翌朝、アレンたちは少しの寝坊をして宿を後にした。
「出遅れちまったな。」
「本当に待たせてごめんー。」
アレンとカインはぺこりと、先に待っていたマリアに謝った。
「平気よ。昨日遅くまで起きていたみたいね。
まぁたまには夜更かし朝寝坊も良いじゃない?」
マリアは気にしてない様子だった。
マリアの方はゆっくりと休めてすっきりとした様子だ。
体調もすっかり戻ったようだ。
今日は昨日依頼した水の羽衣が出来上がっているか
取りに伺う予定だ。
「ドンモハメさん、どんな人だったの?」
先にドンモハメを訪ねていたアレンにその人となりを確認した。
「頑固なじーさんだったよ。
最初門前払い喰らいそうだったけど、
雨露の糸と織り機を見せたら、
急にやる気になってくれてさ。」
アレンに連れられてやってきたのは
街の中央にある廃屋だった。
人なんて住んでいるのか?と思われるような
廃屋だったが、奥のほうで物音が聞こえる。
「よー。爺さん、羽衣出来たかな?」
アレンが勝手しったる様子でぐいぐいと中に入っていく。
カインとマリアもそれについていく。
ドンモハメと思われる老人はこちらを見ると
すぐに視線をもとに戻して作業を続けた。
手元を見ると薄い水色の布地が
どんどん織り込まれていっているのが見て取れた。
「すげーじゃん、ほとんど出来ているんじゃねえの?」
アレンが覗き込んだが、老人は不機嫌そうに答えた。
「まだできとらん。もうちょっと待っとれ。」
その場で待っていようかと思ったが、老人の集中力を妨げるのも悪い。
また改めてやってくることにして、廃墟を外に出た。
「まだ結構かかりそうだなあ。
水門とやらを開けにいく?」
「それも良いけど、僕武器屋も覗いてみたいなあ。
あのさここに来るまで結構魔物を倒したでしょ?
結構お金貯まってるんだよねー。」
カインが財布をじゃらじゃらと揺らしてそう言った。
「いいんじゃね?
ロトの剣が折れてからこっち、俺らの総合的な攻撃力が落ちてるもんな。
ここから先敵も強くなるだろうし。」
アレンはそう賛成した。アレンにはドラゴンキラーという強力な
武器がある。だが、カインは鉄の槍に逆戻りしたままだ。
「でも、ロトの剣より強い剣なんてない気もするわね。」
マリアの一言は的を射ている。
伝説のロトの剣より強い剣が、そうそう市販している訳がない。
つまり自分たちの攻撃は以前より低くなってしまうのには違いない。
「弱い武器で先に進んじゃいけないって法律はないけど、
あんまり得策じゃないな。」
そうこう喋っているうちに武器屋についた。
素朴な村の武器屋にしては意外と強力な武器も防具も取り扱っていた。
デルコンダルにあったドラゴンキラーまで売っていた。
だが、それはカインは装備できないし、
アレンが見たところ、他にはそれ以上に強力な武器はなさそうあった。
「この『力の盾』は強そうだぜ。
ロトの盾ほどじゃないだろうけど、お前こういうの使ってみたら?
金も2万くらいあるんだろ?」
せっかくアレンがそんな助言をしたのだが、
カインは何か心あらずで他の武器を見ていた。
「おい、カイン。武器は良いのないって。
防具にしとけよ?」
「え?」
再度声をかけてようやくカインはこっちを見たが、
その手には心もとないほど細身の剣が握られていた。
「何その剣は?」
細身で細工も美しい。
まるで祭事用に作られた剣かと思われたが、
どうやら歴とした武器らしい。
「すっごい軽いんだ〜。」
それほど刀身を削れば確かに軽いだろう。
だが、アレンは頑として反対した。
「そんな細身ででかい魔物に傷なんてつけられるもんか。
軽いって・・別にそんな軽い必要なんてあるかよ?
どっちかと言うのは必要なのは重い一撃だろーが。」
アレンの反対にカインはどうしたものかと思ったが、
剣を戻そうとはしなかった。
「重い一撃なら、アレンがするから良いじゃない。」
「だったら鉄のやりそのまんま持っとけ!!
そんな細身だったら、鉄のやり以下の攻撃しかできねえ。
大体なんだよ、この値段!!25000Gって!
