マリアと別れて、ムーンブルクを出航した船は
次にサマルトリアへと向かった。
そして予定では次に向かうはラダトームだ。
その行程をアレンから聞いていたが、
しかしそれは可能だろうか?とクレハは疑問に思った。
「船でラダトームですか?結構ここから距離がありますよ。
カイン様大丈夫でしょうか?」
2日間も意識を失うように倒れていたのが
まだ10日ほど前のことだ。
船旅なんて出来るだろうか?
「まぁ・・・そこは状況見て考えるよ。
顔も見てなかったし、様子見てくるさ。」
アレンはそう言うとクレハとミゲルを残して、船を下りていった。
***
アレンはマリアからだけじゃなくて、
カインの妹のマイにも相当警戒されているだろうと思った。
出来ればマイに会わずに、カインに先に会いたかった。
正直、まだ床に伏せてる状況だろうか?
カインの部屋なら幸いこの間やって来たときに通してもらった。
場所なら分かる。
サマルトリア城内入り込むと、迷わず部屋の前までたどり着いた。
その扉をコンコンとノックしてみる。
しかし返事が無い。
寝ているのだろうか?
「おーい・・・。カイン、いるかぁ・・・?」
恐る恐る、そーっと扉を開けてみるが、
中は誰もいなかった。
「あれ?ここじゃないのか?」
アレンは腕組みをして、少々考え込んだ。
そうすると・・・やっぱり王様のところとか妹のところとか
状況を聞きに行かないといけないだろうか・・。
少し尻ごみしたが、別に何も悪いことをしに来た訳ではない。
なら、行くか。
アレンが城内の廊下を王の間に向かって歩いていると
前の方から探していた当人が普通に歩いてきた。
「あれっ、アレン?こんな所で、何してるの?」
「カイン!なんだお前、歩き回ったりしてて良いのかよ。」
「え?・・ああ、うん・・・。心配かけてごめんね。
大丈夫だよ。」
そう言ってカインは普通に笑ってみせた。
てっきりこの間のようなお通夜のような雰囲気になるのかと思ったら、
思いのほか普通に元気そうで、アレンはまずほっとした。
「少し話をしたいことがあって来たんだ。
今、時間良いか?」
「わざわざ来てくれたのに、断る理由も無いよ。
じゃあ部屋に行こうか。」
カインは朗らかに頷いた。
なんだなんだ、結構普通じゃないか。
もしかしてあれは何かの間違いで、すっかり治ったのか・・?
などとアレンは考えた。
「アレン、今度はどうやってサマルトリアに来たの?」
「ああ、船で。ミゲルも呼んである。」
「え、サマルトリアにわざわざ船で・・・!?
ミゲルもって何で!?・・っ・・」
大きな声で驚いたカインが、ケホッと一つ咳をした。
アレンが思わず気遣いげな視線でカインの方をみると、
大した事ないと手を振った。
「あとで説明してやるよ。」
アレンはとりあえず部屋に戻ろうとカインに言った。
部屋に戻る道中も、カインはいくつか零すような咳をしていた。
やっぱり治ってなどはいないようだ。
アレンは少し憂鬱な気分になった。
「とりあえず、適当に座ってよ。」
部屋に入ると、カインはアレンに座るように促した。
「アレン何か飲む?」
「いや、良いからそんなの。
お前うろうろしてるけど、寝てなくて良いのかよ。」
カインは部屋に戻っても、何やら棚のところに行って
何かを探している。
そして何かを見つけると、それを口に含んだ。
「・・・?」
何をしてるんだ?
