ローレシア 1


ザハンの旅の扉に飛び込んだアレン達一行は
まばゆい光につつまれて、次の瞬間にはローレシアに辿り着いたのであった。



「着いたのかしら・・?」

マリアは左右を見渡した。
平和な城下町だ。マリア自身はローレシアに来るのは初めてだった。

「わあ、本当に着いたー。一瞬だったねえ。」

カインはアレンと合流する前にローレシアに立ち寄っていた。
ローレシアには何度か来ている。

「ああ。一瞬だったなあ。」

アレンは目の前に広がる風景が自分の育った故郷のものだと認め
懐かしさに目を細めた。




気の毒なほど驚いているのは旅の扉を守る兵士だ。

普段使われることのない旅の扉にいきなり3人もの人間が現れたのも驚きだが、
その中に自国の王子が混じっていた。


「ア、ア・・・アレン様ぁ・・・!???」

「よう、しばらくだったな。戻ったぜ。」

アレンは右手をあげて、答えた。

「アレン様!ど、どこまで行っていたのですか!?
 どこから帰ってきたのですか!?一体いままで一体・・・!??」

兵士は驚きのあまり、やや呂律が回っていない。

「どこまでって・・ザハンから帰ってきたんだよ。
 旅の扉の番人やってんだったら、どこと繋がってるかくらい知ってろよ・・
 って・・お前。」

アレンはそこまで言って、兵士の姿を凝視した。見覚えがある。

「あれ?お前って新人兵の・・。」

「そうです!アレン様に育てていただいた、スコアです!
 ぶ、無事のご帰還・・・心よりお待ちしておりました!!!」


どうやらあの新人兵が一人で門番をするくらいには
ローレシアでも時間が経っていたらしい。



「皆、アレン様がお戻りにならないと心配していたのですよ。」

「そうかあ。」

「早く王のところへ!!王妃様も心配しております。
 ああ、それから是非兵の駐屯所にもお越しください!
 それから・・・」

どうやら相当の心配をかけていたらしい。

「あーー・・分かった。分かった。あとでいくから。」

とどまるところを知らないスコアを適当にあしらって
アレンはまず城に戻ることにした。

「お城ですか!そうですねっ!!
 今日はアレン様ご帰還の宴を開かねば!!
 兵達皆に報告してこなければ!
 両親にも報告しよう!」

「ちょっとは落ち着けって!
 後ろの二人にもちゃんと挨拶しとけよ、お前。」

スコアはアレンにばかり構ってくるので
当然カインとマリアはどうしたものかと、先ほどから
無言でついてきていた。

「あ、アレン様のお仲間の方ですね。
 私、ローレシア兵のスコアと申します。
 アレン様には入隊直後のひよっこのときに鍛えて頂きました。」

にこやかに挨拶するスコアに、
カインもにこやかに答えた。

「はじめまして。サマルトリアのカインです。
 アレンと稽古するのは大変でしたね。」

「いええ、私本当にアレン様には良くしていただきまして・・
 って・・サマルトリアのって?え?
 あの行方不明のカイン・・・王子・・・ですか?」

スコアは挨拶をしながら、ふとその名前に思い当たったらしい。

「もしかして僕行方不明扱いにされてますか?
 多分そのカインですけど・・・」

「ええ!?カイン王子!?」

スコアが目を丸くしている。

「アレンー、僕行方不明にされてるよ。」

「お前国飛び出して来たからだろう。
 まぁあとでサマルトリアに寄れば良いじゃん。」

確かに、城から逃げるように飛び出してきて
それから一度も帰っておらず、サマルトリアでは
相当心配されてるのかもしれない。

「っていうか多分アレンも今日の今日まで
 行方不明だったんじゃないの?」

マリアを見つけたら戻る予定だったアレン。
きっとアレンも生死不明の行方不明だと思われていたんだろう。

「いやあ、、何というかお二人が無事で良かったです。」

