89−2.価値観



「慌てるな!!緑のドラキーは大して強くない!
 俺がそっちの火を吐くやつと戦う!」

「う、うん・・・!!」

俺は目の前のリザードフライと対峙していた。

ムーンブルク大陸に上陸すると、
見たこともない魔物たちが巣食っていた。

噂どおり、今までは魔物たちのレベルも違った。
それに、魔物の特性を見極める必要もあった。

だが、冷静に戦うと、勝てない相手でもなかった。
俺は初めて戦うリザードフライを難なく倒した。

「ア、アレン!!ごめん!
 一匹そっちに行った!!」

カインの声が聞こえる。
どうやらタホドラキーをしとめ損なったらしい。

どうやら羽に攻撃をしたが、とどめには至らなかったようだ。、
飛び方がふらふらとしている。

だが、こんなふらふらとしていては怖くも何ともない。

俺はもう一度剣を振ってタホドラキーをしとめた。
これで、魔物の群れは全滅だ。

「・・・・・・。」

俺は剣の血糊を払って、鞘にしまった。

「アレン、ごめんね。ありがとう。」

カインは自分の失策を謝りに来た。

「いや、別に。
 無事に全滅だ。問題はないぜ。」

「本当に、ごめんね・・・!!」

自分のふがいなさにカインは反省しているようだ。
まぁ、その落ち込む気持ちも分かるが、
俺としては考えている事は違う事だった。

俺は、戦いやすくなっていると思ったのだ。

今の魔物の群れが全部俺を目掛けて襲いかかってきたら、
一匹一匹がさほど強くなかったとしても
さすがに捌ききるのは難しいかもしれない。

こいつが、ある程度戦えるようになってきたから、
俺は俺の戦いに専念できるし、
こいつの討ち漏らしくらいは、フォロー出来る。
だから、昔1人で戦っていたときより、
少し余裕が出来た気がした。

「次は、頑張るから・・・!」

カインはまだそんな事を言っている。
結構必死のその形相に、俺は思わず笑ってしまった。

「へっ・・・」

「な、なんで笑うの?
 僕、変なこと言った?」

「いーや。俺は別に何も。」

特にカインに対して何か期待してる訳じゃない。
それでも、俺は、
俺の傍にもう1人仲間がいる事の
居心地の良さを感じていた。

「アレン、あのさ。
 さっきの怪我で少し怪我をしたろ?
 ホイミをしようか?」

「怪我?ホイミ?
 いらねーよ。お前自分用のホイミに取っとけよ。」

「そ・・・そう・・・。」

怪我と言っても擦り傷だ。
こんなのツバでもつけてれば治る。

それにしても、やっぱりゆっくり来すぎたのか、
こんな森の中で夜になってしまった。
これ以上の進軍は危険が増すだろう。

「今日はここで野宿だな。」

「野宿。うん、分かった。」

休むのに便利な洞穴も見当たらない。
木陰で腰を下ろして休むしかないだろう。

「とりあえず、火でも起こすか・・・。」

「アレン!!僕やるよ!
 火付けくらいできるよ!」

やけに威勢よくカインが手をあげて、
俺にアピールしてきた。

「そうか?じゃあ、よろしく。
 飯はまたこれだな。干し肉。」

「あ、アレン!ご飯の事なんだけど、
 もし良かったら、僕に少しやらせてくれないか。
 その干し肉を使って料理を作ってみるよ。」

「え?料理ってどうやって?
 ああ、火があるから炙ってみるか?」

「ううん。えっと・・・。
 僕ね、1人旅の時使ってた小鍋があるんだ。
 少しだけ野菜も残ってるんだ。
 あとね、さっき湧き水もあったんだよ。
 ちょっと待っててね。」

