静かなテパでの夜。
アレンとカインは、マリアの部屋から出て
自室に戻ってきた。
3人は宿でささやかな祝宴を開いていた。
豪華なご馳走がある訳でも
年代もののワインがある訳でもない。
パーティードレスに身を包んだわけでもない。
正直、各々の国で開かれていた誕生会と比べるべくもなく
今までの人生で一番地味な誕生日だったかもしれない。
それでも手作りのケーキや、いつもよりもちょっとだけ豪華な食事取った。
まぁ手作りのケーキはつぶされてしまったので
ぐちゃぐちゃになっていたのだが・・・。
それすらもいつか良い思い出になるかもしれない。
「はぁ・・・・。」
「お前いつまで凹んでるんだ。」
「だって、、せっかく作ったのにぐっちゃぐちゃでさぁ。」
「美味かったぜ。
味と形は関係ねーー。」
アレンは本心を言った。
つぶれたケーキを食べようといったのはアレンだ。
別に土にまみれてしまったわけではない。
せっかく作ったのに食べずに捨てるなんて
そんなのは食料にとって失礼だと言う考えがあった。
「それなら・・・良かったけどさ・・。」
時刻は既に夜だ。
マリアも間もなく眠る頃だろう。
カインは寝台に転がって、隣にいるであろうアレンに話しかけた。
「アレンー、明日には水の羽衣出来てるかなあ?
マリアに似合うと良いなあ。
水門も開いてみるんだよね。川の流れが変わるのかなあ。」
カインの呟きに返信はなかった。
「?アレン・・・?」
怪訝に思って体を起こそうとすると
どしっとアレンが目の前に腰を下ろした。
「うわっ、急になに!?」
「よう。ちょっと聞きたかったんだが・・・。」
アレンはカインの驚いた顔を覗き込んで言った。
「お前さ、何であんな真似をした?」
「あんな真似って・・・・?」
「炎で一般人を攻撃しただろう?あっぶねえ。」
「ああ。」
カインは今日の出来事を思い出した。
マリアにちょっかいを出し、自分に斬りかかって来たあの男のことだ。
「ケーキつぶされて、お前そんで怒ってあんな風に・・?」
「それだけじゃそんな事しない。
あの人マリアに変なことを・・・。」
「変なことって何だ?」
「マリアを傷つけてた。」
カインの言葉にアレンはいぶかしんだ。
「怪我なんてしてたか?マリアは。」
「怪我とかじゃなくて・・・・追い詰めていた、マリアを。
それに自宅へ連れ込もうとしてたんだよ。」
カインの瞳は思い出したような怒りを帯びていた。
「マリアに言う事も視線もふざけてて、冗談じゃないって思って、
頭を冷やさせてやろうって・・・。」
「で。燃やしたわけか。なるほど、そう言う事ね。」
「燃やしてないよ!直前で消したでしょ、炎は。」
炎が消えたところはアレンも見ていた。
その前の流れが分からなかったが、
カインの説明で大体の事は分かった。
「そりゃ、大焦げになってたらえらいことだよ。」
「いくらなんでも燃やしはしないよ。」
そりゃそうだ、とアレンも納得した。
こいつ怒りつつ冷静だから、器用な奴だなと思った。
「しかし、お前はいつもマリア、マリアだな。」
アレンの一言に、カインが若干変な顔をしたので笑った。
「何だよ、その顔。テパに着くまでもよくマリアのこと見てたしな。」
「・・・だって・・・マリアは命の恩人だよ?」
「ふーん・・・・。じゃあ、俺は?」
アレンが妙にえらそうに自分を指差したので、
カインはぶっと吹き出した。
「何それ、分かってるよ。二人は僕の恩人だ。
何かあればアレンのためにも何でもするよ?」
「ほーっ。」
「・・・アレンもマリアも強いけどね。僕よりずっと強い。」
「・・・・・・・・・・ほう?」
あえて否定せずに続きを促した。
「だけど、その強さは戦闘においてなんだ。
マリアと一緒に旅をすると思うけど、それ以外はやっぱり
普通の女の子だよ。」
「で?」
「で・・・?で、って何だよ。
僕らは男だろ。だから、僕はマリアを守るんだ。
マリアが来たるべき戦うべきときに全力で戦えるように、
それ以外は余計な心配はしなくて済むように。」
こうやって改めて口にするのも何だか気恥ずかしいが、
カインは自分の考えを口にした。
「そっか・・・。でさ。戦いが終わったら?」
アレンはじっと話を聞いていたが、
ごろんとカインの寝台に寝転がって別の質問をした。
「え?」
「終わってもさ・・・・一緒にいられるのか?
