「こんの、馬鹿娘がーーーー!!!」
ものすごい怒号と同時に、扉が開いた。
ぼーっと、窓の外を眺めていたカインは急に何事かと飛び上がった。
入ってきたのは、父サマルトリア王だ。
何やら怒っている。
また何か怒られる事をしたのかもしれない・・・とは思ったが、
たとえそうだとしても、なんか変だ。
少なくとも、自分は馬鹿娘ではないはずだ。
100歩譲って馬鹿息子だろう。
そんな事を、怒り心頭の父が部屋内を闊歩している間
冷静に考えていた。
「と・・・父さま・・?何事ですか??」
「うむ?ここにマイが来ておらんか?」
ああ、どうやら、やらかしたのは妹のようだ。
妹には悪いがカインは少しほっとした。
「来てないよー。」
そう言って、カインは両手をひらげて無実を証明した。
どうやら妹がいなくなったらしい。
「明日にはサマルトリアに帰ると
準備をせねばならんのに、あやつと来たらふらふらふらふら、
昼から何一つ準備もせずに、一体どこをほっつき歩いているのやら!?」
カインたちは今ロト祭の開かれるラダトームに来ていた。
既に祝典は終わり、街のお祭り騒ぎも今日で終わりだ。
せっかくの機会だから、マイはきっと城下に遊びに行ってるのだろう。
「もし見かけたら、私が探していると伝えてくれ。」
「はい、分かりました。」
去り行く父に、カインはにこやかに答えつつ、
少し、自分の心も街へとトリップしていた。
マイを探すという名目で、
自分も城下へ行こうかな・・・。
先ほどからずっと窓から城下の賑わいを見つめ、
楽しそうだなあ〜と思っていたのだ。
「・・・・・・・・。」
でも、急に出て行ったら、マイの二の舞だろうか。
まぁ、仕方ない。大事な妹を探すのだから。
では、ばれないように、
この毛布をくるくる巻いて、服でも着せておいたら、どうだろうか?
で、布団の中に入れておく。
そしたら、寝てる風に見えるだろう。
自分でやっておいて、ぷっと笑ってしまった。
何やら、楽しくなってきた。
そうだ、せっかくだから、
城下に行くなら、マリアも誘ってみようかなと思った。
***
「え・・!?マイさんが行方不明!?
・・って?何故あなたそんな楽しそうなの?」
急にカインが部屋にやってきて、
マリアは何か緊急事態かと心配した。
実際問題、妹さんが行方不明と言うのは大変な事だろうと思ったが、
その割には何だかカインが楽しそうである。
「あ・・・いや・・・行方不明って言っても、
多分お祭りに行ってるだけだよ。」
「ああ、そう言うことなのね。良かったわ。
何者かに連れ去られたのかと思った。」
「ううん。違うよー。」
何やらカインがわくわくそわそわしている。
「でも、心配だからねっ。探しに行こうかな〜って思うんだ。
ねえ、マリアも一緒に行かない?」
そこまで言われてようやくマリアは意図を理解して、
くすっと笑った。
どうやら、それを餌に城下の祭りを見に行こうと言う事だ。
マリアも少し楽しい気分になってきた。
「でも、行きたいのは山々だけど、きっと私たちが行ったら
大騒ぎになるわ・・・。」
カインもマリアも世界を救ったロトの勇者として、
祭典の間に散々顔が割れてしまっている。
これまで城下の祭りに行ってないのも、
騒ぎになってはいけないと自粛しているからだ。
「うん。でも事情が事情だからねー。
とりあえず変装していこうかなーって。」
事情が事情って、祭りに行くだけだが・・と思いつつ、
まさか変装するとは思わずマリアは驚いた。
「え・・変装って・・・どうやって?」
「とりあえず眼鏡を持ってきたんだけど。
どう?結構頭賢そうに見える?」
そう言うとカインはどこから取り出したのか眼鏡を装着した。
「あとはねー。ベストとかジャケットとか色々持ってきたよ。」
なんだなんだ、その準備のよさは・・。
カインはベストを着て、眼鏡をつけると、
何だか若い学生のような感じになった。
「へ〜〜。ちょっとの事で、分からないものね。」
その様子にマリアは感心した。
しかし、その変装道具はまだまだあるではないか・・。
もしや・・?
「一応マリアの分も色々持ってきたんだけど、
いらないかなあ?」
まさかの自分の分だった。
マリアはドレスやローブといったゆったりした服装しか
着用した事は無い。
こういったまるで男物のような服装は着た事が無い。
固まっているマリアの様子を見て、
カインはあわてて手を振った。
「や、無理に着なくて良いんだよ!?
