テパ 4

「アレン・・・!アレン!!」

「アレン!?」

カインが大きく手を伸ばしたが、指先が触れることがなかった。

目の前で、包帯まみれのモンスター
マミーの捨て身の突進を受けたアレンは
階段を一番上から下まで豪快に転がり落ちていった。




**

満月の塔の攻略中、3人は塔の最上階までやってきていた。
だが、最上階には目指す「月のかけら」は見つからなかった。

最上階へ行けばきっと目指す宝が見つかると思っていた3人は
少しの落胆と油断があった。

モンスターの群れによる急襲を受けた3人は、
自分たちが身構えるよりも早く敵の攻撃を受けた。

地獄の使いは複数現われた。
そのベギラマはアレンたちの足を止め、
さらにスクルトによって鉄壁の守備を誇った。

そのせいで、特に武器が変わったカインは、
まともな切り傷一つ付けられなかった。

今思えば、その代わりに魔法を使えば良かったのかもしれない。
だが、その時は予想より長引いてしまった塔の攻略に、
魔法力を温存した方がいいと考えてしまった。

攻めあぐねるカインの前に、颯爽と出てきて
超接近戦に挑んだのはアレンだった。

ドラゴンキラーを装備したアレンの攻撃力は
決して塔の魔物たちに引けを取るものではなかった。
だが、いかんせん敵の数が多すぎた。

さらに、魔物とあまりに接近しているため、
マリアの魔法は使えなかった。

一瞬の躊躇があった次の瞬間には
脇から出てきた別の魔物マミーにアレンが吹き飛ばされてしまった。




アレンと魔物は何度も激しい音を立てながら、
階下に落ちていった。

「アレン!!アレン、大丈夫!?」

カインが、上から声を掛けるが返事がなかった。
それどころか、階下からは不穏な魔物の気配が感じられた。

すぐさま階下に降りたかったが、
今いるフロアにもまだまだ敵が沢山生き残っていた。

「カイン、下に降りて!!」

そう叫んだのはマリアだ。

「え・・・でも、まだ魔物たちが・・・」

「大きいのを仕掛けるわ!
 ここはすぐに片付けるから、先に下へ!!」

カインはマリアの意図を把握した。
マリアはイオナズンを唱えるつもりだ。

確かに・・・マリアのイオナズンの前では、
中途半端に自分がちょろちょろと
魔物に向かって行っては邪魔だろう。

しかし、今の残り魔法力から考えても
マリアが大きな魔法を唱えられるのは最後だろう。

イオナズンで敵を打ち損じたら、危険なのはマリアだ。

「マリア・・でも・・。」

心配そうなカインを余所にマリアは言い切った。

「カイン、大丈夫よ。私の魔法力を侮らないで。
 アレンが心配だわ。すぐに追いかけるから、先に行って!!」

その言葉は逆らうことを許さない響きがあった。

「うん・・・。分かった。下で待ってるよ。」

カインは、そう言うとマリアを残して階下に走った。

徐々に階下の様子が明るみになっていく。

アレンはやはり打ち所が悪かったのか、
ぐったりと倒れこんでいるようだ。

一緒に落ちたはずのマミーがアレンに馬乗りになり、
その息を止めようと包帯で首を絞めていた。

「そこを・・・ど・・けぇ・・・!」

カインはその様子を見ると
一気に階段を蹴って、階下へ飛び降りた。

そして、マミーに背中から思い切り斬りつけた。

マミーはその衝撃に面倒くさそうに立ち上がると標的をカインに変更した。

はやぶさの剣による一撃は、
やはり軽いようで決定打には至らない。

だけどいい加減、この塔を攻略する中で、
この武器の攻撃力の程度は、カインにも分かっていた。

ロトの剣のように一撃必殺はできない。

でも、この軽い剣の利点はそこではない。

緩慢な動きで攻撃してくるその腕が自分に届くよりも先に、
カインのはやぶさの剣がマミーの首筋を斬りつけた。

どうやら急所は人間と同じだったらしい。

マミーはがくりと倒れた。

カインはほっと息を付き、アレンに駆け寄った。

「アレン、アレン・・!!しっかりして!」

マミーは先ほどアレンの首を絞めていた。
まさか手遅れなんてこと・・アレンに限ってないと思ったが
あまりの反応の無さと静けさに、
カインは焦っていた。

すぐにベホイミを・・・と思った矢先だった。
階下にいた魔物たちが二人に襲い掛かってきた。

ゾンビのような魔物はギラを何度も唱えてくる。
また別のマミーがどこからか現れて包帯をひゅるっと
自分の腕のように操り、攻撃をしてきた。

