7−2.信用・信頼


ローレシア城に戻ってからが、
怒涛の展開だった。

互いの両親に事の次第を説明に行った。

驚いていた様子ではあるが、
どこかでこんな日が来るとでも思っていたのか
クレハの両親は取り乱す事もなかった。

「俺てっきり殴られるかと思ったんだけど。」

などとアレンは言っていたが、
まぁ王を殴ろうと思うものはいないだろう。

一段落して、ようやく落ち着く日々が送れるのかと思ったが、
アレンは何かと忙しそうにローレシアを右から左に
走り回っていた。

きっと不在にしていた間に、
色々な仕事が山積みになっていたのだろう。

アレンの傍にいられることが至上の喜び・・などと言っておいてなんだが、
ここ最近は顔をまともにあわせるのも出来ないほど多忙だった。

「クレハ、少しいらっしゃい。」

部屋に取り残されたそんなクレハに声を掛けたのはアレンの母だ。

「王妃さま。」

昔からアレンのことも自分のこともよき理解者であった母は
今も穏やかな笑みを浮かべていた。

「私の部屋へいらっしゃい。
 あ、足元は気をつけなさいね。」

「はい・・!」

クレハは喜んで立ち上がった。
アレンの母と会話するのは、クレハにとって楽しい時間であった。

「どう?体は、大丈夫?」

お気に入りの紅茶を差し出しながら、
母は話を切り出した。

「皆さま良くしていただいてるので、大丈夫です。」

「そう、良かったわ。」

「でも私より、アレン様がお忙しそうで、
 それが心配です・・・・。」

「アレン?あの子が忙しそうなのは
 自業自得だから大丈夫よ。」

そう言って母はアレンに良く似た笑顔で笑った。

「自業自得とはどういうことでしょう??
 それは、ローレシアを不在にしたのはアレン様の
 判断ですけど、それは・・・・。」

仲間を助けたいと言うアレンの気持ちから始まった今回の船旅だった。
それを自業自得言う言われ方をするのは・・・少し違和感を感じた。

「あら、それなら大丈夫よ。
 不在中の仕事なんて、なんだかんだでディアンや他のものが
 片付けていたもの。」

「・・・・・・?
 では、一体何をアレン様は走り回っているのでしょう?」

「あなた、何も聞いていないの?」

聞いているとは何をだろうか?
クレハはアレンと顔を合わせてないのだ。

不思議に思っていると、
廊下からどたばたと足音が聞こえてきた。

そして誰かが扉を少し乱暴にノックした。

「母上!!ここにクレハがいますか!?」

「話をしていると何とやら・・だわ。」

その声はアレンのものだった。
何やら自分を探していたらしい。

「ええ、アレン。ここにいるわよ。」

「失礼しますっ!!!」

おもむろに扉を開けると、そこにはアレンがいた。

「なあに、あなた息切らして。
 そう言うところは何歳になっても変わらないのね。」

呆れたように母がアレンに釘を刺した。
まぁ、扉をちゃんとノックするようになっただけ成長だろうか。

「俺一人で走り回ってたら、父上にも
 思い切り殴られた。はは・・・。」

殴られた・・・とはなんだ!?

「クレハ、少し話し、良いか・・・?」

遠慮がちにアレンがクレハに問いかけた。
勿論駄目なわけはない。
王妃が何の用だったのかのだけ気になるが・・・。

「ええ、行ってらっしゃい。
 せっかく綺麗なドレスがあったから見て貰おうと思ったのだけど。
 アレンったら、何も話してないって言うじゃない。
 順番が違ったわ。」

