7−1.信用・信頼


「おお。お帰りなさい!!
 帰りは人数が増えて賑やかだな!!」

船番をしていたミゲルは両手を広げて
アレンたちを歓迎した。

アレンはクレハの手を引いて、船に乗り入れた。

行きにはいなかったマリアも一緒だった。

「久しぶりね。
 よろしくお願いするわね。」

「おお、姉ちゃん!!
 元気そうで何よりだ。」

マリアもお付きの兵を一人連れていたようだ。

「良いから、あなたも早く乗りなさいよ。」

船の下で、若干おろおろしているムーンブルク兵のクナに
マリアは声を掛けた。
どうやら船に乗るのを遠慮しているのだろう。

「誰だい?」

ミゲルは見知らぬ男が誰なのかと
アレンに尋ねた。

「ああ、ムーンブルクの兵だ。
 多くいる兵の中でマリアに一番近しい存在なんじゃね?」

アレンもクナのことは、よくは知らないが、
マリアの信頼は篤いのだろう。だから連れてきているのだろう。
まぁ、兵としての実力はまだ未熟だと・・アレンは思うが。

「なるほど、兄ちゃんと一緒にいたクレハの姉ちゃんみたいなもんか。
 2人は良い仲なのかい?」

何気なく問い重ねたミゲルに、アレンは盛大に眉を顰めた。

「お前、見る目が無いな。
 唐突にぶっこんで来るのは自由けどさ。
 そんな事、俺に言うのは良いけど、
 あいつに言ったら、怒られるぜ?」

そう言ってアレンはけらけら笑った。

「あいつって・・・?」

どうやら見当違いなことを自分は言ったらしい。
ミゲルは何が何やらと言う風に、
もう一度マリアのほうを見た。

マリアは、クナのほうを手助けしているのかと思いきや、
遅れてやってきたカインに声を掛けていた。

カインは何やら大量の食材を買い込んでいたようだ。
それをマリアとクナは分担して、船に乗り込んだ。

「遅くなってごめんね〜。」

カインは、両手に持てるだけの荷物を持って、
ミゲルに申し訳なさそうに声を掛けた。

「緑の兄ちゃん、元気そうじゃないか。
 もう大丈夫なのかい?」

「うん、ありがとう〜。おかげさまで。」

相変わらず、カインは言葉足らずで
どうやって元気になったのかが、さっぱりミゲルには分からない。
だが、事情は分からなくとも、良かった。
この旅は無駄ではなかったのだろう。

「カイン様、私も手伝います!
 病気じゃないのですから、私が行きと同じように
 お食事を用意させていただきます!」

遠慮がちに見守っていたクレハが
カインに声を掛けたが、カインはふるふると首を振った。

「良いから良いから。クレハさんにはお世話になったもの。
 帰りはゆ〜〜っくりしていてね。体に良いもの作るからねっ!
 アレン、クレハさんのこと、よく見ていないと駄目だからね。」

「お、おお・・。」

そう言うと、カインはマリアと一緒に船室へと消えていった。

どうやら、行きとは違って、
帰りはカインが料理をするらしい。

「なんか、あったのかい・・・?」

ミゲルが再びアレンに問いかけると、
今度は、アレンが若干顔を赤くした。

「ああ・・・悪いけど、帰りはローレシアに先に寄ってくれねえか?」

「ん?そりゃあ良いけど、どうしたんだ?」

クレハが申し訳なさそうにしている。
見ると、アレンは先ほどからずっとクレハの手を掴んでいる。
ゆれる船の上で、転ばないように気を使っているようだ。

今度はもしかしてクレハに何かがあったのだろうか?
気にするミゲルに、アレンは少々気恥ずかしそうに、
事情を説明した。



***

「いやぁ・・・!アレンの兄ちゃんと、クレハの姉ちゃん、
 ご懐妊とは知らなかった!
 さぞかし、ローレシアの国も大喜びだろう!?」

ミゲルは出された料理に舌鼓を打ちながら、
アレンから知らされたお目出度いお知らせに、
手を打って喜んだ。

「いや・・国にはまだ知らせてなくて・・・。
 帰ってから、報告する。」

「アレンのお父様とお母様はどんな反応をされるかしらね。」

マリアも少し興味深かった。
きっと喜んでくれるだろうと思った。

「どーだろうねえ・・。びっくりされると思うけどねえ。
 ところで、ねえ。クレハさん食べづらいものとかあります?
 果物とかだったら食べやすいかなって思って、
 色々買っておいたんだけど。」