なあ、お前はどう思う?」
アレンはうつ伏せに転がったままカインに聞いた。
うつ伏せのため表情は分からない。
「・・・・え・・・、一緒に・・?・・は・・いられない・・でしょ?
アレンは王様になるんでしょ?」
「あっはは王様?ローレシアの??笑えるな。
俺は王子とは認められてないぜ?」
アレンの発言にカインは驚いた、何を言うのだ彼は、
「何言ってんの?とんでもないよ。
皆アレンの事大好きだったじゃないか。」
「そりゃあ親とかしか会ってないだろ、お前。
俺なんてただの怪力馬鹿だって思われてる。
ロトの血だって怪しいもんだって。」
「どーしたのさ?アレン。」
カインは寝転がってるアレンを心配そうに覗き込んだ。
「魔法が使えないからって、そんな事言うの?
あんなにロトの装備を使いこなせて
ロトの血が怪しいなんて良く言えたもんだよ?」
そう言ってカインが笑った。
「アレンの振る舞いはいつもカリスマ性があって、
人々の心をすぐに掴んでいる。
だから・・・・絶対良い王様になるよ。」
「よく言うぜ・・・。」
アレンはパタパタと手を振った。
「ご両親だけじゃないよ。クレハさんだって待ってるよ。
マリアだけじゃなくて、僕はアレンも絶対助けて無事に
帰ってもらおうって思ってるよ。」
その言葉にアレンは思わず起き上がるとカインの手を掴んだ。
「だったら俺もだ、俺もお前をサマルトリアまで連れて帰る。
だけどずっと先まで、お前は俺に着いて来て欲しい。」
「ア・・レン・・・?」
カインがきょとんとしている。
なんだ、その宣言はって言う顔だ。
言ってることが相反して矛盾している。
無事に連れて帰っておきながら、
その後も着いて来いとはどう言う事だ?
「あ、分かった。アレン酔っ払ってるな?
酔ってるから支離滅裂なんでしょ?」
カインはそう言って笑ってアレンの隣に寝転がった。
「酔ってねーー。」
アレンは不満げに隣に寝転がったカインをつっついた。
「痛い痛い。
いーよ、分かったよ。
君が呼ぶならどこでもついていくけど・・・。」
「本気か?お前だって、王様になるんだろう?
サマルトリアの。」
アレンは驚いて念を押した。
だが、カインは冗談なのか本気なのか笑って応えた。
「そんな事、分からないよ。」
本気でそう言ってるんだろうか?
そう言えばこいつの口から、いつか王になるとは聞いたこともない。
って事は・・・?
酔っ払いの戯言だと・・何を言っても許されるだろうか?
アレンは聞いてみた。
「だって、お前はマリアが好きなんだろ?
マリアと一緒にいるんだろ?」
「何さ、それ?
だからどうしたって言うの。」
カインがどんな表情をしているのかは見ることができなかった。
いつもこんな事を聞いたら、
顔を赤くするなり困った顔をするなりするが、
カインは表情を変えることなく言った。
「だけど、きっと・・・・一緒にはいられない。」
「・・・・・・・カイン?」
アレンは息を呑んだ。
なんだ?じゃあこいつが見ている未来は何なのだ?
