89−1.価値観


「やけに、あっさり通されたなあ〜。」

俺たちは無事にローラの門を通されて、
一路ムーンブルク大陸へと向かっていた。

「通してもらえて良かったね。
 今更、帰れって言われても困っちゃうもんね。」

ホッとしたように笑うカインをチラッと振り返った。
のんきそうに笑うこいつが俺の連れだ。

そもそも俺は、ローラの門には一度来ている。
だが、そのときは1人では危険だからと頑として通してもらえなかったのだ。
通過の条件として、サマルトリアの王子を連れて来いといわれた。

しかし、危険があるからと言って通してもらえたなかった場所に、
こいつと一緒なら大丈夫と判断されるのは、釈然としない。

カインは剣の方はまだまだだし、魔法もすぐ力尽きるし、
危険なら、よっぽど増すと思うんだが・・・。

「帰りたくないとか、そんな子どもみたいな感情でいられても
 困るんだが・・・・。」

ぼそっと呟いた俺の言葉は、カインの耳に入っただろう。

「あ、アレン!あそこ!!」

が、俺の言葉に対する返事はなく、
唐突にカインは前を指差した。指し示す先には階段があった。

「階段だな。もしかして、もう洞窟の出口か?」

薄暗がりの洞窟だったが、階段の上からは
地上の明かりが差し込んでいる。

「やった!地上だーーー・・・?」

いざ、ムーンブルク大陸と喜び勇んで階段を駆け上がった先は
何もない小さな小島だった。

「・・・・あれー?ここは、どこだろう?」

不思議そうにしているカインに、ため息をつきながら俺は答えた。

「ここは、ハズレだろう。多分道を間違ったんだ。
 さっきの曲がり角か。チクショウ、さぁとっと戻ろうぜ。」

ぬか喜びだったなと思いながら、再度階段を下ろうとしたが、
カインがついて来ない。
なにか、あさっての方向を見ながらぼうっとしている。

ああ、もう、こいつのこういう所が理解できない!
なんですぐに道草食うんだ。

「おい、カイン!!
 何ぼっとしてんだよ。とっとといかねえと日が暮れるぞ。」

「え、・・・ああ。」

俺の掛けた声が耳に届いたのか、カインが振り返った。

「ねえ、アレン。
 あっちがムーンブルク大陸だよね。」

カインが指差す先には広大な大陸が広がっている。
確かにあれがムーンブルク大陸だろう。

「ああ、そうだな。
 そう言えば、ムーンブルク大陸と言えばな。」

俺は、聞いてきた情報をカインに聞かせてやろうと思った。

「今までと比べてすっげえ魔物が強いらしいぜ。
 よっぽど頑張らないとー・・・・。」

「ここからだと、ムーンブルク城は見えないね。」

「は?」

なんだか、話がかみ合わない。
カインはまだどこか遠くを見ているようだ。
俺は少しいらっとした。

「見える訳ねえだろ!
 まだここからムーンブルク城までどれだけあると思ってんだ!
 先にあるムーンペタって街が目的地だよ。」

「うん。
 急ごうか。」

「急ごうかってお前な・・・。」

元の階段を下りつつ、俺は激しく脱力した。
こいつの行動のテンポが、何だか俺とあわない。

ぼーっとしてたり、急ごうとか言い出したり、
俺の話も、さっきから聞いてるんだか聞いてないんだか・・・。

湖の洞窟では、それなりにこいつも頑張ってるんだと見直したが、
気のせいだっただろうか。

考え事をしながら、元の薄暗い洞窟へ戻ると、
突然、魔物の強襲にあった。

「・・・・!!兜ムカデの群れか!」

俺は魔物の先制攻撃を剣で受け止めた。
この魔物なら何度か戦った事もある。
当初は少々手に余ったが、今なら力技でねじ伏せられる。

「おらあ!!」

受けた剣をそのまま返して、
兜ムカデの急所に突き刺す。
そして勢いそのまま横一閃になぎ払う。

兜ムカデはその攻撃に、
尾を何度か上下に振って暴れていたが、
次第に息絶えて動かなくなった。

「ふぅ・・・。」

無事に魔物を倒した。
が、ふと見るとカインは兜ムカデ相手に苦戦しているようだ。

「ううう・・・・。」

