バルコニーから庭を覗くと、
子供たちが元気に走り回っているのが見える。
夕食も終わり夕暮れの時間ではあったが、
滅多に会えない子供たちは、これが貴重な機会だと分かっているらしく
とても楽しそうに仲良く遊んでいた。
貴重な機会なのは大人たちも同じだ。
会うだけなら会うこともあるが、
こうやって懐かしい面々と、自由な時間を過ごせるのは滅多にない。
サマルトリアの国に今アレンとカインとマリアが揃っているのだ。
マイは、うきうきと接待に張り切っていた。
「さぁさぁ、アレン様も、皆様も。
まだまだ夜は長いですよ。
今日は沢山お話しましょうね!!」
マイは、奥からとっておきのワインを持ち出してきた。
ひとしきり食事も終わったが、
まだまだ夜はこれからとばかりに、食卓は賑やかだ。
「じゃあ、聞かせてよ。
マイは最近どうしてるの?
あのサマルトリア兵とのお付き合いは続いてるの?」
兄からの唐突な先制パンチに、マイはブーッとワインを吹き出した。
「全然何にも言ってこないから、
最近どうしてるんだろうって、思ってるんだけど。」
腕を組みながらそういうカインに、
アレンが思い出したように「ああっ」と手を叩いた。
「いたな、いたな。
名前、なんだっけ?
あの、城門を守ってた奴だろ。
結構いい奴だったじゃん。
あれ、姫はまだ結婚してないのか?」
アレンのあけすけな言葉に、
マイは返す言葉に窮した。
「結婚してないよ。
さすがに結婚したらアレンの耳にも入るでしょう。」
既に既婚者の兄もアレンも
なんで結婚してないんだ?といわんばかりの表情だ。
マリアも何も口にはしないが、興味津々な表情で
こちらを見ていた。
「リックのことですか?
駄目ですよ。あいつ、強くなるとか言ってた癖に、
この間もサマルトリア兵団の剣術大会で
2回戦で負けちゃったんですよ。」
「ふーん。そっかあ、弱いのか。
それはいかんな。
って、剣術大会なんてやってるんだな。」
「最近はじめたんだよね?」
「そう、この間始まったばかりです。
ロトの国として『剣が弱い』は不名誉だって事で。」
剣の話となるとアレンもカインも興味津々だった。
「面白そうだな!
俺も出てみてえ!!」
「アレン様が?止めてください!
兵達、勝てっこないじゃないですか〜〜!」
「じゃあ、カインも出ろよ!
なぁなぁ!面白そうじゃん!一緒に出ようぜ!」
目をらんらんと輝かせてアレンはそう提言した。
「いやぁ・・・アレン、サマルトリアの大会だよ。
あくまでサマルトリアの人じゃないと駄目だし、
そもそもサマルトリア兵団じゃないと出れないよ。」
無理無理とカインも手を振った。
せっかく面白そうだったのにーと、唇を尖らせたがアレンだったが
すぐに気を取り直して、立ち上がった。
「じゃあ、ま。
大会は出ねえけど、サマルトリア兵の駐屯場を覗くくらい自由だろう。
なあ、カイン。見に行こうぜ。」
「えっ?今から?僕も?」
「今から今から。お前も。
まだ今くらいなら、兵達いるだろ?
あ、最後にこれもらっていくな。」
目の前にあるピザを最後まで食べてから、
アレンは妙にうきうきした様子で、
カインを誘って駐屯場へ行こうとした。
きっとアレンはここで喋ってるより、
兵達と剣を振るって体を動かしたいのだろう。
あわよくばカインとも。
「ふい〜、腹も膨れた。
じゃあ、また後でな〜〜。」
「えっ、結局僕もなのーーー・・・?」
結局カインにも有無を言わさぬ勢いで、
アレンたちは出て行ってしまった。
置いていかれたマイは、ややあっけに取られた様子で、
2人を見送った。
「なーんで、カインも連れて行くのかしらね。
私に一言もなく・・・」
黙って見守っていたマリアが、
ぶつぶつとやや不貞腐れた様子で、目の前の食事に手をつけた。
「アレン様とお兄さまは仲が良いですよね。
きっと剣の稽古を一緒にしたいんじゃないですか?」
マイは純粋な笑顔でそう言った。
いや、マリアには分かっている。
隙あらばアレンはカインを連れて行こうとする。
2人で何をしているのかとも思うが、
まぁいい。
自分は毎日カインとは一緒にいるんだ。
ここは大人の余裕で見逃しておこう。
などとマリアは少し心の平静を取り戻した。
「ところで、マイさんさっきの話だけど。」
「さっきの?」
「リックさんと言ったかしら?
