「クレハさん!!
手を伸ばして・・・!!」
その言葉にクレハは思いっきり手を伸ばした。
途端に、浮遊感を感じた。
「わ、わわ・・・っ・・・!」
竜王の城を走りきると、魔物を振りきるように、
アリスを背負ったカインと、クレハは空へと舞い上がった。
「うわ・・・空へ・・・!?」
船ではなくて、一気にこれでラダトーム城へ戻ろうという事か。
「わあ〜!お父様、
素敵素敵、気持ちいい〜〜」
ずっと背負われたままのアリスは
思いっきり、ぎゅーっとカインの首に抱きしめた。
「ちょっとアリスー、あんまりぎゅーってしないで。
息が詰まるから。」
「あ、ごめんなさい。
でも、これでもう大丈夫だね。
マナたちもきっとアレン様とお母様が助けてくれるね。
良かったああ。」
心底安心したように、は〜〜と息をつくアリスだったが、
残念ながら、そこまで安心できる状況ではなかった。
魔物は地上だけではなく、
海にもいれば、勿論空にもいるのだ。
「カイン様、背後から空飛ぶ魔物が!!」
ちらっと後を見ると、翼と剣を持つ魔物ガーゴイルだ。
「お、お父様、追いつかれるよ!
もっとスピードアップしてーー!」
「アリスってば、暴れないで、叩かないで。
これでも急いでるんだから〜。」
さすがに翼を持つ魔物のスピードには敵わない。
アリスは魔法力が尽きている。
「お任せ下さい!ここは、私が・・・!」
クレハが短剣を取り出して、ガーゴイルに振ってみるが
リーチの短い短剣で間合いが計れる訳も無く、
短剣は空を切るばかり。
「ク、クレハさん・・・剣は良いから!」
ぶんぶんと短剣を振っている内に、
バランスを崩して、スピードも落ちてしまった。
逆にガーゴイルは一気に間合いを詰めて、
その手に持つ剣をバッと振り上げた。
「ああっ・・・!」
自由にならない空では、逃げる事もかわす事もままならない。
思わずクレハは、目を瞑って次の瞬間おとずれるであろう
衝撃に覚悟を決めた。
が、衝撃は数秒経っても訪れず、恐る恐る目を開けた。
目の前には鮮やかな血がぽたぽたと滴り落ちている。
だが、自分のじゃない。
「お、お父様!!」
クレハが声を出すより早く、アリスが悲痛な声で叫んでいた。
ガーゴイルの剣の一撃を空いた左手でそのまま受けたようだった。
「あ・・・、カイン様・・・!?
なんということを・・・!!」
「お父様!血が出てるよ!!」
アリスが慌ててそう言うが、
状況は変わらず、手当ても出来る状況ではない。
そんな中でカインは不思議な事を指示した。
「アリス、お父様は大丈夫だから。
目を瞑っておいで。」
「・・・・う、うん・・・。」
アリスは言われたとおりに目を瞑った。
クレハは最初、それが、自分の傷を娘に見せないための
配慮だと思った。
だが、違った。
声も無く、詠唱も無かった。
それなのに、次の瞬間クレハが見たのは、
大きな炎に飲み込まれるガーゴイルの姿だった。
「え・・・っ・・・!?」
今のはなんだ?魔法か?
だが、この光景が本当のものかどうかを検証する時間は無かった。
今度は、空間がゆがみ始める。
空にいたはずの自分達の光景が、強引に入れ替わる。
一体何が起きているのか。クレハも目を開けていられなかった。
「・・・アリス、目を開けて良いよ。」
ふうっとカインが息を吐きながら、そう言った。
そしてカインはクレハの手も離した。
一瞬、落ちるのでは!?と焦ったクレハだったが、
そこは地面の上であった。
思わず両手で、この地面は本物かと触って確かめてしまった。
確かに間違いなく、そしてここはラダトーム城のすぐ手前のようだった。
「あれ、お城にまで帰って来れたんだ。」
「うん、飛んで逃げて来ちゃったよ。」
「そっか、逃げれたんだ。良かった〜〜〜。」
アリスの言葉に、カインは飛んで逃げたんだと答えた。
逃げた?
今のは、ルーラではないのか?
いぶかしむような表情で見上げるクレハに
カインがしーっと指を立てた。
「それより、クレハさん、スイマセン。
危険な目にあわせてしまって。
怪我はなかったですか?」
「え、ええ・・・?私は怪我などありません。」
「良かった。クレハさんに怪我させたら、
アレンに殺されるところでした。」
などと笑いながらカインは言った。
自分を身を挺して守ってくれたのだ。
「あ、ありがとうございます・・・!