「こ・・の・・・・・!」

はやぶさの剣を持って、立ち上がったカインだったが、
魔物の多さを見て、剣ではなく魔法を選んだ。
すーっと息を吸って、生奪の魔法を唱えた。

「ザラキ・・・!!」

そしてカインの左の手のひらから
黒い光の固まりが魔物を覆っていった。

後ろで横たわるアレンをちらっと見ると、
後ろへは攻撃してこないのを感じ取った悪魔の目玉が
背後からアレンを狙っていた。

「アレン!アレン、目を覚まして!」

いくら呼んでもアレンは目を覚まさなかった。
カインは前の敵の攻撃で精一杯だった。

「アレンってば!!!」

カインはアレンのほうに手を伸ばしていた右手の剣を捨てた。
そして未だ魔法を唱えたまま、
歯を食いしばって叫んだ。

「・・・・・ホイミッ!」

右手から小さな光が起きてアレンを包み込んだ。

「う・・・・ん・・・・?
 うわっ!!」

ホイミが効いたらしいアレンは、目を開けた。

すぐ近くに悪魔の目玉の触手が迫っていたので、
思わず仰け反ったが、状況を理解すると、
アレンは魔物の大きな目玉をドラゴンキラーで一突きに貫いた。

その様子を見たカインはホッとした。

どうやらザラキも魔物たちに効いていたらしい。
このフロアの魔物も片付いていた。

「良かった〜。アレンー。大丈夫だった?」

「お・・おお・・・悪い。なんか階段落ちながら
 顔とか頭とか、しこたまぶつけたみたいだ。」

そう言うとアレンは鼻筋をぬぐった。
手に血がついていた。
鼻血が出ているようだった。

「アレン、歯も折れてる・・。」

「うぇ!?げ、マジだ!」

アレンが触ってみると確かに歯の感触がなかった。
前歯が欠けていた。

倒れていたあたりに、その前歯が落ちていた。

「大丈夫?結構豪快に落ちたんだね・・。
 ホイミじゃ、全部は治らなかったみたいだ。」

「もうちょっと治せるか?
 鼻血は放ってても治るだろうけど、歯はなあ。」

アレンは落ちていた前歯を拾ってそう言った。

「うん、待ってね。もう一回、回復魔法を・・・・。」

もう敵もいない。
落ち着いてベホイミを唱えようとしたカインだったが、
待てど暮らせどベホイミは発動しなかった。

「あ・・・れ・・・・?」

両手で目を覆ってカインはその場にしゃがみこんだ。

「え?おい、どうした??」

毒にでもやられてたのかと思って、
アレンがあわててカインに話しかけた。

「・・・・や・・・・・ちょっと・・・・。」

「???何?どうしたんだよ?」

アレンは訳が分からなかったが、
カインは立ち上がろうとしなかった。

そうこうすると階段から、誰かが降りてきた。

「あ、マリア!」

降りてきたのは上の階で戦っていたマリアだった。
マリアも一人で大変な戦いだったのか、
戦いの激しさを物語るかのように衣服は汚れていた。

そんなマリアも階下の様子を不思議に思った。

「どうしたの?」





****

「なんですって・・?両手で、異なる魔法を唱えたですって!?
 なんて馬鹿なことを!!」

「う・・・ん・・・・。」

マリアの驚いた声にカインは力なく声だけで答えた。
目は相変わらず覆ったままだ。

「・・・それって何かまずいのか?」

アレンは良く分からずにマリアに尋ねた。
ため息をつきつつ、マリアは答えた。

「普通の魔法使いは、両手で一つの魔法を唱えるか
 杖などを使って魔法を唱えるわよね。」

「まぁ・・・そうだろうな。」

アレンはうんうんと頷いた。
自分のイメージ中にいる魔法使いも大体そんな感じだ。

「魔法はそもそも精霊の力を借りて
 人にあらざる力を発揮すると言うものよ。」

「はぁ・・・。」

どこかの魔法の講義で聞いたような講釈だ。

「異なる精霊を一度に駆使するなんて
 とんでもないこと禁忌よ。
 まぁでも大体は、そんな事したとしても・・・。」

「しても?どうなるんだ?」

「普通は強い精霊の魔法だけが有効になって
 もう一方は消えてしまう。」

「消える・・・?
 っても、消えてないぜ。俺のホイミは効いてた。」

完全回復とは行かなかったが、
先ほどはそれで意識も戻ったし、命拾いしたのだ。

「これは一般的に言われていることだけど、
 もし同時に異なる魔法を使うことに成功したとしたら・・・」

「したら・・・・?もったいぶるなよ。」

マリアはこの先を口にしたくないようで、ためらいがちに言った。

 
