ローレシア 2


「じゃあ父上、行って来るぜ。」

いざロトの印の眠る宝物庫へ行かんと、
アレンは父に背中を向けた。
カインとマリアも目礼して、それに続く。



宝物庫は謁見の間を下って左手にある。
その手前には宝物庫を守るようにローレシア兵たちの
駐屯場もある。

まっすぐそちらへと向かうんだと思っていたら、
アレンは謁見の間を下ってから右手に曲がった。

そちら側にはローレシア城内に住む人々の部屋であったり
精霊ルビスの礼拝儀式を行う神聖な教会もある。

てっきり旅の無事を、教会に報告にでも行くのかと思ったら
どうやらアレンはそちらには目もくれない。

「アレンー、どこ行くのー?」

そう聞くカインをぎょっとした様子で振り向いたアレン。
もちろんマリアもそこにいる。

「あれ、お前らどこまで着いて来るの?」

「いや・・どこまで・・って・・。
 別に、僕達ほかに行くところとかないし、城内も詳しくないし、
 アレンに着いていくしかないんだけど・・」

「あ、そう。じゃあ・・・、そうそう。
 城を出た道具屋でさ、あそこ犬飼ってるから、
 遊んできたら?」

何故見知らぬ道具屋の飼い犬と遊ばねばならないのだ。
まぁ、犬と遊ぶアレンの図はすぐに思い浮かぶが。

「いや、遊ばないって・・アレン。何さ、いきなり。」

「アレン、私達が着いて行っては何か不都合があるの?」

そう聞くマリアに、アレンは目をそらす。

「不都合とかじゃないけどさー。
 お前らも忙しいだろ?着いてこなくて良いって。」

あからさまに何やら様子のおかしいアレン。

「置いていかれたら僕ら迷子になるよ。
 ねえ、誰に挨拶に行くのさ。」

「その様子・・アレンの恋人でもいるのかしら。」

マリアのその予測にアレンが慌てて首をふる。

「ちっげーよ!まぁ・・・あれだ。母上んとこ行くんだ。」

「なーんだ。じゃあ、僕ら挨拶に行くよ。」

「そうね、王様に挨拶したんだから、王妃様にも挨拶
 しないとね。長らく王子をお借りしてたんだから。」

「結局来るんだな・・・。」

アレンははぁ・・とため息をついた。
何故だか、あんまり会わせたくないようだった。



城内奥に、一つだけ鍵のかかった部屋があった。
どうやらそこに王妃がいるらしい。

アレンは緊張した面持ちで、ドアをノックした。

「どなた?」

中から女性の声がする。王妃だろうか?

