40−2.薬・ドラッグ


ラダトームへの航路はおよそ4日程度。
最初の2日は何事もなく過ぎ去った。

カインは時折咳を零す程度で、
特にたいしたことはなく普通にしていた。
ローレシアで倒れたのは何かの間違いだったんじゃないかと
思うくらいだ。

アレンは、船室でクレハの料理に舌鼓を打っていた。

「は〜〜、クレハ。これ、うまかったー。
 結構色々入ってんだな。」

「ええ、野菜も魚介類もふんだんに入っているアクアパッツァですよ。
 栄養もたっぷりです。」

「すげえな!なぁ、おかわりくれよー。」

「はい。」

アレンの言葉に嬉しそうに、皿にクレハはおかわりをよそった。
クレハの食事をなんだかんだでアレンは気に入っているようだ。
ずっとおかわりをしている。

「カイン様もおかわりいかがですか?」

「あ、いや・・・僕はいいよ。」

「お口にあいませんか?」

「え・・・!?そんな事ないよ。
 すごく美味しかったです。ごちそうさまです。」

そう言うとカインは席を立った。
アレンはおかわりをするのに、カインは一度もおかわりはしていない。

きっとあんまり食欲が無いのだろうと思った。

それは無理も無い事。あんまり気にしないでおこうと思った。



休息している部屋にミゲルが入ってきた。

「兄ちゃん、どうもまっすぐ行くと嵐にぶつかりそうだ。
 少し迂回しようと思うがかまわないか?」

「ああ、かまわないぜ。」

ミゲルは出来る航海士である。
未然に危機を察知して、航路を変更するらしい。

だが、その事が、後にちょっとした騒動を巻き起こす事になった。



**

明日には到着する予定だったが、
どうやらあと3日程度航海が続くらしい。

別に航海が多少伸びるくらいは全然構わない。

だが、クレハは少し焦っていた。

何気なく厨房にやってくると、そこには先客がいた。
カインが何やら食材庫を覗き込んでいる。

「カイン様・・・?ど、どうかなさいました?
 あ、もしかしてお腹が空きましたか?」

クレハは内心驚いていた。
この人がなんでここにいるのだ・・・?

「いや・・・・航海が延びたでしょう?
 食材・・足りるかなあって思って・・。」

その言葉にクレハはギクッとした。
そうなのだ、実はアレンたちに食事の大判振る舞いをしたせいで
残り食材が心もとなかった。

「・・・・そ、そんな事カイン様に心配されなくても結構です!
 私に任せるのはそんなに不安ですか・・!?」

だが、何故か自分でも分からないが、
クレハはそんな言い方をしてしまった。

「あ・・いや・・・。そんなつもりじゃあ・・・。
 なんか昔の癖で、気になっちゃって。
 ・・っ。」

カインはそう言うと2・3度咳をした。
そして立ち上がって、
ポケットから何かを取り出して飲み込んでいた。

「ごめんなさい。出しゃばって。部屋に戻ってるね。」

戻りしなにもカインは何度か咳き込んでいた。
なんだか今日は調子が良くないようだ。

だったら、なおさら寝ていれば良いのに・・・。

ちゃんと在庫の確認はしている。
大丈夫だ。足りなくなるなんて事は無い。


だが・・・・。

誰にも何も相談できないうちに、
アレンは相変わらずおかわりを何度もするし、
やめて欲しいとも言えなかった。

その繰り返しで、やはり食材が足りない気がしてきた。

「・・・・・・・・。」

明日になって急に、料理の量が減ったらアレンは
何と思うだろうか・・・。

そんな事も出来ないのかと思ってしまうだろうか。

「・・・・・クレハさん、
 あの、良かったら釣りでもしませんか・・・?」

「は・・?!」

塞ぎこんでいるクレハに、またカインが近寄ってきた。

「これじゃあ、どう考えても足りないかなあって思うんだけど・・・。」

「カイン様・・・・。あ・・・あの申し訳ありません・・・。
 私あんな事を言っておきながら・・・。」

クレハは顔を真っ赤にしていた。
自分で出来るとか言っておきながら、この様だ。
内心カインは自分のことを笑っているだろうと思った。

「アレンはむちゃくちゃよく食べるからねえ。
 言われるままに出してたら、いくら食材があっても足りないんだよねー。」

ああ、カインは最初から分かっていたらしい。
それなのに、自分と来たら何と恥ずかしい。

「あはは。僕も、同じ事やったことがあるんだよ。
 それに船に乗ってる人間は皆同じ仲間だよ。
 身分の違いも関係ないんだ。
 だから、何かあったら皆に相談するのが良いよ。」

