25.異端


「あ、久しぶりじゃないか!」

アレンがローレシア城下の町並みを歩いていたとき
以前、一緒に遊んだことがある城下の少年と出会った。

少年はアレンの姿を認めると、緊張した様子で身を硬くした。

「元気だったか?最近城に来ないからどうしたかと思ったんだぜ。」

「ええ・・はい。元気にしております。」

親しげに話しかけるアレンに対し、少年は頭を下げて、敬語で答えた。

アレンは以前、この少年と街や、城中を駆け巡り、
一緒に遊んだことがあるのだ。そのときはとても楽しかった。
また遊ぼうと約束もしていた。

「なあ、また前みたいに遊ぼうぜ。」

アレンがそう誘ったが少年は、しばらく沈黙した後
重い口を開いた。

「も、申し訳ありません。しばらく忙しくて・・・。」

「そうなのか?じゃあ、何ヵ月か後でもいいぞ。」

「ア、アレン様!ごめんなさい!!!私はもうあなたとは遊べません!」

重ねてそう尋ねるアレンに、少年は深々と頭を下げてそれだけ言うと
走り去ってしまった。


「????なんだよー。」

取り残されたアレンは訳が分からない。
ただひとつ分かったことは、あの少年はもう二度と一緒に遊べないのだろうと
言うことだ。
以前はあんなに一緒に遊んで楽しかったのに。

最近こうやって友達がいなくなっていく。
アレンは自分が何か悪いことをしたのだろうか?と悩んでいた。
でも思い当たることがない。

楽しく遊んで、また遊ぼうと約束して、次に出会ったときには「もう遊べない」と
言われるのだ。

正直・・・こんなの詰まらなかった。
アレン、9歳の頃の話である。





仕方なく、ぶらぶらと何をするでもなく城下の街を散歩して
アレンは城に戻った。

城の中にも遊び相手はいる。
門兵たちも自分を気にかけてくれるし、
乳兄弟もいた。


「クレハ!」

アレンは乳兄弟のクレハに声をかけた。
クレハは3つ年上の乳兄弟だが、ローレシアで一番親しい兄とも言える。

「アレン様、お帰りなさい。どこに行ってたのですか?」

「城下だよ。それより、聞いてくれよー。」

アレンはクレハに街で友達に振られた話をした。

「ってことなんだよ。ひどくねーか?
 忙しくなったとか、本当かよって思うよな。」

「アレン様、そういう事ならもう街に行くのはお止めください。」

一緒に腹を立ててくれるのだと思ったらクレハが言ったのは
意外な言葉であった。自分に街に行くなと言うのだ。

「?なんでだよ。
 お前も俺は城でひたすら魔法の勉強に励めとかって言うのか?」

「きっと、もう城下へ行ってもアレン様と友達になれる者は
 おりません。」

「・・・・なんで。」

「きっと皆アレン様に遠慮してしまうのですよ。」

その言葉にアレンはいらいらしてきた。

「俺が王子だからか?」

「・・それもあるでしょうね。」

「そんなの変だろ。そんなの昔から分かってることじゃないか。」

泣きそうな顔になるアレン。
そんなアレンをクレハはかわいそうに思ったが
本当の事は言えなかった。

「まぁいいや。じゃあ、クレハ遊ぼうぜ。
 お前は俺が王子だから・・なんて言わないだろ?」

ようやく顔をあげて苦い笑顔を浮かべるアレンに
クレハは薄く笑って頷いた。



実は、アレンが街の友達と遊べなくなってきた理由は他にあった。



アレンが生まれたとき、高齢のローレシア王に待望の男児が生まれ、
国は大いに沸いた。しかし、その後兄弟が生まれる事は無く
アレンはローレシアの唯一の跡取りとして、大事に育てられた。


勇者アレフの剣と魔法の流れを汲むローレシアでは
当然一人息子のアレンに対し、剣と魔法の教育を行ってきた。

まだ幼いこともあり、あまり熱心とはいえないアレンであったが、
剣のほうはどんどん頭角を見せ始めていた。
同年代の子供たちの中では確実に頭一つぬきんでているだろう。

しかし、魔法のほうはまるっきり芽が出ない。
本人のやる気の問題かもしれない。
15歳頃に初めて魔法を使えたという例もざらにある。
魔法を覚えないこと自体は、さほど問題視されてはいなかった。


だが先日行った魔法のテストにて信じられない結果が出たのだ。


アレンには魔法力が備わっていなかった。
魔法力が弱いのではなく、一切魔法力が存在しなかった。



魔法力を一切持たない人間は一般的には多い。
だが、ロトの血を引くローレシア王族の直系の人間には
今まで前例のないことであった。


そうなると、市民のアレン王子に対する視線が変わったのだ。

今まで単に王子としてではなく、ロトの血を引く勇者になるものだと
敬われ、親しまれていたアレンは一転して
「本当にローレシア王の子なのか」とすら言われるようになってしまった。

