62.友達


「うわっ!!アレン、どうしたの!?」

カインは思わず一歩後ずさって驚いた。
ここがどこだったのかすら、一瞬頭から飛んでしまった。
落ち着け。ここはサマルトリアだ。

だからびっくりしたのだ。
アレンが急にサマルトリアに現れるなんて、今まで無かったことではないか。

「よう、カイン。」

アレンは懐かしそうに手を上げて笑った。
こうやって会うのも何ヶ月かぶりだ。

「ど、どうしたの・・・!?いつ、ここに・・?」

「今だよ。今さっき。」

アレンはローレシアの王である。
その彼が隣国を訪れるとなれば、本来は公式に連絡が入り、
カインの耳にも入るはずだ。勿論いざ到着したとなれば
門番からその連絡も入るはずだし、
こちらとしても受け入れるにはそれなりの準備がいる。

ひとしきり驚いている様子のカインを見て、
アレンがにやりと笑った。

「これだよこれ。キメラの翼。
 何も瞬間移動はお前だけの専売特許じゃないんだぜー。」

ああ、なるほど・・。と、カインは納得する。
正式なルートではなく、キメラの翼で飛んできたらしい。

でも何故?
逆にそれが気になる。

「何かあったの?アレン、急用でも?」

カインの表情が思わず真剣なものになる。
だって、アレンが身一つで飛んでくるなんて普通じゃない。
緊急事態なのかもしれない。

「ああ、腹が減ったんだ。」

「は?」

「だからー腹が、減ったんだー。」

どこが緊急事態だ。
 緊急事態を覚悟して真剣な顔をしていたはずのカインの顔が
途端に信じられないものを見るような顔になる。

「腹が減ったからって、なんでキメラの翼でサマルトリアに
 飛んでくるの・・・?」

「えー。たまには良いだろー?
 何か久しぶりに食べたくなったんだよー。」

「食べたくなったって何?サマルトリアの名物料理?
 葉っぱが多いのは嫌だって言ってたじゃないか。」

サマルトリアの料理は野菜を使ったものが多い。
でもアレンはそれでは物足りないらしい。

「違うよ、お前の手料理ー。」

「え、えええー!?僕の!?」

アレンが「分かれよ」と言う表情をしている。

待て待て。
そんな事で隣国の王様が飛んでくるなんて、
そんな話、絵本や御伽噺でも聞かないぞ。

「なーんか、作ってくれよ。」

「ちょっと待ってよ。
 僕これから大事な会議があるんだよ!
 それに最近は、料理なんてやってないよ?
 急に来て、アレン何言ってるの!?」

どうやらカインは多忙だったらしい。
サマルトリアに来れば、すぐに飯にありつけると思ったのは
甘かったらしい。

「じゃあ、待ってるからさー。
 後で良いよ。」

どうやら、諦めずに待つらしい。

「うーん・・・それなら・・良いけど、
 でもアレン、ローレシアには言ってきたの?!」

「言ってきてねえ。だから早く戻ったほうが良い。」

「ええっ、急にいなくなったりしたら皆探してるよ!?」

「そんな事、お前に言われたくないわ。
 お前がしょっちゅうマリアのところに行って『迷子』に
 なってるってのは、俺の耳にも入ってるぜー?」

言われて、カインが微妙に目をそらした。
ほら見ろ、思い当たるくせに。

何故かカインは最近ローレシアにはあまり来なくなった。

アレンはそれが少し気に入らなかった。
それもあって、腹も減ったし、
調達したキメラの翼で飛んできたのだ。

「おいそれと、帰るわけには行かないな!!」

「いや・・・そんな・・・胸を張っていわれても・・・。」

カインがはぁ・・とため息をついた。

「分かったよ・・・。じゃあ、僕の部屋で待っててよ。」

「おおっ。」

アレンはカインの部屋に通される事になった。
部屋に入ってすぐカインはそそくさと会議とやらに行ってしまった。
どうやら本当に多忙らしかった。

「・・・・・・・・。」

アレンはきょろきょろと部屋を見渡した。
カインの部屋に通されるのは初めてだ。
何か用事でサマルトリアに行くときは、
いつもは来賓用の部屋にいて、カインもそっちに来るという感じだった。

部屋の中は、結構物は多い印象だが、片付いている印象だ。
書棚には結構本がいっぱいある。

何となく手持ち無沙汰なアレンが、本棚を見てみると
難しそうな魔法の本もあるし、薬草の本もあるし、植物などの図鑑や
お金に関する本もあるし、他にも色々雑多な本があった。