「は・・・はい・・・。」

「そんなに慌てなくても網でも張っておいたら、
 明日には何かつかまってると思うよ。」

「網・・・?」

だがクレハは釣りも網漁もやったことなどない。

「大丈夫、心配しないでも。何とかなるなる。」

カインは楽観的にそんな事を言った。
甲板に出ると、網を探し始めた。

が、ふいに壁に体を預けるようにして
何度か咳き込んだ。

「カイン様・・・?」

「ああ、大丈夫。
 えーっと・・・確か、前と同じであれば、この辺に・・・。」

そうだ、この人は病人だ。こんな余計な事をさせてる場合じゃない。
網くらいいくらでも探して、自分で海に放り投げれば良い。

「私がやります!!
 カイン様は休んでいて下さい!」

「え・・・・。」

カインをその場に残してクレハは
網を探し始めた。

少し探すと海水に少し浸ったような感じの網を見つけた。
どうせ・・・海に放るものだ。何でもいいだろう。

そう思って身を乗り出して、網を引っ張りあげた。
何か中ほどに紫色のしみの様なものがある。
何かの汚れだろう。とりあえず引き上げてしまえ。

そう思っていたところ、紫のしみが急に形を変えた。
と言うか、動いたのだ。

「・・・・なにこれっ・・・!?」

驚いて、クレハは手を離した。

しかもどうやら紫のしみは、何かの生き物だったらしい。
何やら怪しい液体を吐き出した。

海に乗り出していたクレハは、それをかわそうとして
バランスを崩して、海に落ちそうになった。

「あ、危ない・・・!」

近くにいたカインがクレハの手を引っ張った。
おかげで海に落ちずにはすんだが、
勢いあまって、2人で船壁にぶつかってしまった。

「い・・たた・・・。今のは一体・・・・?」

何だったのだろうかとクレハが起き上がろうとすると、
その隣で倒れたままのカインが急に咳き込み始めた。

「ゴホっ・・ゲホ、ゲホッ・・・」

「カイン様・・・!?」

背中でも打ちつけたらしく、胸元を押さえながら、
何度も咳き込む様子は先ほどより苦しげだ。

まずい、どうしよう・・・。
しかもやはり先ほどの紫のしみはこちらに敵意を見せている。
あいつは何者なんだ?

「お前ら何やってんだよ・・・!?」

途方にくれているクレハの元に、
騒ぎを聞きつけたアレンが駆け寄ってきた。

「アレン様!!!」

クレハは嬉しそうに顔をあげた。

「カイン、どうしたんだ!?
 って・・・げ、ウミウシじゃねえか!
 なんで、こんなところに!?」

「ウミウシ・・・?」

「海の魔物だよ。」

そう言うとアレンは、持っていた剣を一閃して、
ウミウシを斬りつけると、そのまま海に放り投げた。

簡単に退治してしまった。

「なんで、船に魔物なんているんだ?」

「スイマセン、私が網で引きあげてしまったんです・・・。」

魔物は消えてなくなったわけではないので、
たまに遭遇し、虫の居所が悪いと人間を攻撃してくるときもある。

「ふーん・・・?
 まぁ、それは良いや。おい、カイン大丈夫か?」

次第に落ち着いてきた様子のカインは
はーっと息を吐くと、アレンの手を取って起き上がった。

「・・・うん。
 何か騒がしくして・・・ごめん。」

「何やってたんだよ、お前ら。」

アレンの問いかけにクレハが答えた。
網を張って、魚を捕まえようとしたことを説明した。

「そんなの、俺に言えよー。
 いくらでもやってやるよー。」

「はは、そうだね・・・。アレンに声・・かけたら良かったね。」

「あとやっとくから、お前は寝てろよ。」

「うん・・・。アレン、あと・・お願いするね。」

カインは素直に頷いた。
様子は落ち着いているが、まだ胸元を押さえている。
少し辛そうだ。

「クレハさん、あんまり役に立たなくてごめんね。」

その言葉にクレハはハッと顔を上げた。

「いいえ、いいえっ。こちらこそ本当に申し訳ありません。
 色々助けて下さり、ありがとうございました!!」

クレハは初めてカインと言う人がどういう人なのか、少し分かった気がした。
 
 






