5−1.魔術・魔法


「置いてかれちゃった・・。」

椅子にかけてカインは呟いて、何度か咳をした。

「けほ、けほっ。」

そして、深い息を一つ吐いた。

船旅を終えて、ラダトームまで着いた一行であったが、
カインの体調はあまり良くなかった。

「やっぱり・・薬がもうないからかなあ・・・。」

少し熱っぽく、赤い顔をしているカインに、
アレンは何もついてくる必要は無いと言った。

大勢で行って、あまり騒ぎにしたくないと言う事で、
ラダトームの城へはアレン一人で行く事にし、
クレハは先に宿を取りに行くようにアレンに指示されていた。

とりあえず、カインはここで座って待っておけと言うことらしい。

言われたとおり、池の畔に配置されていた椅子に腰掛けて、
アレンかクレハが戻るまでカインは待っていることにした。

ラダトームの城下町も既に何度目かである。
平和な町の賑わいは、目にせずとも、耳を澄ますだけで感じられる。
人々があちこち会話をしながら行きかっているのを感じる。

少し体が重く感じられたカインは肘置きにもたれながら顔を伏せた。
目を閉じながら、その喧騒に身を任せていると、
ふいに誰かの足音がこちらに近づいてきた。

すたすたとその足音は迷い無く、一直線に
まるで慌てたようにこちらへと向かってきた。

てっきり、アレンかクレハが帰ってきたのかと思ったら、そうではなかった。

「カイン・・・・・?
 ・・・カインよね?」

名前を呼ばれて、目を開けて顔をあげたカインは
そこにいた人物に驚いた。

目をつぶったまま、自分は眠って夢でも見ているのかと思った。

「え・・・マリア・・・?」

足早にこちらに向かってきていたのはマリアだった。
マリアは慌てて駆け寄ってきたらしく、少し息を切らしていた。

「やっぱり、カインじゃない!
 どうして、こんな所に座ってるの!?
 アレンはどうしたの!??どうして一人でいるの!?」

矢継ぎ早にマリアはカインに質問を投げかけた。
もしやアレンに見捨てられて、放っておかれたと思ったようだ。

別にそう言うわけではないと
カインはマリアに説明をすると、少しマリアはホッとしたようだ。

「マリアこそ・・・どうしてここにいるの?」

そういえばアレンから、マリアも何か考えている事があると聞いていた。
ラダトームへはどうやって来たのだろうか?

「ムーンブルク南の旅の扉を使ったわ。」

「え、旅の扉?結構大変だったんじゃない?それって。」

「ええ、ちょっとした旅路だったわね。」

マリアは事も無げにそう言った。
旅の扉はこの近くだと、アレフガルド南東の聖なる祠にある。
あそこからずっと歩いたとするとかなりの距離だ。

「マリア、その距離一人で歩いてきたの!?」

だとすると、いくら魔物がいなくなったとしても
危険ではないか?

