「だからさ〜、ナイフだと槍とも剣とも違うんだよ。」
アレンはしゃがみこんで、同じく座ってるカインの前に
聖なるナイフをチラチラかざした。
「どう違うの?同じ刃物だよ?」
カインは首を傾げて、アレンに質問した。
何だその質問は?と思いつつ、カインの純粋な瞳を見ると、
本当に普通に疑問に思っているらしかった。
「こんな小さいナイフだぜ。鋼の剣なんかと同じには使えない。
お前、こういうのはこういう風に使うんだ。」
といって、アレンは立ち上がった。
そのまま何故かふらふらとその辺を歩き始めた。
「アレン何をしてるの?」
不思議に思って、カインも立ち上がると、
アレンはカインに向かって歩いてきた。
「なあ、あれ見ろよ。
あれ、あれ。」
「何?どれの事?」
アレンが指差す方向を見て、
カインもそちらの方角を向く。
「ほら、取った。」
「えっ!?」
首筋にナイフが当てられていた。
アレンが少し手を動かしたら、頚動脈を切られ、
命は無かっただろう。
「暗殺に向いてるよな。これ。」
納得したように言うアレンに、カインは不満を口にした。
「アレン、それっ!聖なるナイフだよ!
暗殺なんてとんでもないよ!」
「そんな事言ってるから、お前騙されるんだよ。
今のでお前死んでるぜ。」
その言葉に反論も出来ず、
カインは憮然とした表情でもう一度座り込んだ。
確かにアレンの言う事は一理、ある。
「う〜。じゃあ、アレン次は・・・これ。
ムチ!ムチなんかどう!?」
「おお、良いな!
せーの!!」
アレンがムチを軽く振るうと、
しなったムチは確実の目標のターゲットを複数撃ち落した。
「わあ〜、すごい。」
それを見てカインは手を打って、歓声を挙げた。
今、アレンとカインの2人は
ラダトーム城下の武器屋の倉庫に来ていた。
武器を無料で提供してもらえるという話で、
目を輝かせてやってきたのだ。
倉庫の中には、剣や槍をはじめ、
色んな武器が眠っていた。
最初は剣ばかりを見ていた二人だが、
あまり見慣れない武器もあった。
次第にそちらに目を奪われていった。
カインは特にムチなど触ったこともないが、
アレンはそうでもないらしい。
「次はこれ、ブーメラン!」
「よっしゃーー!」
アレンが一振りすると、ブーメランはターゲットをカツンと倒して、
そのまま半周してアレンの手に戻ってきた。
「アレン、すごいーー!」
見ると、次はナックルのような拳に身につける武器を装着して、
アレンがシャドーボクシングをしている。
多分、体術でもいけるんだろう。
先ほどから、アレンはどんな武器でも軽々と使いこなしていた。
ローレシアにいたときから、幼い頃から剣術に励んでいたアレンは、
剣以外の武器防具についても、積極的に触れていたようだ。
「じゃあ、アレンこれはどう?」
カインが差し出した次の武器は魔導士の杖だ。
今まで、おもちゃで遊ぶように楽しそうにしていた
アレンの表情が固まった。
「それは・・・別に。
お前らが使えば良いだろう?」
アレンは杖を受け取らなかった。
魔導士の杖は既に持っている武器だし、
目新しくもないかもしれない。
「でも、これなら魔法が、炎が使えるよ。
武器だけで戦うアレンもカッコいいけど、
魔法と武器で戦うアレンもカッコいいんじゃない!?」
「魔法と武器ぃー?」
そう言われて、少し考えたアレンだが、首を振った。
「俺、いらねえ。
そもそもその杖だと、武器としての攻撃力なんてねえじゃん。」
「あ、そっか。」
杖で殴ったところで攻撃力はしれている。
それならちゃんとした武器で攻撃したほうが絶対良い。
「魔法なら、お前らがいるしさ。
お前らがいるから、ちゃんと『魔法と武器の攻撃』、出来てるさ。」
アレンのその言葉に、カインは少し嬉しそうな顔をした。
アレンに認めてもらっているのは嬉しい。
「でも、確かに魔法ってすごいよな。」
アレンはそう言って笑った。
その笑みは、少しだけ寂しそうにも見えた。
武器の物色を終わり、
宿に戻りすがら、カインはぼんやりと考えた。
本当に、アレンが魔法を使えたらどんなにすごいかと思う。
きっと、伝説の勇者ロトと同じくらい・・・
いや、アレンの剣術は誰にも負けないと思うから、
ひょっとしたら勇者ロトより強いんじゃないか?