スコアは体に流れる汗やら涙やらをぬぐいながら言った。

「違うだろ。無事で喜ぶなら、こっちだよ、こっち。」

アレンはマリアを指差した。

スコアはきょとんとしつつマリアの顔を見た。
もちろん初対面なので、マリアが誰かなど分からない。
手に持つ杖から、恐らく仲間の魔法使いだろうと思った。

「ああ、これはお美しい方。こちらもアレン様の旅のお仲間ですね。
 お世話になります。スコアと申します。」

スコアはマリアに頭を下げた。
マリアも丁重に自己紹介をした。

「はじめまして。いつもアレンには助けていただいております。
 ムーンブルクのマリアです。」

その言葉にスコアが固まった。

「ム・・・?ムーンブルクの・・?」

「ええ、ご心配をおかけしました。
 この通り二人に助けられ、ここまで来られましたわ。」

「マ、マリア王女?マリア王女・・・!!
 まさか・・・・よくぞ、よくぞご無事で!!」

スコアは跪いて、最敬礼した。


「アレン王子!カイン王子!そして・・マリア王女!!
 よくぞお戻りになりました。ようこそ我がローレシアへ!!!」


「ああ」

アレンはそれに答えた。



「ただいま。」








++++



3人はローレシア城の謁見の間へとやってきていた。
王座にはアレンの父であるローレシア王が座っている。
久しぶりの再開であるが、父は渋い表情だ。

「父上、ローレシアのアレン、ただいま戻りました。」

アレン達は跪いて深く頭を下げた。

「うむ・・・出て行ったきり一度も連絡もなく、
 とうにどこぞの草むらで死に果てたかと思っておったわ。」

「失敬な親だな。無事戻ったじゃないか。」

アレンのみ顔をあげて、反論した。
王の表情を伺うと、先ほどまで渋い表情をしていた父は
思いのほか穏やかな表情をしていた。

「ああ、そのようだな。ハイエナのような生命力だけが 
 取り柄だからな、お前は。」

「口の減らない親父だ。」

王は、ふ・・と笑うと立ち上がって王座から降りた。

「そして、マリア王女よ。」

そのまま王は先頭にいるアレンを通り過ぎてマリアの前に進んだ。
マリアは目をふせたまま挨拶の口上を述べた。

「ローレシア王、お会いできて嬉しく思います。
 このような格好で対面する無礼をお詫び申し上げます。」

「顔をあげなさい。」

王のその言葉に、マリアは顔をあげてローレシア王を見上げた。
アレンに良く似た顔立ちをしていて、殊のほかその瞳は暖かみを帯びていた。

「よくぞ、よくぞ無事で戻られた。国のことは悲劇であったが、
 そなただけでも無事生き延びたことは何よりの僥倖。」

「アレン王子に救われました。」

「そうであったか・・。あの馬鹿息子が何かの役に立ったのならば良かった。
 しかし何かと不便なことも多いであろう。 
 このローレシアを第二の故郷と思い、ワシが父親代わりになろう。」

「親切なお言葉痛み入ります。」

マリアは深くお辞儀をして感謝の意を表した。
王はうむと頷くと、次にカインのほうを向いた。

「それから、カイン王子。」

「ご無沙汰しております。ローレシア王。」

カインは顔をあげると笑顔で挨拶した。

「うむ。しかしカイン王子、サマルトリア王が無事にしておるのかと
 心配して眠れぬと言っておったぞ。早く帰ってやりなさい。」

「はい。そういたします。ご心配おかけして申し訳ありません。」

カインのその言葉に満足そうに頷くと
王は玉座へと戻った。

「しかし、無事に戻って何よりであった。
 今宵は無事の帰還を祝って祝宴だな!!」



王は嬉しそうである。
既に旅の目的を完遂したかのようだ。
いや、ローレシア王にとっては、マリアを無事連れ帰ってきたことで
アレン達の旅は全ての目的を達成できたも同じであろう。