どうやら俺と同じように剣で兜ムカデを斬り捨てようとしたが、
その硬さに刃が通らないらしい。

「なーにやってんだ!」

魔物の意識がカインに向いている間に、
俺は剣を振るって兜ムカデの群れを全滅された。

「ああ・・・アレン・・・・」

カインは構えてきた剣をようやくおろして、
アレンに頭を下げた。

「ああアレンじゃねーよ!
 あんな奴相手に油断してるんじゃねーよ。
 お前にはギラがあるだろう!」

「そ、そうだね。
 僕もアレンみたいに出来るかなって思ったんだけど・・・。」

「俺みたいに?剣で力押しするってのか?お前が?」

「う・・・うん。アレンがさっきやったみたいに。」

「馬鹿。100年はえーよ。」

俺はその発言に呆れた。
剣を使いはじめたばかりの初心者が、
俺と同じやり方で戦える訳なんてない。

今の魔物は大して強くないから良かったが、
こんな事では、強力なムーンブルク大陸の魔物と戦えるのか。

下手したら、本当にこいつ死ぬんじゃないかと思った。

何度か魔物と戦いながら、洞窟を進みながら、
俺の頭にはその不安がよぎっていた。

洞窟を抜ける前だ。引き返させるなら、
今がラストチャンスじゃないかと思った。

恐らくもう少し進めば、この洞窟は終わってしまう。
その前に・・・。

「カイン、少しこの辺で休憩しようぜ。」

「休憩?うん、そうだね。」

その言葉に、少しカインは安堵したように息をついた。
何度かの戦闘でいくらか消耗もしていたのだろう。

「ほら、食うか?」

俺は貴重な保存食の干し肉をカインに手渡した。

「あ、ありがとう。
 これ、どうやって食べるの?」

「あん?どうやってって、そのまま食うんだよ。
 まさかお前王宮の料理長が俺達の飯を調理してくれるとでも
 思ってんのか?」

「え、いや・・・そんな事思ってないけど・・・。」

カインは俺が渡した干し肉を口にくわえた。
中々噛み千切れないようで、何度も咀嚼してるようだ。

まぁ、こいつの飯の食い方まで世話なんかしてられるか。

俺も自分の分の干し肉を食い始めた。
保存や持ち運びには便利だが、
正直美味くもなんともない。

だが、過酷な旅をしているんだから、それくらい仕方の無い事だ。
次にまともな飯を食えるのは、ムーンペタの街だろう。

早く街へとたどり着きたい。
だが、その前に・・・。

「なぁ、カイン。俺はお前の為を思って言うんだが・・・」

「うん?」

いまだ干し肉と格闘しているカインに対して、
俺は思っていることを言った。

「俺、お前はやっぱり帰ったほうが良いと思う。
 だってな、ここから先は魔物が・・・」

「魔物が強力になっていくから・・・?
 ムーンブルク大陸の魔物は今までと比べ物にならないから。」

「・・・!
 そ、そうだよ。何だよお前、さっきの聞いてたのか。」

俺がさっき小島で話したことなんて聞いてないと思っていたが、
聞いていたらしい。

「聞いてたし。知ってるよ。」

「そ・・・そうか・・・。」

別に驚いた風でもなくカインはそう答えた。
知っているなら、話は早い。

「僕は、まだこの近辺の魔物でさえ
 一撃では倒せないもんね。」

リリザで出会ったときよりは、いくらかマシにはなった。
魔法だって覚えた。

だけど、まだまだカインは弱かった。

「今なら、引き返せるから。だから、お前・・・。」

「でも、帰らないよ。
 帰りたくない。」

「帰りたくないとか、そんな子どもみたいな事を言ってる場合じゃねえだろ!」

俺は思わず声を荒げて怒鳴ってしまった。
少し驚いたようにカインは顔をあげたが、それでも首を縦には振らなかった。

「僕は・・・アレンみたいには戦えないもんね。
 さっきも、アレンの真似をしてみたけど、僕全然駄目だったんだ。」

どうやら先ほどの兜ムカデとの戦いは
俺の戦い方を意図的に真似てみたらしい。

「そうだろう。お前・・・、正直に言うぞ。
 こんなんじゃ、死ぬぞ。」

誰だって死は怖い。
それは俺だってそうだ。