魔法を使って、剣で戦う、
そんなアレンの姿を、カインは一度で良いから見たかった。
その夜、
仲間達が寝静まった頃、
カインは1人起き上がって、マリアの持つ魔導士の杖を少し拝借した。
この杖が魔法の力を持つ理由は、
杖の先端についているこの宝石が原因なのは間違いないだろう。
この杖はマリアのものだし、
アレンも杖は装備しないと言っていた。
だから勿論手にするべきはこの杖ではない。
これじゃなくて、もしかしたら・・・。
記憶が確かなら、同じようなものを、見た事がある。
カインには、少し考えた事があった。
++
それからしばらくして、
アレンはカインの魔物との戦い方が、少し変わったと思った。
積極的な戦い方になった気がした。
炎を使いつつ、敵との距離を詰めて、
それから物理攻撃をしていた。
今までの一歩引いた戦いとは違うカインの積極性を
アレンは歓迎していた。
「びっくりしたわ。
カイン、あんなに敵と距離を詰めて、
接近戦なんて珍しいじゃない?」
マリアもその様子に驚いた様子だった。
「接近戦?」
カインは、一瞬きょとんと顔をしていた。
すぐにああっと納得したように頷いた。
「接近戦と言うわけじゃないんだけどー・・・
うん、ちょっとね。」
「ちょっと?」
何かその戦い方には、意図があるようだが、
それが何かは分からなかった。
そして、ある日の戦いで、
アレンたちは、多くの魔導士に周りを囲まれた。
「くっ、魔物の群れに囲まれている!
お前ら気をつけろよ!
魔法で牽制だ!」
「ええ!いくわよ、バギ!!」
マリアはアレンの言葉に従って、バギを唱えた。
巻き起こる激しい風に魔物の群れは
一瞬怯んだ。
「よし、今だ!行くぞカイン!」
その合図に頷くと
カインは弾かれたようにその場を蹴った。
アレンは、隙だらけの魔導士を大上段に切り捨てた。
その攻撃に手ごたえを感じた。
カインの方はどうか?と思うと、背後から
ガキィッっと言う鈍い音がした。
「・・・なんだ?」
どうやら、カインは魔導士の攻撃の基点となる
その杖を狙ったようだ。
なんだか、少々カインらしくない気もするが、
武器破壊も立派な戦法の一つだ。
アレンはそう考えると、
残った魔導士たちを、確実にしとめていった。
「よし、終わったな。
今日はもう遅い。ここらで野宿だな。」
「分かったわ。」
「あ。うんちょっと待って。
暗くなって、良く見えない〜。」
戦いを終えて、アレンがそう言うと
カインが、しゃがみこんで何かを探していた。
「何を探してるんだ?」
「え、あ!?