「アレンです。兵から聞いてるだろう?
 戻ってきたんだ。」

アレンのその声が聞こえたのか、
ドアの鍵が内側から開かれる。
出てきたのは、高貴な衣服に身を包んだ女性。

女性はアレンの姿を認めると感激のあまり
駆け寄ってきて、アレンを抱きしめた。

「ああ、アレン!よく無事で!!」

親子の感動の再会だ。
アレンも普段は見せない嬉しそうな表情をしている。
が、すぐ後ろにカインとマリアがいるのを思い出して
あわててその腕から抜け出た。

「あああーー母上!仲間が来てるんだ!」

「お仲間?」

王妃はアレンの後ろにいるカインとマリアを見た。
その二人が、ロト祭のときに見たあの小さかった同盟国の王子と王女で
あることが王妃にはすぐに分かった。

「カイン王子、・・そしてマリア王女・・ですね・・?」

アレンによく似た瞳と顔立ちの王妃は二人の前に進んだ。
カインとマリアはあわてて膝をついて礼の姿勢を示した。

その様子に王妃はくすりと笑って言った。

「いいのよ、堅苦しいことは。顔を上げてください。
 マリア王女・・・無事で本当に良かった。
 大変なことが多かったでしょう。」

そういうと王妃はマリアを優しく抱いた。
その暖かさにマリアは亡き母のぬくもりを感じた。

「いいえ、アレン王子が助けてくれました。」

「そう?このやんちゃ坊主が?」

王妃はくすくす笑いながら、アレンのほうを見た。
アレンはむっつりした表情だ。

「マリア王女、良かったらいつまでもここにいて。
 この放蕩息子が出て行ってしまって寂しかったの。
 話し相手になってほしいわ。」

「わ、私で良ければいくらでも。」

「ありがとう。」

王妃は次にカインのほうを向いた。

「カイン王子も立派になりましたね。
 アレンと二人でよくマリア王女を助けてくれましたね。」

「い・・いえ・・・。」

膝をついたままのカインはふと前後の視界が暗くなるのを感じた。
王妃がカインを抱き包んだのだ。

「え。え?」



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「あのやんちゃのアレンの相手をするのは大変でしょう?」

「いえ!とんでもないです!アレンはいつも僕らを助けてくれます。」

「そう?それならば良いけれど。」

王妃は優しく笑って立ち上がった。
アレンの包容力は、この母に似たんじゃないかと思った。

と、感激していたところ、

「待て待て待てーー!!」

と、後ろから猛烈な勢いでアレンが突進してきた。



「ちょっと待てって!!何やってるんだよ!
 母上も母上だ、誰かれかまわず抱きつくなーー!嫌がってるだろ。」

「あらあら、アレンったら。ごめんなさいね、カイン王子。」

「アレン、僕嫌がってないよー。」

「そういう問題じゃないから!」

「だから嫌だったんだー」とぶつぶつ言いながらアレンは母を元いた椅子へと
引っ張り戻した。はいはい、という様子で王妃はそれに従った。

「アレン。カイン王子らはいつまでここに滞在してもらえるのかしら?
 王女も無事だったことだし、お祝いの席を設けましょう。」

王妃は嬉しそうである。だがアレンはまじめな顔になりそれに答えた。

「母上、俺達まだ旅の途中だから、
 すぐにまたローレシアを出るんだ。次はサマルトリアに行くけど、
 そのあとはまだ決まってない。でもまたローレシアに戻ってくるから
 祝いの席はそれまで待っててくれ。」