「なんだよー・・・。
 結局俺が悪いんじゃねえか〜〜。」

アレンとクレハは事のあらましを話し合っていた。

「お前も俺に言えよーー・・・。
 食べすぎだろって言えば良いのに。」

「も、申し訳ありません。」

確かに城ではたしなめるように、
アレンに注意する事もあるのに、
何故か今回の航海では、言われるままに
食事を出しすぎていた気がする。

何故かと言われると・・・・

自分ができるぞと言う事を、見せたかったのかもしれない。
それは、カインの事を意識していたのかもしれない。
それが裏目に出すぎた訳だが。

「カインにまで心配かけてたんだから、
 よっぽどだったのかもなあ。
 あーあ。」

アレンも少し反省していた。

そういえば昔を思い出すと、カインも船の上では
食べすぎに結構厳しく注意されていた気がする。

「アレン様・・・・」

「ん・・?」

クレハは初めて一緒にアレンやカインと船に乗った。
そこで、思ったことなのだが・・・。

「カイン様って本当に何というか、『良い人』ですね・・。」

自分の調子が良くないのに、
こっちの心配をいっぱいしてくれて。
そりゃあ、悪い人だとは思ってなかったが、ああいう人だとは知らなかった。

クレハの言葉にアレンは少し考えて、うんと頷いた。

「そうなんだよ。あいつは良い奴なんだよ。
 だから、俺は・・・・。」

何かを言おうとして、アレンは口を噤んだ。

「アレン様?」

「なんでもない。
 航海もそろそろ終わりだろ。明日にはラダトームにつく。
 今日はもう寝ようぜ。」

「・・?は、はい。」




***


その夜、早めに寝ようと思ったアレンだが
何故か妙に寝苦しかった。

どこかから、誰かが咳をしているのが聞こえる。
ふと見ると、クレハはとなりですやすやと寝ている。
多分・・と言うか間違いなくカインだろう。
すぐ収まるのかと思いきや、ずっと咳が聞こえる。