だけど、少しの間だけだったが、一緒に旅をして、
こいつが悪い奴じゃないというのは分かった。
むざむざ死なせたくなかった。

「死ぬのは、怖くないよ。」

だが、何も動揺した様子もなくカインは答えた。
死は怖くない。

俺の目を見てそう言うカインの表情は、いつになく真剣だった。

「それに変だよ。アレン。」

「変・・・?」

「自分の気持ちばっかり言ったりしてさ。
 危険だから、だから僕は帰って、
 アレンは一人で死ぬかもしれない旅を続けるって言うの?」

「お、俺は・・・!」

俺は、ずっといつか来るかもしれないこんな有事を想定して
何年も前から剣の修行を重ねてきた。

正直、ローレシアの誰にも負けない自負がある。
俺がロトの血を引くからではなくて、
ローレシアで誰かが旅に出るんであれば、
俺が適任だと、自分でも思っているのだ。

カインはそうではないじゃないか。
剣だって、ほんの数日前初めて手にしたようなものだ。

「そっか・・・。
 僕はまだ君に仲間と思ってもらえてないんだね。」

「えっ・・・。」

俺がカインを、仲間と思っていない?
・・・そもそも仲間とは、何だ?

「でもアレン。
 アレンが僕を仲間にしてくれないなら、
 それでも仕方ないと思うけど。
 でも、そしたら僕は1人でも行くよ。
 ムーンブルクへ。」

「は、はぁぁ!?
 1人で行くって、お前何言ってんだよ。
 2人で行っても死ぬって俺が言ってんのに!
 お前もしかして自殺志望者なのか!?」

「とんでもない。」

俺の問いにはぷるぷるとカインは首を振った。

「死ぬのが怖くないとは言ったけど、
 僕、死にたい訳じゃないよ。
 だけど、アレン。
 既に1人仲間が生死に瀕して戦ってるんだよ。」

「・・・・・それって・・・・。」

「ムーンブルク城でさ・・・。」

マリアの事だろう。
ムーンブルク壊滅の報は届いても、
王女のマリアの生死はいまだ不明だった。

俺はため息をついた。

「だからお前も、死を恐れずに、
 ムーンブルク大陸の魔物とも戦うってのか。」

「うん。僕もマリアを助けるために戦いたいんだ。」

はぁ、結局ここに戻るのか。
どうやら帰れと言っても帰らないらしい。
仕方ない。
諦めて、このまま先へ進むか・・・。

「どうやら、言っても無駄なようだな。
 1人で行って討ち死ぬくらいだったら、
 まだ俺と一緒に行った方がなんぼかマシだろう?」

その俺の言葉にカインはホッと笑みを浮かべた。

「ありがとう!
 アレンは強いから、きっとどんな魔物にでも勝てるから、
 だから、きっとアレンはマリアを助けてくれると思ってるんだ。」

「ん?」

「そのためなら、いくらでも僕はアレンの盾になるよ。」

「ふっざけんな。」

俺はカインのその言葉は聞き捨てならなかった。

「弱いお前を誰が盾にしようとするかよ。
 何度も言わせんな。
 お前に死なれたくなんかないんだ。」

「ありがとう。アレンは優しいねえ。」

「なんっじゃ、鳥肌立つわ。
 ほら、もう休憩終わりだ。
 行くなら、行くぞ。お前も行くんだろ。」

「うん!」

結局元通り俺達は2人で先へ進む事になった。

しかし、ふと頭に引っかかった。
何故、俺はこいつに死なれたくないと思うのだ?

俺が優しいから?いや、違う。
そんなんじゃねえ。

「・・・・・・。」

夢見が悪くなるからかな。
仮にも隣国の王子が死んだりしたら
ややこしい事になりそうだしな。

そうだよ。
ややこしい事に巻き込まれるのはごめんだ。

さっさと、ムーンペタの街まで行ってしまおう。




- 続く -

2014/06/16

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 硬かった最初の頃の男2人旅。
 「銀 の鍵」「犬」の間に入る話かな。
 友情は三歩進んで二歩下がる。アレンも不器用ですから。
 
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