いや、魔物が薬草を落とした気がしたんだけど、
気のせいだったよー。」
アレンに怪しまれて、慌ててカインは立ち上がった。
「薬草・・・?そっか。」
魔物はたまに持っていたアイテムを落とす事がある。
それを拾って恩恵を蒙る事はまれにあるが、
今回は勘違いだったようだ。
「そうそう、今日は野宿だね。
火を起こすから、どこか休める所を探そう〜。」
カインは2人に声をかけて、
今夜の野宿が出来る場所を探しに行った。
その手の中に、
先ほど手に入れた「あるもの」を隠し持ちながら。
その夜、カインは、火の番をしながら、
仲間達が寝入ったのを確認した。
夜が深まり、周りは静かだった。
正直一日の疲れもあって、少々眠気も感じる。
が、眠るわけにいかない。
魔物が出るかもしれないし、
それに、少し試してみたいことがあった。
先ほど手に入れた「あるもの」は、
自分の考えが正しければ、
きっと、アレンの攻撃力アップに役立つと思った。
朝になるまでに、
その細工を完了させてしまおうと思った。
「ふわあ〜〜。」
盛大にあくびをしたカインに
アレンが嫌な顔をした。
「おい、今日も一日強行軍だぜ。
朝からあくびすんなよ。」
「ああ、アレンごめん。
大丈夫だよ。」
カインはアレンの言葉に頷いて答えた。
「眠いんだったら、昨日の寝ずの番、
俺と途中で代われば良かったのに。」
大概夜通しの見張りは、アレンとカインで
途中で一度交代するのに、
昨夜は一度も交代しなかった。
「良いんだよ。
ちょっとね、魔法の勉強してたら
夢中になっちゃって。」
「魔法かよ。
まぁ、良いけど。
とりあえず気をつけろよ。」
アレンは、そう言って先頭を歩き始めた。
カインはその後に続き、最後にマリアだ。
マリアはカインの後姿を見ながら、
その言葉を少々不審に思った。
火の灯りがあれば、魔法の勉強は可能だ。
だが、魔導書の類は今全部自分が持っている。
カインがそれを触れた形跡はなかった。
「・・・なんなのかしら?」
だが、カインの言葉が何を意味するのかは、
すぐに分かることとなった。
アレンたちの前に凶暴な魔物が立ちはだかった。
獰猛なゴーレムは、アレンたちが身構える前に
襲い掛かってきた。
「うわっ!!」
あわてて剣でその攻撃を受けたが、
激しい一撃でアレンですらも吹き飛ばされてしまう。
アレンを追う魔物の背を狙ったカインが剣を振るうが、
細身な剣では大きなダメージにもならない。
「バギ!」
続いてマリアがバギを唱えた。
ところどころ体の一部が吹き飛ばされるが、
凶暴なゴーレムは痛点がないのか、
その勢いは留まらない。
カインの攻撃も、マリアの魔法も通じないとすれば、
やはりアレンの攻撃頼りになる。
「アレン、ゴーレムが行ったわ!!」
「分かってら!!」
マリアの言葉にアレンは、体制を整えて、
今度は吹き飛ばされないように身構えた。
がっつり剣を構えたアレンは、
今度はゴーレムの攻撃をしっかり受け止めた。
「うおおーー!!」
そしてゴーレムにも負けない気合で、
剣を強引に横になぎ払った。
その勢いで、ゴーレムは少しバランスを崩した。
「よし、とどめ!」
アレンが、そう言ったとき、
カインが脇から口を挟んできた。
「アレン、待って待って!
試して欲しい事があるんだ!」
「は?」
思わぬ声に、アレンは剣を止めた。
「炎を呼んで!
今なら、魔法が使えると思うから!!」
「はあ!?」
カインが混乱でもしているのかと思った。
何を言ってるのかと思ったのだ。
「カイン?何を言ってるの?」
マリアもその言葉をいぶかしんだが、
カインは何故だか確信深そうだった。
混乱している様子でもない。
「ああ、もう急いで!
ゴーレムが体勢を整える前に、
剣を使って、炎を呼んで!」
「意味わかんねえ!!
お前が、何を言ってるんだよ!?」
アレンが炎の魔法を使えないのは
周知の事実のはずだ。
なのに、カインは剣を持っているアレンに
炎を使えという。
「お願いだよ!一度だけ、僕に騙されたと思って、
試してみてーーー!!!」
カインは再度叫んだ。
出来るはずだった。
昨夜、細工したのは、このためだ。
昨日、武器破壊をして、
魔導士から手にいれた魔法力の篭った宝石のかけら。
少々砕けてしまったが、小さくても十分に魔法力は残っていた。
それを自分でも確認した。十分使える。
魔導士の杖と同様の効果が得られた。
だから、カインは、それをアレンの剣の鞘に細工したのだ。
これで、『魔法が使える剣』の完成のはずだった。
「アレンーーー!!」
カインが何度も叫ぶので、
アレンは少々諦めたように、はぁっとため息をついた。
「分かったよ。カイン、お前に騙されてやるよ!