「あ・・ああ・・・。」

なんか1人でちょこちょこと水を汲んで帰ってきた。
飲み水にするのかと思ったが、違うらしい。
その中に干し肉を入れた。

「お前、何してんだよ!?食えなくなるじゃん。」

「大丈夫だよ。戻してるだけだよ。
 水もいっぱいあったから、スープも作れるよ。」

「スープ〜〜!?どうやって???」

なるほどスープを作るのに、水は必要だろうが、
水がどうやってスープになるのかが俺の頭の中では想像できない。

手際よく、戻した肉や、野菜を切って、
鍋で焼いたり煮たりしている。

「はい、アレンどーぞ〜。」

俺の目の前には葉っぱに包まれた
肉と野菜の炒め物と、鍋のままのスープが差し出された。

「え・・・これ・・・・。」

「あ、ごめんね。
 お皿とか無いんだ。その葉っぱはお皿の代わりで、
 スープは少し冷めたら、そこから飲んでもらえたらって。」

「鍋から?直接飲むのか?」

「ご・・・ごごごごめん!!
 いやだよね!!アレン王子様だもんね・・・!
 あの、なんか使えそうなお皿とか落ちてないか見てくる!!」

怪訝な顔をした俺に、
カインが慌てて立ち上がった。

「いや、そんなのいらねえよ!
 お前どこ行くつもりだよ!
 そうじゃなくて、お前の分のスープは?って思っただけだ。」

「あ・・・・もし余ったら、一口ちょうだい。」

「そう言うことか。一緒に食うんだな。
 分かったよ。」

納得した所で、俺は出された炒め物を食べてみた。

「・・・・・!」

あの味のない、硬いばかりだった干し肉が
柔らかくなって、そればかりか味まで付いていた。
スープにもどうやって味をつけたのか分からないが、
味が付いていて、さらに野草がいくらか入っていた。

「うめ〜〜!!うまいじゃないか!」

「本当!?良かったーー。」

カインは安堵したように笑っていた。

「お前王子じゃなくて、料理人だったのか!?知らなかった!!」

「ええ?違うよ。料理なんてほとんどやった事ないよー。」

「そうなのか?いや、俺も料理とかやった事ないけど。
 こんな事やってみようとも思ったことねえ。」

「ふふ、そうだよね。
 少しは僕、アレンの役に立てそうかなあ・・・?」

「え。そうだな!」

俺は夢中でスープをすすった。
旅の疲れが癒される暖かさがあった。
そっかぁ、飯ってこんなにありがたいものだったなと気付かされた。

ぐびぐびと飲み続けて、
あっという間に飲み干してしまった。
そう言えば、カインと半分ずつ食べるはずだったのに、
鍋はひっくり返しても空っぽだ。

「げ!無くなっちまった!!
 悪い、お前の分まで、俺飲んじまった。」

「良いよ良いよ〜。
 僕味見したとき、飲んでるからさ。
 アレンが喜んでくれて良かった。」

カインは嬉しそうに笑っていた。

こいつがこうやって調理ができるんであれば、
もう少し、皿なり何なり用意があっても良いかもしれない。
旅の様相が少し変わってくるかもしれない。

今度街についたら、そこも考えてみようと思った。

「よし、飯も食ったし。
 少し休むか。」

俺は満腹になった腹をなでてから、
一度大きく伸びをした。

「うん、そうだね。明日にはきっとムーンペタ着けるよね。」

「そうだな。結構長旅になったが、もう少しだ。」

「アレン先に休んでて。
 火の灯りがあるうちに、ちょっと魔法の本読みたいんだ。
 もう少しでキアリーって魔法が覚えられそうで。」

「きあり?何だ、その魔法。」

「解毒の魔法だよ。
 これを覚えたら、毒消し草がいらなくなるんだよ。」

「へーー。」

なかなか便利な魔法のようだ。

「ちょっとでも魔法を覚えて、アレンの役に立てるように
 頑張るからね。」

「あ・・?ああ・・・。」

カインは妙にやる気満々のようだ。
別に邪魔する事もないと思って、俺は先に休む事にした。

「何かあれば、起こせよ。」

「うん。アレンお休み。」

俺も旅の疲れがあったのだろう。
横になると、急に眠気を感じ、そのまま眠ってしまった。





どこか遠くでざわつく気配を感じる。
人だ。人の叫ぶ声だ。

誰の声だ・・・?

