雨が激しい。
先ほどからさらに雨足が強くなっている。
荒い息を繰り返しても、それが聞こえないほどに
激しい雨音のばかりが耳に残る。
ああ、先に進まなければ。
次なる街はもうすぐなのだから。
そう思い始めてどれくらいだろうか。
歩けども歩けども、周りは鬱蒼とした深い木々ばかりだった。
***
「アレン待って!
闇雲に進んでも駄目みたいだ。」
カインが地図をひらげてアレンを呼び止めた。
「なんだよ!あともう少しって言ったのは
お前だろうが!」
大きな荷物を持ったアレンが濡れ鼠になりながら
振り返って叫んだ。
まぁ濡れているのは3人ともだ。
「距離は近いんだけど、まっすぐ行っても駄目みたいだよ。
先に大きな岸壁が見える。回り道しなきゃ。」
「どっからどう行くんだよ?」
アレンも地図を覗きにやってくる。
だが、そろそろ空が闇に包まれる時刻帯になってきている。
地図もはっきり見えない。
それにそもそも詳細な地図でもない。
「要は迂回すれば良いのでしょう?
まだ夜と言うには早すぎるわ。
少しでも先に進みましょう。」
「止まっててもしょうがねえ。行くか。」
マリアは地図も見ずに、そう言った。
アレンも地図を読むのを諦めて顔を上げた。
「待ってよ!本気で!?今日はもう無理でしょう。
雨を避けられる陰になるところを探そうよ。」
二人の意見にカインは真っ向から反対した。
「だってマリア、きみ・・・・わっ!」
カインが何かを言おうとしたとき、
急に風向きが変わった。
魔物の群れが現れたのだ。
「パペットマンと首狩族だ!」
アレンはすぐさまドラゴンキラーを装備すると
パペットマンに向かっていった。
パペットマンを放置してると、仲間たちの魔法力が
なくなってしまうと言う事を知ったからだ。
カインはロトの剣が使えない状況のため、
以前使っていた鉄のやりを使っている。
ちらっとマリアのほうを見ると
アレン同様に先にパペットマンの動きを止めようと
ラリホーの魔法を唱えていた。
だが、魔法が発動されることはなかった。
「?・・どうしたんだマリア!?」
アレンは何事かと後ろを振り返った。
そうこうしている内に、
いつのまにか首狩族がマリアの元に迫ってきていた。
カインは一旦その間に入って、首狩族の一撃を受け止めた。
そしてその一撃を受け流すと、
魔法を唱えようとした。
「ベギラ・・・・・・・、いや・・・・ギラ!」
一度ベギラマを唱えようとしたが、それをやめてギラにしたらしい。
小さな炎がパッと現れて首狩族の顔を覆った。
「マリア、それを貸して。」
そして鉄の槍をその場で手放すと
座り込んでいるマリアから杖を受け取って、
いかづちの杖を両手で持った。
「いっけえ!」
いかづちの杖から発せられた刃が魔物の群れに襲い掛かる。
「アレンー!!いまだよー!」
言われなくても、既にアレンはパペットマンの息の根を止めていた。
ダメージを受けている首狩族を討ち取ることなど造作もなかった。
「おりゃ!」
アレンの一撃で魔物の群れは全滅した。
「おい、マリア大丈夫か?どうかしたか?」
「ええ・・・思ったより魔法力の消耗が激しかったようで・・。」
マリアはハァハァと息を切らしている。
「魔法力切れか。」
あのパペットマンという奴がかなり嫌らしい奴なのだ。
どういう仕組みか分からないが、奴が踊ると魔法力が吸い取られる。
この近辺には、そのパペットマンが頻出する。
おかげでかなりの魔法力を吸い取られてしまっているようだ。
それでさっきのカインも魔法をギラに変更したんだろう。
そう、アレンは納得した。
「マリア、それだけじゃないでしょ。」
カインはマリアの手首を持った。
激しい雨に降られて体温が落ちているかと思いきや、
思いのほか手首からは熱を感じられた。
今度は額に手を当てると、やはり熱かった。