たとえば、その髪の毛をフードで隠すだけでも
誰だか、分からなくなると思うんだ!
これとか、どうかな。」
カインがそう言って取り出したのは、
フードのついた長めのマントだ。
なるほど、ざくっと被るだけで良いのだろう。
と言うか、そこまで準備良くカインが考えてたとは、
もう完全に確信犯ではないか。
「ふ・・ふふ・・・っ。面白そう。
良いわね、私もせっかくの機会だもんね。
ここは一つ『男装』してみようかしら?」
「男装って・・!!」
驚く事に、マリアが乗ってきてくれた。
どうやら、マリアはマリアで街へ行ってみたいと思っていたようだ。
すっかり諦めていた所に、この話だ。
乗ってみようと思ったのだ。
マリアはまるで旅人のような服装に変身した。
だが、上着は着崩すことも無く、きっちりと身につけ、
意味ありげに深く被ったフードと高貴なマント姿は
一介の旅人と言うよりは、どこかの国の王子様のお忍び姿のようだ。
「変じゃないかしら?」
そう言うマリアにカインはぶんぶん首を振った。
「かー っこいい!マリア!すごいカッコいい!
びっくりした!」
意外とマリアは何を着ても様になるようだ。
出来ればこれから色々な服を着てもらいたい・・・。
とは言っても、まさかこんな格好をする事は二度とないだろう。
カインは滅多に見れない宝物を見せてもらった子供のように
目を驚かせて、そして笑顔になった。
「じゃあ、マリア行こうか!」
***
城下は賑わっていた。
どうやら、沢山のお店が自慢の料理を振舞っているようだ。
「わ〜〜。楽しそう〜。」
「そうね、皆すごい笑顔ね。」
各国の味自慢の料理が並んでいる。
それ自体は、祭典でも食べれたかもしれないが、
皆のお祭りの楽しそうな雰囲気を味わえたのが嬉しかった。
やっぱり、来れて良かった。
「さぁさぁ!!皆寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
できたてほやほや、スライム肉まんはいかがですかー!?」
どこかのお店が、呼び込みをしているらしい。
「ス・・スライム肉まん・・・?」
なんだそれは?
スライムを捕まえてきて、肉まんにしたのだろうか?
スライムなど美味しいのだろうか?
カインは思わず足を止めてしまった。
マリアも聞こえていたらしい。
「スライムって食べれるのかしら?」
などと不思議そうだ。
「お、そこのお客さんー!
今ならスライムとスライムベスとメタルスライム、
全種類そろっているよ〜〜!」
足を止めたのに気づかれたらしく、店員に呼び止められた。
「ス、スライムが3種類もそろっているんですか?」
好奇心に負けてカインが商品を覗き込んでみた。
なるほど、そこにはほっくほくのスライムたちが並んでいた。
「・・・・・??」
不思議な光景だ。
こんな食べ物は先ほどの祭典では出てこなかった。
カインとマリアが思わず覗き込んでいると、
後ろから、他のお客さんが突撃してきた。
「あー!!メタルスライムがある!
さっきは無かったのにーーー!!」
そのお客さんはメタルスライム狙いだったらしい。
どうやら、メタルスライムはレアらしい。
いや待て、今の声は聞き覚えがある。
振り返ると、そこにいたのは見覚えがあるどころではない。
大変よく見知ったアレンがそこにいたのだ。
「へっへっへ、お客さん御目が高いなあ〜。
これで3回目ですもんね。」
どうやら、何度もこの店にアレンは来ていたらしい。
そして念願のメタルスライム発見らしい。
どうやら、モンスターと同様、この肉まんとやらも
メタルスライムがレアらしい。
「駄目ですよー!!アレンさま!
さっきから、いくつお召し上がりになってるんですか!
もうお城に帰らねばならないと、何度言ってるとお思いですか!?」
どうやら、お供にクレハが一緒にいたらしい。
アレンの袖を目一杯引っ張っている。
が、アレンはびくともしない。
その視線はメタルスライム肉まんに釘付けだ。
そして、カインとマリアにも気づきもしない。
どうやら、この変装は結構効果的だったのかもしれない・・・。
「おーい。アレンー・・・。」
「えっ!?」
声を掛けられて、ようやくアレンは「!?」と思ったらしく、
思いっきり仰け反っていた。
「な・・・え・・・カインと・・・・マリア・・か!?
