82−1.取引


「マイおばさま!こんにちは」

そう呼ばれて、マイは少し頬を引きつらせた。

「ちょっと〜、アリスちゃん。
 私そんな歳じゃないわよ?」

引きつらせながらも、それでも嬉しそうにマイは子供たちを迎え入れた。
久しぶりに兄夫婦が子供達を連れてサマルトリアに遊びに来たのだ。
ここで怒ってはいけない。

一行の後ろから一番小さい子どもがひょっこり顔を出した。
兄と良く似た面差しの子供は人懐っこく手を差し伸べてきた。

「マイちゃん・・・?わーい、マイちゃんだ!」

「きゃあ、マナちゃんは可愛いわねえ。
 おばさま抱っこしちゃう!」

思わずその可愛さにマイは甥っ子を抱き上げた。
前に会った時は、もっと小さくて引っ込み思案だった気がするが
随分大きくなった気がする。

「自分でおばさまって言ってるじゃない。」

荷物を下ろしながら、マイを見て、兄カインはぷっと笑った。
人に言われると気になるものだが、自分で言う程度には
しっかりおばさまになっているのだろう。

マイはこほんと咳払いをした。

「お兄さま、マリアお姉さま、サマルトリアへようこそ。
 お待ちしておりましたわ。」

「ええ、マイさんお久しぶりね。
 今日は久しぶりの休暇で楽しみにきたのよ。」

マリアは朗らかに笑みを浮かべながら会釈をした。

「私も楽しみにしていました!」

「皆変わりないかな?」

今度は様子を伺うようにカインがマイに尋ねた。

「元気にしてるわ。
 もう、お父様もお待ちよ。」

そういわれると、少しだけカインが緊張した顔をした。
どうも子どものころから少々父が苦手だった。
そんな様子を見て、今度はマイが笑った。

「ふふっ、やーだお兄さま。
 そんな時だけ子どものときそっくり。」

「そうなの?」

「ええ、マリアお姉さま。
 お兄さまってば、昔よくお父様に怒られてたから
 今でもびびってるんですよ。」

「まぁ・・・。」

くすくす笑いながら内緒話をするようなマイにマリアも驚きつつも
思わず笑ってしまった。

「お父様、大丈夫よ。
 私おじいさまにプレゼント用意したんだから。
 きっと喜んで下さるわ。」

「そうそう、僕もプレゼントお手伝いしたんだよ!
 おじいちゃま早く会えないかな〜。」

そんな話をしていると、子供達が急に張り切って、身を乗り出した。
どうやら子供達が示し合わせて何と祖父向けのプレゼントを用意していたらしい。
初耳だったカインとマリアは顔を見合わせた。

「え、プレゼントなんか用意したっけ?」

「お父様には秘密ーだよ。」

人差し指を立てて、にっこり笑う子供達に
マイがしゃがみこんで尋ねた。

「ねえねえ、何を用意したの?
 『お姉さま』にこっそり教えて?」

こっそり自分の呼称をおばさまからお姉さまに変えつつ、
マイが子供達に尋ねた。
アリスがマイの耳にこっそり秘密を打ち明けた。
マイはそれを聞くと少々眉を顰めて顔をゆがめた。

「うーん・・・それはうーん・・・。
 おじーさま喜ぶかなあ・・・?」

どうやら、マイが判断するには少々微妙なプレゼントだったらしい。
一体何なのか気になったが、アリスとマナは早足で
王の下へと向かった。

王室でサマルトリア王は一行を迎えてくれた。

「うむ、よう来たな。
 ゆっくりしていくが良い。」

「父さまお元気そうで何よりです。」

「ありがとうございます。お世話になりますわ。」

「お前達も皆元気そうだな。」

歳をとって、幾分穏やかになったサマルトリア王は
穏やかに笑みを浮かべていた。

「おじいさま!お久しぶりです!
 アリスです!」

「おお、アリスにマナ。良く来たな。」

ひょっこり顔を出したアリスとマナが、
何も物怖じしない笑顔で、ひょこひょこ王の下へと歩み寄った。
既にそれだけで、カインはハラハラしていたのだが、
アリスが手持ちの荷物から何やら雑草を取り出した。