「熱があるよ?マリア・・・。」
「げ、大丈夫かよ。マリア。」
カインもアレンも心配そうにこちらを見ている。
マリアはなんだか申し訳ない気持ちになった。
「ルーラで戻ろうか?マリア、休んだ方が良いよ。」
「そうだな・・俺は、一旦戻っても良いけど・・・」
さすがにこうなると先ほどまで先へ進もうとしてたアレンも
無理は言えないようだ。
だが、マリアが首を横に振った。
「大丈夫。本当に、大丈夫よ。
せっかくここまで来たのに。街まであと少しじゃない。」
マリアの懇願するような瞳に、
どうしたものかと二人は顔を見合わせた。
「それなら、さっき言ったとおり物陰で休もう。
さっき少しは羽休み出来そうな
岩陰があったよ。」
最初に休もうと言ったとき、
カインは目星をつけていたらしい。
「なら、急ぐか。また魔物が出ないうちに。」
アレンはマリアを背負っていこうとして
背中を向けてしゃがんだ。
「ちょっと、アレン荷物多すぎだって。」
カインがそれを見て笑った。
アレンはザハンで手に入れた大きな織り機も
持っていたから荷物が大きかったのだ。
「いや、だって、これ捨てるわけにはいかねえだろ。
せっかく手に入れたんだから。
マリアくらい軽いもんだ。」
「じゃなくて、僕こんなに軽装だし。
ねえ、マリア僕が背負っていくよ。」
カインはそう言うと、抗う隙も与えず、
ひょいっとマリアを背負った。
「とりあえず、あっち。
早く行こう。雨は全然やまないし。」
「そうだな。」
アレンたちは、カインが指差した場所へと向かった。
マリアが有無を言う暇もなくカインに背負われてしまったが、
不思議な感じだった。
そう言えば今まで何かあったときに運んでもらったりするのは
アレンだった。アレンの方が力も体力もあるし、
それが普通のような感じだった。
だが、カインだって、このぬかるんだ道を歩いていくのに
ふらつく様子も無く、嫌な顔一つせず背負ってくれた。
「・・・・・・・・・・。」
マリアは安心して、体の力をふっと抜いた。
****
「ホイミは?しないのか?」
「怪我による熱ならともかく、病気に回復魔法って
あんまり効かないからなあ。」
「そう言えばそうか。
ところでさ、マリアの事お前なんで気づいたんだ?」
「え・・・なんでって・・・見ていれば分かるでしょう?」
「そういうもんかねえ?」
アレンとカインが近くで何かを喋っているのが聞こえる。
ここはどこだろうか?
ほのかに暖かい気がする。
「ルーラでどこかの街へ戻ってお薬を買ってくるってのは
ありかもね。」
「あ〜。便利だな。魔法力残ってんの?」
「まぁ、一応・・こういう時は、ホイミ分とルーラ分くらいは残してるよ。」
「なるほど。・・いいんじゃね?」
「じゃあ、ちょっと行ってこようかな。」
カインがそう言って立ち上がろうとしたとき、
ふいにマリアが目を開けて、こちらを見つめているのに
気が付いた。
「マリア気が付いたの?」
「どこ・・・・行くの?置いていくの?」
熱があるのだろう。
赤く上気して、潤んだ目をしていた。
その様子に思わずどきっとした。
マリアはいつも自分を強く持っているので、
こんな不安そうな様子は珍しかった。
「いや、行かないよ。どこも行かない。」
カインはぷるぷると首を振った。
「なんで?行きゃ良いじゃん。
俺が見てるし。」
アレンが後ろから口を挟んでいる。
まぁ、当然と言えば当然の言葉なんだが・・・。
カインはアレンをちらっと見て、
その場にもう一度座った。
「やっぱ、行かない。」
アレンにしてみては、釈然としない。
さっきまでルーラ云々と言ってたのは何だったんだ?と思う。
「なんで?」
「なんとなく。」
「?」
どうやら、心境の変化があったらしい。
アレンにはよく分からない。若干面白くない。
「なんかよくわかんねーけど!