話題に上がっているクレハは、終始緊張気味だったが、
カインにそう聞かれて、とんでもないと首を振った。

「あの、何でも美味しいです!
 何でも食べられます!」

「本当?遠慮なく言ってね。」

クレハはカインの料理を食べるなんて勿論初めてだった。
最初はとんでもない事だと思ったが、
実際食べてみると本当に食べやすく美味しかった。

思えばカインの料理はアレンの大好物なのだから、
この貴重な経験を逃す手はないかもしれない。

全部しっかり食べて、後で作り方も聞いて、
ローレシアに帰ってからアレンに出せるようになろう。
そんな使命感に燃えていると、つわりなどどこかに消えたようだ。

が、そんな思考をめぐらせていると、
アレンがクレハにすっと皿を差し出してきた。

「クレハ、腹減ってるんだったら、
 俺の分もやるよ。」

「・・・・・え・・?」

アレンが差し出したのは大好物のはずのメインのお肉料理だ。
よっぽど自分が空腹で飢えているようにでも見えただろうか?

「アレン、美味しくなかった?」

「いや、めっちゃ美味いけど。」

思わぬ行為に心配そうにカインが尋ねると
アレンは首を振った。

・・・クレハだって、しっかり食べようとは思ったが、
何もアレンから奪って食べようなどとは露とも思っていない。

だが、次のアレンの言葉は思わぬものだった。

「お前、お腹の赤ちゃんの分も食べなきゃだろ?」

その言葉に、クレハは一瞬なんとも言えない感情がこみ上げてきた。
あのアレンが・・・いつも人の分まで取って食べるようなアレンが・・

「いいえ、いいえ、あのクレハは十分頂いております。
 アレン様どうぞ召し上がられて下さい・・・!」

クレハは何度も礼を言った。

カインもマリアも、アレンのその行いに心底驚いていた。
アレンの意識も既に変わりつつあるらしい。

「アレン大丈夫よ。
 まだ赤ちゃんこれくらいだから、
 アレンのお皿のお肉を欲しいとはまだ思ってないわ。」

そう言ってマリアが指で指し示した。

「でも、アレンのお子様だから、きっといっぱい食べるんだろうね〜。
 楽しみだねえ。」

アレン並に食べる子供だとしたら、
きっと大変だろうなあ・・・とカインは思いつつ。

「これくらいって、まだ3センチくらいか?
 ちっちゃいんだなあ〜。」

そう言ってアレンは顔を綻ばせた。

「なあ、カイン。
 ついこの間まで、俺、クレハと剣の稽古とかしてたけど、
 それってやっぱり駄目か?」

「はぁ!?・・・剣の稽古!?アレンと・・・!?
 駄目駄目!!とんでもないよ!!」

アレンと剣の稽古だなんて、何て恐ろしい自殺行為だろうかと思った。

「お前んとこの妹ととも、真剣勝負してたよなあ〜。」

「ああ、はい。マイ様とてもお強かったです。」

クレハは頷いていた。
カインはそれを聞いてめまいがした。

「いやいや、やめてーー・・・。
 マイにも言っておくから。」

「でも、そこまで激しく動いても、赤ちゃん育ってるし、
 アレンの子供だもの、きっととても強い子よ。」

マリアはそう言った。
確かに妊娠初期に、寄りにもよってあのアレンと剣の稽古だなんて
自殺行為に違いないが、きっと子供の生命力はとても強いのだろう。

「そうそう、アレン。
 剣の稽古なら、うちのクナがまたアレンにお願いしたいって言っていたわ。」

アレンは少し驚いた顔をした。
あんなにぶちのめしてしまったものだから、恐れられてると思った。

「自分が未熟である事がよく分かったんだそうよ。
 クナは魔法はあんまり駄目みたいだしね、
 またアレンお願いしても良いかしら?」

「ああ、俺で良ければ・・・良いけど。
 今度はもうちょっと気をつけるから、いつでも来いって〜。
 って、そういう奴はどこに行ったんだ?」

せっかく話題に上っているのに、クナはここにいなかった。

「ああ、今見張りに立っててくれてるんだ。
 僕代わって来るよ。」

