「は・・・、はああ!?
それで、何。
子供たちが僕らに戦いを挑むって?」
「へえ〜〜面白いじゃねえか。」
勿論、事の次第を告げられたアレンたちは目を丸くしていた。
「うん、そうみたいよ。
まいったって言ったほうが負けだって。
子供たち張り切ってたから、頑張ってね。」
マイの悪戯っぽい笑みが憎らしい。
だが、まさに大人と子供の差があるのに、
どのように勝負を挑もうと言うのか、
少々片腹痛い。
「まぁ、良いや。
ガキ達がどれくらいやるのか、胸を貸してやろうぜ。」
こんな時にもアレンはうきうきと嬉しそうな顔をしている。
久しぶりの騒動に胸が躍っているらしい。
だが、カインとマリアはそうも行かない。
これに負けたら子供たちが旅に出るというのだ。
「私は、子供たちを応援するわよ。」
そんな事を言ったのはマイだ。
「マイ、何を言ってるの。」
思わず振り返って嫌そうな目をする兄に、
マイは指を突きつけた。
「お兄さま?私忘れていないわよ!
一言の元に私の意志は切り捨てられて、
私だけは旅に出られなかった。」
「そ、そんなの今関係ないだろう!?」
「こうやって、条件をクリアすれば私も旅に出れたって言うなら、
私だってやってみたかったくらいよ。」
マイのその言葉が、何故か少し胸にちくっとした。
王室を飛び出てみると、
そこには子供たちがやってきていた。
「父上!勝負だ!」
小さな武器を手に、大人たちにそう宣戦布告したのは
アレンの息子のカレルだ。
「ほーう、お前誰に向かって口聞いてんだ?
また泣かされてもしらねえぞー?」
アレンの言葉に、カレルはぶるっと体を震わせた。
だが首を振るって気丈に喋った。
「ぶ、武器はそこに置いてある木刀だ!
サマルトリアの王様にも許可は取りました。
いざ尋常に勝負!!」
その威勢の良い言葉に内心驚きつつ、
アレンは置かれている木刀に手を出した。
「よっし、じゃあ勝負だ!」
アレンが駆け出すと、
対戦相手のはずのカレルの前に
人影がよぎった。
「・・・!?」
「ひっかかったぁ!!」
その声はアリスのものだ。
視線を下に下ろそうとすると、
アリスが何かを口走った。
「さぁ、光れ・・・・!!」
いつかの洞窟でアリスが見せたことのある
レミーラの魔法だ。
至近距離での魔法にアレンは一瞬視界を遮られた。
「うふふ、アレン様の相手は私なんだよ!!」
子供だましの罠に引っかかったものだ。
さっきカレルが尋常に勝負などと言ったのを
真に受けてしまった。
「さぁ、次は僕だよ〜〜。」
ぴょんぴょんと跳ねるような勢いに顔を出したのはアリスの弟のマナだ。
「僕をつかまえてみてね!」
「マナ、待ちなさい!!」
追いかけっこでも始めようとするマナを叱るように
カインが追いかけようとすると、
再びどこかから罠が仕掛けられた。
「よいっしょーーー!!」
どこから持ってきたのか、
長い竹ざおが急に足元に引きずりだされた。
「うわっ!?」
思わず足元を取られたカインは、その場でつまずいた。
「へへ、カイン様は俺と勝負〜〜!」
「・・・ええ・・・?」
立ちはだかったのは今度こそカレルだった。
今度は本気なんだろうか?
また、罠なんだろうか?一瞬子供たちの意図が図りかねた。
「ちょっと、あなたたち・・・
大人たちをからかうのもいい加減にしなさいよ。
よりによって、こんな所で何を言い出すの?!」
子供たちをたしなめるように今まで黙っていたマリアが口調を荒げた。
だが、そのお叱りの声もどこ吹く風で、
相変わらずマナは楽しげにその場で跳ねている。
「僕は嘘付かないよ。
本当に、追いかけっこがしたいんだ。
お母様、遊ぼう?僕を捕まえてよ。」
そう言って、背中を向けてマナは廊下を抜け、
外へと走り去った。
「マナ!!あなた・・・!!」
仕方なくマリアはそれを追っていった。
結局3人バラバラになった格好だ。
「ふっ・・・はは!
カイン、お前クソだせえな!
