92−3.不老不死


アレンは今目前の光景に、一瞬息を飲んだ。
竜王の城は何度か来たことがある。

最深部の竜王の居場所に行く事も
最早、迷う事などない。

以前にここへ来た時は、
年老いて弱りきった竜王が玉座に座っていた。

だが、今目の前で咆哮を繰り返しながら
猛っているのは人ではなく、
紛れもなく竜の姿。

「りゅ、竜王・・・だな。
 なんだよ、これーーー!!」

竜王の雄叫びは耳をつんざくほどの大音量で
びりびりと体の芯にまで響く。

肝心の子供たちは無事なのか。
よもやあの理性を失っている竜王に
噛み千切られたりはしてないだろうか。

「マナ!!どこにいるの!?」

同じ事を考えていたのだろう。
マリアが、竜王の咆哮にも負けない大声で子ども達を探した。
幸いにすぐ、子ども達を見つけた。
マリアは慌ててそちらへ駆け寄った。

アレンは、マリアのその前に立ち、竜王の攻撃に備えた。

「・・・・?
 なんだ・・・・?」

だが、竜王はアレンなど視野に入らないかのように、
叫び続けるのみであった。

その隙に、マリアは呆然と座りこんでいるマナの傍に
倒れこんでいるカレルも見つけた。
傷自体はカレルの方が深い。意識もないようだった。

「ベホマ!!」

急いで完全回復魔法を2人に施した。

傷が癒されたカレルはゆっくりと起き上がり、
マリアの顔を見て、「あ・・・」と呟いた。
そして、少し離れた所に父アレンがいるのを見ると、
安堵の表情になった。

一方でマナはまだ呆然とした表情で
竜王を見上げていた。
無理もない。
あれだけの巨大なドラゴンの姿は恐怖でしかないだろう。

「マナ、大丈夫?
 しっかりしなさい。無事で良かったわ。」

「あ・・・母さま・・・。
 あ、あれは・・・何・・・?」

そう言って指差しているのは竜王だ。

「あれは・・・竜王よ。
 もう大丈夫よ。」

「ぼ、ぼく・・・竜王ってアレン様とか父さま、母さまの友達だって
 聞いてた!!だから、だから・・・!」

『友達』
・・・だから、危険を承知でこんな所まで会いに来たというのだろうか。

「マナ!ちゃんと説明しなくて悪かったな。
 あの姿も紛れもなく竜王なんだ。」

友達と説明したのはアレンだ。
今のあの姿はどう見ても友達を歓迎してる風には見えないが。

それに意識的ではないかもしれないが、
子ども達を傷つけたのだ。警戒しなければならない。

アレンは剣を構えた。

何故だか理性を失ったように叫び続ける竜王は
以前と違うように思う。
何か悲しみに泣いているようにも見える。
この竜王のせいで、魔物たちが増えているのかもしれない。

そうだとすると、子どもたちを抱えて、
これ幸いと逃げる訳にも行かない。

色々考えていると、
何者かが、がしっとアレンの服を引っ張った。

「ち、父上・・・!!」

アレンの息子のカレルだ。
その表情は悲痛な様相だった。

「カルどうしたんだ。怖いのか?」

「違う、大変なんだ!!
 アリスちゃんとはぐれちゃったんだ!
 暗くって探したんだけど見つからなかった・・・!
 今頃、大変な目にあってたら俺、どうしたら・・・っ」

ああ・・・と、納得した。
先ほどもマナを庇うように倒れていた。
こいつはこいつで最年長として必死に戦おうとしたのかと
アレンはその心意気を汲んだ。

「大丈夫だよ。
 アリスはもう保護して避難してる。
 安心しろ。」

「ほ、本当っ!?」

ほ〜〜っと腰が砕けるように、
カレルはその場に座り込んだ。
よっぽど心配していたらしい。

「マリア、2人を頼むぜ。
 俺はあいつと話してみる!」

「ええ、分かったわ。」

マリアは頷いて、子ども達を背後に匿うように、
立ちはだかった。
このまま避難したい気持ちもあったが、
そうもいかなかった。

「おい!!竜王!
 お前何を暴れてんだよ!
 どうかしたのか、お前らしくない!」

アレンの声が竜王の耳に届いたのかいないのか、
竜王はボオッと炎を吐き出した。

「うわっ・・・!」

慌ててその炎を避けて、事なきを得た。

しかし変だ。
竜王は確かに一時期自分達を凌駕をする実力を持っていたが、
こんな風に理知を失って暴れた事などない。

竜の姿に変身していた時だって、
呼びかけには答えていたじゃないか。
今の竜王はどうしたのだろうか?

