不安定な天候だったが雨が上がると
からっと明るく晴れて眩しいくらいだった。
アレンたちは無事にザハンに到着していた。
「あっちーなーー。」
アレンは手で風を送るべくパタパタと仰いでいる。
「素朴な街だね。村って言う感じかな。」
カインはきょろきょろとテパの村を見渡している。
店舗もいくつかあるようだが、それほど賑やかな様子でもない。
ドラゴンの角で手に入れた雨露の糸、
そして紆余曲折を経て再度訪れたザハンで手に入れた聖なる織り機、
これらをこの村の羽衣つくりの名人に渡しに来たのだ。
一説によると、天女が着るような伝説の羽衣が
出来上がるらしい。
「その名人とやらは、どこにいるんだ?」
「わかんないね。聞いて回るしかないかな。」
それほど広い村ではなさそうだ。
すぐ見つかるだろうと思った。
だが、村人たちに聞いてまわってもよく居所が分からない。
「あんまり人と接しない人のようね・・・。」
マリアも困ったように呟いた。
村を歩きつつ、額に汗が伝うのを感じる。
暑いだけではなく、風さえ感じられない村だった。
仕方なく、一旦宿で休息をとることにした。
病み上がりのマリアを炎天下の中あてもなく、
うろつかせたくないという配慮だった。
荷物を下ろして、3人は軽く食事を取った。
「ねぇ、アレン・・・ちょっとさ、良い?」
しばらくすると、なにやらカインが秘密話をするように、
アレンの袖を引っ張って席を立った。
「おい、なんだよ?」
アレンとカインが少し離れたところで
何かを話し合っている。
アレンはその話を聞いて、何か驚いている様子だ。
「・・・・・・・・・?」
マリアには何のことか分からなかった。
二人は話し終わると、何かを確認しあって
そのままカインはアレンに何かを任せて、
マリアには手を振って、出て行ってしまった。
「・・・・・・・??」
先に行ってしまうなんて聞いていない。
アレンの方は何食わぬ顔をして戻ってきた。
「どうしたの?カインはどこ行ったの?」
「あ?ああ・・・。村の中を調べてくるって。」
「え、そんなの3人で行けば良いじゃない。」
何故そんな内容のことを
アレンとカインでこそこそ決めたんだろうか。
マリアは不審に思った。
「まぁまぁ、マリアは寝てれば良いさ。
宿はここでいいだろ?」
「この間の事を心配しているの?
それなら、もう大丈夫よ。私も行くわ。」
実際もう熱もないし、体調も良くなっていた。
だがアレンは首を横にふった。
「マリア〜、体調管理は、大事な仕事だぞ!
休めるときに休んどかないと。」
いつになく真剣な様子のアレンに驚いた。
「ど、どうしたのよ?そんな大きな声出さなくても。」
「俺も長い旅の間に色々思うことがあったって訳だ。」
「・・・・・・・・。」
確かにアレンはカインのときに
気づくことが出来なかったと後悔していたようなので、
アレンの言いたい事は分からないでもなかった。
「・・・分かったわ。大人しく休んでいるわ。」
「ああ、そうしてくれろ。」
マリアがそう言うとアレンは安心したように笑った。
「じゃあ、また後でなー。」
アレンは大きな織り機を持って村へと出て行った。
マリアはそれを見送ると、仕方なくベッドに横になった。
眠気なんてちっともない、と思っていたが、
長旅の疲れだろうか、横になっていると、
うとうとと浅い眠気を感じた。
確かにテパに来るまでの道中は久々に陸路での長旅だった。
まだまだ自分には体力が足りないのかもしれない。
これでも最初の頃よりは大分体力がついたつもりなのだが・・。
まだまだ自分は、あの二人の足を引っ張っているんだろうか。
そんな事を考えている内、いつの間にかマリアは眠っていたようだ。
***
窓から夕焼けの横日を感じる。
その眩しさにマリアは目を開けた。
「・・・・・・・。」
回りを見渡すと、時刻は夕方になってきたいるのが分かった。
思いのほか長く眠っていたらしい。
どうやら体の疲れは取れたようだ。
幾分体が軽くなったような気がする。
起き上がって部屋を見渡してみても誰もいなかった。
「アレンとカインはもう戻ってるかしら?」
隣の部屋が二人の部屋だった。
マリアは隣の部屋へ行き、ドアをノックした。
「ねぇ、長く休んじゃってごめんなさい。戻ってる?」
ノックをしながら声をかけてみたが、帰る声はなかった。
「・・・・・・・まだ戻ってないの・・・?」
マリアはすごすごと自室に戻った。
自分が椅子に座って軋む音が妙に響く。
静かな村だ。
宿の廊下からも、窓の外も、何の音もしない。
いつもアレンが騒いで、カインがそれを静止して・・、
3人でとにかく賑やかな日々だったのに、
こんなに静かだとなんだか妙な気分だ。
「いつ帰ってくるのかしら。」
マリアは窓の外を覗いた。
そもそも、アレンは聖なる織り機を持って目的を持って
出て行ったとして、カインはどこへ行ったと言うのだ?