そう言うとカインが席を立った。
そして、思い出したように、アレンに一声掛けた。

「アレン、剣の稽古、僕にもつけてよ。」

カインはもう魔法が使えないのだから、
これからきっと剣にかける比重は増すのだろう。

それを思うとアレンはにやっと笑った。

「ああ、良いぜ。いつでも来いよ。
 誰でも大歓迎だ。」




***



船旅はその後、平和に続いていた。
天候にも恵まれていた。

アレンはクレハを連れて甲板に出ると
空を見上げた。

不思議な感覚だ。
旅をしていたあの頃と同じ空だ。

あの空は何も変わっていないように見える。

だけど、あの時とは全然気持ちの持ちようが違った。
がむしゃらに戦い続けて、先の見えない未来と戦っていた日々。

ロトの末裔と言う大きな宿命を肩に背負いつつ、
でもその事を意識する余裕すらなく、
日々死と向かい合わせで、生きるだけで精一杯だった。

今は違う。
巨大な宿命の枷からは、解放された。

だけど、自分がしっかりしなければという思い自体は、
あのときよりは強い。
いや、強くなったと言うか・・・。

「アレン様、どうかなさいましたか?
 急に立ち止まって。」

色々考えていると、クレハが不思議そうな顔をしていた。

「お前、変わりはないか?」

「ええ。皆様とても良くして下さって、とても感謝しています。」

カインの作る料理はクレハの口にもあったらしく、
いつも通り、いや・・いつもよりしっかりとご飯も食べられていた。

食べづわりとは何なのか、アレンには全く想像も出来ないので、
ちょくちょく大丈夫なのかと聞くしか出来なかった。

「明日には、ローレシアですね。」

順調な旅路で予定通りローレシアに到着しそうだ。
行きみたいに、食材がなくなるなんていうことも無かった。

そんな事を思っていると、
船尾のあたりで一人たたずんでいるカインを発見した。

「おーい、何やってんだ?」

アレンは、背後からカインに声を掛けた。
何気なくその手に触れると、思いのほか熱かった。

「わっ・・・!?」

「えっ!?あ、アレン?クレハさんも。
 ど、どうかした・・!?お腹でもすいた?」

カインは全く気づいてなかったらしく、
急に声を掛けられて驚いていた。

「ちげーよ、お前は何で俺の顔を見るたびにそれなんだ。」

「だって、アレンいつも何かあればそうだったじゃないか。」

カインは笑って答えた。

「なんか、お前手が熱かった気がするけど、
 また熱とかねえだろうなあ?」

「え、ないない!!全然。本当だよ。」

カインの額に触れてみると、確かに全然熱はなかった。
じゃあ今の熱さはなんだ?

怪訝な顔をしているアレンに、カインが苦笑気味に口を開いた。

「いや・・・。本当に魔法使えないのかあって思って、
 色々やってみてたんだけど・・・。」

「へ〜〜。」

アレンは少し意外だった。
魔法の事は完全に吹っ切ったのかと思っていたからだ。

「で、どうなんだ?」

「何回やってみても駄目だねえ。」

カインはそう言って笑った。
だが別に沈んだ様子ではなかった。

「だから、やっぱり剣の方頑張ったほうが良いね。
 ルーラも出来ないから、走ってくしかないけど、
 アレンまた剣を教えてね。」

ああ、そうか。
ルーラも出来なくなったから、自由な行き来も難しくなるだろう。

「別に、俺はいつでも良いけど・・・
 てか、別に強くなる必要なんて無いだろ?
 魔物の脅威はなくなったんだから。」

だからこそ、カインの魔法への執着もなかったんだろうと思ったが。

「それとこれとは別だよ。
 できることは何でもやって、
 マリアに心配かけないようにしないと・・・!」

ふーむ。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
マリアに「私が守るから」などと言われていたが、
言われるままに守られるだけなんて、自分だったら嫌だ。