アレン本人にその思惑は伝わっているのかどうか分からない。

だが、今日もアレンを悩ませている昨今の城下の少年たちの反応は
その親等から、今回のことが申し含まれているからであろう。

『アレンは、もしかするとローレシアの王子ではないかもしれない
 近づいてはならない』・・と。





「なぁ、難しい顔してどうしたんだ?」


クレハの目の前に、アレンのどアップの顔が現れた。

「わ!アレン様!」

どうやら自分は考え込んでいたらしい。

「どうかしたのか?」

「いいえ、大丈夫です。」

クレハの暗い表情がアレンを心配させていたらしい。
クレハは首を振り、努めて明るい表情を作った。

「さぁ、アレン様何をして遊びましょうか?」

アレンもその明るい表情を見て安心したようだ。

「なあ城下へ行こうぜ。」

「またですか?アレン様先ほども城下へ行っていたのでは?」

そういうとアレンはへへへと笑った。

「昨日寒かっただろ。だから街の池に氷が張ってるんだ。
 見に行かねえか!?」

アレンの無邪気な好奇心は、周りの人を笑顔にする。
クレハは笑った。

「仕方ありませんね、いきましょう。」





アレンとクレハは二人でまたこっそりと城下へ抜け出した。

「城の外は寒いですね・・。」

クレハのつぶやきにアレンは袖をめくり上げ
「こんなの何でもない」と笑顔で答えた。アレンは元気そうだ。

池が見えてアレンが駆け出した。

「なあ、これ!どうだ、これ!?」

アレンは凍った池を手でパンパンとたたいた。
硬く凍っている。

「本当ですね、池が凍りついてますね。」

「この上で滑って遊ぼうぜ!」

言うなりアレンは勢いよく助走をつけて、氷の上をすーっと滑っていった。
運動神経の良いアレンは、こういうことを一発で成功させる。

「おーい、クレハもやろうぜ。」

アレンは大喜びで、池の外で待つクレハの元に戻ってきた。

「私はこんなことできませんよ!」

そういって断ったクレハの手をアレンが笑って握った。

「!?」

「じゃあ、一緒に滑ろうぜ。」

アレンはクレハの手を引いて、もう一度氷に乗った。

先ほどよりはよほど慎重に、
しかしすーっと二人は滑っていった。

「ほら、できるじゃん。」

「ア、アレン様・・・・。」

この年下の王子は、ぶっきらぼうに見えて、実は優しいのだ。
クレハもつられて笑顔になった。



二人が遊んでいると、
先ほど断られた城下街の少年がやってきた。

「あ、おーい。お前も一緒に遊ぼうぜ。」

アレンは少年に再度、共に遊ぼうと声をかけた。
少年はにっこりと笑った。

てっきり、今度は一緒に少年が遊んでくれるものだと思った。
しかし少年は笑顔のまま言った。

「アレン様・・・言ったでしょう?
 私は忙しいのでもうあなたと一緒に遊べないと。」

「え?」

「聞きましたよ。アレン様、アレン様には魔法力がないんですってね。」

「は?」

アレンの顔が見る間に強張る。
少年が合図をすると、次の瞬間、その周りに屈強の男たちが何人も集まってきた。

「なんだ?なんだ??」

「ディアン様は魔法力もおありで、剣も強く
 頭脳明晰だとか・・。アレン様もご安心ください。」

少年が言った「ディアン様」とは現ローレシア王の年の離れた
親戚に当たる。アレンより年上だが、直系であるアレンの次の
王位継承権を持つ。

少年の周りに立つ男たちが物騒な武器を取り出した。

「無礼者!アレン様に何をするつもりなのだ!!」

クレハは、アレンを忌み嫌う者たちがいるのは知っていた。
アレンに魔法力が無いことを知り、これ幸いと彼らが
勢いだっていることも感づいていた。

だが、こんな風にアレンを襲うのは
あまりにも卑怯で無礼ではないか。

心配してアレンの表情を伺うと、一瞬悲しみの表情を浮かべたが
顔を上げたときには、いつもの表情に戻っていた。

「俺を捕まえたければ、やってみれば良い!」

アレンは相手に向かってそういうと、
クレハに対しては、下がってるように告げた。
その表情はいつものいたずら小僧の表情だ。

屈強の男たちが次々と走り出して、
凍った池にいるアレンを捕まえようとした。

「ここ、氷だからな!滑るぜー!!」

しかし、アレンはそう言うと
ひらりひらりと追っ手をかわした。

アレンの身のこなしは本当に目を見張るものだった。

「ふふん。お前たち、どんくさいなあ。」

いつの間にか、相手から武器を奪って
アレンよりずっと大きな大人たちに当身を食らわせて
その場に沈めた。
9歳の子供の動きではなかった。

「くそう!しかしお前は魔法を使えないだろう。
 これならどうだ!?」

池の畔で様子を伺っていた少年は業を煮やしたのか
魔法の詠唱を始めた。

「魔法?」

「アレン様危ない!!」

クレハが後ろから声をかけたが、アレンは動かなかった。

「ギラ!!」

少年が唱えたギラの炎は
瞬く間に池の氷を溶かし始めた。
氷の下にはもちろん水がある。

「うわああ!」

氷上にいたアレンたちはたちまち水中へと吸い込まれていった。