なんだ、なんだ!?お前らなんでそんな格好してんだ!?」
アレンはびっくりしてカインとマリアの服装にじーっと見つめていた。
やっぱりいつもと違うから、違和感があるのだろう。
と言うか、アレンはいつも通りの格好だった。
「いや・・・城下に行くから、変装しようって思って・・・。
アレンはいつも通りだね・・?」
「変装ーー!?マジでか!お前ら、面白いな〜。」
アレンはようやく納得したらしく豪快に笑っていた。
あんまり笑われて、マリアが気を悪くしないか心配だった。
「そ、そんなに変かしら?」
「え?いや、マリアの男装は結構いいんじゃねえか?
なんか、どっかの王子様のお忍びみたいだな。
どっちかと言うとカインが弱っちい感じだな。」
どうやら、アレンはカインと同じ感想だった。
カインは自分の姿が学生っぽいと思ったが、
アレン的には弱弱しいイメージらしかった。
「ところで、俺メタルスライム肉まんが食いたいんだ。
なぁ、カインこれ買ってくれよー。」
アレンが妙にナチュラルにカインにそう言ってきた。
最初、あんまり普通にそう言ってくるので、
思わず昔のようにカインは財布を取り出したが、いや、ちょっと待て。
「えーっと・・・。アレン?」
「な!アレン様!!
カイン様にスライム肉まんを買ってもらったなど
あとで知られたら私がお父上様に怒られてしまいます!」
旅の最中は財布係はカインだった。
だから今回も仕方ないなーと支払いそうになったが、
今はアレンは隣国の王様と言う立場だ。
軽々しく、そう言うことをするのは、正直あまりよろしくないのだ。
「クレハが買ってくれないとか言うから、
国際問題一歩手前だよ。」
そう言ってアレンは唇を尖らせた。
その様子にクレハはため息をつくと、どうやら観念したらしい。
「アレン様、これで最後にして下さいよ。」
そう釘を刺しつつ、クレハはアレンにメタルスライム肉まんを買い渡した。
どうやら、アレンはお金は一銭も持っていないらしい。
まぁ、それは正解だろう。
こんな楽しいお店が沢山あれば、
アレンはきっといくらお金があってもすべて使い尽くして、
食べつくしてしまう事であろう。
カインたちも、せっかくなので、
スライム肉まんとスライムベス肉まんをそれぞれ買って、
少し人手の少ない路地で食べる事にした。
「美味しい〜。スライムかと思ったら全然違うじゃない。」
「本当ね、スライムの形をしているだけなのね。
面白いアイディアね。」
きっと王族が沢山いる祭典では出せなかっただろうが、
民衆の人気は高かっただろう。
「メタルスライム肉まんは少し硬いな・・。」
アレンがメタルスライムをガジガジかじりながら、そう言った。
「アレン、もしかして・・3つ目?」
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「ああ、スライムとスライムベスは食ったんだよ。
いつ来ても、メタルスライムは見つからなくてなー。」
アレンの食への執念は相変わらず凄まじい。
若干クレハは疲れた様子をしていた。
相当つれ回されたのだろう。
「あ、あの・・お3人様がおそろいになられた席に
私などがいても良いのでしょうか?」
ふとカインの視線を感じたクレハは、
一歩二歩と後ずさりながらそんな事を言った。
どうやら、自分ひとり身分が違うのを気にしているらしい。
「席って・・・そんな大層な。
ただのつまみ食いですよー。」
「そうよ、一緒にいて下さい。
せっかくの機会なんですから。」
カインもマリアも気にするなと言う風にそう答えた。
「そうだぜー。なんか、あれだな。
お前らと俺らであれだな。」
「あれって?」
「ダブルデートってやつだ。」
アレンがにやっとそう言ったのと同時に、
カインが、ぶーっとスライムを吹いた。
「うわっ。お前、スライムを俺に吹きかけるなよ。
新手の攻撃かよ。」
「あ・・いや・・ごめん・・・。」
ま、まぁダブルデートと言えば、そうなるのか。
非常に不思議な感覚である。
それにしても、アレンはいつもの服装のままだった。
変装などしてない。
「アレンは、変装とか何もしないね。
勝手に出てきたら怒られない?」
「ん?だって、俺ローレシアの王だぜ?
俺を怒る奴なんてー・・・まぁ、いるけど。
良いんだよ。その口封じにこいつも連れてきてるんだから。」
そう言ってクレハを指差した。
なるほど。小言を言うはずのクレハごと連れ回しているらしい。
何とも豪胆な男である。
「お前らこそ、なんでそんな面白い格好してんの?