そしてカインはさらに付け足した。
「あー、でもそう言う意味なら、僕は君ともずっと一緒にはいられないね。」
「は?え???どういう意味だよ。
さっきは俺についていくって。」
アレンはカインの手を引いた。
こいつの言っていることが分からない。
するとカインはアレンの手をはらった。
「ふーん、酔っ払いには言わないよ〜だ。」
「カイン!酔ってねーって!」
カインは起き上がって、アレンを通り越して隣の寝台に移ろうとした。
が、アレンがその足を引っ張って捕まえた。
「ぶっ!!」
勢い余って、カインはしたたかに地面に顔面をぶつけた。
「いったーーー!!何するの、アレン。」
赤くなった鼻を押さえながら、文句を言った。
「お前の言うとおり、俺は酔ってるのかもしれねー。
だから戯言として聞いてくれても良いし、
聞いてくれなくても良い。」
「・・・・・・・は?」
アレンは、寝台の隣をポンポン叩いてとりあえず座れと促した。
「俺は・・お前が思うほど強くない。
お前らがいなかったらここまで来れてない。」
カインは若干驚いたような顔をした。
「そんなの一緒だよ。
僕も強くない。きっとマリアも。誰もそうだ。
一人じゃあ弱いんだ。
君が不安になったら、僕らがいるよ。」
「それで良いのか?
お前が言う、ロトの勇者がそんなんで良いわけないだろ?」
「じゃあ、君はロトの勇者様じゃないのかもね?」
「なるほど、お前がロトの勇者か?」
アレンの問いにはカインは首を横に振った。
こいつ絶対こういうのを認めないよな・・と思った。
だが、カインの言ったことは少し意外だった。
「ロトの勇者がどんなのかは僕は知らないよ。
君がロトの勇者じゃなくて、ただの人だって言うのなら、
それでいいじゃない。」
ただの人であったとしても良い・・。
何て言おうか少し困っていたが吹っ切れたように付け加えた。
「それでも僕は信じてるよ。
ただの一人の人である、アレンの強さを。
だから、アレンはアレンらしく。いつだって君らしく。
それできっと大丈夫だよ。」
「大丈夫・・・・・。」
「ねぇ。酔っ払いのアレンさん、どうしたの?
らしくないからびっくりしたよ。」
カインは可笑しそうに笑った。
「確かに俺は酔ってるかもしれねえ。」
「やーい、酔っ払い〜〜。」
カインはアレンをからかう様に立ち上がった。
「少しでも・・・一緒に行こうね。アレン。」
「・・・・・・・・・カイン・・・・。」
アレンはふと不安になった。
もうカインにはあんなに苦しんだ呪いは残っていないはず。
元気になったんだ。ピンピンしているはずなんだ。
なのに、どうして、なんで、こんなに消えそうなんだ?
こいつが見ている未来は何なんだ?
アレンはバッと起き上がると、思わずカインを両手で捕まえた。
「うわっと。どうしたの?びっくりした。」
そこには確かにカインがいた。
この暑い夜だ。汗ばんだ体温の熱さも感じた。
自分も熱い。
当然だが、くっつくとさらに熱い。
「うん・・・あっちー。」
「ちょ、もう!文句言うくらいだったら離してよ。」
カインはアレンをぐいーっと離して言った。
「アレンこれ以上抱きついたら、抱きつき魔って呼ぶぞー」
別段怒ってる様子でもないがカインは両手を組んでそう言った。
そこにカインはいる。手を伸ばせば届く。
・・・まぁ、これ以上手を出すと本気で嫌がられそうだが。
「カイン、お前もだぞ。不安に思うことがあれば・・
俺たちに言え。いつでも、そばにいる。」
アレンの一言にカインは目を伏せて言った。
「そうだね。ありがとう。」
- 続く-
2012/07/22
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