実際の所はどうなの??
私達、結構本当に気にはしてたんだけど。」
カインともたまにその話題になるのだ。
兄に話づらいこともあるようなら、相談には乗ってあげたかった。
マイもおつまみを食べながら、
マリアになら話そうと思った。
「実はですね、聞いてください。」
剣の腕だけじゃなく、実際のところ、問題は他にもあった。
女同士の秘密話をしようと思ったとき、
誰かが扉をノックした。
アレンたちが帰ってきたのかと思ったが、違った。
侍従が来客が来たのだという。
「夜に失礼致します!
ローレシアより、クレハ様がいらっしゃいました。
お通しして宜しいでしょうか?」
マイはマリアと顔を見合わせた。
こんな夜にクレハがやってきたらしい。
アレンに用があって、会いにきたのだろうか?
「勿論よ。お通しして下さい。」
侍従にそう言うと、
扉の置くには大きな荷物を持ったクレハが立っていた。
「こんばんは。皆様がた。
ローレシアより、クレハ到着いたしました!」
丁重にクレハは頭を下げた。
「クレハさん、どうしたんですか?
こんな夜更けに。
何か急用でも・・・!?」
思わず心配して聞いてしまったのだが、
そう尋ねるとクレハの方が首を傾げた。
「え・・・?いえ、急用ではなくて。
あれ?アレン様から聞いていらっしゃいませんか?
クレハは、荷物等がありますので、
一便遅れた馬車で夜に到着しますと。」
再度マイはマリアを顔を見合わせた。
そんな事アレンは言っていたか?と思ったが、
2人とも聞いていないようだった。
「ええっ・・・!?
夕刻の時間に到着しますので、
アレンさまの好物も沢山お持ちしますよって
だから私こんなにいっぱい持ってきたんですよ!?
って言うか、アレン様はどこですか?」
きょろきょろと部屋の中を見渡して
クレハは2人に尋ねた。
ここに皆集まっていると聞いたのに。
「アレンなら、カインを連れて剣の稽古に行ったわよ。
食事も早めに食べたから、
アレンもう満腹だっ・・・」
最後まで言葉を言わずとも、
クレハの荷物を持つ手がぷるぷると震えているのが分かる。
「んもーーー。
アレン様、また私のこと忘れてるーーー!」
「え・・・?え?
クレハさん、お、落ち着いて。」
「そうですよ。
さぁ、旅の道中お疲れでしょう。
ささ、座って下さい。」
思わずマリアとマイがクレハに気を使って、
椅子を勧めた。
その様子に、さすがにクレハは恐縮した。
「いえ・・・取り乱して申し訳ありません。
マイ様、これ、ローレシアの名物の特製ハムなんです。
良かったらどうぞ。」
「まぁ、ありがとうございます。
皆でいただきますわ。」
「子供はどうしているのでしょうか?」
そう言えば、もういい加減夜も深くなってきた。
マリアは、バルコニーで遊んでいる子供たちを呼び戻した。
一日遊び通して疲れたのだろう。
いつもは絵本を読んでくれなどとせがんでくる子供が
あっさりと眠ってしまった。
大きなベッドで3人で並んで眠いっている様子が愛くるしい。
「カレルがやんちゃで、何かご迷惑掛けておりませんか?」
クレハが心配そうにマリアに尋ねたが、
いや、迷惑掛けたのはどっちかと言うと
アリスとマナだろう。
大人顔負けの罠もしかけて、子供たちがよってたかって、