そんなに祭り見てみたかったんだ?」
「・・・・・いや・・あの・・・。
それもあるけど・・・、そうじゃなくて。」
実はすっかり忘れ去られていたが、
一応名目があった。
「妹を探しに来てるんだよ。
ずっといないから、父さまも大怒りだよ。」
「へー。そうだったのか。」
「アレンは、ずっと城下に来ていたなら、
見かけなかったー?」
聞かれて、アレンはうーんと首を傾げた。
正直、食いもんしか注目してなかった。
「いや、見てねえけど。
じゃあ、俺も一緒に探してみようか。
な、クレハ。それなら、まだ帰らなくていいだろ?
サマルトリアの一大事だぜ?」
「え・・?は・・はあ・・・はい・・。」
クレハは少し困ったように頷いた。
一大事といわれたら断れないじゃないか。
「一大事ってほどじゃないよ〜。
あのクレハさん、ごめんなさい。
早く帰りたかったでしょう?」
「いいえ、大丈夫ですよ。
いくらなんでも、こんな一大事で
帰るわけにはいけません。
大勢で探した方が、早く見つかるかもしれませんし。」
クレハは力強くそう言ってくれた。
うーん・・・なんだか、妙に大事になってしまった。
こんな面々で勢ぞろいして探すのだ。何事かと言う感じだ。
こうなったらとっとと見つけた方が良いだろう。
アレンたち4人は、スライム肉まんを完食し、
もう一度城下の賑わいに戻った。
ラダトームの城下は人だかりは多いが、
それでもそれほど広いわけではない。
すぐに見つかると思ったが・・・
「見つからないわねえ・・・。」
マリアもそう心配そうに言った。
少しずつ夜店も店じまいで、
片づけを始めていた。
そして人も徐々にまばらになっていく。
もしかして、大した事じゃないと思っていたが、
実は何か事件に巻き込まれていたのだろうか?
急にカインは何だか心配になってきた。
「まぁ、そう心配するなよ。
すぐ見つかるさ。」
アレンはカインの肩をぽんと叩いて、
そう励ましてくれた。
「う、うん。 アレンありがとう。」
ひょっとすると、入れ違いで、
マイはもう城に戻っているのかもしれない。
そちらを見てくる方が良いのではないか?
そんなことがカインの頭をよぎったとき、
アレンが声をあげた。
「あ!!カインを見つけた!」
「え!?見つかったの!?」
「ああ。カインを見つけた。」
「は?」
思わずカインは聞き返してしまった。
何だ?何を見つけたって?
「本当ね!あれは・・カインね。」
「え・・?」
何?マリアまで何を言ってるのだ?
探してるのは、マイだぞ。
そりゃあ自分はこの至近距離にいるんだから、
見つけるも何も・・すぐ傍にいるじゃないか?
「あのー・・・2人とも何を言ってるの・・?」
カインが怪訝な顔をして聞き返すが、
2人とも路地の奥を見つめたままで返答してくれない。
「ほ、本当ですね・・・ああされていると、そっくりなんですね・・・。」
クレハが路地を見つめてから、
カインの方を見つめて不思議そうにそう言った。
「あ、失礼しました。まじまじと見つめたりとして。」
「い・・いいえ・・。」
何だ?
カインにそっくりの誰かがいるのか?
そっくりって・・・・それなら昔からよく言われていた。
自分は妹とそっくりなのだ。
と言うことは・・・
「・・・マイ!?マイがいたの・・!?」
カインは路地の奥を覗き込むと、そこには
確かに『カイン』がいた。
「・・・!?」
ロトの印こそ付いていないが、
法衣とマントを羽織った姿は旅の間のカインのスタイルだ。
だが、もちろん良く見ると少し違う。
カインより、小柄だし、髪の毛をきつく縛って隠すようにしている。
そして、何やら楽しそうに一兵卒と語らいあっていた。
色々カインにとっては、信じ難い妹の姿だった。
「マイーー!!!お前、何やってるの!?」
「ふえっ!!え、お兄様!!?