いや、多分雑草じゃなくて、
ムーンブルクからの道中せっせと作っていたものだろう。

「私達、おじいさまにお首飾りを作ってきたのよ。」

「おじいちゃま、見て見て。ここにお花が付いてるのよ。
 綺麗でしょう〜??」

ニコニコと罪のない笑顔で笑う子供達。

プレゼントとは子供達手作りの首飾りだったのか・・・。
マイが微妙なプレゼントだと判断したのも頷ける。

あの厳格なサマルトリア王がそれを喜ぶとは思えない。
それどころか、自分の記憶が正しければ、
「男の子が花などと馬鹿馬鹿しい」と罵倒され、花など捨てられる勢いだ。

カインが表情を蒼くさせていたのだが、
王は変わらずほがらかな笑みを浮かべたままで、
そうかそうかと、嬉しそうにしている。

「私ね、おじいさまに会えるの楽しみにしてたんだよ!
 いっぱい遊んで下さいね!」

「二人は花が好きか?
 そうじゃ、今はマイが丹精こめた裏の花畑が満開じゃ。
 二人とも見に行くか?」

「わーい!行きたい!おじいちゃま大好き!!」

子供達は王の腕に引っ付いて、行ってしまった。

開いた口がふさがらないのはカインだ。
あの怖かった父もすっかり孫には甘いんだな〜と思った。
その表情を見て、一緒にいたマイが笑った。

「あはは、お兄さまの表情傑作なんだけど!
 何、お父様に怒鳴られるとか思った?」

「・・・・うん、軽く。」

自分があんな軽々しく父に近づいて、
あまつさえ花の首飾りなんて作ってきた日には
懇々とお説教が始まっていた事だろう。

「最近はお父様も丸くなっちゃったわ。
 さすがに、どんな表情するかしらと思ったけど、
 あんな喜んじゃって。もうすっかりただのおじーちゃんねえ。」

しみじみと月日が経ったのを感じた。

「あなた方の親子関係は何だか見ていて不思議ね。
 そんなに怖いお父様だったの?」

「そうだよー。
 男の癖に花などと愚か者めって怒鳴られて、
 城から出て行けー!とか言われかねないよー。」

「まぁ・・・怖い。」

マリアは口を押さえて、本当かしら?と思ったけど、
どうやらこの兄妹の様子を見てると、それは確かで、
そして大分昔と今は違うらしい。

自分には、もう両親がいないが、
もし生きていたら、どんな風に自分や子供たちと接してくれただろうか?
そんな事をふと思った。

「さて。お兄さま、お知らせがあります。
 あのね。内緒にしてたけど、もう一組お客様が来るの。
 私は今のうちにアリスちゃんたちと、遊んでくるから
 お兄さまここで待っててくれる?」

マイのふいな言葉にカインは目を丸くした。

「え?は・・・?
 なんだって?お客様が来るの?
 そしたら僕らがここにいたら変でしょ?
 お客様って誰なの?失礼があったら駄目じゃない。」

「大丈夫。大丈夫。
 なんだったら・・・そうね、玉座に座ってくれてても良いから。
 きっとお客様びっくりして喜んでくれるわ!」

マイが、サマルトリア王が座っていた玉座を指差して
そんな事をいった。
玉座に座れなんて何の冗談だ。

「えええ?何言ってるの?
 そんな事できるわけないでしょ。」

「それじゃあ、私もアリスちゃんたちを追って行って来るわ。」

「いや、僕らがそれだったら行くから
 マイが、ここにいてよ。」

「駄目よ。だって、お客様来たら、
 アリスちゃんたち絶対そっちに夢中になっちゃって、
 私と遊んでくれないもん。」

「はあ?どういう意味?」

カインの質問を無視して、に〜と笑いながら、
結局マイまで王室から出て行ってしまった。

相変わらず自由奔放な妹に振り回されてるなと思いつつ、
カインはどうしたものかとマリアのほうを振り向いた。

「ふふ、良いんじゃない?
 私も玉座に座ってるあなたを見てみたいものよ。」

「マリアまで何を言ってるの?」

「だって、本来はあなただってもう即位していてもおかしくない年だもの。
 私と結婚してなかったら、きっとそうなっていたわ。
 そうよ、本来のあるべき姿だったかもしれないのよ。」