「まぁ・・・そうなの・・・?二人も一緒に行くのね?」

王妃は複雑な顔で、カインとマリアに問うた。
二人はそれに「はい」とだけ答えた。
三人のその様子を見て、王妃はその場で息をついた。

「そうなのね。分かったわ。いつかはこんな日が来ると思っていたもの。
 でも今日は元気な姿が見れて嬉しかったわ。」

「母上・・・・」

王妃とアレンはしばらく黙っていた。
誰も口には出さないが、危険な長い旅で万一のことがあれば、
これが永久の別れになる可能性だって無くはないのだ。



そんな静かな静寂の空間に
マリアがふとした気配を感じた。

「あら、・・何か・・?」

「どうかしたか?マリア。」

何かを感じ取ったらしいマリアは左右を見渡している。
アレンはマリアが何を感じ取ったのか分からない。

カインの様子を見ると、同じように前後を振り返っている。

「おい、なんだ?何探してるんだ。」

「いや・・・何かが来たのかなーって。」

まさか魔物か!?と思い、アレンも神経を集中させ
剣に手をかけた。

何者かがバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。
アレン達に緊張が走る。




そして扉が無遠慮にバッと開けられた。

「なにもの・・・・だ!?うわ!」

アレンが剣を振りかぶろうとしたとき、
周到にもアレンのその手を押さえながら、
何者かがアレンに抱きついてきた。

「・・!?・・・」

アレンはそれが自分の動きを封じようとする作戦なのかと思い、
押さえつけられた腕を勢いよく振り払うと、
逆にその曲者を背負いあげて、地面へとたたきつけた。

「いたーい!」

受身も取れず、したたかに背中を打ち付けた曲者は思わず声をあげる。
そして流れるような動作でアレンは剣を抜こうとして・・・止まった。

「なんだ、お前・・何やってるんだ。」

アレンは驚いていた。
相手は長い髪を短く束ねて、動きやすそうな姿であるが、
どう見ても女性だった。アレンとは顔見知りのようだ。

「アレン様・・・思った以上に逞しくなられましたね。
 しかし、何もいきなり投げつけること無いではないですか?」

「・・・だって、こいつらが変な気配を感じるとか言うから。
 お前もいきなり飛び込んで抱きついてくるなよ。
 って・・・いや、悪かったよ。痛かったか?」

アレンは痛がる女性の手を引いて体を起こしてやった。
久しぶりに会えたためか女性はとても嬉しそうな様子だ。

アレンには国にこういう女性がいるのか・・とカインは思った。

「アレン?知り合い?アレンも隅に置けないねーー!
 でも女の人投げちゃ駄目だよ。」

二人の親しげな様子にカインがニヤニヤしながら尋ねた。

「お前らが思わせぶりなことすっからだろ!
 てかそういうのじゃないから。こいつはクレハ。
 俺の・・・・あに・・だ。」

「アニ?兄って言いたいの?
 何言ってるのアレン。この人女性でしょ?」

若干活発で男っぽい印象もあるが、
どう見ても女性だし、
アレンが一人兄弟なのは周知の事実だ。

「しらねーよ。こいつが女なのは、こいつの事情だろ!?」

「はぁ・・・?何言ってるのさ??アレン?」

カインはますます怪訝な表情になる。
そんな二人の間に王妃が割って入った。

「彼女はアレンにとって兄代わりの、女性なんですよ。
 カイン王子。」

「・・・はぁ・・・。そうなんですか。」

兄代わりの女性とは何なのかと思うが、何やら事情があるようなので
それ以上はカインは聞かなかった。

「クレハもアレンの帰還に浮かれるのは分かりますが、
 カイン王子と、マリア王女の前ですよ。」

王妃の叱責にクレハは小さくなって頭を下げた。

「ああ、申し訳ありません。
 カイン王子、マリア王女お初にお目にかかります。
 アレン様の乳兄弟のクレハと申します。」

クレハの挨拶にカインとマリアは礼を返した。

「はじめまして。」

「よろしくお願いします。」

マリアはそう挨拶を返しながらも、やはり外の気配を探っている。
どうやら気になることがある様子だ。




アレンはそれを察して、マリアとカインを一旦部屋の外へと連れ出した。

「さっきマリアが感じた気配ってクレハのだったのか?」

「そうではないわ。クレハさんじゃない。
 ローレシア一帯を何か覆い尽くされるような
 そんな気配を感じた気がしたの。」

「なんだよそれ。どういうことだ。魔物か!?」

「はっきりとは分からない。関係ないのかもしれない。
 でも・・もしかすると、そうかもしれないわ・・・。」

マリアは邪悪な魔物の気配に人一倍気がつく。
それは魔力の高さによるものか、
自国に起きた悲劇によるものか、・・・恐らくその両方だろう。

「僕が感じたのは魔物そのものじゃなくて、魔力の結界のような・・。
 でも城が静かなんで、僕の勘違いなのかなと思ったんだけど、
 マリアも感じたんだったら、何かあるのかも。」

城内は静かで、兵達が騒いでいる様子も、
魔物の強襲を受けている様子も無い。
だが、この歴戦の魔法使い2人が感じたものが勘違いであるはずが無い。

「じゃあ、ちょっと見て回るとするか。ロトの印も気になるし。」

アレンはそう決意した。城内の反対側にある駐屯所と
宝物庫へ行ってみよう。



「アレン様何かあったのですか?」

心配したクレハが部屋を出てきた。

「なんでもない。ああ、でもクレハはここの部屋で
 母上のそばを守っててくれ。」

「はい。それは分かりました。でもアレン様・・・。」

せっかく帰ってきたアレンがすぐにまたいなくなってしまう事が
クレハは不安で仕方が無かった。



「心配いらねえよ。カインとマリアもいるから。
 俺達強いんだ。」



アレンはそう言って自信満々に答えたのだった。



- 続く -

2011/02/03
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とにかく抱きつき魔 in ローレシア な話でした。

ローレシアにいる数少ない女性陣を頑張って出張ってもらいました。
クレハさんは「お題25.異端 」で出ています。
母上は人が恥ずかしがるようなことを恥ずかしがらない性格です。
アレンとよく似ていると思うんですよ。抱きつき魔じゃないけど。

何か起こった様子だけど、全く意味が分からない終わり方ですいません

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