それなら、飯!腹減った飯!」
アレンが文句を言い始めた。
なんと大人げのない奴だと思いつつ、
確かに、何かしてる方が気が紛れるだろうと思った。
「はいはい。
確かアレンの荷物の中に林檎がいっぱい入ってたはず。」
でっかい織り機、その他と一緒にごちゃ混ぜになっているが、
中には林檎が確かに入っていた。
ちなみに厚手の布地のおかげか、中は濡れることもなく無事だった。
「俺は肉が良いんだが。」
「病人がいるのに、文句言わないの。」
ふれくされているアレンを無視して、
カインは林檎の皮を手早く剥いていった。
「何?今日の飯はただの林檎?」
アレンが脇から覗き込んでいる。
「まぁ。。見ての通り、ただの林檎だけど・・・。」
カインはその林檎を鍋に入れて、
焚き火の炎で暖め始めた。
さらになにやら食材を取り出して、
パッパッと鍋に放り込んでいる。
「なぁ・・・何を作ってんの?」
「林檎のスープ。」
「スープ?ジュースじゃなくて?」
アレンが不思議そうな顔をしている。
カインは最後に蜂蜜を入れて、器によそって
アレンに手渡した。
「スープだよ。甘くて食べやすいし、暖まる。」
器からは甘い香りがする。
その割に暖かくて体の芯まで温まる。
林檎の果肉が甘くて食欲をそそった。
「あ、うまい。お前器用だなあ〜。」
ありあわせの物でよくこんな気の効いたものを作るなあと思った。
カインが寝込んでいたときは、精々粥くらいしか思いつかなかったものだ。
何も喋らず、だるそうに横になっているマリアにも
カインはスープを持っていった。
「マリアも少し口に入れない?
体が冷えてると思うし。
食欲が湧くようにと思って作ったんだけど、どうかな。」
マリアはゆっくり起き上がると、
器を受け取った。
食欲などないと思ったが、香りを嗅ぐだけでも
少し気分が落ち着いた。
「寒いでしょう?これでも羽織っててね。」
カインはそう言うと火のそばで乾かしていたマントを
マリアの背中にかけてやった。
「あ・・・・ありがとう・・・・。」
出来たてのスープも、ほんのり熱いくらいのマントも
とても暖かかった。
「二人ともごめんね、足止めしちゃって・・・。」
改めて、外を見るとすっかり暗くなってしまった。
もう今日は先には進めないだろう。
「そんなの。僕が謝られる筋合いはないよ。
足止めなんて、今まで僕がどんだけ迷惑かけたことか。
ねえ?」
カインはアレンの方を見やった。
呪いを受けた事を言ってるんだろうか。
そりゃあベラヌールでは何日も足止めになったし、
それどころではなく、二人には散々迷惑をかけたのも
記憶に新しい。
「その通りだな。カインに比べれば全然大したことない。
こいつは本当大変だったからな。」
アレンがこくりと頷いた。
「もー、本当容赦ないね、アレンは。
まぁ実際そうなんだけど。」
アレンの言いようにカインは苦笑する。
だが、別段気にする風でもない。
「だから全然気にしないで。
こんな雨の中で戦い続けたら、普通熱くらい出すよ。
ねーアレン。」
「何?熱を出してない俺は普通じゃないって言いたのか?」
「あはは、そんな事言ってないよ。」
「お前も普通じゃないって事か。まぁ納得だな。」
そんな小突きあってるような二人に
マリアも落ち着きと笑顔を取り戻した。
「もう・・・やめなさいよ。」
いつものように、呆れたように、笑ってそう言った。
そして手渡されたスープを一気に飲み干した。
「美味しいわ。ねえ、もう一杯いただけるかしら?」
マリアの言葉にカインもほっとして笑った。
「ほんと?良かった〜。
いっぱい作ったからまだあるよー。」
喜んでもう一杯よそってる傍からアレンも器を差し出してきた。
「俺もー俺もーーー。」
「はーい。アレンもー。」
嬉しそうにアレンにもお代わりを入れていたカインは
急に大変な顔をして、ハッとして顔をあげた。
「ってか、僕一口も飲んでないんだけど!!」
その様子にアレンもマリアもぷっと吹き出して笑った。
「お前な!どんだけだよ!とろいって言うか、どんくさいって言うか!」
「ごめんなさい。先にいっぱい飲んじゃって・・・。」
笑われて顔を赤くするカインであったが、
ふてくされて自分で自分の分を入れて一口飲んだ。
「おいしーー!」
「はいはい。お代わり入れてやるよ〜。」
アレンがまだ残っているのに、もう一杯こぼれそうなくらい盛った。
「つーか、本当に作りすぎじゃね?
まだ結構残ってるんだけど。」
「ああ、全部林檎使っちゃったし。勿体無かったかな・・。」
やりすぎたかな?と頭を搔くカインにマリアが言った。
「大丈夫よ、明日には街に着くから。」
マリアはそう言って二人に頷いてみせた。
「マリア、元気になったみたい。」
「そうだな。」
カインもそう言って、アレンも安心した様子で笑った。
いつの間にか、激しく降っていた外の雨もやんでいたらしい。
綺麗な月が見えていた。
- 続く-
2012/06/22
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