ありえねーだろ。
だったら、力の盾を買えってば。」
アレンとカインのそんな言い争いを聞いて
店主がやってきた。
「おお、このはやぶさの剣とはお客さん目が高い。」
「店主か、あんた。
この剣なんでこんなに高いんだ?おかしいだろ。」
アレンはここぞとばかりに文句を言った。
「お客さん、この剣のすごさはこの軽さ。」
「軽くちゃ攻撃にならないだろう。」
アレンの文句に店主は、毅然と説明した。
「いいや、そうではない。この武器は常人が一度攻撃する内に
二度の攻撃が出来ると言う。
それがこの剣のすごささ。」
「一度に、二度・・・・?」
「すごーーーい!!!」
アレンはまだ納得いかないような怪訝な顔をしているが、
カインはどうもこの剣に魅せられたらしい。
「アレン!僕この剣が良いなあ。」
「力の盾じゃなくて?」
「うん!この・・・えーっと、『はやぶさの剣』!!」
剣に惹かれるという現象はアレンも心当たりがある。
カインが武器を買ってくれとねだるのも珍しい。
まぁ、軽く買うには高すぎる買い物の気がするが、
その辺も財布係のカインが一番分かってるだろう。
「マリア、どう思う?」
「私は良いと思うわ。本人が使いやすい武器を使うのが
良いんじゃない?」
かく言うマリアはいかづちの杖を相当気に入ってるらしく
最近はどこの街の武器屋に行っても、新たな武器を探そうとしない。
本当に気に入った武器とは一度手に入れると、
違うものに浮気しようとは思わないらしい。
アレン自身はドラゴンキラーにそこまで入れ込んでいる訳ではないが、
カインがここで自分だけの武器を手に入れるのならば、
それが少々高くても良いだろうと思った。
「分かったよ。
それ、ちゃんと使いこなせるようになれよ。」
アレンがそう言って頷いて見せると、
カインは大喜びではやぶさの剣を購入することにした。
武器の威力はまだ分からないが、
細身で華奢だが美しいその刀身は
確かに自分のような筋肉質が持つよりはカインが持つ方が
似合うだろうなとは思った。
「いや・・似合ってるだけでは駄目なんだが・・。」
実戦が少し心配だなと思いつつ、
新たな武器を装備するカインを見守るアレンであった。
心なしか足取りも軽くなったカインたち一行は
次に水門を開けることにした。
しかし、村人でもない自分たちがいきなり水門をあけて
川の流れを変えることは村人の混乱に繋がりかねない。
村長らしき人をたずねてみることにした。
「なんと・・・・ラゴスの奴めから水門の鍵を取り返して下さったのですか!」
村長はアレンの話を聞くと驚きを隠せないようだった。
隣に控えていた女性はその話を聞くと、
驚きのあまり、両手で顔を覆った。
「ど、どうかしたんですか・・?」
「いいえ、感動のあまりに。
本当に、ありがとうございます。旅人の方々。
では、どうぞこちらへ。案内させていただきます。
きっと、村の皆も感激します。」
村長はそう言ってアレンたちを水門まで案内してくれるようだった。
アレンはそれに続いた。
しかし先ほど村長の隣に控えていた女性は顔も上げることが
出来ず、・・・どうやら泣いている様子だった。
「・・・???」
「どうかなさったのですか・・?水門で何か気になることでも・・?」
「いいえっ、いいえ!!違うんです。きっと皆喜びます。
どうか、水門を開けてください。村に希望が戻ることでしょう。」
女性は一礼しながらそう言った。
しかしとめどなく流れるその涙が止まることはなかった。
カインとマリアはその様子が心配になったが
女性は泣いていた訳を言わずに奥に戻ってしまったので、
仕方なくアレンたちを追いかけることにした。
早足でアレンたちに追いつくと、
そこは村の外れの草むらの中であった。
「こんな所にあったんだ。これは聞かないとわかんなかったなあ・・・。」
確かに、他に何の目印もないただ広い草原だった。
「気をつけてください。
水門を開けると、ここら中も一体水浸しになります。」
村長があたりを指差しながらそう言った。
「マジかよ。
水路が変わるとか言ってたなあ。」
「そうですよ、あそこに見える満月の塔へも
船で行くことができるんです。」
指差された先には確かに塔が見える。
孤島に立っているようだ。今は船を回すことも出来ず
橋も渡っておらず通ることは出来ないだろう。
「満月の塔・・・そこには何があるんですか?」
「ええ、魔物たちが巣食っている塔ですが、
中にはお宝が・・『つきのかけら』が眠っているそうです。」
3人は顔を見合わせた。
お宝が眠っていると言われた。『つきのかけら』という宝・・。
「なんだっけ?つきのかけら・・?」
「・・・・???なんだっけ・・・??」
アレンとカインはせっかくの情報なのに、それが何だか分からなかった。
とりあえず分からないけど、行ってみれば良いかというくらいだ。
だが、マリアは何か引っかかるものがあったようだ。
「思い出したわ!」
「マリア何か知ってるの?」
「海のどこかに浅瀬に囲まれた洞窟がある。
そこに入るために、つきのかけらを使うんだって聞いたことがあるわ。」
「どこでそんな事聞いたの?」
「ザハンよ。確か。」
海の外れのザハンでの言い伝えだったはずだ。
「へーーー。そりゃあすげえ。
で、浅瀬に囲まれた洞窟って何の話だ?」
「さぁ・・・・?」
謎が謎を呼んで、なんだか可笑しくなってくる。
こんなので大丈夫か?
だがこれでも一歩前進には変わりないはずだ。
それに海のことならあとでミゲルに聞いてみよう。
どうせ満月の塔へも船で行くんだから後で合流しなければならない。
それはさておき、カインは先ほどの泣きじゃくっていた女性の事が気になったので
聞いてみることにした。
「そんな事は、旅人の方には何も心配をお掛けすることではありません。
感激しているだけのことです。」
「は・・・はぁ・・・。そうなんですか。」
あまり村長はそれに関して詳しく語ろうとはしなかった。
カインもそれ以上聞くことはしなかった。
「それでは、旅人さんたち、それでは水門の鍵をお貸しいただけますか?」
「あ?ああ。」
アレンは村長に水門の鍵を渡した。
「では開けますよ・・・・。」
村長も久々の開門に緊張しているようだ。
そしてゆっくりと鍵を回した。
誰もが、ごくりと息を呑んだ。
どこか遠くでざざっと水の流れる音がした。
乾いた土地に潤いが帰って来た。
風一つなかった村に、水の流れと共に風も生まれる。
「うわ・・・すげええ〜〜〜!!」
あまりの勢いに村が流されてしまうのではないかと思った。
だが、驚くべきことに、村の家屋には一つも傷をつけることもない。
水の流れはこの村を知っていたかのように
まるで懐かしむように、かつての水路にそれぞれ流れていく。
「美しい・・・これがこの街の本当の姿なのね・・・。」
マリアもその移り変わりに目を見張った。
そして、村は生き返っていった。
- 続く-
2012/07/22
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