俺はそこまで思考をめぐらせると、
がばっと起き上がった。
誰ってカインしかいないだろう。

起き上がって、周りを見渡しても
火の番をしているはずのカインの姿はそこにはなかった。

だけど、誰かが戦っている気配を感じる。
すぐ近くだ。

俺はその場を駆け出した。
いやな予感しかしなかった。

いくつかの木々を越えると、
カインが魔物と戦っていた。
リザードフライだ。

「ギラ!!」

カインはギラを唱えたが、
リザードフライの吐き出す炎にかき消される。
そしてカインの剣技が通用する相手でもなかった。

「馬鹿!!」

思わず俺はカインを殴りたくなったが、
それより先に倒すべきは
リザードフライだ。

今炎を吐いたばかりのリザードフライはすぐには次の炎を吐けない。
その特性が分かっていたから、
俺は先ほどカインが戦っていたリザードフライに近づき、
超接近戦で斬りつけた。

「うおお!!」

予想通り、リザードフライは反撃がすぐに出来ず動きがのろかった。
その隙に俺は魔物を斬り捨てた。

これで戦いは終わりだ。

俺は膝をついているカインの傍に駆け寄った。

「お前!何やってるんだよ、一人で!
 何かあったら俺を呼べって言ったじゃないか!!」

「ご・・・ごめん・・・。
 アレンまだ休んでたから・・・。」

「馬鹿!弱いくせに何言ってんだよ!
 お前、1人で何が出来るって言うんだよ!?」

「・・・・・・。」

俺の声にカインは力なくうなだれた。
先ほどの褒められて嬉しそうだった表情とは対照的に、
落ち込んだ表情だ。

少し気の毒に思ったが、
でも今のはこいつが悪い。

俺がそう思おうとしたとき、カインが急に立ち上がった。

「アレン後ろ・・・っ」

「え・・・・?」

急に、背後でがさっと音が聞こえた。
深夜なので気付かなかったのか、ぬっと現われたのは
今まで見たこともないような巨大な化物。

「な、なんだ・・・こいつ・・・!!」

巨大な猿の化物は丸太のような腕で
俺に殴りかかってきた。
その一撃に俺は吹き飛ばされた。

「ぐわあっ・・・・!!」

思わず受けた右腕が一撃で悲鳴を上げた。
鈍い音がした。剣を握ることさえ出来ない。

たった一撃で腕が折れたかもしれない。

「ア、アレン!!しっかりして!!」

俺の様子を見て、カインが慌ててホイミをしに
駆け寄ってきた。
だが、化物はそんな隙を与えさせてはくれない。

「ぐううう・・・・
 ぐおおおおーーー!!」

猿の化物は雄たけびを上げると、
再度襲い掛かってくる。

「おい、カインどけ!!
 猿野郎がこっちへやってくる!!」

「駄目だよ。」

何が駄目なんだ。
こいつ何言ってるんだ!?本物の馬鹿か!!

「駄目だよ。
 だって、アレンの怪我を治さないと・・・!」

「・・・!」

俺の腕がホイミを受けて見る間に治っていく。
剣を握れるようになるのと、
化物の第二撃にカインが吹き飛ばされるのが同時だった。

「・・・・カイン!!」

声もなく吹き飛ばされたカインは地面に叩きつけられた。

「カイン!!おい、返事しろ!カイン!!」

だが、何度呼びかけても返事も、一つのうめき声すらも聞こえなかった。

「・・・・・っ・・・・!」

全身が総毛立つような感覚を覚えた。
言わんこっちゃねえ。
カインは弱いんだ。強い魔物と戦ったら死ぬかもしれないんだ。

だから言ったじゃねえか。
俺は、お前を死なせたくないから、
だから、引き返せって言ったじゃないか!

・・・なんで、死なせたくないんだ?
なんで、俺はあいつを死なせたくないんだ?

死なれたら、迷惑だからか?
夢見が悪くなるから?