「一人じゃないわ。クナを連れてきたわ。
 今は宿に行かせてるけど。」

「あ、ああ・・・そっか。それなら・・・。」

良いのか・・?と若干疑問符を浮かべつつ。

うーん、そりゃあお付きの兵を連れて行くんだから、
安全なんだろうが、何だかそれでも女王と一人の兵が
2人きりで旅をすると言うのは、どうなんだろうか・・。

どうなんだろうかって・・・いや、まぁ・・じゃあどうしろと言う話だが。

少し眉間に皺を寄せて、思案にくれているカインを見て
マリアが笑った。

「私の事より、あなたの方こそ大丈夫なの?
 少し熱があるんじゃない?」

そう言ってマリアはカインの額に手を当てた。
やはり、少し熱い。そして気温は暑くもないのに、
やけに汗ばんでいる。

「大丈夫?」

「大丈夫だよー。」

聞かれて、カインが笑って答えた。
大丈夫かどうかより、
カインは久しぶりにマリアに会えたのが嬉しかった。
自然に笑顔になっていた。

これだけ迷惑をかけて、
さらには負担になる旅までさせておいて、
ひどい話だと自分で思うのだが、
カインはマリアの顔が見れたのが素直に嬉しかった。

「マリアも一緒に船に乗れば良かったのに。」

「ミゲルの船ね。良いわね。
 アレンはまた食べ放題で食材全部食べつくしたり
 してなかった?」

さすが、お見通しである。

「うん。食べつくしたよ。」

「まぁ、やっぱり!アレンってばどうして成長しないのかしら。
 それで、カインまた色々大変だったんじゃないの?
 そう言うことなら、私も船に乗れば良かったわ。」

マリアは、またカインが悩まされたのだと
思ったのだろう。

「いや・・僕は今回一回も料理してないよ。
 クレハさんが全部やってくれたよ。」

「あ、そうなの?
 アレン、クレハさんをこんな所まで連れてきてるのね。
 それは・・それで・・・大変そうね・・・。」

そう言えば彼女にはローレシアで少しきつい言い方をしてしまった。
気を悪くしていないだろうか。

そんな会話を2人がしていると、
ちょうど話題のクレハが町の方からやってきた。

クレハは、あれだけ体調が悪そうにしていたカインの姿を見て驚いた。
顔を赤らめながらも、嬉しそうにマリアと喋っているのだ。

別にそんな何日も何ヶ月も離れ離れになっていた訳ではないだろう。
それでも、何日かぶりに会えたのが本当に嬉しいんだろうな・・という
印象を受けた。

「カイン様、それにマリア様もいらっしゃっていたのですね。
 お待たせしました。宿の用意が出来たので、移動なさいませんか?」

「あ、クレハさんお帰りなさい。わざわざ本当にありがとう。」

カインは丁寧にクレハにお礼を言った。
マリアもクレハに声をかけた。

「クレハさん、先日はごめんなさいね。
 船でもアレンやカインが色々お世話をかけたようで・・・。」

「そのような事・・・ぜんぜんそんな事気にしてないですよ。
 それに、船では私もカイン様には色々助けていただいたんです。」

「そうなの?カインに?」

そんな話は聞いていない。
カインの方を見ると、ぶんぶんと首を横に振っている。

何かあったのだろうか・・・・・?

まぁ、後で聞くことにしよう。

「アレン様はお戻りではないですか?」

「うん、まだなんだ。」

アレンは結構手間取ってるようだ。
無事にパデキアの芽というのは見つかったのだろうか?

「だけど、アレンだって、ラダトームの宿屋の場所は分かってるでしょう。
 あとから来るんじゃない?先へ宿屋へ行きましょうよ。」

マリアが横からそう言った。
この池の畔でいつまでも座っていても仕方が無い。
宿で休んだほうがいいだろうと思った。





宿に着くなり、
マリアはカインに休むように強く言った。
マリアに会えて嬉しそうだし、元気そうにしていたが、やはり熱があった。

横になると、ほどなくカインは眠ったようだった。

その様子にマリアは少しホッとしながらも
少し物思いげに、そのカインの顔を見つけていた。

「・・・・・?」

クレハは部屋の用意をしながら、
そのマリアの表情を見て、怪訝に思った。

マリアにはマリアの考えがあり、
このラダトームへ来たと言うはずだが、
一体それはなんだったのか?

自分などがそれをマリアに聞くのは、
とても憚られた。
それほど思いつめた表情をしていた。

クレハは何も出来ず、
見守るしか出来なかった。






****

カインは夢を見ていた。

旅の間の夢だ。
アレンと出会い、マリアと出会い、
沢山の旅をしてきた。
多くの魔物とも戦った。

そうして、カインが出来るようになった事も多かった。

アレンから剣も教わった。
マリアとは魔法の勉強を一緒にした。



そして、魔法なんてほとんど使えなかったカインだったが、
旅の間に多くの魔法を覚えた。

それはとても嬉しく、楽しかった。

マリアほどの
魔法のエキスパートになったわけではないが、
それでも弱かった自分は戦えるようになった。
仲間を助ける事も出来た。


2人には本当に感謝していた。
いつも本当に優しく、心強い2人の仲間だ。
2人がいたから、ここまでやってこれた。

そして、世界は平和になったのだ。
人々も喜んでいる。

だから、・・・・もう、何も後悔する事はないか?

そう聞かれると、カインはうなずく事が出来なかった。

もっと先へ、
もっと先の未来へ・・・・

未来を見たいと望む事は駄目な事だろうか?
幸せになりたいと願う事は駄目な事だろうか?

同じ無念の中で、逝った人は世の中に沢山いるだろう。
最愛の母だってそうだっただろう。分かっているのだ。

だけど、まだ自分はマリアと交わした約束を、叶えていない。

一緒に、生きて行きたいと願ったのだ。マリアと一緒に。

願うだけなら、願ってもいいだろうか?
諦めなくても良いだろうか?