「マリア・・・、そんな事本気で言ってるの?」

少し信じられないような顔のカインだったが、
マリアはそれを受け流した。

「ほら、そんな言い合いしてる場合じゃないわ。
 お客様が来たみたいよ。大変よ、失礼があったらいけないわ!
 しっかりしてね!私は隠れているわね。」

「えっ・・・ええ?待ってって。」

言うなりマリアは何故か王室の端のカーテンに隠れてしまった。
そして、王室の扉をサマルトリアの兵がコンコンとノックした。

「王よ、来客が到着しました。
 お通しします。さ、どうぞ、お入り下さい!」

通していいなど誰も言ってないのに、
そもそも王がいないのに、確認もせず客を通そうとする
抜けてるサマルトリアの兵が相変わらずだと思いつつ、
カインは致し方なく王座の方へと行った。

だが、やっぱりそこに座る事は出来ず、
どうしたものかとせめて玉座の前に立っていることにすると、
通された客が、あろうことか無礼にも王室を覗いて盛大に笑った。

「あはは!
 お前何やってんだよ、こんな所で!
 もしかして離縁でも申し出られたのかよ!」

あんまりな言葉に、唖然と振り向いて
そこにいた人物を見るとカインは思わずその場に崩れ落ちそうになった。

「アレンーーー!??」

見知ったその顔はもちろんかつての仲間のアレンだ。
今日アレンがサマルトリアに来るなんて聞いてなかった。

「よう、カイン。久しぶりだな。
 なんだお前、ここの王になったのか?初耳だぜ。
 マリアとは別れたのか?」

「違うってーー!
 なんか父さまもマイも僕を残して出て行っちゃったんだよ!
 それにマリアもーーー・・・!」

言いながら振り返ると、マリアは声を殺しながらも
お腹を押さえて、くっくっと笑っていた。

「マ・・・マリア・・・?
 君、もしかして・・・いや、確実に気付いてたね・・・?」

「ふ、ふふ・・・っ、アレンの気配を感じたの。
 多分マイさんも王様も分かっててあなたに任せて
 行っちゃったのよ。」

どうやらマリアの方はアレンの気配を気づいていたらしい。
分かっていて、少し小芝居を組んでみたらしい。

「ん?なんだ、マリアいるじゃん。
 よぉマリア。」

「ええ、久しぶりね。アレン。
 カレル君も一緒ね、こんにちは。」

ぺこりと会釈したカレルはきょろきょろと誰かを探している。
この二人がいるなら、子供達も来ていると思ったのだろう。

「ああ、アリスたちなら、
 裏庭に行ってるよ。」

「父上、俺も行ってきて良いですか!?」

そわそわとカレルはアレンに尋ねた。
子供は子供同士遊ぶのが楽しいだろう。

「ああ、別に良いぜ。気をつけてな。物とか壊すなよ。
 ちゃんと挨拶しろよ。」

「はい!」

言うなり、カレルは顔を輝かせて王室を飛び出していった。






+++

その頃、裏庭で花を詰みながら、
アリスは唇を尖らせていた。

「そう、いつもご両親は忙しくしていらっしゃるのねー。
 あんまり遊んでくれないんだ。」

マリアはムーンブルクの女王である。
そうそう、ゆったり子供たちと遊ぶ時間などないだろう。

「それは・・・いいんですけど・・・。でも・・・。」

「アリスちゃんどうしたの?」

不機嫌そうなアリスにマイはご機嫌を伺うように尋ねた。
何かご機嫌を損なうような事を言っただろうか。

「うちのお母様もお父様も、世界中を旅したじゃないですか。
 皆すごいすごいって言うんですよ。」

「そうね、すごい事よ。
 あなた方のご両親は実際すごい人たちよ。」

「お母様なんて、世界にはどんな素敵なものがあって、
 素敵な出会いがあったかってお話して下さるのよ。」

「それは素敵ね。私も聞いてみたいわ。」

マイはうんうんと頷いた。

「なのにね!お父様ってば、
 私達は絶対旅には出さないって言うの!
 おかしくないですか?自分達は行ったのに!」

「あー・・・。」

「全然話も聞いてくれずに、駄目だって!」

アリスの不満げな言葉は、マイにも容易に想像できた。
兄はきっとそう言うだろうという気がした。
だって、自分も散々そう言われていた。

「そうか、アリスはそれが不満か。」

静かに孫を見守っていたサマルトリア王が話しに入ってきた。

「はい、おじいさま。
 私だって、何も今すぐなんて言いません。
 大きくなってから、そうですね・・・。
 17歳になったら・・・!
 お父様たちも17歳に旅に出たって聞きます。」