「・・・・????」

「そ、それでは王妃さま失礼致します。」

クレハは王妃に会釈して、部屋を出ようとした。
が、王妃はそのクレハを少しだけ呼び止めた。

「クレハ、あなた私のことを王妃って呼ぶのはおかしいわよ。」

「え・・・。でも・・・。」

確かに、アレンが王になったのだから、この呼び方は少しおかしいのだ。
本来なら皇太后とでも呼ぶべきだろうが、
呼びなれないので呼びづらかったのだ。

「あなたが王妃になるんだもの。
 私のことは母と呼んでもらえれば良いわ。」

「・・・・・・え・・?」

「母上!!」

先に部屋を出ていたアレンが振り返って
眉間に手をあてて、悩ましげな顔をしていた。

「あらやだ、私も順番を間違ったかしら。
 まぁ、良いわよね。あなたがいけないのよ。」

くすくすと笑う母を部屋に残して、
アレンはクレハの手を引いて行った。
足早にどこに向かうのかと思ったら、
ローレシア城の屋上へと向かったようだ。

「アレン様・・・?」

左右見渡して、ここには誰もいないことを確認してから
アレンはは〜っと息を吐いた。

「ちぇ。びっくりさせようと思ってたのに、
 まさか母上があんなことを言うなんて。」

「アレン様?」

ずっと仕事で走り回っていたのだと思っていたのに、
仕事ではなかったらしい。
急に現れて何をしていたのだろうか?

「クレハ。体は大丈夫か?」

その言葉にクレハは思わず笑ってしまった。

「何を笑ってるんだよ?」

「ス、スイマセン。王妃様にも先ほど同じことを言われました。
 よく似ていらっしゃるなあって思って。」

笑われてアレンは少し憮然とした顔をしていた。

「まぁ、元気そうだな。良かった。
 悪かったな、ここんとこばたばたしてて。」

「いいえ。お忙しそうで、アレン様何をされてたんですか?」

「ああ。聞いたところによると、
 早い方が言われたんでな。」

「早い方が・・・?何がでしょうか?」

そういうとアレンは優しくクレハのお腹を撫でた。

「アレン様・・!?」

「うん。日を経てば経つほど、
 腹が大きくなるだろう?
 だから、ドレスとか余計に着づらくて大変だって聞いて。」

「ド・・・ドレス・・・?何の心配ですか・・・?」

クレハは今はゆったりした服装を身につけていた。
ドレスを着ての正装なんてのは、クレハには元から縁が薄く、
今も昔も着ていない。

「うん・・・だから・・・クレハ、あのな。
 今はそのつわり・・とか落ち着いてるとか言うし。」

少し言葉に詰まっていたが、アレンは意を決して口を開いた。

「結婚しよう!!」

「・・・・・・・・。」

クレハはその言葉に思わず口元を覆った。
一瞬返事が出来なかった。

「あれ、嫌か・・・?」

「い・・・嫌ではありません・・・嬉しいです・・・。
 でも、アレン様、聞かせてください。一つだけ・・・。」

「ん?なんだ?」

「私で・・・本当に良いのですか?」

子供が出来たから・・・。
勿論アレンはその責任を取ろうとしているだろう。

だが、もし、そうじゃなかったら?

「うん・・・・・父上にもちゃんと口に出せって言われたし、
 なんかカインにも怒られたんだよな〜」

「な・・何がでしょうか?」

「口にしなくても判ると思ったんだが。
 一回だけ・・・言うな。」

「は・・はい・・。」

クレハはごくりと息を飲んだ。

「お前にはばれてると思うけど、
 俺はそんなに強い人間じゃないんだよ。」

「そ、そんな事は・・・・!」

「そりゃあ剣なら、今は誰にも負けないと思うけどな。
 でも・・・俺は一人では生きていけないんだよ。」

「アレン・・様・・?」

少しアレンは寂しそうな顔をしていた。

「旅の間は・・・そりゃあ仲間達がいたから、何とか生きて帰ってこれたけど
 俺、一度死んでるからな。」

「え・・ええ・・・!?」

死んだ?何だそれは?
そんな話は初耳だった。
そう言えばカインも自分は2・3度死んでるはずだとか言っていた。

驚いた表情をしているクレハにアレンは頷いて見せた。

「俺が引っ張ってるなんてあいつらは言ってたけど、
 俺一人じゃあ何も出来なかったんだ。」

「・・・・・・・・。」

「クレハはそんな俺と、ほんの小さな子供だった頃から一緒だったからな。
 知ってるだろう?俺の性格は。
 子供の頃、俺は国の皆から落胆され、嫌われてて・・・・。 
 だけど、お前は俺のそばにいつだっていてくれて、
 俺の事を剣の達人になれるって、伝説の剣豪になれるってずっと励ましてくれてた。」