勝負を挑んできてアレンにも迷惑を掛けた。
日中の出来事をクレハに伝えると、
目を丸くして聞いていた。
「完全に、私達のせいなのよ。
ごめんなさいね。アレンも巻き込んじゃって。」
「いいえ。大丈夫ですよ。
きっとアレン様も楽しんだんじゃないですか?」
クレハはその時の様子は見ていないが、
生き生きとしているアレンの様子が脳裏に思い浮かんだ。
「私との生活なんて、
なんだかいつも退屈そうで、アレン様刺激を探してるんですよ。」
クレハはぷんぷんとそう言いながら、
持ってきた荷物の中から、色々な料理を差し出した。
「お料理お持ちするから待っててくださいねって言ってたのに、
アレン様すっかり忘れちゃってるみたいなので、
皆さん食べちゃいましょう!」
「い・・・良いの?」
どうやら、クレハはもともとこの時間にやってきて、
ローレシアの名物料理を自分達に振舞ってくれる予定だったらしい。
せっかく予定通り沢山の料理を用意してきたのに、
アレンがすっかり忘れている事に、少し怒っているようだ。
「良いんですよ。
結局アレン様は、私の手料理よりも、
カイン様と一緒にいるのが良いんでしょう!?」
「クレハさん、もしかしてもう飲んでる・・・?」
そんな様子に、マイがぷっと笑った。
「あはは〜。
どうせ、お兄さまたちまだまだ帰ってきませんよ。
子供たちも寝たことだし。せっかくだから女子会しましょ。
さぁさ、クレハさんもワイングラスを持って下さい。」
無理やりクレハにワイングラスを持たせると
マイはクレハにワインを注いだ。
「女子会・・・素敵ですね。
ご一緒させてください。
あ、どうぞこれつまんで下さいね。」
クレハは料理を差し出した。すっかり酒の席のノリだった。
だが、たまにはこういうのも悪くない。
「マイさん、先ほどの話の続きよ。
リックさんとの関係について教えてよ。」
マリアは先ほど途切れた話の続きを尋ねた。
「ああ、リックですか?
ですからね、一番の問題は・・・
分かるでしょう?お父様ですよーー。」
大げさに泣き崩れる振りをしたマイを
マリアは、なるほどと思った。
確か自分のときもサマルトリア王は相当反対していたと聞く。
中々の難関だろう。
「なんですか、何の話しですか?
マイ様に婚約者の方でもいらっしゃるのですか?」
話に置いてきぼりのクレハに、
これこれこういう話だと説明すると、
クレハはまぁ・・・と少し顔に手をあてて驚いた。
「まだまだ婚約なんてしてないですけどね。
聞いてください。
この間、リックとお茶をしてたんです。
そりゃあ、すぐ見つかるような庭園で話をしてたのは
悪かったかもしれないですよ?」
「どうかしたの?」
「そうしたら、滅多に王室から出てこないお父様が、
庭園の椅子に座ってくるんですよ。」
「待って、どういうこと?
離れた席に座って、話を聞こうとされたって事?」
そう聞くとマイはぷるぷると首を振った。
「違いますよ。
同じ席の椅子ですよ。
3人で仲良く席を囲む感じです。
ちょうど、今みたいに。」
うわあ〜〜とマリアとクレハはその時の状況を
想像した。
「そして、聞くんですよ。
君は誰だったかね。そこで何をしてるのかね、って!!