違う。

俺は、先ほど俺に褒められて嬉しそうに笑っていたカインの顔を思い出した。
あいつは、慣れない料理をして、でもアレンの役に立てて嬉しいと笑っていた。

俺と同じように剣での攻撃を真似て、
同じようには出来ないんだと落ち込んでいたカインの顔を思い出した。
だけど、あいつはその代わりに、
俺ですら疲れを感じていた夜更けにまだ魔法を覚えようと努力していた。

俺の傷を治そうと、自分の事を顧みずにホイミをしてくれたカインの顔を思い出した。

あいつはあんなに一生懸命だったじゃないか。
懸命に仲間として、俺に認めてもらおうと必死だったじゃないか。

どうして、俺は認めようとしなかったんだ。

あいつを死なせたくないのは、
あいつが隣国の王子だからじゃない。
俺の大事な仲間だからだ。

俺は剣を握る手に力をこめた。
右手も問題なく力が込められる。
これは、さっきあいつが治してくれたからだ。

俺は魔法が使えない。
ホイミを使えない。

だけど、絶対あいつを死なせたくなかった。

「ぐおおお!!」

猿の化物、確か図鑑で見たことがある。
こいつはマンドリルとか言う魔物だ。

だけど、相手が誰だろうと関係なかった。

「どけよ!!
 俺は・・・今気が立ってんだよ!!」

俺はマンドリルに向かって、剣を振りかざした。
無我夢中で繰り出した一撃は、
マンドリルの急所をつらぬく会心の一撃となったのだろうか。

巨体はぐらっとゆらめいて、
そのまま後ろに倒れた。

「・・・・・倒したのか・・・・。」

魔物の死を確認して、
俺はカインに駆け寄った。

こいつも・・・・死んでしまったのだろうか・・・・。

「おい。おい、カイン。」

そう言えば、こいつがホイミを覚えてから、
薬草の消費が減っているんだ。
確かまだ道具袋に余ってるはず。

無駄かもしれないが、
俺はまだこいつが死ぬなんて受け入れたくなかった。

薬草を取り出すと、俺はそれを煎じて
カインに飲ませた。

これが駄目なら、また湖の洞窟のときみたいに
こいつを背負ってでも、ムーンペタの街へ行く。
だから、絶対助けるんだ。

「死ぬなよ・・・。
 お前は、初めて出来た俺の仲間なんだよ。友達なんだよ。
 だから、死ぬなよ・・・・。」

俺は、思わずこみ上げるものを感じて、
顔をぬぐって、鼻をすすった。

「ア・・・レン・・・・?」

弱弱しく聞こえたその声に、
俺はバッと顔を上げた。

「カイン・・・!!?」

どうやら衝撃に気を失っていただけだったのか、
カインは目を開けて、
そして驚いたように、こちらを見上げていた。

「アレン、どうしたの?
 何かあったの・・・?泣きそうな顔をしてるよ・・!?」

「な・・・何かって・・・・。
 何もねえよ!!馬鹿やろう!
 泥が目に入っただけだ!」

まさか、お前が死んだと思ったなどとは言える訳が無かった。

「お前!ホイミ自分でしとけよ!
 お前を背負ってムーンペタに行くとか俺絶対嫌だからな!」

「う・・・うん。
 ありがとう。アレンが助けてくれたんだね。」

カインはゆっくり上体を起こすと、
自分にホイミを掛けた。これできっと本当に大丈夫だろう。

「明日も明後日も、旅は続くんだからな。」

「うん、そうだね。怪我、治しておかないとね。」

「お前は俺の飯を作るって役割も出来たんだ。
 だから、もう帰りたいって言っても、
 帰さねえからな。」

カインはその言葉に、少し驚いた顔をして、
そして嬉しそうに頷いた。

本当は飯を作るのなんて、
どっちだって良い。

いや・・・美味かったのは本当だし、
どっちだって良くはないが。

それよりとにかく、こいつを帰さない理由が、俺も欲しかったのだ。

こう見えて、俺は少しこいつを頼りに思い始めているのもしれない。
同時にすごく不安もあるのだが。

「だから、お前もっと強くなれよ。」

「あ、ありがとう。うん。
 アレン、ありがとう。」

俺の言葉に、カインは何度も頷いていた。




- 終 -

2014/06/16

▲



 後編は、アレンがただのツンデレさんみたいになってました(笑)。
 少しずつ弱いカインを認めつつ、認めた自分も認めつつ。
 認めるにも色んな理由付けがいるようです。素直じゃないですね。
 ムーンペタ周辺ではマンドリル注意ですよ。
 
更新の活力。楽しんで頂けました ら是非ポチを。→