何子供の罠に引っかかってるんだよ。」
「アレンも同じでしょう。」
少し憎らしげにカインはアレンをにらんだ。
「ふーん、なるほどね。
魔法を使えない俺を、アリスが霍乱して、
で、同じく魔法を使わず大して強くもねえカインなら
勝てると踏んだか、カル。」
カレルとアリスはギクッとした。
まぁ、その通りなのだ。
実際うまくそれがハマっているではないか。
「アレン様、私の魔法を甘く見ないで下さいね。」
アリスの魔法は小さな竜巻を生み出した。
その場に激しい風が舞い起きる。
「ほ〜〜。」
アレンは、それを物珍しそうに見上げた。
一方で、カインと対峙しているカレルは
体勢を崩した状態のカインに、鋭く突きを繰り出した。
話によると、この人は父よりは剣が得意じゃないはずだった。
父には勝てないが、この人なら少しくらいは勝負になると・・・踏んでいたのだ。
が、カインはそのままの体制でカレルの剣をかわすと、
目にも止まらぬ早さで、木刀をその首筋に突きつけた。
「え!?わ・・・っ・・・!!」
太刀筋も追えず、一瞬カインが何をしたのか分からなかったが、
これが真剣だとすると確実に命を取られていたのだろう。
「ま、まいった・・・。
スイマセン、俺の負けです。」
カレルはあっさりとそう言った。
勝敗にはまるでこだわりが無いようで、
そして、何故か慌てて走り去ってしまった。
そしてアリスとアレンの戦いもすぐに終わろうとしていた。
何故なら何度アリスが魔法を唱えても、アレンは一向に怯みもしない。
「いくらやっても無理だって。俺を倒すんだったら、
お前の母ちゃんのイオナズンくらいやってくれないとなー。
さぁ、どうしようか?」
実際問題、アレンはアリスを木刀で打ち込むことも出来ない。
両手を布切れで括り付けて、魔法を封じようかと思った。
が、それよりも先にアリスが音をあげた。
「はぁ・・・はあ・・・
アレン様、全然勝てそうにないや。
私の負けです。降参です。」
こちらもあっさりと負けを認めると、
カレル同様に走り去っていった。
外へと。
置いていかれたアレンとカインは一瞬顔を見合わせた。
皆外へ行ってしまった。
と、なるとこれも何かの作戦だろうか。
あと1人残っているマナの加勢に向かったのだろうか?
また、どんな罠をしかけるつもりだろうかと、
アレンたちは後を追うことにした。
そして、その頃母と追いかけっこをしていたマナは
背後をちらっと確認して、止まった。
そこはちょっとした崖になっていたから止まったのだと思った。
「マナ、もう追いかけっこは終わりよ。
さぁこちらへ来なさい。」
マリアは、マナを追い詰められたのだと思った。
だが、マナはそうではないようだった。
相変わらず楽しそうに笑っていた。
「まだだよ。まだ終わってないよ。
お母様の負けだよ。」
「何を言うの?もう行き止まりでしょう。
逃げられないわ。遊びはおしまいよ。」
マリアの言葉に、追い詰められたはずのマナは楽しそうに首を振った。
「ううん。僕の勝ちだよ。
だからお母様まいったって言って?
じゃないと、僕、あと3秒で後の空に飛び込んじゃうよ。
最後まで逃げ切ったら僕の勝ちだよね。」
「え・・・!?
何を言ってるの、こちらへ来なさい。
危ないわよ!」
マナの言葉にマリアは驚いた。
マナはちらっと再度後を振り返って何かを確認すると、にこっと笑った。
「3・・・2・・・1・・・」
そして、マリアの言葉を意にも介さず、
背後にもまるで恐怖を感じた様子もなく、
カウントを始めて、
信じられない事にゼロの言葉と同時に
本当に、背後にポンッとジャンプした。
マリアはその有様に真っ青になった。
「マナ!!!」
目の前で子供が崖から落ちようとしているのだ。
必死に手を差し伸ばした。
無意識に発動した風の魔法も手伝ったのか、
すんでのところでマリアはマナの手を掴む事が出来た。
「あ、捕まっちゃったあ〜。
残念、これじゃあ僕の負けだあ。
お姉さまたちガッカリしちゃうかなあ。」
「マナ!あなた何を言ってるの!?