「おい、竜王!
 どうしたんだよ、俺だよ!アレンだよ!」

呼びかけてみるものの返事はない。
そこで、ふと頭をよぎった。

これはあの竜王じゃないのではないかと。
いや、姿形はそのものだと思うのだが、
どうもおかしい。

思えば、ここにあの竜王がいるのもおかしな話なのだ。
最期だと 自分で言っていたじゃないか。
とすると、あれは何だ亡霊か?

そう思った直後、竜王は激しい咆哮とともに
その尾を激しく振り回した。

「うわっ!」

思わず飛び上がって避けたところに、
鋭い爪が振り下ろされた。

「ぐわあっ!!」

左肩から右わき腹にかけてを
鋭い爪が抉り取っていった。

なんだこの重い一撃は・・・
とても亡霊なんてものじゃない。

「父上!!」

「アレン!」

思いがけない負傷に、思わずマリアがその場を離れて
アレンに駆けよろうとした。

「馬鹿、マリア!そこを離れるな!!」

「えっ・・・?」

負傷のわき腹を抱えながら、アレンは大声で
マリアに牽制した。

竜王の攻撃は終わっていない。
激しい咆哮とともに、激しい炎が吐き出された。

その炎は、先ほどまでマリアのいた場所を明るく照らし、
そして包み込むように一気に襲い掛かってくる。

そう、その場にいたのは取り残されたマナだ。

「マナ!!マナ、逃げて!!」

「あ・・・ああ・・・・・・・。」

マリアはその場に急いで戻ろうとしても、間に合わない。
そして、恐怖におののくマナはその場を動く事すら出来ない。

あんな小さい子供があれほどの激しい炎を浴びて
生きていられる訳がない。

「いやぁ!!!マナ!!」

自分の過失のせいで、子どもが命の危機に晒されている。
マリアは激しい絶望感に打ちひしがれた。

その惨劇を思い、一瞬目を覆いたくなった。
が、惨劇は起こらなかった。

マリアの目は信じられないものを見るように、
その驚きの出来事を瞼に焼き付けた。

竜王の吐き出した炎は、
さらに巨大な炎に飲み込まれるように逆流して行ったのだ。

マリアはその出来事が信じられなかった。
いや、既視感すらある光景だったはずなのに
一瞬何が起きたのか分からなかった。

そんな事は、起こりえない事だと思っていたからだ。

「カイン!!」

最初に声をあげたのはアレンだった。
アレンは歓声を挙げて駆け寄ろうとしたが、
負傷が重くてそこから動けなかった。

「アレン、怪我したの!?
 大丈夫・・・!?」

カインは、マナを抱き上げて、アレンの傍に行こうとした。

「マリアは怪我をしていない?」

途中にいたマリアにも声を掛けた。
マリアは無言で頷いた。

いや、今のは何をしたのか?
それを聞きたかったのに、言葉が出なかった。

「マリア・・・?」

固まっているマリアを見て、カインが立ち止まった。
すると震えて抱かれていたはずのマナが
マリアに向かって笑顔で手を伸ばして飛び移ってきた。

「母さま!!ねえ、すごかったね!
 父さますごかった!僕の事助けてくれたよ!!」

笑顔でそう言う息子を抱きしめ、
マリアもようやく笑顔になった。

「ええ、ええ・・・。すごかったわ。」

不意に涙が出そうになった。
この涙が何を意味するのか、自分でも良く分からない。

安堵の涙か、喜びの涙か、それとも悲しみの涙か・・・。

「マリア・・・」

色々聞きたいが、カインはあまり言葉多く語ろうとしない。
そのまま背を向けた。今はまだ危機の中だ。
話は後だろう。

「アレン、大丈夫?」

「へっ、こんなのかすり傷だよ。
 それよりお前、なんだよやったじゃねえか!」

やったと言うのは魔法の事だろう。
カインは何と言おうかと思いつつも、
何も言わずに久しぶりにこの魔法を唱えてみた。

「ベホイミ」

左手に光が宿る。
今まで何度試しても光りもしなければ
反応も示さなかった左手が、
自分の意を汲むように光輝く。

そしてアレンの傷は癒されていった。

「ははっ、出来たじゃねえか。
 ベホイミできなかったんだろ?」

アレンは心底嬉しそうな顔をしているが、
カインはそうでもない。

「多分、今だけだよ。
 たまに、必死になった時、どうしてもって時、
 おまけみたいに
 魔法が使えるときがあったんだ。
 多分それだよ。」

マリアが心配でたまらなかったときに、
気が付いたらムーンペタからムーンブルクまでを
ルーラで飛んだことがあった。

でも、そのとき以外はやっぱりルーラは使えなかった。

カインの説明に、アレンはやっぱりと頷いた。

普段あまりやる気を見せないカインだが、
今までも、ここ一番と言う時は、大きな力を見せてきた。
だから、その時だけは押さえ込まれているマリア以上の力を発揮する、
その可能性はあると思っていた。

マリアは何も口を挟まないし、何も言わなかった。
だが、マナからも視線を逸らしながら、それを聞いていた。

「ま、今はそれはいいんだけどな。
 それより、でっかい問題があるんだ。」

「うん、そうだね。
 どうしたんだろう・・・。」

カインも咆哮を挙げ続ける竜王を見上げて、
首を傾げた。

「何か、悲しんでるようだね。」

「悲しんでる?」

「うん、竜王が死んじゃったから、
 悲しんでるんじゃないかな。」

「えっ!?」

カインはあっさりと竜王が死んだと言った。
じゃああの暴れているのは何だ?