「あいつ・・・。」

アレンは体を起こした。

カインが休んでいる隣の船室を覗いてみた。

いつも早めに休んでいるはずなのに、
その時は部屋にいなかった。

眠れずに甲板に出ているんだろうか。

「あいつ、またどこ行った・・・?」

アレンが船室を出て甲板に出てみると、
壁に頭をこすり付けるような体勢でうずくまっている
カインの姿を見つけた。

「・・!!おい、カイン、どうした!?」

アレンが駆けつけると、
カインはちらっと視線を向けたが、返事も出来ない様子だった。
どうやら咳が止まらないようだった。

「げほ、げほっ・・・・は・・・っ・・はぁ、はぁ・・ごほっ。」

アレンはあわてて背をさすってやった。
次第に、落ち着いてきたカインは
その場に座り込んで、ゆっくり何度も深呼吸をした。

「アレン、あ・・りがとう・・・。
 ごめんね、起こしちゃった・・・?」

「いや、起きてたんだよ。
 それより、お前大丈夫か?」

「はは、ちょっと微妙かも。」

大丈夫だと言わないカインに、
アレンは眉を顰めた。

「薬はどうしたんだよ?
 お前が作ったとか言う奴。」

「それが、駄目になっちゃって。」

「は?」

「さっきウミウシが出てきたときの
 ごたごたで、水にぬれちゃって。」

「水に濡れたら駄目なのか?」

「そりゃあ薬だからねえ・・・。」

はは・・・と、笑いながら言うカインだが、
笑い事ではない。

「じゃあ、寝てろよ。
 起きてないで。」

「うん、寝てようと思ったんだけど
 なんだか寝れなくって。」

そう言うカインは、船の壁に背中をつけるように
座り込んだ。そして大きく息をついた。

「あ、薬の事なら大丈夫だよ。
 どうせ、明日にはラダトームでしょう?
 なんだったら、マイに連絡しても良いし。」

「ラダトームにつけば、パデキアの芽があるって。
 大丈夫だって!」

「そうだね。アレンすごいねえ、6歳のときの
 会話を覚えてるとか。」

カインはアレンのほうを見て笑った。
少し落ち着いたようで、アレンはほっとした。

「・・・・・・・。」

「どうしたの?」

「クレハがお前に礼を言ってたぜ。」

「礼?なんで?」

「自分の調子が悪いのに、
 いっぱい心配してくれて、本当に良い人だって。」

アレンはクレハがしみじみ言っていた事を思い出して伝えた。
それともう一つ。

「それに、クレハのことも助けてくれて、ありがとうな。」

「え?いやいや・・・全然。何も良い人じゃ無いよ。
 でしゃばって、迷惑かけて、何やってんだか・・・だよ。」

カインは首を振った。
そして、少し座りなおした。

「迷惑ばっかりかけて・・・僕なんていなければ良かったのになー・・・。」

その言葉にアレンがハッとした。

「お前!何言ってるんだよ。
 ふざけた事をいうとぶっ飛ばすぞ。」

アレンが思わず詰め寄ると、カインは驚く風でもなく穏やかな笑みを浮かべて言った。

「でも、でもね・・・・。本当に勝手なんだけど・・・
 僕こんな風に思うの、初めてなんだよ。」

「初めてって、何が?」

「死にたくないって・・・生きたいって思ってるんだ。」

その言葉にアレンは胸を突かれる思いがした。

「し・・・死なねえよ!そんな訳無いだろ!!
 馬鹿っ!!馬鹿かお前!!」

アレンはカインに叫ぶように語り掛けた。

「お、俺が、絶対お前を助けるよ!
 お前は良い奴なんだ。
 誰にも負けないくらい、良い奴なんだ・・・!!
 そんなお前が幸せになれないなんて事あるかよっ。
 それに・・・それに・・・・。」

「アレン・・・?」

カインはアレンの勢いに驚いて顔をあげた。
アレンはその視線を感じると、
カインの方を見つめ返した。

「お前は・・・すげえ奴なんだ。
 なんかすげえ魔法も使えるようになったし・・
 本当に・・・俺なんかより、すげえ奴なんだって思ってる。」

「な、何を言ってるの?そんな訳・・。」

何かと言い返そうとするカインを遮るように
アレンはカインの手を取った。

「それに、俺はそんなお前が大好きなんだよ・・・・!!」

「・・・・・アレン・・・・?」

「お前を失うなんて俺が嫌なんだよ!
 分かるだろ、馬鹿!!」

「馬鹿って・・・。」

あははと、カインはぽりぽりと頬を掻いた。

「ありがとう。アレン、すごく嬉しかったよ。
 僕もアレンは大好きだ。」

「・・・・ん?」

「アレンは僕にとっての太陽だよ。
 いつも明るく僕を照らして導いてくれるんだ。
 本当に明るい光で、ずっと道を見失う事も無かった。」

「カイン・・・・。」

「ふふ・・・。だけどもう君は僕だけの太陽じゃないからね。」

「どういう事だ?」

「アレンの明るい光はきっと・・・・ローレシアだけじゃなくて、
 世界中を力強く照らしてくれるって思っている。」

アレンは、顔を赤くさせた。
おいおい、いくらなんでも言いすぎじゃないか?

「本当だよ。
 たまに曇りになる事はあるみたいだけどね。」

ふふっとカインは笑った。
アレンはローレシアで腐って荒れていたときのことを思い出した。
あんなに無茶な事もしたのに、
カインは今もアレンに対して絶対の信頼を置いている。

世界を照らす太陽ってなんだよそれと思いつつも、
ローレシアでの事を思い出して、アレンは自分の行いを恥じた。

「どうか、アレンは明るい太陽でいてね。
 僕は、ずっと見てるから。」

「カイン・・・・。」

「だから、アレン、幸せになってね。」

その言葉に思わず涙が出そうになった。
だが、ちょっと待て。

何故俺が励まされているんだ。

やっぱり、こいつは自分の事より人の事を
気にしてしまうらしい。
そう言う奴なのだ。

だけどさっき吐露した「生きたい」という
カインのささやかな願い。
あいつの願いはこんなささやかなものだ。

「本当に世界を照らす太陽になるんだったら、
 すぐそばにいるお前くらい助けれないと、話しにならないよな。」

「アレン・・・?」

「カイン〜〜〜。お前もだよ。
 本当馬鹿だな。早く元気になって、マリアと結婚しやがれ。」

そう言うとカインがぼんっと顔を赤くした。
その様子にアレンは笑った。


「幸せになろうぜ、皆で。」





- 終 -

2013/09/25

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 前後編の後編です。まさかの続き物〜〜wwこの話いらないかもしれないけどww
 なんでこんな話を書いたかって、ラストのアレカイのつもりで書きました。
 流れに乗る話では、2人で何かやってるようなアレカイはラストかなあ・・と。(縁が切れるとかではないけどね!)

 皆で幸せになろうぜーー!!アレンの願いがかないますように。

 (旅中、船で食材不足になるような話って、「49.摩訶不思議」あたりでしょうかね)

 ⇒続き「5−1.魔術・魔法」

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