しかしアレン達の思惑としては、まだここは旅の中間地点。
目的があり、少し故郷に立ち寄っただけである。

ローレシアに戻ったなら、いくつか確認しなければならないことがあった。

「父上、待ってくれ。祝宴は少し早い。
 聞きたいことがあるんだ。」

「ん?」

今にも宴会を始めそうな父王にはまだ聞きたいことがある。




「いくつかあるんだけど・・
 まず、俺達旅の扉でザハンから来たんだが・・。」

アレンは、ザハンで聞いた船乗りの遭難のことと
ローレシアからの救援を約束したことを王に報告した。

「ほう・・・なるほどな。それは大変だったな。
 ローレシア兵のうち数名を派遣することは異存ない。」

王はザハンへの支援について快諾した。

「ああ、助かる。じゃあその件は終わりで・・
 次に、この俺に・・ローレシアにある至宝を譲り受けたい。」

アレンのその言葉に今までほがらかに話を聞いていた王の
表情がひきしまる。

「お前そんなことをどこで聞いていた。」

「やっぱりあるんだな。ロトの印はここに。」

王は硬い表情のまま答えない。

「父上、俺達の旅はまだ途中なんだ。」

「どういうことだ。」

「俺達は今、ムーンブルクを滅ぼした元凶、ハーゴンを
 討ち果たすことを目的に旅をしている・・その目的のため
 ローレシアに立ち寄っただけなんだ。」

「ハーゴン?!本気で言っているのか!」

アレンは「はい。」と答えた。
カインとマリアもそれに従ったのを見て、王は心底呆れ果てた。

「馬鹿な・・・・お前達はたった3人の子供ではないか。」

首を左右に振るローレシア王に向かって、アレンは立ち上がった。

「父上。」

アレンは背中にあるロトの剣を抜いた。

「父上、これはロトの剣だ。竜王から預かったものだ。」

「り、竜王!!?」

王はその単語に驚いているようだ。無理もない。
竜王などは100年前の伝説上の名前だ。
だが、その伝説は今も確かに残って息づいているのだ。

「ロトの兜の場所ももう分かっているんだ。
 俺達はもう止まっていることはできない。」



アレンに続いてカインが立ち上がり口を開いた。

「ローレシア王、我々はこの後サマルトリアへ行き、
 ロトの盾を手に入れる予定です。」

「カイン王子まで何を言うのだ!父君はそなたを心配しているのだぞ。」

心配している・・・それは本当にそうなのだろう。
心配をかけて申し訳ないとは思う。

「ありがとうございます。
 大丈夫です。僕達は勝って、きっとまた帰ってきます。
 そのためにもロトの印が必要なのです。」

子供のような童顔のカインまでが
そのような悲壮な覚悟を述べる。
しかしそのようなことはまだ若い彼らがやるべきことではない・・・と
ローレシア王はまだそう考えていた。



「王様。」

アレンとカインに続いて、マリアも立ち上がった。

「なんだ、姫よ。まさか姫までそのような細腕で
 戦いの道を選ぶのではないな。」

ローレシア王は本当にマリアに深い情を抱いた表情であった。

「先ほどの王様の暖かいお言葉、
 ローレシア国を第二の故郷と思うようにとのお言葉・・・
 本当に嬉しく思いました。
 ですが、私は故郷・・私の生まれ育ったムーンブルクを・・」

「なんだ?」

「私はムーンブルクを復興させたいと思っております。この手で。
 そのためにもハーゴンは討たねばならない敵なのです。」

マリアはその細腕を祈るように重ねた。

「マリア王女・・・そなたの気持ちは分かるが・・。」



「父上、もう分かっているだろう。俺達の決意が。
 それに父上が一番良く分かっているじゃないか。
 ロトの血の宿命を・・・。俺達が何をすべきかを。」

「・・・・・・死ぬかもしれない旅に・・・・
 そなたらを行かせる訳にはいかん。」

王は額に手を当て、重く苦渋の表情で首を振る。
アレンの命は単に勇者としての宿命だけを背負ったものではない。
ローレシアの将来をも背負っているのだ。



「あのさ・・父上。さっきこいつが言ったこと聞いてたよな。」

アレンはカインを指差した。

「?」

ふーっと息を吐いて、そして殊更大きな声でアレンは言った。




【 挿絵を見る 】





「俺達は勝つ!そしてまた帰ってくる!」



これは、・・アレンの父に対する宣言であった。
この命を懸けた宣言を父に向かってアレンは笑顔で言ったのだ。

王は今までの旅でこの息子が身に着けてきたのは
背中に背負うロトの剣だけではなく、
二人の仲間への信頼と絆、そして強さなのだと悟った。

「だから、生きて帰ってくるためにも
 ロトの印が必要なんだ。渡してもらえるよな・・?」
 
今度は王は静かに答えた。

「ロトの印は・・・・・この城の宝物庫にある。
 持っていくがいい。」

その言葉にアレンは頭を下げた。

「父上。ありがとう・・ございます。」

「馬鹿息子めが。」

王は、この息子が必ずしもいつも強い心を持つ訳ではないのを
知っている。小さい頃からアレンを見ていた王はそれが良く分かっていた。

だが、今目の前のアレンは、自分の知らない強さを秘めていた。

いつの間に、こんなに成長したのであろうか。
王は目を細めた。



「行くが良い。アレンよ。
 カイン王子、マリア王女よ。
 この馬鹿息子のことを、よろしく頼む。」



- 続く -

2011/01/27
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ちょっと長くなるかもしれません(未定)。ローレシア編1です。

長編の中ではアレンの旅立ちは取り扱わなかったので、
気にしてくださる方は、「お題8.仕事・依頼」でやっているので
見てみてください。スコアさんはそこで出てきてます。

とりあえずようやく旅の許可を得たアレン達。
続いて、怒涛の展開が待っておりますよ(多分)!

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