「アレンも言ってたじゃない、
 竜王の子どもじゃないかなと思うんだけど。」

「あ・・・ああー・・・。そっか。」

子どもだから、アレンのことなんて知らないわけだ。
いくら呼びかけても無駄だったはずだ。

「不老不死の竜王なんてやっぱりいないのか。」

少し腑に落ちた。
亡霊だ何だとびびっていたのは自分だが。

「へへっ。そんなら何も怖くねえな。」

自分でも単純な思考だと思うが、
あれが竜王の子どもだとすると、
なんだかあの咆哮も子どもの泣き声と同じに聞こえてくる。

「父上・・・?」

まだ恐怖と戦っている表情の息子の頭を撫でて、
下がるように指示した。

「カル、マリアの傍に行ってろ。
 絶対安全だから。」

その指示通り、カレルは
マナと共にマリアの傍へと行った。

「アレン、カイン・・・あなた方。」

「こっちは、大丈夫だ。
 今度はしっかり守ってろよ。」

マリアはその言葉に、しっかりと頷いた。
今度こそマリアは子ども達を守るだろう。
優しく、強い母の顔をしていた。


アレンは 隣にいるカインの顔を見た。
カインはそれに気づいて頷いた。

気持ちが自然と高まっていく。

今だけかもしれない。
今だけでも良い。
もう二度と、こんな風に互いの隣で戦える日が来るなんて思わなかった。

「カイン、行くぜ!」

「うん、行こう!」

咆哮と共に吐き出された竜王の炎と、
それよりも大きな炎がカインの両手から放たれる。

竜王は一瞬その咆哮を止める。
炎は竜王を包み込む直前にふっと消えた。

その隙に振るったアレンの剣は
竜王の鼻筋に傷を付けることに成功した。

斬れる。
子竜王がまだ弱いのか、
いなづまの剣の太刀筋は、
硬い皮膚の竜王に傷を付けることが出来た。

だが・・・。
何もこの竜王を倒すのが今の目的ではなかった。

「アレン・・・!!」

「おっと!」

カインの声に我に返ると、
アレンは眼前に迫ったその尾を避けた。

「アレン、大丈夫!?」

「なんともねー・・・・って、お前も目の前!」

「わっ!!」

今度は振り下ろされた鋭い爪をカインが避けた。

「油断してたらこっちがやられちゃうね。」

「そうだな。
 これ以上、子どもの駄々には付き合ってやれねえな。」

「え・・・?」

きょとんとした顔をするカインに、アレンはふっと笑って見せた。

「言う事を聞かない子どもには、
 たまには荒療治が必要なんだよ。」

「・・・・・。
 分かった。」

カインは頷いた。
そしてふっと息を吸った。

いつだったか竜王が教えてくれた。
上には上がいると言う言葉と共に、この魔法。

「おりゃーー!行ってやれ!カイン・・・!!」