誰だって知ってるくせに!知ってるくせに!」
マイは身振り手振りを加えながら当時の状況を再現した。
楽しいお茶の一時も、いきなりのラスボス登場に
シーンとなってしまったそうだ。
「聞いておきながら、
兵団のリックと言ったかな。
いや、違っていたらすまないが、
今時分は兵団の鍛錬時間のはずだったが、
ワシの勘違いだったかな・・・。って。」
「あわわ・・・。王様怖い・・・。」
「で、その鍛錬をサボっている君はマイの何なんだーー!?とこうですよ。」
「・・・詰んだって感じね・・・。」
タダでさえ姫と喋るなんて緊張するのに、
王にそんな風に言われて、リックはすっかり恐縮しまくって
自分に寄り付かなくなったらしい。
どうやら話によると、
王は、リックにマイが好意を持っているのを知ってるようだ。
可愛い一人娘の彼氏と来れば
気にならない訳はないだろうが・・・。
あの父は、中々の難関には違いない。
「だから、最近はお茶もロクにできないんですよ。」
「別れちゃったんですか・・・?」
恐る恐るクレハが尋ねると
マイは少々お酒に酔った顔でにやっと笑った。
「ううん。剣術大会で優勝したら
王から直々に表彰してもらえるんですよ。
だから、次に王と会うときはその時だって、
私に会うのも自粛してるだけです。」
その少し誇らしげな言葉に2人は手を叩いた。
「まぁ、素敵ね。
その日が楽しみにね。そう言う目標があれば
きっと強くなるわよ。」
「そうですね!そう言うことなら、きっとアレン様も
リック様をお強くするの修行もしてくれると思いますよ。」
「ふふ・・・ありがとうございます。
いつになるやら〜〜って感じですけど。
まぁ、今頃はアレン様にこてんぱんにやられてますかね?
正直、私よりも弱いくらいだから、
ガンガン強くしてやってもらいたいです。」
マイはそう言って笑った。
そして話を変えた。
「ねえ、マリア様。
お兄さまは最近どうしていますか?」
「え、あ?カイン?
ええ、社交的で、誰とでも仲良くなって
ムーンブルクでも人気者よ。」
マリアはそう言って、ワイングラスに口をつけた。
「マリア様。
つかぬ事をお伺いしますが、
その・・・誰とでもって言うのは、
女の人とでもですか?」
「え・・・?ええ・・・っと・・・ええ、そうね。
誰とでもよ。」
マリアはうんと頷いたが、
2人はそれはおかしい!とマリアに熱弁した。
「お、おかしいかしら?
カインは誰にでも優しいもの。」
「おかしいですって!
あの馬鹿兄貴、何しにムーンブルクに行ってるんだって話しですよ。
友達100人作るために行ってんじゃないんですから!」
「マリア様、実は寂しくないですか?」
クレハとマイの言葉に、
少し心がざわついた。
そして、マリアはワインを一杯一気に飲み干した。
「そ、そうなのよ・・・。
今だって、ほんの少しも私に伺いもしてくれずに
アレンと2人で行っちゃったでしょう?
いや、行くなとか言わないけど、
ちょっとくらい伺ってくれても・・・。」
酒の勢いか、マリアが少々愚痴っぽかった。
クレハがそれに激しく同意した。
「分かりますよ!
私なんて、何もお伺いなんてないですよ。
むしろ、忘れ去られちゃってますよ。
って言うか、基本、常に私なんて忘れ去られてて、
帰ってきたときだけ、『腹減った』って言うだけですよ。
もう、もう、アレン様の馬鹿ーーー!」
少し口早にクレハがそう言った。
なるほど、アレンは、さらに自由奔放で
クレハを振り回している様子が容易に想像できる。
「アレン様もお兄さまもひどーーい。
お2人の魅力を全然分かってないですね。
これは懲らしめないと駄目ですよ。」
「懲らしめる?」
「どうやって?」
きょとんとしている2人に、
マイは妻の魅力も理解していない夫達を懲らしめる策を授けた。
+++
その後、しばらくしてアレンたちはようやく帰ってきた。
女性陣はもう眠っていると思ったのか、
音を立てずに扉を開けてのだが、
思わずアレンは後ずさった。
そこには暗闇の中、未だ眠りもせずに、
微動だにせず席を囲んでいる3人の姿があった。
「お、おい・・・?
なんだよランプくらい付けろよ。
起きてるんだろ?」
ぎしっと音を立てて、
クレハが立ち上がった。
「お帰りなさいませ。アレン様。
約束しましたとおり、
私お料理いっぱいお持ちしたんです。
お夕食にどうぞ!」
「え、料理って?
