8.依頼・仕事


「ほれ、ここで脇を空けるのが良くない。
 あのタイミングで後ろを取られるなんて絶望的。
 無駄なタイミングでジャンプするな。
 足元がお留守になってるんだよ。」

「ああ、なるほど・・・。さすが王子・・。」

「なるほどじゃねーよ!お前しっかりしろよ!」


ここはローレシア。
新しく就任した新人兵と立ち会ってみたのだが、
やはり既にローレシア無類の強さを誇るアレン王子の前に
簡単に敗れ去ってしまった。 

そこで敗れ去った兵にアドバイスの一つでもしてやろうと
思ったのだが、一つどころかボロボロ出てきたという有様だ。

「いや、しかし、私も各国を渡り歩いてきましたが、
 王子ほど強い人には出会ったことがありません。」

「そうかよ。」

このように褒め称えられることは珍しくない。
しかしこれは自分がロトの血を引くからだろう。
城の外に出て魔物と戦うこともあるが、
近隣の魔物であればほぼ一撃で倒すことができる。

おかげで、ローレシア国内で自分と実力を二分する兵など
いやしない。しかしアレンとしては背中を任せながら戦うことが出来るような
強い兵が生まれて欲しいと思っている。

逆に言うと自分が簡単に負けるようなことがあれば、
世も末かもしれないのだ。

「王子どうかしましたか?」

浮かない顔をしたアレンに新人は恐る恐る声をかけた。
弱い自分の処遇でも考えているのだろうかと思った。

「いいや、別に。退屈な世界だなあって思って。」

「王子は一度腕試しの旅にでも出たほうが良いんじゃないですか?」

「お?そう思うか?俺もそう思うんだけどさ、父上が許さないんだよなー。」

「まぁ・・・そうですよね。一国の王子を旅に出す王はいませんよ。」

「だよなー。」

はあとため息をつくアレン。しばらくはこの国で燻っているしかないだろう。

「お前名前は?」

「はい。スコアと申します。」

「スコアね。明日から俺が付きっ切りで鍛えてやろう。
 こんな弱い兵しかいないのかと言われたらローレシアの名折れになるからな。」

「あ、はい!ありがとうございます。」

 アレンは退屈しのぎに新人兵の相手をすることを買って出た。





+++


それから数ヶ月経ったある日のこと、アレンは父王に呼び出された。

「至急の用事?何だよ、まだ調練の最中なんだが・・?」

ぶつぶつと言いながら調練を切り上げて、王の下へとアレンは向かった。




王の間に入ると知らない来客が来ていたようだった。

「あ、来客中ですか。失礼しました。」

「アレンか。良い。入りなさい。」

一旦退室しようかとしたアレンを、父王は招きいれた。

アレンは王の前でひざまずいた。

「父上?何か御用でしょうか?」

「うむ。そちらはムーンブルク王国より参った使者である。」

「ムーンブルク・・・・?」

アレンはちらりと来客の姿を見た。

よく見ると体中大怪我をしている。衣服には血も付着している。
他国の王の前に出る格好ではないだろうとアレンは怪訝に思った。

来客はゆっくり顔をあげてアレンを見た。

「あ、あなたが・・・・アレン・・・・王子・・・・?」

「え・・・・はい。」

そのムーンブルクの兵は息も絶え絶えにアレンにすがるような眼差しを向けた。

「どうか・・・どうか・・・・・・ムーンブルクを・・・・・・・・・。」

それだけをようやく言うと崩れ落ちるように倒れていくムーンブルク兵。

「ど、どうしたんだ!!」

あわててその身体を支えたアレン。
何がなにやら分からない。

「父上、この人はどうしたんですか!?」

アレンは父王に説明を求めた。
王は玉座を降りて、アレンの元へと歩み寄った。

「アレン、聞きなさい。その兵が知らせてくれた。
 ムーンブルクが落城したということだ。」

「え・・・!?落城って・・・!?」

ムーンブルクは魔法を使う兵も多く、
ローレシアとは違った軍備の強さを誇る国であった。
それが落城とはにわかには信じがたいことであった。