「ま、頑張れよ。俺はさっきも言ったとおり、
 いつでも付き合ってやるさ。」

アレンはカインにそう言った。

少しずつ自分たちの関係性が変わっていく気がするが、
それでもずっと変わらないものもあると信じていた。

「風が寒くなってきたな。
 クレハ、戻ろうぜ。」

夕刻になり、少し冷えてきたので、
船室に戻ろうと思って、クレハに声を掛けた。

クレハ頷いたように見えたが、
少し考えて、口を開いた。

「あ・・・あの・・・・アレン様、どうぞ先にお戻りくださいませ。
 カイン様、良かったら私と少し話をして頂けませんか?」

「え・・・!?
 僕・・・・と・・・?」

クレハの言葉に、アレンもカインも怪訝な顔をした。
アレンを先に返して、カインと2人で話したい事があるらしい。

「な、な・・なんだよ・・・・?俺はいたら駄目なのか?」

「申し訳ありません。す、少しだけ・・・・。」

そう言って、クレハはアレンに頭を下げた。

「ちぇー。わかったよ。」

何を話す気なのか正直アレンは気になったが、
その表情が真剣だったので、仕方なくアレンは一人で戻る事にした。

「・・・・・・・・。」

その後姿に軽く会釈しながらクレハは見送った。

カインはどうしたものかと、
行ってしまったアレンと残ったクレハを交互に見て、きょろきょろしていた。

「カイン様も申し訳ありません。
 貴重な時間を・・・。」

「いや、全然いいんだけど、どうかしました?」

「もう明日にはローレシアについてしまいますから、
 少しだけお話をしたかったのです。」

「本当にクレハさんには色々ご心配をお掛けしてスイマセン。
 それにこんな所で喋っていて大丈夫?
 少し寒くなってきたけど。」

そう言ってカインは、クレハに座るように促した。
そうした方が、少しでも風除けになる。

「私は本当に大丈夫です。
 先日はみっともない所をお見せして、失礼致しました。」

「体大事にしてくださいね。」

そう言って笑った。やはり、この人は良い人だ。

「それで、何か僕に用でも・・・?」

「頂いたお食事がどれも美味しくって、
 是非作り方を教えていただこうって思ったんですけど・・・。」

「ああ、そう言うことなら、いくらでも。」

カインは腑に落ちた表情をしていたが、
クレハが残った理由は実はそうではない。

「と言うのはおまけでして、
 少しよろしいでしょうか・・・・?」

「・・・・???」

クレハは思い切って話を切り出す事にした。

「カイン様は強い方ですね。」

「え・・・・それは・・・何の冗談・・・・?」

カインは少し嫌そうな顔をした。
自分は何か変なことを言っただろうか?

「あれだけ皆に迷惑をかけておいて・・・。 
 本当に・・・・今回ほど自分が弱くて嫌だったことはなかった・・んだけど・・。」

「・・・・・そんな事・・・。」

「今回の事だけじゃないよ。
 なんだか今、僕は普通の顔をしてここに座ってるけど、
 本当はここにいるべき人間じゃないし。」

「どういうことですか?」

カインは少しなんと答えるべきか考えて、
空を指差した。

「・・・・?」

分からないと言う顔をしているクレハに
カインが答えた。

「僕が今生きているのは奇跡だと思うよ。
 本当だったら、もう2・3回は死んでる命だったと思うし。」

旅の間も、今回の事もそうだ。
本来なら死んでいたはずの出来事も多かったし、実際死んだ事もあるし、
今生きているのは奇跡だと感じていた。

「はっ・・。ごめん、クレハさんに変なことを言って。
 えっと、だから本当に僕は弱くって、何度もアレンに助けてもらってるんだ。」

それは実際カインが思っていたことだった。

「だから、アレンに何かあったら僕だってアレンの力になりたいって
 ずっと思ってるんだけど、それでこの間のザマだからね。
 本当に自分でも嫌になるくらい弱いんだよ。」

クレハは驚いてその話を聞いていた。
いつもカインは笑っていたし、あんまり言葉が多いほうではないので、
こんな本心を聞くのは勿論初めてだった。

でも・・・・。

「違うと思います。カイン様は強いと思います。
 今回の事もお聞きしました。
 魔法を失ってでも生きる道を選択された。
 強い気持ちがなければ出来ない事です。
 それにアレン様たちの3人の強い絆も私すごく感じました。」

「・・・・・・。」

「アレン様との戦いもしっかり私は覚えてますよ。
 ローレシアのどの歴戦の兵だって、
 あれほどアレン様を追い詰められた者はいなかったです。
 本当にお強かった・・・。」

「いや・・・・でも・・・。」

「第一アレン様は強い方が好きなんです。
 だから、アレン様があなたを『大好き』だなんて仰った事が
 その証明です。」

「ええっ・・・・!?」

カインは思わずその言葉にむせた。

「ま・・・待って・・・。あの・・・なんか聞いていた?」

「ええ、ラダトームへ向かう船の中で
 アレン様がカイン様のことを大好きだと仰ってるのをお聞きしました。」

夜更けで誰もいなかったと思っていたが、
しっかりクレハに聞かれていたらしい。
体調を壊して甲板に出ていたカインを助けて、
確かにアレンはそんな事を言った。
それに対してカインもアレンに同じように答えていた。