・・・ってか、あれ、クレハ?あれ?」
どうやらアレンは本当に忘れていたのか、
クレハの顔を見て、
ようやく今夜クレハがやってくると言う約束を
思い出したらしい。
「もう俺、夕食食べちまったぜ?」
「そうですか。」
あっさり引き下がったかと思いきや、
クレハは残念そうにいった。
「分かりました。では、これは家畜の餌にでも致しましょう。
しかし、アレン様、もしや私との約束忘れた訳じゃないですよね。
いつも言っていたでしょう。食べ物を粗末にするような者は、
もはや、食べるべからずですよ!」
「ちょっ・・・!!何だよそれ。
そんなの昔の・・・俺が子供の頃の話だろ?!」
「問答無用です!
どうせ、アレン様は私のことを自動餌出し機としか
思ってないんでしょうけど、
すっかり忘れてこんな日が変わるまで遊び呆けて、
もうこんな食事痛んでしまって、食べられませんよ!!」
なにやら情感たっぷりに崩れ落ちるクレハに
マリアが駆け寄った。
「アレン、あんまりよ!!最低よ!
クレハさんをこんなに泣かせるなんて!」
「えええーーー。
な、なんだよ、ク・・・クレハ泣いてるのか?
わ、悪かったよ。泣くなよ!!」
勿論、クレハは別に泣いてはいない。
これは演技なのだ。
「お兄さま、後ろでまるで他人事のように
呆けてますけど、
お兄さまも罪は重いですわ。」
次のマイは、カインを標的にした。
「え・・・、罪って・・・?
急に何・・・?」
「まぁ、まだ気付いていらっしゃらない。
お兄さまは、馬鹿なんじゃないかしら?」
そう言ってマイは、隣のクレハとぶつぶつ何かを
呟きあっている。
「???」
急な展開にカインは何が起きたのかと唖然としていた。
「マリア様の美しさは、
当代一のものよ。
その魅力にも気付かず、マリア様を放っているなんて
なんて愚かなのでしょう。
話によるとあちこちの女性にも手を出してるとか。」
「まぁ!そうなの?そんな人だったの!?」
相変わらずやや大振りにクレハが驚いてみせる。
「ちょ、ちょっと!!
何それ何のこと!!何かおかしくない!?」
反論しようとする、カインに
マイがさらに付け加えた。
「噂によると女だけじゃなくて、
男の人とも付き合ってるんだってーー・・・。
今だって、ほらアレン様について行っちゃったり。」
その言葉にマリアがゆらりと立ち上がった。
「カイン、そういうつもりだったのね・・・」
「マリア!そういうつもりって何がさ!!
何と勘違いしてるの!?」
慌ててカインが首を振っている。
どうやら動揺を誘うのは成功しているらしい。
もう一押しだ。
「マリア様、もう言ってやって!」
マイの言葉にマリアはこくりと頷いた。
「わ、私の魅力に気付いていないなら、
教えてあげましょう?
この服を一枚脱いで・・・。」
そう言って、妖艶な笑みを浮かべて、
マリアは手を伸ばした。
「・・・え!?」
そして、自分の着ているローブの背中の留め具に手を掛けた。
そしてするするとローブがずれ落ちていく。
「ママママリア、何を!!!?」
思わず顔を赤くして大慌てしたのはカインだったが、
同じく慌てたのはマイとクレハだった。
「わあ〜〜っ、マリア様!!ストップストップ!」
「いけませんーー!
マリアさまは、そのローブ『一枚しか』着ていないじゃないですか!!」
2人の言葉に、ハッと顔を真っ赤にしたのはマリアだ。
3人掛かりでずれ落ちそうになる服を支えた。
暗くて良かった。
きっと、多分、見えてない。
「なん・・・何だよ。
マリアなにやってんだ?」
「アレン様!アレン様は、いけません!
外のお月様でも見ててください!!」
「お月様なんてみえねーーよ!