久しぶりに使う炎の魔法は、
自分の手に帰ってくるように馴染んでいた。
久しぶりに炎の精霊達に会えた気がする。

懐かしい感覚と共に、
かつて一度だけ成功した魔法を唱える。

両の手に広がった炎は一つに収縮される。
そしてカインは少し緊張気味に詠唱を唱えた。

すると、すぐ隣に居たアレンは、その詠唱も魔法も見ずに駆け出した。

ただ唯一、アレンだけはこの魔法を見たことがあった。
だから、何が起こるか、どんな威力かは知っていた。

そして天高く、アレンは飛び上がった。

直後カインが唱えた魔法が辺りを包み込んだ。

「ベ、ギ・・・ラゴン!!」

その炎は、巨大な体を持つ竜王を丸ごと飲み込んでいった。
竜王はその場から微動だにする事も出来ない。

ただ、アレンはその炎よりも高い所にいた。
そして炎が晴れていくよりも早く、
いなづまの剣を大上段に振り下ろした。

その一撃に、竜王の巨体は吹き飛ばれた。
そして胴体にはその太刀筋により一筋の傷が刻まれた。

「うわああ!父上すごい!」
「父さまもすごい!すごい!」

子供たちは両手をあげて歓声を挙げた。

カインは、その場に膝を着いて、
荒い息を落ち着けた。
さすがにあれだけの魔法を何の準備もなしに
いきなり唱えるのは堪えた。

「カイン、大丈夫か?」

「うん。平気。
 アレン、やったね。」

でも、前みたいに倒れるような事にもならず、
心の中で、少し安堵していた。

マリアは、正直ここまでとは思っていなかった。
確かにあの魔法の威力は、
自分のそれを越えていたかもしれない。

「あれ、やりすぎたか?」

見ると、子竜王は起き上がる事も出来ずに、
力なく横たわっていた。
だが、死んではいないようだった。

「マリア〜。悪い。
 やりすぎちまった。治してやってくれないか。」

その言葉にマリアは呆れたような顔をしながらも頷いた。
子供たちも恐る恐る後ろについてくる。

「どうするの?怪我を治したら
 また襲い掛かってくるかもしれないわよ?」

「そしたら、また俺らが止めてやるよ。」

「何よ、それ・・・。」

マリアは呆れたように今度は笑った。
でも、そう言うことか、とも思った。

子竜王の表情はどこか落ち着いていた。
目が覚めたような顔をしている。

「お前は親が死んで、寂しかったんだな。
 だからあんなに泣いて泣いて、
 暴れて回ってたんだ。」

「ガーーーー!」

竜王が雄叫びで答えた。
アレンはふふっと笑った。

「だけどな、お前の力はすごいんだ。
 お前が辛がって、悲しんで、世を儚んだら、
 それだけ、お前の周りの魔物たちが不安に思って
 自制もできずに、大暴れしちまう。」