雨露の糸もアレンが持っていたはずだ。
「・・・・・・・・・・わからない。」
カインはいつも優しいのだが、
何を考えているのか自分には分からないことが多い。
呪いの時だって、アレンにとってもそうだろうが、
自分にはあまりに想像を超えた話で俄かには信じられなかった。
あの全身が凍りつくような感覚を覚えたのは
そう古い話ではない。
じゃあ、今は何をやっていると言うのだ?
どこにも行かないと言っていたはずなのに、どこに行ってしまったのだ?
そして私はここで何をしているのだ?
アレンに寝ていろと言われて馬鹿正直に
ずっと寝ていて良いのだろうか?
体調なら良くなったのだ。
マリアは宿を出ることにした。
陽は傾き始めているが、まだ気温は汗ばむくらい暑い。
村は良く見ると何本かの川が流れている。
だが、川は今にも枯れてしまいそうだ。
「?」
川が枯れかかっているのは、何故か理由があるのだろうか?
「川はもう枯れかかっているのさ。
この村はもう終わりだ。」
「え?」
背後から見知らぬ村人の青年に話しかけられて
マリアは振り返った。
青年は村人でないマリアを物珍しそうに眺めた。
「あんたどこから来たんだ?」
「私?陸路で来たわ。この村に何かあったの?」
「へえ・・陸路で。意外とタフなんだなお嬢さんは。
昔は、船で来れたんだよ。この村にも。」
青年の意外な話にマリアは驚いた。
「そうだったの?船ではとても来れなかったわ。
川が閉ざされていたもの。」
「そうだろう?徐々に水路は閉ざされて、
この村の川の枯れてきているんだ。
この村はもうお終いなんだよ・・・。」
青年はがっくりと頭を垂れた。
「それは・・本当に?」
一体何故そんな事が起きているのだろうか?
これもハーゴンたちの仕業なのだろうか?
マリアの哀れむような声に
青年がパッと顔をあげた。
「だが、綺麗なお嬢さんがこの村に来たのは何かのご縁だろうさ。」
「え?」
「あんたみたいな綺麗な・・お人形さんみたいなお嬢さんは
初めて見た。」
青年が一歩こちらに近づいてきた。
真意が分からず、マリアは思わず一歩後ずさった。
「おい、逃げんなよ。
俺んちがあそこにあるんだ。寄っていきなよ。」
不躾にその男はマリアの手を掴んだ。
思わず嫌悪感を感じて、マリアは手を引こうとした。
「おおっと、そうはさせない。手放さないぜ。」
マリアが力を入れると、男は両手でマリアの手を強く掴んだ。
「い、いやよ・・!離して!」
マリアは思わず叫んだ。
一体何故この青年はこんな事をするのか、
急な出来事で訳が分からなかった。
冷静さを欠いたマリアの周囲に
風が巻き起こった。
「ぐあ!」
巻き起こった風は男の体を激しく巻き込んで、
そして通り過ぎていった。
「あ・・・!」
マリアは目の前の出来事に激しく後悔した。
魔法がこの人を傷つけた。
相手は魔物ではない。一般の人間なのにだ。
なんて事をしてしまったんだろう。
青年は腕から血を流してこちらを睨みつけてきた。
「なんだ、お前は何者なんだ・・・。」
不幸中の幸いか、さほど大怪我には至らなかったようだ。
青年は痛そうにしながらも、さらに手を伸ばしてきた。
本当に深刻な怪我であれば、動かすことも出来ないだろう。
そう思うと少しほっとしたが、
そうこうする内にも、負傷したその腕は再度マリアに掴みかかった。
「まぁ、良い。後で、詳しく聞かせてもらうぜ・・・
さぁ、来て貰おうか。」
やはりこの男はマリアを連れて、
その自宅とやらに行こうと思っているらしい。
行きたくもないが、怪我までさせてしまって断ることは出来ない。
そこで腕の治療をした方がいいだろうとも思った。
マリアは今度は嫌がらなかった。
「分かったわ。行きます。」
「それで良いんだ・・・・。」
やや息も荒く気色ばんだ様子で男は頷いた。
その時、男の肩をトントンと叩く者があった。
「ちょっと・・・・マリアをどこに連れて行くって言うの?」
「あ!」
何か妙に大きな荷物を両手に持ったカインであった。
「なんだお前は!?」
いきなり妨害された男は明らかに機嫌を損ねた様子だったが
気にせずカインは聞いた。
「なんだお前は?って・・・それはこっちの台詞なんだけど・・。
あなた誰で、マリアをどこへ連れて行くつもりなの?」
「カイン・・・違うの、私・・・。」
「そこの女が俺の手をこんなにしたんだ!