だから、お前ら何なんだよ。」
アレンの言葉に
女性陣は説明を始めた。話によるとこうだった。
自由奔放で、妻達を顧みない旦那達に
一度反省を促したくて、
女性陣で小芝居を組んだんだそうだ。
部屋のランプをつけて、
アレンはぐだーっと背もたれにもたれた。
「なーーーんだ、そりゃあーー。」
「でも、アレン様が私のことなんて忘れてるのは
本当じゃないですか。
もう、せっかく料理作ってきたのに
無駄になっちゃいましたよ!?」
どうやら女性3人でクレハの料理を食べたらしいが、
まだあまっている。
「無駄じゃねーもん。
俺、これ食っていいんだろ?」
「え?今からですか?」
「そう、今から。
俺がお前の料理を残す訳無いだろーー!」
そう言ってアレンはガツガツと
料理を食べ始めた。
実際、剣の稽古をして小腹が空いていた所だった。
「忘れてなかったよ。
けど、気になる男の話を聞いたから、
稽古付けに行ってやりたかったんだよ。
お前なら、きっとマリアたちが迎えてくれるだろうって
思ってたんだよ。だから、そんなに怒るなよ。」
「アレン様・・・・。」
気になる男とは、リックの事だろうか。
どうやら、伸び悩んでいる兵に胸を貸しに行ったらしい。
「ああ、姫。
奴、スジは悪くないと思うぜ。
こんな夜まで真剣に剣を振るってた。
多分強くなるさ。
なんだったら、ローレシアに寄こせよ。
俺が面倒見てやる。」
「ア、アレンさま・・・!
そ、そうですか!?ありがとうございます。」
なんだかアレンが口にする言葉がイチイチカッコいい。
逆に、うなだれている情けないのはうちの兄だ。
「マ、マリアは一体なんであんなことをしたの?」
ようやくカインが口を開いた。
さっきのはマリアの姿は一体なんだったのか。
「あの・・・あはは。
マリア様のあれは、うん。
だから、アレン様のと同じでちょっとお兄さまに
思い知らせたくって。」
「何を・・・。」
「マリア様の魅力に決まってるじゃない!
こんな綺麗な女性を放っておいたら、
世の男たちは黙っていないのよ?
お兄さまみたいな凡々しい男より
素敵な男性はいっぱいいるんだから!」
「凡々しくて悪かったねーー。
でも、誰にも、手なんか出させないよ!!」
それにしても、さっきの妖艶な姿を
夜目に慣れていたアレンも見たのかどうか、
聞くのも嫌だった。
「言っとくけど、
アレンも近づいちゃ駄目だからね!」
「俺は飯しか見てねーーー。」
アレンは何食わぬ顔で、
むしゃむしゃと料理を平らげている。
「で、マリア様に色仕掛けで誘惑しちゃえ!って
お願いしたんですよ。
そしたら、あはは。危うく、生まれたままの姿を
お見せする事になりそうでしたね。危ない危ない。」
「お前、本当ろくな事しないね!!
とんだ小悪魔だよ。」
カインは、ていっと妹の頭を軽くチョップした。
「マリアも、もうあんなことしないでね。
何か問題があれば、
この馬鹿妹じゃなくて、僕に直接言ってよ!」
「え・・ええ・・・っとええ・・。」
マリアはマリアでさっきの醜態を
思い出すと顔が真っ赤だった。
慣れない事なんてするもんじゃないと思った。
思わずもう一杯ワインを掻き込んだ。
「おおっ、良い飲みっぷり。
飲め飲め。」
「飲め飲めじゃないよ!
飲み過ぎだって、マリア顔真っ赤だよ!?」
顔が赤いのがワインのせいなのか、
何のせいか分からないが、
考えると無性にむしゃくしゃしてきた。
「何よ!私が悪かったって言うの!?
ひどいわ!!カイン、あなたも飲みなさいよ。
もう、言いたい事ならいっぱいあるわよ。」
「ちょっと・・・まだ飲むの?
ってかマリア、何だか今日はもしかして絡み酒?」
「あはは。
やれやれ〜〜。夫婦喧嘩〜〜!
クレハ俺ももう一杯くれ!」
「アレン様、私だって言いたい事はたっぷりありますよ。
今日は全部言わせてもらいますからね!」
「・・・はーい。」
女性陣の勢いに、2人ともしゅーんとなった。
話は、まだまだ終わりそうもない。
何だかえらいことになってきた。
マイは、自分がこの騒ぎを起こした首謀者の1人ながらも
長くなりそうな夜を思って、少々目を覆った。
- 終 -
2014/09/07
▲