「アレン王子・・・・我がムーンブルクに、ハーゴン・・・率いる
 魔物の大群が・・・襲い、我が・・・王・・を始め、我が国は・・・・・壊滅・・・」

抱きかかえたムーンブルク兵は泣きながらその無念を語った。

「か、壊滅・・・?壊滅だって・・・・!?」

「兵よ。ムーンブルクの至宝はどうなったのだ?」

言葉も無いアレンに対し、父王は歩み寄り、何かを兵に聞いていた。
至宝とは何のことかアレンには分からなかった。

「恐らく、無事ではないと思われます・・・・」

ムーンブルク兵は涙を流しながら無念そうに語った。

「そ・・・そうか・・・」

父王はそれを聞くと重苦しく沈黙した。
それほど大事な宝なのだろうか。

「父上、至宝って何だ?」

「お前は黙っておれ!」

怒られてしまった。まぁ、今は兵のことが先。

「ですが・・王よ・・・・我が姫だけは・・・」

「おお!マリア姫は無事か!?今どこに!?」

「分かりません。どこにいるのかは・・・・・分かりません。
 しかしご遺体は見つかっておりません・・・・」

なるほど。
ムーンブルク兵達はせめて姫だけは・・・と、逃したのかもしれない。
遺体が見つかっていないというだけで、生きてると確信するのは
若干楽観的だとも思ったが。

抱きかかえていたムーンブルク兵はアレンの手を取って伝えた。

「・・・・どうか・・・どうか・・・・・・姫を・・・・・。」

命を賭してやってきたこの兵の願い聞いて、アレンは安心させるように答えた。

「ああ、必ず助ける。」

「ありがとう・・・・ござい・・・・・・ま・・・す・・」

兵はそれだけを言うと、今度こそ意識を失って倒れてしまった。
急いで、控えていた医師らが治療を始めた。




「聞いたな、アレンよ。」

「はい・・・・。」

父王はアレンの方を向き言い放った。

「ロト同盟国ムーンブルクの悲劇だ。
 しかしたった一つの光明がある。姫は存命の可能性がある。」

「はい。」

「そこで、ローレシアの兵士団を派遣しよう。
 お前はその兵を選抜するのだ。」

王はローレシア兵を数人派遣する考えであった。

「いいえ、父上。行くのなら俺が一人で向かいます。
 あの兵は私に姫を託したのです。」

しかしアレンはその考えを否定し、自分が向かうと主張した。

「馬鹿を言うな!」

「恐れながら父上。ムーンブルクを襲った大群が
 今度はローレシアに襲い来ることも考えられます。
 大勢を探索に裂くのは得策ではありません。」

「む・・むう・・・しかし・・・」




「ローレシア王!アレン様!」

王とアレンが主張を戦わせていたとき、
ムーンブルク兵を診ていた医師団が二人に
声をかけた。

「なんだ・・・・・?」

「ざ、残念ながら勇敢なるムーンブルク兵は命尽きました。」

今しがた自分と会話をしていた、
ムーンブルクの最後の兵が息耐えたのだ。

「そんな・・馬鹿な・・・!」

アレンはあわてて倒れた兵の元に近寄った。
脈を取ってみたが、その脈が動くことは無かった。

アレンは兵を抱き上げて、その顔を見つめた。
無念の死であったであろうが、
存外安らかな顔をしている。
自分の最後の使命を果たしたという安心感からだろうか。

その最後の願いをアレンは確かに、
兵の腕をとって引き受けたのだ。



アレンは立ち上がって王に伝えた。

「俺は今から旅立ちの用意をします。」

「まだ言うか!」

「この勇敢なる兵の願いは俺が叶えます。
 それに私は何人のローレシア兵にも負けないと自負している。
 親父もそれは分かっているはずだ!!」

アレンは苛立ちから口調も荒く父に訴えた。

「ば・・馬鹿なことを。」

「かの勇者アレフも一人で旅に出たと言います。
 俺とて同じ血を引くもの。」

アレンは小さい頃から軍隊に放りこまれ、
戦いのノウハウを叩き込まれた言わば戦闘のプロである。
それはロトの血を引くものとして
有事にはかつての勇者ロトやアレフのように立ち上がり
戦うためであった。