「新しい紅茶の葉っぱもらったんだけど、
飲んでみないー?良い香りがするんだよ?」
カインは、もらいものの茶葉をアレンに見せてみた。
紅茶?アレンにしてみたらそれどころではない。
「良いからって!それよりお前の体だよ!」
アレンはカインを無理やり座らせた。
「・・・・・っ・・と。ごめん、心配かけて。」
「さっきも咳してたじゃねえか。
どんな具合なんだ?」
「熱は下がったよ。ほら、この通り。
別に、普通にしてる分には大丈夫だよ。」
カインはそう言った。
とりあえずの所は大丈夫らしい。良かった。
いや・・・いや、今度こそ騙されないぞ。
それで納得するつもりはない。
アレンの険しい表情を見て、カインは申し訳なさそうな顔をした。
「この間は・・・本当に迷惑をかけてごめん。
あんな・・ぶっ倒れるとか、自分でも思ってなかったんだけど・・。」
「俺なんかもっと思ってねえよ。
マリアにはぶん殴られるし、散々だったぞ。」
「殴られた・・・?マリアに・・・?」
マリアと喧嘩している様子は見ていたが、
殴られたとは知らなかった。
「そうだよ、お前の話を聞かずに、俺ばっかり振り回して
ふざけんなって散々怒鳴られたよ。」
「・・・・・・ごめん・・。振り回してるのは僕の方だよね。」
「カイン?」
「本当に・・・あっちこっちに心配ばっかりかけて申し訳ないと・・・思ってるよ。」
カインが少し泣きそうな顔をしてるので、
アレンはこれ以上恨み言は言わないでおこうと思った。
多分、本人が一番辛いのだろう。
「病気って・・・お前の母上のと一緒なんだろ?
いつから?」
だが、悪いが核心には迫らせてもらう。
「・・・・・・・。」
「黙ってたら分からない。」
アレンの言葉に、カインは重い口を開いた。
「ごめんね。
体調が変だなあって思ったのはいつだろう?
最初は、旅の疲れかなって思ってたんだ。
だからいつって良く分からないんだけど、旅が終わって結構すぐかも。」
「ロト祭の時とかもか?」
「うーん・・・・そうかも・・・。まぁでも普通にしてる分には
全然大丈夫なんだよ。分からなかったでしょ?」
「でも普通にしてる分にはって事は、
剣とかはもう使えないってことか?」
アレンに聞かれて、カインはうーんと首をかしげた。
「剣より・・・どっちかと言うと魔法の方かなあ。
あのさ・・実は・・・魔法の方は、何だかやけに無駄に絶好調と言うか・・。」
「死者の魂が見えるって奴、今もなのか?」
その言葉にカインは少し驚いたように顔をあげた。
「それ、マリアに聞いたの?」
「ああ、聞いた。」
少し考えてカインが口を開いた。
「それもそうなんだけど、新しい魔法も使えたりね。
もう覚える必要も無いのに・・・。」
「ああ、お前の魔法すごかったぜ。
ベギラゴンと・・雷の魔法。」
「ねー。すごかったよねえ。僕も驚いたよ〜。
出来そうかなって思ったら、本当に出来たんだよー。
あはは。でも、反動がすごかったけど・・。」
「あははってお前な・・。」
旅の間に出来なかった魔法の才能が
今頃開花しているのかもしれない。
だが、その犠牲は大きいが。
「だから多分使ってはいないけど、今も生死の魔法も使えるんだろうね。
人間いつかは死ぬもんなんだけど、
でも、あの人死んじゃうんだ・・って
見えちゃうのは良い気分じゃないよね。
何だか幽霊がそこらじゅういっぱいいる感じだよ。」
「ザオリクがあるじゃねえか。」
「出来ないよ。そんな事でザオリクは出来ない。
僕は神様じゃないよ。こんな魔法使えるほうがおかしいんだ。
人の生死は左右しちゃいけないんだ。」
確かに、助ける人を選んで、
ある人は死んで、ある人は意図的に助ける・・なんて事をするのは
許される事ではないだろう。
「あ、でもね。それ自体は良いキッカケにもなったんだよ。」
「キッカケ?」
「ザオリクは使えないけど、
でも普通に薬を作って医療で治療するのはありでしょう?