ちょっと治療代を払ってもらおうと思ってるだけだ。
何、悪い風にはしない・・・・!」
カインはちらっとその男の腕を見た。
どうも性質の悪いやつに引っかかったんだなと思った。
「そう・・・じゃあ、これで良い?」
カインは大きな荷物を右手に持つと、反対の手をかざして
ベホイミを唱えた。
男の負傷はみるみる回復していく。
「治ったでしょう?これで。
マリア行こうよ。」
カインはそう言ったが、男は納得しなかった。
マリアも何故だかその場を動こうとしなかった。
「ふ、ふん・・・!怪我をさせました、包帯で手当てしました。
それでめでたしめでたしって訳に行くか!
こいつは魔性の女だぞ。きっちり取り締まらねえとな!」
男は怪我が治ってもマリアを許す気はないようだった。
マリアも何も言わなかった。
男の言う事に従うつもりなんだろう。
だがカインは動揺する様子もなかった。
浅く笑って言った。
「そんな訳ないでしょ?」
「何!?」
「マリアが何も理由なく、人を傷つける訳無いでしょう。
大方、あなたがマリアに変なことをしたんだ。」
マリアはその言葉にハッとした。
カインは自分を信じてくれていた。
だが、その言葉に男の方はいきり立った。
急に胸元から小さなナイフを取り出して
カインに斬りかかった。
「えっ。」
さすがに斬られるようなヘマはしなかったが、
対して武器を出すわけにも行かず
横に避けるしか出来なかった。
「悪いことはいわねえ。
あの女の魔法力が暴走したのは本当のことだ。
もう一度詳しく調べる必要がある。ここはこいつで手を引きな!」
この攻撃はかわしたかと思ったが、
男はカインに斬りかかると見せかけ、
右手に持ってる荷物に向かって体当たりした。
ぐしゃっという音がして荷物が地面に叩きつけられた。
「あっ!!何するんだ!」
カインは思わず叫んだ。
今まで冷静だったカインが声を荒げたことにマリアは驚いた。
何か大事な買い物でもしてきたのだろうか?
「魔法力の暴走だって?
そんなに見たければ、見せてあげるよ!」
「えっ、えっ・・・?カイン何を・・?」
言うに事欠いて何を言い出すのかと思った。
だが、その言葉は本気だったのか、
カインの体の回りに緑色の光が走ったと思ったら
それは赤い炎に変わった。
「ちょっと!!カイン何を!!」
対する相手は言葉もなく、顔色も蒼白で色を失っていた。
それは無理もないだろう。こんな魔法はそうそう目にすることはない。
そして一歩間違えると丸焦げなのだ。
「や、やめなさ・・!!!」
マリアの制止を聞く暇も無く、
カインが左手を突き出すと炎は容赦なく男に襲い掛かった。
あわや大惨事になるかと思われた。
だが炎が男の体に達するや否や、その炎は一瞬でふっと掻き消えた。
辺りに残った熱風だけが、今の現象が幻でないことを伝えた。
「どう?肝が冷えた?」
淡々とカインは言った。
男はふらふらと尻餅をついた。
しばらく唖然としていたが、呆然としたまま
「な・・・なんだ・・・今の・・・・・・。」
と呟いた。
マリアにははっきりと分かった。魔法力の暴走なんかじゃない。
今のは、暴走のように見せかけて、100%コントロールした結果だった。
はっと気が付くと回りに何人かの村人が何事かと思って
集まってきていた。人々がざわめいている。
この騒ぎが気にかかったのだろう。
確かに平和な村には似つかぬ騒ぎだった。
だが恐ろしくて近づくことができないと言う様子だった。
そんな中、無遠慮に近づいてくる人影があった。
ぐんぐん近づいてくるとカインの頭にぽんと手を乗せた。
「お前、やりすぎ。」
大きな荷物を持っていたカインと対照的に
軽装になっていたアレンであった。
「・・・・・だってさー・・・・。」
カインが不満そうに唇を尖らせた。
「アレン、どこに行ってたの?」
マリアの問いにアレンは軽く手だけあげて応えると
男の方を向いた。
「お前さ、喧嘩売る相手が悪すぎだぜ。」
「ま・・また・・変なのが増えた!!