そのことはアレンはよく自覚していたし、
父王も何かに付けて、アレンにその自覚を促していた。

有事とはまさに今のことだろう。


「アレンよ、自分の力を過信するのは愚かなことだ。
 お前は一切の魔法が使えないのだぞ。」

「・・・では薬草と毒消し草を持てるだけ持って行く。」

なんとも心許ない魔法対策を挙げたアレンに対して
父は考えた末、ため息をつきながら、旅立ちの一つの条件を告げた。


「アレンよ、ではローレシア国代表として
 お前のムーンブルク視察を命じる。 旅立ちを許可する。」

「ありがとうございます。」

アレンは頭を下げた。

「だが一つの条件がある。」

「何ですか。」

「同じくロト同盟国のサマルトリアを尋ねよ。
 かの国には魔法を使う王子がいると言う。
 その王子とともにムーンブルクに向かうことだ。」

「え・・・。」

サマルトリアの王子・・・?
ああ、いたな・・と言うくらいしか思いつかない。

だがとりあえず、その王子を探しに行けば
旅に出ても良いということだ。

「分かりました。ではまずサマルトリアへ向かいます。」

「うむ、そして姫の無事を確認したらすぐに戻ることだ。」

「分かりました。」

アレンは父に頭をさげた。

「そうだ、父上。
 一つ頼みがあります。」

口調も普通に戻しっていた。

「なんだ?」

「そこの兵の埋葬をお願いします。
 どうか・・・丁重に・・・。」

「もちろんだ。」



それだけ告げるとアレンは王の間から出ようとした。
兵達にもしばし不在となると伝えなければならない。
忙しくなりそうだ。

「早く旅の用意をしなければならないので
 俺はこれにて失礼します。」

「アレンよ。」

王はあわただしく出て行こうとするアレンに声をかけた。

「これを持て。」

王が渡したものは銅の剣と50ゴールドのお金であった。

「何だ?これ?」

旅立つ王子に渡す餞別としては
あまりに粗末に思えた。

「他の兵は出さない。余計な混乱を防ぐ為に、
 内密の中旅に出てもらう。
 お前はもう王子ではない。一介の旅人だ。」

「それで?」

「旅人に渡す餞別としては上等だろう。
 三途の川の渡り賃くらいにはなるだろう?」

旅立つ息子に対して
あまりに愛情が感じられない。
三途の川の渡り賃とは何と言う皮肉。

だがあえて痛烈なこの皮肉を受け取った。
これだけの支援で自分は大丈夫だろうということなのだ。

「ありがたく受け取ることにするぜ。
 親父も精々気合入れて長生きしろよ。」

今度こそアレンは王の間を出た。

結局他には何も催促しようともしないアレンを
王は呆れながらも、頼もしく見送った。







「アレン様!一体何事だったのでしょうか!?」

部屋を出たところで自分を慕う新人兵のスコアが寄ってきた。

「ああ、ちょうどいい。皆に言ってくれ。
 俺はこれから旅に出る。」

「は?旅ですか!?今から!?」

「そう。だから、俺の不在の間、
 ローレシアはお前達の手にかかってるんだ。
 よろしく頼むぞ。」

呆然としているスコアの背中を叩いてアレンは発破をかけた。

「王子・・・どうか・・・・ご無事で!!」

「ああ、もちろんだ!!じゃあな!」

スコアの声に振り向かず、
アレンは手をあげて、背中で応えた。






そして、アレンは城を出ていった。

まぁ、なんだ。

世界中を武者修行のようにして回るというのは
自分のやりたいことなのだ。

アレンは少しうきうきしていた。

銅の剣と50ゴールドの餞別を受けて、
アレンはムーンブルク視察の旅へと出発した。



- 終 -

2010/10/30
▲

やってなかったアレンさんの旅立ち〜
何度か書いてるとおり、
ムーンブルク視察の旅という目的で
旅に出ました。

結構さっぱりしてますね。

帰ってくるのはいつになるのか。

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