「ははは!
 こんな魔法も唱えられないロトの勇者なんているもんか!
 そんな異端児がローレシアの王子であるものか!!」

底なしの池に沈み行きながら、
クレハは少年がそう叫ぶのを聞いた。

アレンにも聞こえているだろうか。
かつて友達と慕った少年に裏切られてアレンはどんな気持ちであろうか。

そう考えるとクレハは心が痛んだ。










++++


「火ってこうやったら点くって聞いたんだけどなあー・・」

何やら、ぼやき声が聞こえる。
木々を摩擦でこすりつけ火を起こそうとしているようだ。

「全然つかないじゃん。」

どうやら諦めて木々を放り投げたらしい。

「どうすれば良いんだろう・・・。」

ぼやき続けているのは、どうやらアレンのようだ。

クレハは目を開けた。

「あ、クレハ!目をあけた。良かった〜。」

クレハの目の前に、いつものアレンの大きな顔があった。
体を起こしたが、寒い。体中びしょぬれだった。
クレハは記憶をさかのぼった。

自分たちは池に沈んで行ったのだ。
自力で水上に泳いできた記憶は無かった。

「アレン様、助けてくださったのですか?」

ふと周りを見ると、
自分たちを襲ってきた、あの屈強の男たちも池の畔で
伸びていた。意識は無いようで、自力で泳いでいた様子は無い。

「アレン様。アレン様は彼らも助けたのですか?」

「あ?ああ、引っ張ってきて、そこに転がしてるだけだよ。
 クレハは怪我とかしてないか?」

冷えて寒いだけで、どこも怪我などはしてなかった。

「どこも・・ありがとうございました。
 って、アレン様が怪我をなさってるではないですか!」

見るとアレンの右腕が火傷を負って痛々しい。
クレハはすぐさまアレンに回復魔法のホイミを施した。
火傷は見る間に治った。

「あ、治った。すげーな。魔法って。」


アレンは不思議そうに治った右腕を見つめた。

「なぁ、魔法ってすごいな。
 火をつけたり、怪我を治したり。」


最初そういって笑ったアレンの顔は見る間に歪んでいった。



「俺、俺は・・・魔法が使えないんだってな。
 だから、俺きっとローレシアの王子じゃないんだってな。
 ロトの血なんてきっと俺には流れていないんだ。
 ああやって襲われたりするのも初めてじゃないんだぜ。」


そこまで気丈に言ったアレンであったが、
次第に涙声になっていった。
どうやら悪漢に襲われるということは今までにも何度か
起こったらしい。何ということであろうか。


「なぁ・・・・俺なんて・・・いない方が良いのか・・?
 俺みたいな・・・出来損ない、いない方が、・・ローレシアにとって
 良いのかなあ・・・?」



きっと池に落ちて行くときに、あの少年が叫んだ言葉は
すべてアレンに聞こえていたのだろう。
クレハは、あまりに悲痛なその言葉に、アレンの心中を思うと胸を痛めた。
クレハは小さなその体を抱きしめて、アレンに伝えた。



「何をおっしゃるのですか!?
 氷上でのあの戦い、そして私のみならず
 あの悪漢どもまでお助けになられた、そのお心の大きさ、
 どこをどう見ても立派なロトの勇者様ではないですか!!」


「え・・?そっか・・・?」

「そうですとも!
 アレン様には魔法などはなくとも、あの身体能力の高さと
 剣の腕があります!
 きっと神様はアレン様には魔法などなくとも、十分な能力を
 アレン様に与えているのです!」

「そ、そうかあ?」

「そうですとも!」

「剣かあ。剣の道に生きるのも悪くないかなあ。
 どんな武器でも使いこなせる、伝説の剣豪になるか?」

「アレン様なら、なれますとも!!」

「そっかあ。へへ。」

クレハはアレンを元気付けようと熱弁をふるった。
アレンもやっと涙を振り払い、笑ってくれた。




「このままでは冷えますよ。
 そろそろ城へ帰りましょう。」

「そうだな。」

一安心して、ふとクレハがアレンを伺うと、
アレンは自分の胸元をじーっと凝視していた。

そう、水に溺れて、着衣の乱れたその胸元を・・・。

「なんじゃこれ。」

アレンはゆるく膨らんだその胸を触った。
クレハはあわてて立ち上がって、顔を真っ赤にした。

「ア、アレン様!?」

人一倍元気なアレンと行動をするにあたり、
ローレシア王からもあるときは男友達として、
そしてまたあるときは兄として振舞うよう頼まれていた。

そのためクレハはいつもボーイッシュな格好で、男装をしていたのであった。



「え、クレハ・・・お前って・・・・女なのかぁー・・・・・・!?」

- 終 -

2011/01/23
▲

悲痛なアレンの過去話。
魔法が使えないことで、アレンは色々苦しんだと思うし、
周りもそれを良しとせず、こういう事件もあったのかもしれないなあ・・と。

それでも強さの片鱗を見せてくれているアレンの様子が
うまく伝わっていれば嬉しいです。

あと、アレンの周りに女性を出してみました。

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