お前たちは一体・・・!?」
「俺たち?俺たちは通りすがりの正義の味方〜って、
あいつのおかげで全然正義の味方に見えねーけど。」
アレンはカインをこれ見よがしに指差した。
カインは不満げに視線をそらした。
「なんか、お前みたいに荒れてる奴が多いんだってな。
この日照りのせい?
水がなかったら、心が潤わねーんかな、やっぱり。」
「何の話だ?」
てっきり先ほどの喧騒について何か言いたいことでもあるのかと思ったら、
アレンが言う事は全く違う内容だった。
「いやさ、俺この村初めてだから
うろうろしてたんだけど、川も池も枯れかかってるじゃねえか。」
「・・・・・」
それがどうしたと言いたかったが、何を言い出すつもりか分からなかった。
「アレン何か分かったの?原因が?
もしかしてこれって、ハーゴンの仕業・・?」
マリアが恐る恐る聞いてみたら
アレンは違うと首を振った。
「ハーゴン?誰だそれは。
この村にはそんな奴はいない。
いたのはあのにっくき盗賊ラゴス!!」
「ラゴス!」
そう言えばペルポイでそんな盗賊に出会った。
そして彼は何と言っていたか?
水門の鍵を盗んだから、日照りで困っているだろうと言っていた。
その時は、何のことやらと思ったが、
まさに言っていたとおりじゃないか。
「俺たちラゴスに会って、水門の鍵、取り返して来てるんだ。
これでこのカラっカラの日照り直るんじゃね?」
「ほ、ほんとうか・・・!??」
男は驚いて目を剥いた。
男だけでなく、周りで取り囲んでいた村人たちもわぁっと歓声を上げた。
「今日はもう遅いからな。
明日にでも水門をあけてみよーぜ。」
道具袋から水門の鍵を取り出して村人たちに見せてやった。
やはりアレンは何と言うか、人心を掌握するのがうまいのだ。
それを見て、再び村人たちは歓喜の声をあげた。
「お前たち本当に何者なんだ?」
「だから通りすがりの正義の味方だって。
ロトの血を引いた・・な。」
「ロト・・・ロトだって!?」
対峙していた男は今度こそ言葉を失って
相手が悪いと悟ったのか、立ち去っていった。
それを幕引きに人々も元の場所へと戻っていった。
「マリアー。俺、宿で寝てろって言ったはずだけど?」
「・・・・・・・・二人とも、ごめんなさい。
迷惑をかけたわ。」
「いや、まぁ大丈夫だけど。
やっぱり女が街を一人でうろつくと良くないって事だな。」
「・・・・・・・・。」
長く旅をしてきたが、
今のように魔物ではなく、人に絡まれるのは初めてだった。
「そんで、お前は何をそこでへこんでるんだよ!」
アレンはしゃがみこんでるカインに声をかけた。
「だってーーー、せっかく作ったのにーーーー。」
そう言えばカインが持っていた荷物は何だったんだろうかと
マリアは近寄った。
大事な武器か道具かと思ったらどうやら全然違った。
無残につぶれているその白い物体は何だろうか?
「カイン、それは何?」
「ケーキ。」
「ケーキ?」
マリアは首を傾げた。
そういうデザート気分だったのだろうかと思った。
「あ、その反応。マリアも忘れてるな。」
アレンがしたり顔で笑った。
「え?何のこと?」
「マリア〜今日暑いだろ?」
「え、ええ。それは水門が・・・・。」
「じゃなくて、いや、それはそうだけど、それじゃなくて。」
アレンのはっきりしない説明に、
カインが立ち上がってお尻の泥を払って空を指差して言った。
「太陽が一番高いところにあるから、暑い日。」
「??」
また急に何を言い出すのかと思った。
マリアのそんな表情に、カインは笑って言った。
「本当に忘れてる?
アレンも忘れてたけどさ。」
「あ・・!!」
マリアもようやく何のことか思い至った。
「太陽の月の、太陽の日。
僕らの18歳の誕生日だね。」
「誕生日・・!!」
そんな事完全に忘れていた。
でも言われてみれば、忘れる訳もなく、その通りだった。
そして自分たち3人は偶然と言うか奇跡的と言うか
誕生日が同じなのだ。
「ケーキつぶれたけどね・・。は〜〜。」
悲しそうなカインの肩を叩きながら、
アレンも嬉しそうに声をあげた。
「ま、悪いことは忘れて。
おめでとー!俺ら!!」
- 続く-
2012/07/09
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