それより、カイン様の怪我が!!」
慌ててホイミをしようとしたら、
クレハがするより先に、アリスが傍に来た。
「ホイミ!!」
アリスの声とともに、左手の切り傷が癒されていく。
「ありがとう、アリス魔法力回復したの?」
「うん!今のでまた空っぽだけど。」
「そっかそっか。
ありがとう。無理しないでね。」
カインはアリスの頭を撫でた。
その様子は微笑ましかった。
何とか危機も脱したのだ。
見ると、ラダトーム兵がこちらに気付いたようで、
駆け寄ってきてくれた。
兵の案内に従い城内へと向かう。
これで一安心だろう。
恐らく、あとはアレンたちが帰ってくるのを待つのみ。
「お父様、さっきね。
なんかふわってすっごく熱い空気を感じたんだけど、
火傷とかしてない??」
アリスがそんな事を尋ねた。
先ほどの火炎魔法のことだろう。目を瞑って見てはいなかったはずだが。
だが、それに対してカインはとぼけた声で答えた。
「何のこと?気のせいじゃない?」
その答えに、クレハは何を言ってるんだ?と思って
まじまじとカインを見つめてしまった。
その視線に感じたはずなのに、カインはそれも無視した。
「・・・・・。」
あれは火炎魔法のはず。
ラダトームまで戻れた事だって、
距離を考えるとあのまま飛んできたわけじゃなくて、
移動魔法を唱えたとしか考えられなかった。
だが、恐らく意図的に娘に何も話さないのだろう。
それを思うと、今ここで何も聞けない。
でも恐らくアレンあたりは気にするんじゃないかと思った。
通された部屋でようやくアリスが一息をついたところで、
カインは席を外した。
「アリス、ここでお茶でも飲んで少しまってて。
すぐ戻るから。」
「うん?分かった。」
どこへ行くのだろうか?席を外したカインを、
クレハは追いかけてみる事にした。
「カイン様・・・。」
「クレハさん。」
カインは足を止めて、こちらを見た。
そしてクレハが口を開くより先に話しかけてきた。
「クレハさん、お願いがあるんです。
アリスのことを見ててもらえませんか?」
「え・・・っ?え、ええ・・・。それは良いのですが。
あの、カイン様はどこへ?」
「アレンたちが気になるから、戻ろうかなって。」
やっぱり1人で戻ろうとしていたらしい。
何も自分達には話さずに。
少し憮然とした表情になったクレハは
確認するように尋ねた。
「一つ教えてください。
カイン様先ほど使ったのは、火炎魔法ですよね?
それに移動魔法も。
魔法が使えるようになったんですか?」
カインは魔法を封じられていたはず。
それはクレハでも知ってる。
「なんだか・・・クレハさん、アレンみたい。」
真剣に聞いたはずなのに、カインは何故か吹き出した。
今の質問に何かおかしい話などあっただろうか?
「な、何故笑うんですか!
私おかしなこと聞きましたか?」
「いや、何もおかしくないけど。
アレンみたいに、手厳しいなあって思って。
見逃してくれない。」
あははと笑いながら、そんな事を言った。
なるほど、そう言う意味で『アレンみたい』か。
そう言う事なら、望むところだ。
「そ、それでどうなんですか?」
クレハは再度問い詰めた。
するとカインはゆっくりと答え始めた。
「魔法はね、使えるようになった訳じゃないよ。
でも、さっきクレハさんが斬られそうだったりしたでしょう。
だから、夢中で何とかしなくちゃって思って。
じゃあ、何か使えたんだ。」
自分や、娘を守るために必死に戦おうとした結果
火炎魔法が使えたというのか。
「ルーラは、たーーーまに我を失って必死になった時に
つかえた時があるから、それかな。
今も多分いけると思う。
だから、今のうちに行こうかなって思って。」
状況によって、封じられた魔法が解放される事が
あると言う事だろうか。
「でも、これ、アレンに言うのは良いですけど、
娘には、アリスには何も言わないで下さいね。」
「ど、どうしてですか・・・。」
「だから、今から行ってきますけど、
えーっと・・・下痢でトイレにこもってるって事にしてて下さい。」
笑いながら信じられないことを言った。
「はあああーーー!?
ちょっとカイン様、何でそんな事言ってるんですか!?
堂々と言えば良いじゃないですか!!」
「良いんですよ。
僕の事は。」
笑いながら、そのまま立ち去ろうとする。
やっぱりこの人の本心はあんまりよく分からない。
もう、それは良い。自分が口を挟む話ではない。
それは良いけど、でも伝えたい事があった。
「カイン様、どうか御武運を!
アレン様、マリア様と、子供たちと一緒にお戻りになるのを
お待ちしていますね。」
きっと大丈夫。
この3人がいるなら、
カレルも無事に帰ってくるだろう。
そう思った。
「クレハさん・・・何だか懐かしいなあ。
いつかもそんな事言いませんでした?
ふふふ、その言葉、アレンに言いたいんでしょう?」
いつか・・・そう、確かかつてローレシアでの戦いの際も
そんな事をクレハから聞いた気がする。
「違いますよ。あなたに言ってるんです。
どうかご無事で。」
この人は最愛の夫アレンの親友であり、
アレンからの信頼も篤い。
少し、自分からは遠い存在だと思っていたが、
でも身を挺して、自分などを助けてくれた
とても優しい人だ。
無事に皆と一緒に帰ってきて欲しい。
「ありがとう。すぐに戻るね。」
クレハは皆の無事を祈った。
- 続-
2014/12/07
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