「あ・・はは・・・。いや、あれは・・・・。」

「あれは・・・何ですか?」

カインはその時のことを思い出しながら、
なんと言おうかと迷いつつ口を開いた。

「まぁ・・・別に冗談で言ったつもりはないけど、
 ちょっと・・違うと言うか・・・。」

「違うんですか?」

「いや、違わないけど・・。
 んー・・・。」

「私は・・・・アレン様にあのような言葉を掛けてもらった事は・・
 ありません・・・。」

クレハはそうやって胸の内を打ち明けた。

なるほど、カインはたまに妙にクレハの視線を感じていたのだが、
そう言うわけだったのか。

「いや・・・僕も・・あんなことを言われたのは初めてだったけど。」

こんな事アレンに言えないが、
本当は、クレハはカインがうらやましかったのだ。

「それに、さっきも言ったとおり、アレンに何かあれば
 これからだって、いつだって駆けつけたいって思ってるのは本当だし。」

やっぱり2人の絆はとても強いではないか。
だが、カインは言った。

「でも、アレンがクレハさんを大事に思っている、大切に思っているのとは
 違うと思うよ。」

「何がですか?」

「うーん・・・僕から見て、だけどね。
 アレンはクレハさんのことをすごーく心の底から信用しているんだと思う。
 アレンは本当に優しいからね、本当なら船旅に誰かを連れて行くなんて
 心配で出来ないんだよ。」

「・・・・・・・・。」

確かに、船に乗ったときに、ミゲルにやたら驚かれた覚えがある。

「それでも近くにいて欲しいって思ってるんだよ。
 何だか、それがすごく自然で、
 もうすっかり家族みたいだなあって僕は思ったよ。」

「そう・・・でしょうか?」

「多分アレンは強いから、自分が守れるって自信もあったんだろうね。
 だから、ラダトームでクレハさんが倒れちゃったとき、
 アレンはすっごくすっごく心配そうにしてたし。」

クレハは意外そうな顔をした。
その様子を見て、カインは笑った。

「僕も人の事は言えないけど、
 アレンってば、女の人をこんなに不安にさせたらいけないね。」

「ふ・・・不安だなんて・・・・。」

「大丈夫だよ。
 知ってるだろうけど、アレンは誰よりも強いし、誰よりも優しい。
 そのアレンがクレハさんのことを誰よりも大事に思っているんだから、
 あなたは大船に乗ったつもりでいたら良いんだよ。」

「だけど、私にはあなた方のような力もありません。
 王族でもありません。不釣合いなのです。」

クレハが気にしているものはそれだろう。
カインやマリアにあるものが自分にはないと。

だけど、それは当のアレンは気にしているだろうか?

「アレンがそれを求めている?クレハさんに強くなれって言ってる?」

「え・・・・?」

そう言えば言わない。
むしろ剣の稽古を付けてくれといっても、
最近はアレンは少し困ったような顔をしていた。

「クレハさんの言う力とか、強さとかって、それってそんなに大事な事?
 重要なのは人の気持ちなんじゃない・・?」

「気持ち・・・・?」

「そりゃあアレンはすごい人だもん。
 アレンを慕って、彼の周りには強い人も集まるだろうけど、
 それはクレハさんにとって嫌な事?」

「い・・・いいえ・・・。
 アレン様を頼って人が集まるのは嬉しく思います。
 だって・・・アレン様は・・・とてもすごい方なんです!
 小さいときはあんな苦労をされていたけれど・・・。」

そうだ、自分は小さい頃から何を見てきたのだ。
アレンが正当な評価がされないのを見てきて、
あれだけ悔しかったではないか。

今ようやく時代が動いてアレンのことは評価されるようになった。
それと比べて、自分が釣り合わないだなんて、
そもそも考える論点がおかしい。

そしてそのアレンが自然と自分を傍に置こうとしてくれている。
これだけで十分ではないか。
一体何を自分は悩んでいたのだろうか。

「カイン様ありがとうございます。
 私、間違っていました・・・・。」

「いや、まぁ・・間違ってはないと思うけどね。
 アレンはもっとしっかり自覚したほうが良いと思うけど。」

「いつまでも、そんなアレン様のお傍にいられる事自体が、
 私の至上の喜びと思います。」

顔を覆ったクレハに、カインは一つ息をついて笑った。

「アレンは幸せ者だね〜。
 そこまで言ってくれる人がいるなんて。
 だから、クレハさん、どうか幸せになってね。」


 
 




- 続く -

2013/10/13

▲



 「41.強がり」 の続編です。さて、アレクレもいよいよ大詰めですよ!
 あんまりクレハがカインを意識しているので、この際なのでしっかり喋ってもらいました。全部見られてましたよっとw
 2人ともアレン大好き仲間なので、まぁきっとアレンの話をするのは盛り上がるでしょうね。
 
 後編へ続く

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