行くぜ!」
「アレン!」
「アレン!?」
その言葉に喜ぶカインと、驚くマリアだったが、
覚悟を決めたアレンは叫んだ。
「起きやがれ!炎!」
がむしゃらに叫んだアレンの声に応えるように、
俄かには信じがたいが、
剣から炎が舞い上がったのだ。
「うそっ、ほんとに!?」
マリアは目を疑ったが、
カインは嬉しそうな顔をしていた。
「いっけーーー!!アレンーーー!!!」
拳を突き出して、
アレンを鼓舞しようとするカインの声に応えるかのように、
炎を纏ったアレンの剣は、激しく燃え上がり、まばゆいほどだった。
そして、その激しい攻撃は頑強な体を誇るゴーレムをも
横一文字になぎ払う強力な一撃であった。
自分が真っ二つにされたことにも気付かないゴーレムは、
反撃をしようと拳を振り上げたが、
それを支える足腰も既に無く、そのまま後にガラッと崩れ落ちた。
「やったーー!!
アレン!カッコいい!!すごい!」
アレンの勝利を確認すると、カインは何度も飛び上がって喜んだ。
考えた通りだった。うまくいったと思ったのだ。
が、それは完全にはうまくいっていなかった。
「あっちい!!熱い!!」
アレンは剣をその場に手放したが、
それでも炎は消えず、アレンの手を燃やそうとしていた。
「わっ、アレン!!」
炎はじきに消えたが、
その手を見ると、火傷したのは明らかだった。
「ホ、ホイミ!」
慌てて駆け寄ったカインはすぐに回復魔法を唱えた。
傷はすぐに癒された。
アレンは怒っているという様子でもないが、
少々微妙な顔をしてカインの方を見ている。
「さて?聞かせてもらおうか。
お前、今のは何だ?」
アレンはあくまで冷静にカインに尋ねた。
先ほど喜んでいた人とは別人のように落ち込みながら、
カインは、アレンとマリアに先ほどの事態を説明した。
「カイン器用よね。面白いアイディアだわ。
でも、魔法石の細工、剣の柄にしたから、
手が燃えちゃったのよ。」
冷静になると、とんでもなく危険なことをしたのだと
カインは気付かされた。
「ああ、そっか。僕、馬鹿だね。
細工の箇所をもうちょっとやり直したら・・・」
と、思ったが、それはもう出来ないだろう。
アレンがその話を呆れたように聞いていた。
「なるほどな。
昨日の魔導士の武器についてたやつを、お前手に入れてたんだな。
やたら武器破壊してたのもそのせいか。
で、その細工を、俺の剣に勝手に、施したって訳か。」
『勝手に』という言葉に、さらに恐縮して縮まった。
「うう、・・・そうです。
アレン、ごめんなさい。
杖じゃあ攻撃力がないって言ってたから、
剣だったら良いのかなって。」
その言葉にアレンは盛大にため息をついた。
「俺、言わなかったっけ?
魔法いらないって。」
「い、言った・・・。言ってました。」
アレンから頼まれたことならともかく、
要らないといわれたことをアレンの大事の剣に
勝手にやってしまったのだ。許されることじゃないだろう。
「ごめんなさい。」
カインはもう一度アレンに謝罪した。
「もう二度とやめろよ。」
そして、もうこの話は終わりだという風にアレンは立ち上がった。
そのアレンの後姿に、カインはもう一度言った。
「でも、アレンカッコ良かったよ!
剣と魔法を使って戦うアレン、カッコ良かったよ!!」
アレンは背中を向けたまま、その言葉には答えない。
マリアがひょいっとその表情を伺ってみると、
どうも照れているようだった。
大丈夫、怒ってはいないようだ。
落ち込むカインにそう告げに行こうとするマリアを止めて、
アレンは口を開いた。
「俺は良いんだよ。
お前らがいるから魔法はいらない。」
「うん。・・・分かったよ、アレン。」
きっぱりと言うアレンに、カインは頷くしかなかった。
だけど、話はまだ終わらなかった。
「でもお前はやれよ。
俺じゃなくて、お前なら出来るだろ?」
「アレン?」
魔法と剣を使った攻撃、
自分じゃなくて、カインならいつか出来るだろうと思ったのだ。
「俺、楽しみにしてるからな。」
カインにそう言ってみせると、
アレンはもう一度背を向けた。
- 終-
2014/10/11
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