僕は、だから旅が終わってから時間があるときはずっと医学の勉強してたんだ。」
「勉強だあ〜?」
「僕が普通の人として、人が出来る範囲の中で助けるのは
許されるかなあって思って・・・。」
それは知らなかった。
旅を終えてから、こいつはそんな事をしていたらしい。
と言うか、こいつは自分が体調が悪いのに、
まだ人を助ける手段について考えていたらしい。
アレンの視線を感じて、カインは笑った。
「だから、自分の体調の事は良くわかってるんだよ。
この病気のことは母様の看病をずっとしてた妹からも教えてもらったし、
薬も作ってみたんだよ。
なんか、自分で人体実験してるみたいだね。」
あはは、とカインが笑っている。
どうやらさっき口に含んだものは薬だったんだろ。
「それで治るのか?」
「まだ分からないよ。とりあえず人が死んだような病気だしね。」
けろっとそんな事を言う。
「それに、僕は自分が死ぬかどうかは分からないんだ。
人のことは見えるのに、自分のことは見えないみたいで。」
「・・・・・・つまり・・・、死ぬって訳じゃないんだな。」
「・・・・だと、良いなって思ってる。」
それを聞いて、少しアレンはほっとした。
既に自分が死ぬ事が見えていたりしたら、こんなに辛い事は無い。
だけど、あまり楽観的にはなれない。
あんな風にローレシアで戦った後、意識を失って倒れるなんて
本人も思っていなかったと言う。
どっちかと言うと、どう考えても体調は悪くなっている。
「なんかさ・・・・・・・ごめんね。」
「?」
カインはソファの背もたれにもたれかかって、
ぼそっと呟いた。
「心配ばっかりかけて、本当に僕って・・・駄目だよね・・。
と言うか、ださいよね。はは。」
「・・・カイン・・・・?」
カインは目を両手で覆って隠した。
「せっかく世界は平和になったのにさ。
なんか・・・マリアにも心配ばっかりかけてるんだよ?」
「・・・・・・。」
「いつか・・・いつか・・・家族になれたら良いなって・・本当に思ってたんだよ。
でも・・・・・。」
「お前・・・。」
アレンが、はっきりと聞いたわけではないが、2人はムーンブルクへ凱旋したとき
互いの気持ちを伝え合って、思いを遂げたらしい。
だけど、今の状況は、どうだろうか。
カインの心境はどんなものだろうか。
それを想像すると当人でなくても、あまりにも居た堪れない気持ちになる。
だが、アレンはことさら明るく言った。
「とりあえず、良かったよ!」
「え・・・何が?」
さすがにカインは嫌な表情になった。
今の話のどこに良かった情報があっただろうか。
「思ったより元気そうだし、
それにお前さっきから何回謝ってんだか。」
「だって・・・だって実際にローレシアで倒れて、
そのせいで君はマリアとも喧嘩しちゃったでしょう?
あんなにマリアが怒るなんて思ってもなかったけど・・・。」
マリアが大事な仲間であるアレンに、顔も見たくないなんて、
そんな事を言うなんてカインは信じられなかった。
「ああ、それは良いよ。もう仲直りしたし。
俺も悪かった。」
「仲直り、もうしたの・・・!?」
「ああ、大丈夫だよ。ムーンブルクにも行ってきた。
それにな、俺はお前を助けに来たんだよ!」
「え・・・?」
アレンはにやりと笑って、カインに説明を始めた。
****
クレハはさっきから、船からサマルトリアの城を眺めていた。
待つのには慣れている。アレンはいつ戻ってくるだろうか。
「待つ身は辛いよなー。」
そんなクレハにミゲルが話しかけてきた。
このミゲルも今まで旅の間ずっと船の上で待つしか出来なかった。
クレハも同じだ。城で待つしか出来なかった。
「でも、私はアレン様のことは何も疑っていません。」
「良い言葉だな。
ねえちゃんは、アレンのにいちゃんの事が一等信頼しているみたいだな。」
「はい、そうです。」
当たり前の事だ。自分が何年アレンの傍にいたと思っているのか。
「その兄ちゃんの力を最大限に引き出していたのが
あの2人の仲間さ。」
「・・・・・・・。」
「とりわけ、カインの兄ちゃんは特別だっただろうな。
今回手紙をもらって俺ぁ肝をつぶすかと思ったぜ。」
「だから、今アレン様がこれだけ奔走しているんじゃないですか。」
特別とは何のことだ。
大切な仲間なんだろうと言う事は分かっている。
・・・・でも、クレハはアレンたちが三人で旅をしている所は実際には知らない。
クレハが知っているのは、アレンだけだ。
旅を終えてからも、アレンが懐かしげに空を見つめている姿を
何度か見ている。旅のことを思い出しているのだろうと思った。
アレンにとって、カインとは・・・どういう存在なのか?