・・・・まぁ、本などは自分は読まない。

何か面白いものが無いかと、引き続き部屋を物色し始めた。
どうせカインは1時間は帰ってこないだろう。

机の下を覗き込んでみると、
何やら古びて汚れた剣が出てきた。

「・・・?」

よく見るとこの古びた剣は、アレンにはすぐ分かる。
銅の剣だ。

何故こんなものが大事にしまわれているのだろうか?
旅を共にした隼の剣ならば、あいつにとって思い入れも強いだろうが。

よく分からないが、アレンはその剣を手に取った。
銅の剣は切れ味は良くないが、
軽くて、初心者にも使いやすい剣だ。

大振りの武器ばかり使っていたアレンにはなんだか、懐かしい。

「ふーん。」

暇を持てあましたアレンは、その剣を振ってみた。

きっとカインもこうやって剣の稽古をしていたんだろう。
肌身離さず部屋に剣を置いていたのかと思う。

でも聞く所によると昔はろくに剣の稽古もしてなかったはず。

とりあえずアレンはその銅の剣を上段に構えた。
暇なので、素振りでもしようと思ったのだ。

「やー・・・・・!」

そしてアレンが剣を振るったとき、
部屋の扉がおもむろに開かれた。

「わーーーー っ!??」

急に襲い掛かってこられたと思ったらしい、その主は
思い切り驚いて、体制を崩した。
手に持っていた料理の入った皿ごと落としそうになるので、
アレンが慌てて、皿を支えた。
が、皿の主は思い切り尻餅を付いていた。

「いったー。
 ・・・ちょっと!!人の部屋でなんで暴れてるの!」

皿の主・・と言うか、部屋の主のカインが帰ってきたようだった。
どうやら怒っているようだ。

「いや・・・悪い。急に帰ってくるとか思わなくて、
 でも、お前も部屋の扉を開けるときは、
 ノックくらいしろと教わらなかったのかよー。」

そういいながら、アレンはカインの手を引いて起き上がらせた。

「自分の部屋に戻ってきただけだよ?
 まさかアレンが部屋で暴れまくってるなんて
 思わないじゃないかー。」

「暴れてんじゃないよ。素振りしようとしただけじゃないかー。」

「あー!しかも、その銅の剣、なんでアレンが持ってるの!?」

「なんか、机の下から出てきたぞ。」

「な・・・!!勝手に漁らないでよ〜〜。」

「良いじゃねえか。減るもんじゃないし。
 他にも本棚とか見させてもらったぞ。」

「もーーーアレンの馬鹿!
 なんで、ちっともじっとしていられないの!?」

カインが手を伸ばして、銅の剣を取り返そうとして、手を伸ばした。
それをアレンがひょいっとかわしてあっかんべーをした。

「あー、馬鹿って言ったな。
 馬鹿って言ったら、お前がバーカ!!!」

「ちょっと・・・!」

そう言ったとき、
開いたままの扉の外に、別の人影が現れた。

「・・・・・え・・・?あ、アレン様・・・?」

カインの妹のマイだった。
アレンが来ていると聞いて、来てみたのだろう。
が、あっかんべーをしている姿を見て、
見てはいけないものを見たような気がしたらしい。

「あ・・・・あの・・・どうぞ、ごゆっくり。」

ようやくそれだけ言って、
深々と頭を下げて、そそくさとマイは帰っていった。

「・・・・・・・・あー。」

何一つフォローも出来ないまま行ってしまったが、
隣国の王としては、これは見られてはいけない場面だったんじゃないだろうか?

「知らないよー。
 ローレシアの英雄王が、こんな子供みたいな喧嘩してんだから、
 ショックも受けるでしょう。
 バーカバーカ。アレンのバーカ。」

「お前もだろうが・・・。」

まぁ、もう好きに思えば良い。
アレンは開き直った。

そして、カインは大事そうに、その銅の剣をアレンから奪い取った。
汚れているその剣は何か大事なものなのだろうか?
別に、あの旅の間に使った武器と言うわけではないはずだ。

「その剣大事な奴なのか?勝手に使って悪かったよ。」

アレンが今度は素直に謝った。
そう言われてカインも少し冷静になって、落ち着いた様子で答えた。

「いや・・・別に良いんだけど、ただの普通の銅の剣だよ。
 僕が旅に出ようとしたときに用意しておいた装備品なんだ。」

といわれて、アレンは「ん?」と不思議に思った。
カインは出会ったその日に銅の剣を買ったといっていた。
(ちなみに、その銅の剣は戦いの最中折れて、使えなくなった。)