そのためには、なんだってしたいし、なんだって受けいれようと思っていた。
その気持ちに嘘は無かった。


いつの間にか夢ではなくて、
思考になっていたようだ。
意識が浮上してきたのを感じる。

周りで何かを話しているのが聞こえる。

マリアの声だ。
そして・・・アレンの声も聞こえる。

何かを言い争っている感じだ。
何を言っているのだろう?

アレンが声を張り上げた。

「だって、あいつは、あんなすげえ魔法を
 使えるようになったのに・・・!」

「アレン・・・ッ」

マリアがアレンの言う事を遮るように
目くばせして、合図した。

カインが目を開けているのに気づいたからだ。
アレンもそれに気づいて、少し気まずそうに目をそらした。

「ど、どうしたの・・・?」

カインは起き上がって、2人に尋ねた。
何の話をしていたのだろうか?

・・・・少し気になったが、それより、カインは違うことを言った。

「アレン、お帰りなさい。
 お城はどうだった?」

「あ、ああ!」

アレンは少し考えてから申し訳なさそうにした。

「城内は平和で結局、王様にも会ったんだよ。」

「そうなんだ。王様も元気そうだった?」

「ああ、お前の話を少ししたらすごく心配してくれて・・・、
 それで、なんだったっけ。
 もしお前起きれそうだったら、皆で城の方へ来てくれって
 言ってたぜ。何か話があるんだそうだ。」

「ラダトームの王様が?」

「うん。」

まぁ、それは良いが・・・。
カインの体調も少し落ち着いていた。
少し休んだおかげで、熱も下がったらしい。

それより、アレンが城に向かった目的は別の事だ。
それについての話が無いということは、
聞くまでも無いが、あまり芳しい結果ではなかったのだろうか?

「アレン、あの・・・パデキアの芽っていうのは、どうだった?」

恐る恐るカインはアレンに尋ねた。
そうするとアレンは申し訳なさそうに、何かを取り出した。

「それは・・・?」

いくつかの種のようだった。
探していたのは種だったか?

「カイン、ごめん・・・!!」

アレンは唐突にカインに謝罪した。

「・・???アレン、なんで謝ってるの?」

「それが・・・先の戦いで、
 パデキアの芽は沢山消費されちまったとかで、
 今はもうないんだそうだ。」

「そうなんだ・・・・。」

「散々探した。で、人にも探してもらって、色々聞いた。
 でも、今残っているのはこの種だけだって・・・。
 せっかくお前に期待させるだけさせておいて、
 本当に・・・悪かった・・・」

アレンは申し訳なさそうにそう言ったが、人にまで聞いて、
探してきてくれたのは本当に必死に探してくれたんだろう。

「アレン、なんで謝るの?
 ありがとう。いっぱい探してくれて、ありがとう。
 本当にすごく嬉しいよ。」

「カイン・・・・・。でも、お前・・・。」

話を聞いていたマリアが、会話に入ってきた。

「アレン大丈夫よ。
 種さえあれば、おそらくムーンブルクの土壌は
 パデキアを育てるのに向いていたもの。
 それは私が預かってもいいかしら?」

かつてはムーンブルクでも、パデキアは育てていたもの。
任せてもらえれば、マリアは、大事育てるつもりだった。

「あ・・・ああ。頼むよ。
 時間はかかるかもしれないけど、きっと大丈夫だ。」

「うん、本当にありがとう。」

カインの言葉を聞いて、アレンはようやく笑顔になった。

その様子を見守っていたマリアが、
今度は2人に向かって重い口を開いた。

「カイン、私からも話があるの・・・。
 あとで一緒にラダトームの書庫へ行ってもらえないかしら?」

「・・・・ラダトームの・・書庫・・・?」

そこは、かつて通った事がある。
多くの魔法に関する書籍が置かれている場所だ。
そこに何の用があるのだろうか?

カインはこの時点では、全く予想が出来なかった。







- 終 -

2013/09/30

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 「40.薬・ ドラッグ/2」 の続編です。
 ラダトームに到着しましたよ〜。マリアには早速出会えました。
 なんと、驚きの3話構成になってしまいましたが・・・よろしければ、中編へどうぞ

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