「相反する精霊たちの激しい反発により・・
 その人は正気を失ってもおかしくない・・って言われてる。」

「え・・?ええ・・!??」

アレンは事の大きさに初めて驚いた。

「え!?おい、カイン大丈夫なのか!?」

だが、カインは目を覆っていた手を離すと
眩しそうに目を開けてアレンのほうを見上げて
手をひらひらと振った。

「ちょっと・・やだなー・・そんな心配しないでよ。
 大丈夫、大丈夫〜。」

「お・・?大丈夫なんか?」

「うん。」

アレンとカインのそんなやり取りを見つつ、
マリアがカインの前の座って視線を合わせるように
その瞳を見つめた。

「本当に、大丈夫なのね?」

「うん・・。ちょっと目がちかちかするくらい。
 もう収まったと思うよ。
 心配かけてごめん。」

そういうカインの表情はいつも通りだ。

どうやら一般的に言われる魔法の講釈について
実際には見たものも、実践したものもほとんどいない。

だから真実とは必ずしも一致しないのかもしれない。

もしかしたら自分も同じようなことが出来るかもしれないが・・
大味な魔法ばかり使う自分は、
精霊の反発が恐ろしくて、とても真似しようとは思えなかった。

「でも、しばらく魔法は使わない方が良いわ。」

「そうするよ。」

アレンはこの先、塔の攻略をどうしたものかと思った。

カインが魔法を使わないとすると、
あまり無理は出来ない。
マリアも見ると負傷もしている。
自分も結構消耗している。
これ以上の深追いは止めた方が良いだろうか・・・。

アレンが考えてることは、カインにも伝わったようだ。

「もう、上は全部見たんだし、あとは下に行くだけ・・。
 あと少しだけ行ってみようよ。
 駄目だったら、また体制を整えなおして再挑戦しよう。」

そう言うと、カインは立ち上がって落ちているはやぶさの剣を拾った。

「私も大丈夫よ。アレン。」

マリアも頼もしくそう言ってくれた。

「分かった、じゃあ行ってみようぜ。
 上に無かったら、大概下にあるんだよな。」

そう言うと3人は、さらに下の階へと降りていった。

幸い、大量の魔物が一度に出てくることも無く
アレンたちは一階へと降りてくることが出来た。

このフロアは壁に囲まれた非常に狭い一室だった。
そこに、これ見よがしに一つの宝箱だけあった。

「あ、宝箱がある。」

「一番上から、一番下まで行ったんだ。
 これがきっと月のかけらだよ。」


中を開けると、そこには見たことも無いアイテムが入っていた。
小さな月の模様も刻まれている。

「これ・・・か・・?」

「まぁ薬草には見えないよね。」

「月のかけらに間違いないんじゃない?」

アレンはそれを手にするとぎゅっと握り締めて歓喜の声を上げた。

「よっしゃー!手に入れた!!」

「はぁ・・良かった〜。
 一時期はどうなることかと思ったねー。」

「やっぱり楽なダンジョンって無いわね。」

アレンたちは口々に安堵の声を漏らした。
これでもうこの塔には用は無い。
早く村へと一度帰りたい。

しかしここは一階なのに、外に出る出口が無い閉ざされた空間だった。

「これ・・・もう一回上に登るのは面倒くさいな。」

「じゃ、出ようよ。リレミトするねー。」

カインの提案に、アレンとマリアが一瞬止まった。

「ていっ。」
「いたっ。」

アレンがカインの頭を平手でチョップした。

「アレン、ナイスつっこみよ。
 カイン、私が言った事忘れてる?」

「え・・や・・・忘れてない・・けど・・・。」

カインはアレンに叩かれたところを擦りながら答えた。

「リレミトなら私がするわ。
 ルーラは出来ないけど、リレミトなら大丈夫よ。
 外に出るくらいなら行けるわ。」

「マリア、任せたぜ。」

アレンはうんうんと頷いた。

カインも、大丈夫なのになあ・・と呟きながら、マリアに従った。

マリアの唱えたリレミトで一行は無事に塔を後にすることが出来た。








- 続く-

2012/07/30

▲


     あれ!?終わらなかったー。いや、満月の塔は終わったんだけど。満月の塔しか書けてないやないか。
     こんな所で終わる予定じゃなかったんだが・・・。
     テパは次で終わると思います。微妙に長く書いたので、このまま次の流れへ繋げるかなあ。


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