから聞いてみたいわね。気になるわ。」

思わず私は笑ってしまった。
他愛の無い会話だが、そんな時間も楽しかった。

だけど、やっぱり、本当は・・・・。

「ねえ、2・3日バタバタしてるんだけど、
 えーっと、今度は5日後にまたそっちに行っても良い?」

自分の会いたいという気持ちを読んだかのようなそのカインの言葉に、
私は自分でもおかしいと思うくらい顔を赤くして頷いていた。

・・・あわてて、火照った顔を覆ったが、
幸いにこの水晶玉は表情までは伝えられない。
ついでに頷いた所で、相手には見えていない。

「マリア?忙しいかな?」

なので、もう一度カインが尋ねてきた。
もちろん、断る理由もない。 

「ええ、大丈夫よ。
 待っているわね。」




だが、その5日後の朝、
カインから行けなくなったと連絡があった。

「マリアごめんね、本当にごめんね。
 どうしても外せない急用が出来たんだ。
 この埋め合わせは絶対するから。」

なにやら切羽詰ったような様子からは
嘘とは思えなかった。

「そう、気にしないで。
 今度時間が出来たらまた会いましょう。」

「うん、ごめんね。」

楽しみにしていたのは本当だが、
本当に申し訳無さそうにするカインに、
何も言う事は出来なかった。

今思えば、その用事が何だったのか
聞くくらいは聞いても良かったかもしれない・・・。

その夜。
会う事は叶わなかったが、話くらいは出来るだろうと、
私はいつもように水晶玉に向かって意識を向けた。

だが、いつもこの時間なら感じられるカインの気配は感じられなかった。

「・・・・・?」

まだ、きっとその『急用』と言うのが終わらないのだろうと思った。
私はカインが戻ってくるまでこのまま待つことにした。

しばらくすると、部屋に誰かが入ってきた気配がした。
カインではない。でも彼とよく似た質の魔法力の持ち主、妹のマイだった。

「お兄さま、また出掛けてるの?」

水晶玉を通して、マイの声が聞こえてきた。

「夜にふらふら出掛けてる場合じゃないよ・・・お兄さま。
 おかげで全然風邪が治らないんだから。
 朝からずっと熱があったのに。」

私は思わず聞き耳を立ててしまった。
恐らくマイは、私がここで話を聞いていることを気付いてない。

風邪って・・・前にムーンブルクに来たときも風邪を引いてたが、
もうあれから大分経つ。
まだ、ずっと体調が悪かったのだろうか。
そんな事全然聞いてない・・・!

「マイさん!!」

「わっ・・・!何、何の声・・・!?」

思わず話しかけた私の声に、
マイが驚いて周辺をあわてて見渡している。

「驚かせてごめんなさい。私よ、マリアよ。
 水晶玉から話しかけているの。」

「え・・・?ここ!?
 マリア様!?」

マイが水晶玉を覗き込みながら、
私の事を気付いたようだ。

「わあ〜、マリア様すごいですね!
 これ、どうなってるんですか!?
 どういう仕組みで話が出来るんですか!?」

兄と同じ事を聞いてくるマイが少し面白かったが、
面白がっている場合じゃない。

「あなたの魔法力を察知して、
 話しかけているの。
 って、そんなことじゃなくて、カインは一体どうしたの?」

「・・・どうしたって・・・?
 あれ、マリア様のところに行ってないです?」

「来てないわ!」

私の答えに少しマイは考えたように答えた。

「じゃあ、あっちかな。
 最近何故か暇があれば、
 お兄さま城を飛び出して城下へ行って
 誰かと会ってるみたいなんです。」

「え・・・?何それ。どこへ行ってるの?
 誰かと会ってるって・・・?」

マイの答えは私にとって思いもよらないものだった。
誰かに会いに行くって、誰にだ。
忙しいはずのカインが、誰に会いに行くというのだ。
男なのか女なのか、それすら分からないが、
私としていた約束を違ってまで、誰に会いに行くのだ。

私は何も聞いてなかった。
心がざわつくのを感じていた。
だが、それも気になるが、もっと気になることがあった。

「そ、それはともかく、
 先ほどの風邪って言うのは・・・?
 カインはまた体調を壊しているの?」

「・・・そう・・・なんです。
 昨日も・・・今朝も朝から咳き込んで辛そうだったから、
 だから出掛けるなって言ったんですよ。」

「出掛けるなって?」

「今日はマリア様と会う約束をしてたんですよね?
 でも、そんな調子だったら、マリア様に風邪移しちゃうから
 行っちゃ駄目だよって、私が朝言ったんですよ。
 なのに、結局出掛けて何してんだろう、本当馬鹿だなー!」

・・・・。

どれが真実で、どれが嘘なんだろうか。
朝の時点で体調が悪かったカインに、出掛けるなと忠告したのはマイだ。
だけど、カインは私に急用が出来たから行けなくなったと言った。

カインが考えている事が私はまた分からなくなってきた。

でも、一つ言えることは、
誰に会いに行ってるとか、そんな事はどうでも良い。

それより、風邪を引いているのに夜更けに出掛けたりして、
カインが体調を悪化させたりしないか心配だった。
そして、ちゃんと彼の口から真実を話して欲しかった。

「マイさん。」

「あ、はい。なんでしょう?」

「私、今からそっちへ行くわ。」

「えっ!!」

水晶玉の向こうからマイの驚く声が聞こえる。

だが、もう話をしているだけでは埒が明かないと感じた。
だから、私はもう時を待たずに、
今すぐサマルトリアへ行く事を決めた。


- 続く -

2014/07/07

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 七夕の日に何と言う出会えない話を書いているんだか・・・。
 続き物っぽいですが、ちょっと切ってみます。
 クリア後時系列「15.恋愛」のあとのマ リア視点の話を少しだけやってみようかなーと。
 
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