大怪我する所だったわよ!!」
「大丈夫だよ、お母様。
下にね。お姉さまやカレルさまも来てるの。
それにね、アレン様たちも来たみたいだし。」
マナの言葉に、マリアは崖の下を見下ろした。
確かに崖かと思ったものは大した高さではなく、
下にはアレンやカイン、他の子供たちも集まってきていた。
どうやら、下でマナを助けるという作戦でも立ててたのか。
仲間達を信頼しきって、危険を物ともしないマナに
マリアは幾分背筋が冷えるような思いがした。
そんなところまで、カインに似ないで欲しいと思った。
「もう駄目よ。
遊びは終わりよ。戻るわよ。」
「うん、お母様。楽しかったよ。」
マナは母のそんな気持ちに気付きもせず
嬉しそうにマリアの手を繋いできた。
+++
「さて、今回の取引はお前達の負けだな。」
王室に戻り、
一部始終を見守っていたサマルトリア王は
子供たちにそう告げた。
「残念〜。」
「しょうがない。諦めるか。」
「でも、僕楽しかった。」
思い思いの感想を述べながらも、
最初の目的も忘れたのか、
どこか子供たちはすっきりした表情だった。
「さぁ、皆。そろそろ食事の時間よ。
こちらへいらっしゃい。」
そこにマイが子供たちを連れにやってきた。
ご飯と聞いて、また顔を綻ばせた3人はマイに連れられて行ってしまった。
子供たちそれで満足かもしれないが、
カインは今回の出来事があまりに軽率に思われた。
「父さま!
どうしてこんな事を許可したんですか!
子供たちが勝ったら世界を旅して良いだなんて
馬鹿げた事を・・・!!勝手すぎます!」
怒っている息子を、ふん・・・と鼻を鳴らして、
サマルトリア王は見下ろした。
「勝手すぎるのはお前達だろう。」
「え・・・?何がですか。」
「子供たちは不満がっていたぞ。
お前たちが、自分達と向き合ってくれないと。」
その言葉に、カインとマリアは少し眉を顰めた。
「ああ、付き合わせたアレン殿には申し訳なく思うが、
どうも子供たちは、カレル殿と一緒に一度戦ってみたかったようだ。
お前達に憧れて。」
「ああ、まぁ俺は別に・・・・良いですが・・・。」
やや子供目線でアレンは思った。
カレルはいつも一人でいるから、
親に憧れて仲間とパーティーを組みたがった気持ちも分かる。
あんな形で大人たちに一泡吹かせられて、楽しかっただろうと思った。
「マリア殿も驚いた事と思うが、すまんな。
だがわしは、母親と言うのも子供が小さいうちに沢山楽しい思い出を
作ったほうがいいと思ったのじゃ。
いつもは国で忙しいだろうが、今日ばかりは堪忍して欲しい。
まぁ、マナのあの行動は正直いただけないがな・・・。」
確かに・・・マリアは最近の記憶を遡った。
あんな風に自分の身一つで子供と外を駆け回ったことなんて、あっただろうか?
いつも仕事繫多を理由に、子供たちに我慢させていただろうのではないか。
「父さまが・・・そんな事を言うなんて、何だか信じられない。」
だがカインはまだ納得しないようだ。
小さい頃、父には怒られてばかりで、ろくに遊んでもらった思い出なんてない。
「それは当たり前だ。
子供に対する思いと、孫に対する思いは違う。
お前達が十分厳しく育てているだろうから、
ワシまでそうする必要はない。」
どうやら、年をとって父も考えが変わったらしかった。
そして自分が厳しく接した昔と今は違うのだと言った。
「・・・・・・。
だけど、おかしいじゃないですか。
遊びに勝ったら旅に出ても良いだなんて。」
「危険だからと旅立ちを禁じても無駄じゃ。」
「無駄ってどういう事ですか?」
「自分の胸に聞いてみるが良い。
さて、ワシもあやつらと食事に行くかな。
お前たちも来るといい。」
話を切り上げて、サマルトリア王は立ち去ってしまった。
「意味・・・わかんない。」
そう呟いて、憮然とした表情のカインに、アレンが声をかけた。
「そうか?俺は言ってる事分かったけどな。
いくら大反対したって、
勝手に子供は旅に出ちまったじゃねえか。
お前みたいに。」
アレンの言葉にカインはドキッとした。
いくら厳しく接して、誰が反対しても
出て行くときは子供は出て行ってしまう。
それにいつまでも子供は小さくて、親が元気で時間があるわけでもないのだ。
「さて、俺も腹が減ったー。」
アレンはカインを指差して、そう言って歩き始めた。
そんなアレンの背をよそに、
マリアはふうっとため息をついた。
「カイン、私達も行きましょう。
私達の子供たちだもの。お父様の言う事は分かるわ。
もっとしっかり子供たちと向き合ったほうが良いのよ。」
「そう・・・みたいだね。」
親が子を思う気持ちの重さ。そして難しさ。
「本当に、難しいわね・・・。」
かつてどのように父が自分を思っていたのか、
両親がどんな思いで自分達を育ててくれていたのか、
そして今はどう感じているのか、その思いを改めて感じ、
カインとマリアは少し今日の出来事を
改めて振り返って考えたいと思った。
- 終 -
2014/08/27
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