覚えている。
魔法の能力がない事で、アレンは友人も失い、
嫌がらせにもあっていた。

「だから俺は剣の修行も頑張れたし、
 おかげで剣だけは誰にも負けないって自信がついたんだ。」

「ええ、アレン様は誰よりもお強くなられた。」

「まぁ・・・・そんな事もないけどさ。
 旅が終わってからも、俺馬鹿みたいに荒れ狂って
 お前にもカインにも迷惑かけたりしてた。
 ずっとその間もお前は傍にいてくれたけど。」

「迷惑だなんて思ってませんよ。」

そう言うクレハに、アレンは申し訳無さそうに笑った。

「知ってるよな?
 お前が傍にいることで、俺がどれだけ救われてきたか?」

「・・・・・・・・?」

「なんだよその顔。分かってるだろ?
 俺が今ここでこうしているのはお前のおかげだ。」

「アレン様・・・・?」

信じられない、だって自分は何も出来なかった。
剣の道を究めようとするアレンの手助けも出来ず、
力を持て余すアレンの相手も出来なかった。

「あれっ。何だよその顔・・・。
 やっぱり口に出して言わないと駄目って本当なのか?
 俺お前の事を信頼しきってたかも。」

「私には・・何も・・・出来ませんよ・・・・?」

「だからーーー。
 クレハ、お前は傍にいてくれさえいれば良いんだよ。
 それだけで俺は安心できるんだ。
 頑張ろうって気になるんだ。」

クレハは知らず涙が流れてきた。
言ってくれた・・・。
アレンが傍にいるだけで良いと言ってくれた。

「お前は・・どうなんだよ。
 俺の事、迷惑だって思ってないか・・・?」

「アレン様・・・・クレハも口にしなければ伝わりませんか?」

アレンは、それを聞いて、クレハの目を見た。
アレンはすごく緊張した子供のような顔をしていた。

「私は、クレハは、世界で・・・一番、アレン様を・・・・
 心から・・・愛しております・・・。」

「俺もだ。俺も、お前を・・愛して・・・る・・・・!」

そう言ってアレンは顔を真っ赤にさせた。
『愛している』・・・そんな言葉を言うのは初めてだった。

そして、アレンはクレハを抱きしめた。

「なあ、だから結婚しよう?
 今度は・・・返事をしてくれるだろう?」

「はいっ・・・・。」

クレハのその言葉に、アレンはようやく安堵の笑みを浮かべた。
やっと互いの事を真に理解することができたのだ。

「良かった。
 じゃあ、母上のドレスを見繕ってもらおうぜ。」

「ああ、それで先ほど王妃様は、私をお呼びになられらたのですか?」

「クレハ、王妃様じゃなくてー。」

「あ・・え・・・母上様・・・?」

「そうそう。王妃様はお前なんだからな。」

アレンは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
先ほどから、アレンは本当にいろんな表情を見せてくれる。