旅の仲間のうちの1人、というだけではないのか?
なんか・・・変な感じである。
いやいや、やっぱり変なことを考えるのはやめよう。
自分が信じるのはアレンだけだ。
アレンのすることに間違いは無い。
そんなまとまらない事を考えていると、
アレンが帰ってきた。カインも連れてきたようだった。
「わ〜〜、本当に船だあ。」
カインは船を見て驚いている。
ミゲルはその様子に、嬉しそうに駆け寄った。
「おーいおーい!!
緑の兄ちゃん、よく来たなあ!」
「わあ、ミゲル。
わざわざ来てくれたの。」
「そりゃあこんな事があったとあらば、俺が船を走らせないで
どうすんだ!!もう、俺びっくりしたぞ!
あれだけ、体を大事にしろって言っただろうー!?」
「ほ、本当にね。心配かけてごめんね。
世界樹まで行って来てくれたって聞いたよ。」
「ああ!あの小島はそんじょそこらの航海士じゃ
辿り付けねえからな。」
「本当に・・ありがとう。」
カインはミゲルに頭を下げた。
そして今度はクレハのほうに視線を向けた。
「クレハさんも来て下さったんですか。」
「わ、私はアレン様の付き人としてですが・・・。
カイン様、思ったよりお元気そうで良かったです。」
「本当に、クレハさんにもご迷惑をおかけしてスイマセン。」
「いいえ。」
本当に律儀に人に謝る人だなあと思った。
自分などに、そんな気にする事無いのに。
それにしても、つい先日倒れた割に結構元気そうである。
良かった。航海もできそうだと言う事だろう。
ミゲルがアレンに航路を確認した。
「兄ちゃん予定通り船はラダトームで良いか?」
「ああ、こいつの家族にも話はつけてきたから。
とりあえずラダトームへ向かってくれ。」
「アレン、マリアもいるの?」
カインはアレンに尋ねた。
どうやら、この面子だからマリアが同乗していると思ったのだろう。
「いや、あいつは別でラダトームへ向かうって行ってたぜ。
あいつはあいつで何か考えている事があるんだそうだ。」
「そうなんだ・・・・なんだろう?」
「・・・・・・。」
マリアは、カインに少し嫌がられるであろうことを考えていると言っていた。
何のことだか分からない。
まあ、本人に伝える必要は無いだろう。
「さあな〜。俺は教えてもらえなかった。」
ひとしきり会話をしているうちに、ミゲルが船を動かし始めた。
船上に涼しい風が流れる。
「ミゲルの船なんて懐かしいね。風が、気持ちいいよ。」
「だろ、やっぱりミゲルの船は良いよなあ〜。」
アレンがカインの方を見て笑っている。
あ。
これは、クレハの知らないアレンの顔だ。
何だか少し胸がちくっとした。
「あ、そうだ!カインが船に乗ったってことは、
これからカインの飯が食えるって事か・・・!?」
アレンがそんな事を言った。
確かに、旅の間料理をしていたのはカインだと聞いていた。
だけど、それじゃあ自分は何のためについてきたのだ。
「アレン様!駄目ですよ。
カイン様は体調が良くないのですから。
食事なら私が作ります!!」
2人の会話にクレハが入っていった。
「あー・・・それもそうだな・・・。
お前は休んでた方が良いな。
無理したら駄目だよな。」
「クレハさん、あの・・・気を使わせてごめんね。
でも船の上での食事準備って大変だよ。
何かあれば手伝うよ?」
「カイン様ー。あなたは何しにラダトームへ行くのですか?
食事の事なんて気にしてる場合じゃないでしょう・・・!?」
大体ローレシアからここまでも自分が食事を作っているのだ。
心配される謂れなどない。
「ご、ごめんなさい・・・。」
クレハの勢いにカインがまた頭を下げた。
確かに、何のために皆が心を砕いて船を走らせているのか
それを考えると、カインが心配するほうがおかしい話だ。
「まぁ、元気になれば、また作ってくれよ。」
「う、うん。そうだね。」
アレンはそう言うと廃材を手にして、
素振りでもしてくると去っていった。
- 続く -
2013/09/25
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