そして、その前に持っていた聖なるナイフは紛失したといっていた。

だから、この剣は使っていないはずだった。

不思議そうにしているアレンにカインが答えた。

「うん、用意はしておいたんだけど、結局これは使う機会はなかったんだ。
 マイが怒って、捨てちゃったんで。」

「え?・・お前の妹、旅は反対だったのか。」

「反対反対。大反対だったよ。
 泣いて反抗されて、装備品全部捨てられるし、
 大変だったよー。」

「へー。で、捨てられたその剣がどこから出てきたんだ?」

「知らないけど・・・。帰ってきたら、部屋に戻してあったよ。
 多分マイが探して、見つけてくれたんだと思う。
 せっかく探してくれたから、取ってあるんだよ。」

「ふーん・・・・。」

何か部屋の中が、微妙な空気になる。
シーンとしていると、アレンのお腹がぐーっとなった。

「ぷっ・・。アレン、お腹そんなに減ってるのー?」

笑われて若干顔を赤くしてアレンが頬を膨らませた。

「減ってるって最初に言っただろうがーー。」

でも、ちゃんとカインは覚えていて、
何か作ってきてくれたらしい。あやうく先ほどひっくり返す所だったが。

「じゃあ、久々に作ってきたんで、どうぞー。」

「おおーー!食べる!待ってたんだ!
 なんだ、これ?肉巻き?」

「うん、菜っ葉のお肉巻き。
 アレンはお肉が大好きだもんね〜。」

そうやって懐かしそうにカインが笑った。

昔からそうだが、カインは普段から料理をするわけじゃない。
旅の間はしていたが、国に戻ってからは、
自分でわざわざ料理をすることは、ほとんどない。

なので、厨房に入ると驚かれたが、理由を言うと
料理長にはさらに驚かれた。

「うまーい!」

「本当?良かったあ。」

機嫌の良さそうなアレンに、少し安心したが、
逆に少し心配した。

「アレン、どうかしたの?
 急に僕の所にまで来るなんて・・本当に何かあったの?」

「お前が・・・」

「?」

「お前が真剣勝負の約束すっぽかすわ、
 顔も見せねーわで、待ってても来ないからな。」

アレンは料理を食べながら、顔も見ずに
少し嫌味っぽくそう言った。

「俺もさ・・結構忙しくて、ローレシアで、剣を持つことも減ってる。
 でも、たまに兵たちに剣を教えてても、全然歯ごたえがねえよ。
 俺とつりあう奴なんていねえ。
 最近、なんかもう我慢が出来なくてな。」

「我慢?」

「手加減しても、下手したら大怪我するし、
 昔みたいに、より強い相手がいる訳じゃないし・・・。
 でも、俺にとって剣って単純なもんじゃないし、
 忘れる事も出来ないし、捨てる事もできない。」

アレンにとって『剣とは何か』と言うのは、
他の人間にとっての価値感とは全然違う。
それはカインであっても、アレンとは違うものだろう。

だけど・・・

「お前なら、この気持ち分かってもらえるって思ったんだが!」

「あ・・・ああ、アレン・・。」

「お前はちゃんと剣を続けてるんだよな?」

「・・・・・・・・・。」

カインは答えなかった。

「ちぇ・・お前に剣を教えてたのは俺だぞ。
 弱くなったりしてたら、ゆるさねえからな。」

「・・・うん。」

「マリアのところへは行ってるんだろ?」

アレンは唐突に話題を変えた。

「え・・・・。あ、うん。」

詳しい話は聞いていないが、
 旅を終えてから、
カインがマリアとムーンブルクへ行って、
どうやら二人が将来の約束をしたらしいと聞いた。

「ふふっ。あの、俺を困らせてたお前らがなあ・・・。」

「やだなあ。問題児みたいに言わないでよ。」

「お前ら、結婚はいつすんだよ。この国はどうするんだ?」

アレンはローレシアの王に、マリアもムーンブルクの女王となったが、
カインだけは、まだ相変わらずサマルトリアの『王子』だった。

「そ、そんな事・・・!君に言われなくても・・・・。」

考えてるよ・・・と、ぼそっとカインが答えた。
あんまり元気が無い様子だった。

そんな様子に、アレンは首を傾げた。
カインの方こそ何か困っている事でもあるんじゃないのか?
でもカインは、口を開こうとしない。
なら、あえては聞かない。

「・・・ところで、これお代わりは無いのか?」

「無いよー。
 今度はローレシアに戻って、クレハさんに作ってもらいなよ。」

「ぶっ。な、なんで・・・お前がそれを・・・?」

最近クレハは料理に挑戦し始めたが、
それは内々の話だ。カインまで何故知っているのか不思議だった。

「この間、お手紙もらったんだよ。」

「は?クレハから!?」

思わぬ言葉だった。勿論アレンは聞いていない。

「うん。アレンの好きな料理はなんですかー?って。
 良い人だねえ。
 だから、アレンは、腹減った腹減ったって無茶言ったら駄目だよー。」

そう言ってカインはアレンに釘を刺した。
ふふっと笑うカインは、いつもの様子に見える。

「分かってるよ・・・じゃ、そろそろ帰るか。
 ごちそうさまでしたー。」

本当は腹が減っただなんて言い訳だ。
少々疲れを感じていたアレンは
懐かしい親友の顔が見たかったのだ。

「帰るの?帰りもキメラの翼?」

「おお。今度はお前が来いよ。
 その時は、剣持って来いよ!」

そう言うアレンに、カインは少し困ったようにうなずいた。

「うん、またね。
 今度は僕が話を聞いてもらいに行くからね。」




- 終 -

2013/08/17

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 んーーーー????

 なんかびっみょーな小説ですけど、2013リク小説「アレンとカインの丁々発止の会話の掛け合い」をやってみたつもりです。丁々発止のやりとりといわれて、「バーカ!」「バーカバーカ」しか思いつかないと言う、脳味噌の構造が足りない私・・orz

 あうあうスイマセンでした。

 せっかくなので、時系列クリア後に入る話です。2人とも、微妙に何かが悩ましい様子です。

⇒この話の続編は「16.賭け」です。

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