アレンは竜王に諭すように話しかけた。

「母さま、よおはかなむって何?」

「しー。あとで教えてあげるわ。」

マナが知らない言葉を母に尋ねた。
難しい言葉で、竜王には伝わっているだろうか。

「そんなときは俺たちを呼べ。
 俺たちお前の父ちゃんと約束した事があるんだ。
 また会おうって。
 だから暴れたくなったら俺が相手をしてやるよ。」

親の竜王も、運命を憎み、
そして、どこか寂しそうにしていた。

「アレン、でも僕らの寿命が来たらどうするの?
 死んじゃったら、竜王はまた独りぼっちになるの?」

カインは、アレンの言葉に口を挟んだ。
そんな事今聞くべきことじゃないかもしれないが、
どうしても気になったのだ。

きっと人と竜の寿命は違うだろう。

「なあに、そしたら後にいるあのチビたちが相手をするさ。」

だがアレンはそう答えた。
不老不死なんて存在はいない。
だけど、何年、何百年経っても継がれていく思いと言うものは、
きっとある。そう思っていた。

「う、うん。竜王は僕らの友達、なんでしょう?
 今度は一緒に、遊んでね。」

マナはそう言って恐る恐る竜王のうろこに触れた。
とても硬かった。

「今度は、負けないぞー。
 俺もっと強くなるから!」

カレルも拳を作ってそう誓った。

子竜王はぐるると鼻を鳴らした。
きっと理解したのだろう。

「じゃあな。って去るのもあれだから、
 お前にこれをやるよ。」

そう言って、アレンはロトの兜を竜王の眼前に差し出した。

「は!?アレン、どうしたの?なんで兜を竜王にあげるの!?」

カインが驚いていると、
アレンは淡々と事情を説明した。

「ロトの剣、折っちまったからな。
 聖なるほこら無くなったみたいだし、
 ロトの兜はこいつに守ってもらうよ。」

アレンは手にしていたロトの防具をすべて
元ある場所に返していた。

もし、いつか、この先この防具を誰かが必要とするなら、
その時の勇者も、それぞれの場所まで来ればいいと思っていた。

「だから、お前は1人じゃないからな。」

アレンはそう言って子竜王に笑いかけた。

相変わらずこういう時のアレンの器は、
真似が出来ないなとカインは思った。


マリアはその様子を見守りながら、
少しだけアリスがこの場にいないことに感謝した。

アレンが言う事も分かる。
自分が辿ってきた運命も分かる。

だけど、女の子であるアリスに
その過酷な使命をあまり背負わせたくなかった。

「きっと、これで急増して暴れていた魔物たちも
 落ち着くでしょう。
 さあ、皆帰りましょう。
 帰りは、私の魔法で良いでしょう?」



+++


「お帰りなさいませ!
 アレン様!皆様!!」

「わ〜い!!お母様!
 マナもカルも皆無事だね!」

無事に戻った一行を、先に戻っていた
クレハとアリスは大喜びで迎え入れた。

「あ、アリスちゃん無事だったんだな!
 良かった!」

「姉さまもご無事で良かった!」

アリスはニコニコ笑顔でいたが、
その中にカインがいることに、少し不思議そうにした。

「お父様、なっがい、おトイレでしたね。
 お腹ぐるぐるですか?」

「アリス何言ってるの?」

思わず、怪訝な顔をしたマリアとアレンだったが、
カインは恥ずかしそうに頷いた。

「あはは。そうなんだよ。
 皆が戦ってる間、僕はトイレで戦ってたんだ。」

「はぁ!?んな訳あるかよ。
 お前も何言ってんだー・・って」

何をふざけてるのかと思ったアレンだったが、
カインはしーっと指を立てて、何も言うなと首を振った。

「んもう、お父様、昨日お腹出して寝てたからじゃない?
 あったかい紅茶を作っておいたから、皆で飲んで下さいね。」

「はい、どうぞアレン様もマリア様もお疲れ様でした。
 カレルもマナさんも大変でしたね。
 さあ、ゆっくり休んで下さい。」

アリスとクレハが差し出してくれた紅茶は疲れた体がすっと
癒されたような気になった。
これにて一件落着・・・。

の前に、マリアは言っておかねばならない事があった。

「アリス、マナ!それからカレルくんも。
 どうして子どもだけでこんな危険を冒したの!?
 こんな危険な・・・とんでもない事よ!」

3人とも少しでも到着が遅れたら死んでたかもしれないのだ。
マリアのすごい剣幕に、笑顔でいた子供たちはしゅーんとした。

「ごめんなさい。
 僕が言い出したんだ。王様の話を聞いて、
 きっと竜王の城に行けば何か分かるって。
 竜王の城は前にアレン様に連れて行ってもらったことがあったから。」