「そうか・・・そうだな。
 あれは確かに、17歳だったな。」

少しサマルトリア王が遠い目をしていると、
子供が1人手を振りながらやってきた。

「おーーーい!アリスちゃーーん!」

やってきたのはアレンの息子のカレルだ。
カレルは一行を見つけると、
ぴっと気をつけをして、しっかりとお辞儀をした。

「王様こんにちは、お世話になります!
 ローレシアのカレルです!!」

「ふむ。良く来たな。
 ゆっくりしていくといい。父君も一緒か?」

「はい!父上も一緒で、
 今はカイン様とマリア様と王室でお話していましたよ。」

「ふむ、そうか。」

王との挨拶をきちんと済ますと、
そわそわとカレルはアリスの方を向いた。

「アリスちゃん、久しぶりだ。マナちゃんも。」

「ええ、カル!いらっしゃい!
 良く来たわ、私カルに会えるの待ってたの!」

「え・・・?アリスちゃん俺を待ってたのか?」

思わぬアリスの言葉にカレルはどぎまぎした。
アリスが自分を待っていたとは・・・?

アリスはカレルの腕を取った。
思わずどきっとしたが、反対の手では弟のマナを掴んでいる。

「・・・?」

カレルは意図が分からなかったが、
アリスは手を取ったまま、サマルトリア王とマイに宣言した。

「ほら!おじいさま、マイお姉さま見てください!
 私達、お父様達みたいでしょう!?」

「え?へ・・・?何だ?」

カレルは何のことだという顔をしているが、
サマルトリア王は子供たちを見ながら目を細めた。

マイも、ああ・・・!と手を打った。

「そうね!
 あなた達、アレン様と、お兄さまと、マリアお姉さまの3人にそっくりね。
 カレルくんでアレン様で、アリスちゃんがマリアお姉さまね。
 マナちゃんはまだちょっとちっちゃいけど、お兄さまと良く似ているもんね。」

頭をなでなでされて、マナは嬉しそうにえへへと笑った。

「マイお姉さまそうでしょう!?
 私達、お父様達とそっくりでしょう!?
 だから、私達大きくなったら3人で旅に出ていいですよね!?」

アリスの言葉にカレルは驚いたような顔をした。
そんな話は今始めて聞いた。
父たちのように世界中の旅をする・・・。
なんだか、想像するだけで胸がわくわくする。

「えー・・・っと?」

だが、マイは良いよとも何とも言えず、
王の反応を確認した。
さすがに言葉が過ぎるとお叱りを受けるかと思ったが、
それでも王は穏やかな表情をしたままだった。

「本当にあの3人と同じように強いと言えるのか?」

その言葉にアリスとカレルは顔を見合わせた。

「そりゃあまだ子供だから弱いけど・・・。
 じゃあ、おじいさま!
 私達がお父様達に勝てたら、
 旅をしても良いですか?」

「そうだな。分かった。」

「これは、私達とおじいさまの『取引』ですよ。」

「ほう・・・。」

サマルトリア王の袖をあわててマイが引っ張った。

「ほう・・・じゃないわよ、お父様!!
 勝手にそんな事約束しちゃって良いの!?」

「お前まさかあの子供たちにあの3人が負けるとでも
 思っているのか?」

「い・・・いや、思わないけど。でもっ!」

「黙ってみておれ。
 どういう結果になっても、
 あの3人の親はあの子らなんじゃから・・・。」

「・・・・?」

意味深なサマルトリア王の言葉にマイは首を傾げた。

同じように首を傾げているのは、
最年少のマナだ。

どうやら、場の空気を理解をしていないらしい。

難しいお話は終わったのかな?と言う表情で、
ぽよんとその場に座って、また花を詰み始めた。

「こーら!マナちゃん、話聞いてた!?
 これからお父様たち倒しに行くの!
 さぁ、作戦を練りましょう!」

「え?」

アリスはぽやんとした表情のマナと引っ張って立ち上がらせた。

「ふふ、あの確実に足を引っ張ってる感じが、
 本当にお兄さまっぽいなあ。」

マナを見ながらそんな事を言うマイに、
サマルトリア王が合図した。

「ぼやぼやしておらんで、
 お前、あっちの3人に言ってこい。
 子供たちからの挑戦状だと。
 存分に『遊んで』やれと。」






- 続く -

2014/08/27

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 なんでやねん・・・って言うくらい長いorz
 リクエスト「クリア後 アレン達の子供達がゲームをしていて、
         人数が足りないからと言ってアレン達を巻き込む話」です!
 人数が足りないからではない感じですが、とりあえず一緒に遊ぶ話。続きますよ。
 
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