「お父上様はなんと仰られているのですか?」

そう言えば、殴られたとか言っていたが・・・。

「ああ、しっかりしろよって!
 父上も俺の頼りないのはよく分かってるからな。」

そうは言いつつ、先王はアレンの事をすごく信頼しているだろう。
だからこそ、アレンに王位を譲ったのだ。

「さ〜〜忙しくなるぞー!!
 なんせ、3日後には結婚式だからな!」

「え・・・・アレン様今なんと仰られました?
 3日後・・・?」

「ああ、3日後だ!急いだほうが良いって聞いたからな。」

「3日後!?え、ちょ・・早くないですか!?」

「だから、急いだほうが良いって聞いたから・・・。」

「いや・・・だからって早過ぎないですか!?
 私、今その話を聞いたのですが!??」

いくらなんでも心の準備とか、体の準備とか、
色々あるだろう!?と思った。

「え。早すぎ・・?
 でも俺もう皆にお知らせ出しちまったぜ・・・?」

「えーーーー!?」

クレハの悲鳴がローレシア城の屋上をこだました。





***




「信じられないわよ。3日って何よ。
 来るほうの準備も考えてよ。
 慌ててムーンブルクを出立してギリギリじゃない。」

マリアは、アレンに会うなり苦情を申し上げていた。

「いや・・・もう・・・散々、方々から怒られたから、
 勘弁してくれよ・・・。
 早くしたほうが良いって言われたから、
 早くしたんじゃねえか〜。」

「あなたの行動力はいつだって目を見張るものがあるけど、
 こういう時までそんな全身全霊の電光石火の全速力で進めなくても
 相手の話もきちんと聞きなさいよ。」

「それも、散々あちこちから言われたー・・・。」

アレンは天を仰いだ。どうやら、相当言われたしい。
それでも結局人が集まるんだから、
アレンの人望だろうか。

「ふふ・・・。まぁ、恨み言はこれくらいにして、
 アレン本当におめでとう。
 まさか、あなたに先を越されるとは思ってなかったわ。」

そう言って、マリアは手にした花束を手渡した。

「!!
 ありがとう!!
 それより、お前のほうはどうなんだよ?」

そう言えばイマイチこの2人の進展を聞かない。

「そうねえ・・・・どうなのかしらねえ。」

マリアとしては、待つしか出来ない状況だった。
聞いたところによると、カインは口にはしないが、
サマルトリアで大反対をされているらしい。

でもカインが待っててくれと言っていたので、
いくらでも待つつもりだった。

「カインはもう来ているんでしょう?
 って言うか、びっくりして悲鳴をあげてたわよ。
 普通頼まないわよ?あんな事・・・・。」

あははとアレンは頭をかいた。

「結婚式で料理を作ってくれって・・・
 自分のときは絶対やらないって言ってたわよ。」

おかげで缶詰になって、今もずっと厨房に入って出て来れないらしい。
式が始まっても出て来れなかったら、あんまりではないだろうか・・?と
思いつつ・・。

「だってー、良いじゃねえか〜。
 絶対皆喜んでくれるって!!」

「あなたねえ・・・。クレハさん・・複雑な心境なんじゃない?」

「え?なんで?あいつも喜んでたぜ?
 船でカインの飯食って、すっかり気に入ったみたいだな。
 またカインに、いつでも飯を作りに来てくれって
 言っといてくれよ。」

「やぁよ。」

と言うか、マリアが複雑な心境だった。
アレンのように、ねだる事も出来ないマリアは
カインの料理なんて、自分もあまり食べる機会がないのに。

でも、それをアレンが一番喜ぶ事なのなら、
一生に一回くらい良いだろうか・・・。

いや、待て。
この様子だと一生に一回どころではなく、
これからもちょいちょい言ってくる気がした。

「なんだよ、お前百面相して・・・。」

「なんでもないわ・・・。」
 
2人がそんな会話を取りとめもなくしていると、
鐘の音が聞こえてきた。

「時間だ。じゃあ、行ってくるな。」

見ると、クレハが真っ白のドレスに身を包んで
扉から出てくるのが見えた。

着慣れないドレス姿にクレハは目いっぱい緊張しているようだった。
アレンと結婚すると、きっとこれからもいっぱい振り回されてしまうだろう・・・。

それでも・・・幸せそうな姿に、マリアは目を細めた。

「アレン、幸せにね・・・・!」

マリアからのその言葉に、アレンは心から嬉しそうな顔をして頷いた。 

 



 




- 終 -

2013/10/13

▲



 で、後編です。リクエスト「アレクレで結婚式」です。
 結婚式・・・どこでしょう・・・?(笑)
 でも全力でアレクレを書かせて頂きました〜〜!
 マリアからアレンへの言葉は今までなかったので、それを最後にやりつつ・・・。
 お幸せに〜!

 ⇒続き「39.悪夢」

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