「だからと言って、今は魔物が出るのよ。
 あなたは話をちゃんと聞いていなかったの!?」

いつも優しい母に怒られて、マナはしょんぼりと落ち込んだ。

「マリア様あんまりマナを叱らないでやって。
 俺も悪いんだ。3人で行けば何とかなると思ったんだ。
 父上たちみたいに3人で冒険してみたかった。」

「10年早いんじゃねえか。修行が足りねえよ。
 大体お前アリスを見放すなんて、どういうつもりだったんだ?」

アレンの言葉に、カレルは力なくうなだれた。
本当にアリスとはぐれた時は、心臓が止まるかと思うくらい
心配で心配で仕方なかったのだ。

「ごめんなさい、それは私が悪いの。
 私が目に入った宝箱が気になっちゃって、
 列を乱しちゃったの。」

「アリスも気をつけないと、自分勝手な行動ばかりしてると、
 本当に皆に迷惑を掛けちゃうんだよ。」

「はーい・・・。」

言われなくても、こんなに肝が冷えた事はなかった。
口々に怒られて子供たちは反省しきりだった。

「ま、なんだ。
 今度何かあったら俺に言え。
 竜王と戦いたかったら、俺が連れて行ってやるから。」

その言葉に、今までうんうんと聞いていたクレハがぴくッと眉を動かした。

「アレン様、それは一体どう言う事ですか?
 子ども達が竜王と戦うだなんて?」

アレンは、あ・・・と口をつぐんだ。
先にクレハに言っておくべきだっただろうか。

ええい、もう良い。
全員無事で帰ってきたんだ。
アレフガルドの平和も当分は大丈夫だろう。

今日ばかりは祝杯で良いじゃないか。



「カイン、私も後で少し話があるから良いわね?」

「え?ええ・・・うん。」

マリアも少し目を光らせてカインにそう告げた。
魔法の事は、子供たちには話すつもりはないが、
マリアとはちゃんと話しておきたい。

平和になって気が抜けてる今は、
前みたいに、魔法は使えないようだった。

相変わらず情けないなあ〜とも思いつつ、
これでいいと思った。
自由に魔法を使いたいわけじゃない。
自分の望みは強くなって戦う事じゃない。
マリアと共に生きていく事だ。

アレンと違って、
本当の本当はカインはもう戦いたくなかった。
平和な世界で静かに生きていければ、それが一番だと思っていた。

だけど、もしマリアや子ども達に危害が加えられるとしたら話が別だ。

万一そんな事があって、それでも戦えないとしたら、
もうそんなのは生きていく価値なんてないと思っていた。

だから、その時は例え何も出来なかったとしても、
この身を投げ出してでも戦う、
そう思っていた。

今日は、実は戦えるか不安だった。
だから、戦えて良かった。


「カイン、何を笑っているの?」

「ふふ、平和な夜に乾杯したいなあって。」

でも、少しだけマナが自分を見る目が変わった気がする。
いつも威厳がない、頼りもないと思われていたから、
少しはいい薬になっただろうか。

アリスにはただの下痢と思われているんだろうが、
それもそれでいいと思った。

「なあに、それ。」

話を聞きつけてラダトーム王が
心づくしのもてなしをしてくれるらしい。

どうやら、今日はもう少し長くなりそうだった。


- 終-

2014/12/07

▲



    終わりです〜!
    長いw しかし、一応リクエストどおり、振りきって景気良くやって頂きました!
    基本はへたれなカインですが、やる時(だけは)やるって感じで!

    以前も子ども達がここにアレンと来たって話は「差し伸べる手」です。
      ★小説を元に改変漫画描きました
      【 見る  】
 
 
 
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