て言うか、アレン様!?マリア様まで・・・!?」
堪らず声をかけたカインに、
マイは驚いたように目を丸くしていた。
***
「ほー。つまり、自分だとばれないように、城を飛び出して、
うまいものを食いながら、こいつと喋りたかったんだな。
で、変装がてら、カインに化けたんだ。
なるほどな。」
アレンは罪状を読み上げるように、そう言った。
マイと楽しげに語らっていた兵は、恐ろしく恐縮して
小さく縮こまっていた。
カインはその兵を見た事があった。
サマルトリアの門番兵だ。
確か名前はリック。
いつも彼が帰城したマイを嬉しそうに迎え入れてるのは知っている。
それどころか、噂によると、
マイの部屋まで来て、窓ごしで会話をしたりもしているらしい。
実際、こうやって2人で城を飛び出している所を見ると、
相当良い仲らしい。
兄が知らないうちに、妹もこういうことをするようになっていたと言うことだ。
それは成長かもしれないが、
しかし、これだけ大勢に心配をかけてるんだから、
ここは兄としてびしっと叱ってやる必要があるだろう。
カインはリックを一人先に帰城させた。
マイを一人にさせて、注意をしようと思ったのだ。
カインはそう鼻息荒く考えたが、
アレンはカインの肩に腕を置いた。
「まー。でもカイン、あれだな。」
「何?」
「変装して城を誰かと飛び出して談笑したいなんて、
お前と超一緒じゃねえか。これは叱れねえな〜。」
「ぐ・・・。」
アレンはニヤニヤそう言った。
まぁ・・・それは、まさにその通りだった。
「カイン、あまり怒る必要はないんじゃないかしら?
私たちもあまり言えたものじゃないもの。」
マリアもそうこっそり苦笑したように耳打ちしてきた。
そう、そのなのだ。
自分たちも同じなのだ。
カインもばれないようにと、変装までして、
マリアまで連れて、アレンと一緒にスライム肉まんを食べて
祭りを楽しんでいたのだ。
「お、お兄様・・・?」
マイがいつ怒鳴られるのかと、
ずっとぎゅーっとつぶっていた目をチラッと開けてこちらを見上げてきた。
そんな様子を見て、はーっとカインがため息をついた。
「父さまがすごく心配してたよ。
早く帰ろう。」
「えっ。あ、はい。」
なんだ、それだけかとマイは肩透かしを受けたような表情をしていた。
それにしても、マイにも少しあんな相手がいるとは、
ちょっと兄としては気になった。
今度じっくり話を聞かせてもらおうと思った。
「ところで、マイさんは、カインにそっくりなのね。
驚いたわ。」
マリアが心底驚いたように、そう言った。
それにマイが嬉しそうに笑って答えた。
「えへへ。そうですかー?この法衣も5年位前に
お兄様が着てた服なんですよー。」
5年前か・・確かに見覚えがあった。
今では小さくて着れないだろうが、マイにはちょうど良いらしい。
「なんで、お前そんな服ラダトームにまでもってきてるの?」
「こんな事もあろうかと!」
えっへんと自慢げにマイは答えた。
どんな事態を想定したのかと思うと、少々頭が痛い。
そんな事を談笑していると、
先ほどの門番兵のリックがおろおろと帰ってきた。
「た、大変です〜〜!」
「あれ?どうしたの?」
マイが顔をあげて、迎え入れると、
リックは顔を蒼白にさせて言った。
「お・・・」
「お?」
「王が、もんの・・すごっく怒ってます・・・。
娘だけじゃなくて、息子までいなくなったと。」
「げ。」
マイはカインを見上げた。
抜け出したのが、ばれたらしい。
「あははー。布団で身代わり作っておいたんだけど、
ばれたのかなー。」
「お兄様、それ、私と一緒!」
「あ・・一緒なんだ・・・。」
それであの最初の怒りっぷりだったのかと思うと、
今どれほど怒りまくっているのか、またこれは頭が痛い。
カインが頭を抱えていると、
マリアがくすくすと笑い出した。
「ふふっ。久しぶりの楽しい時間で、楽しかったわ。カイン。
でも、そろそろ時間切れのようね。帰りましょう。」
「そうだなー。三人で・・ってか五人で?大騒ぎして、
なんか楽しかったなー。」
マリアとアレンがしみじみとそう言った。
旅を終えてから、こんな風に大騒ぎするのは久しぶりの事だった。
「アレン様〜。何自分は関係ないみたいな顔をされてるんですか?
もうとっくにクレハの予定していた時刻は過ぎております。
お父上もきっとお怒りですよ!!
カイン様も、父君が心配されてますよ。
マリア様も、きっと皆々様が心配して探していますよ。
さぁさ、帰りましょう。」
クレハが最後に3人の足を進めるために、そう言った。
もう遊びの時間は終わり。
そして、明日からは、またもとの生活に戻るのだ。
少しの時間だったけど、とても楽しかった。
「そうだね。帰ろうか。」
カインも皆にそう声をかけた。
- 終 -
2013/09/01
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