69−2.化物


「・・・・・・ううっ・・。」

うめき声が聞こえ、馬上の同乗者が
目を覚ましたのに気付いた。

「お目覚めですか、王妃さま。」

「お、お前は・・!」

「このような不安定な場所でスイマセンね。」

クレハは首を振って、意識をはっきりさせた。
今自分がどこで何をしているのか、
何故こんな所にいるのか思い出すために。

「どうでしたか、スープの味は?
 よくお休みのようでしたね。」

「睡眠薬を混ぜていたのね?
 私を連れ出して何のつもりですか?」

クレハは護身用の聖なるナイフを取り出そうとして、
両手両足をきつくしばられている事に気づいた。

「おおっと、暴れないで下さい。
 こんな早さの馬から落馬したら大怪我しますよ。」

「馬鹿を言わないで!
 こんな真似をして、許されると思うの!?」

ジャックはクレハの顔を覗き込んで笑った。

「勇猛な王妃だな。
 何もあなたに危害を加えようなどと思ってない。」

「・・・?」

「ローレシアと言う国は至極おめでたい国のようだ。」

馬上で、ジャックがそう呟いた。

「アレンの名を語れば、
 誰も逆らえない。誰も疑わない。
 立派な馬車も使いたい放題だ。」

「それが許されない行為だというのです!
 お前、アレン様の名を語ったの!?」

「ああ、王妃を連れて遠出をしたいらしいと伝えれば
 誰も疑わなかったさ。」

ジャックは尚も語り続ける。

「何故こんな真似をしたの。」

「ローレシア王は化物だ。」

その言葉にクレハの頬がぴくっと動いた。

「普通に挑めば誰も勝てはしない。
 だから俺は内側からローレシアの崩壊を試みる。」

「内側から・・・?」

「お前も気付いているだろう。
 誰もアレンの名前を出せば逆らえない。
 それは何故か、恐怖だからだ。
 破壊神を破壊したと言われる英雄を、
 いや、化物を恐れているから、逆らえないのさ。」

「・・・・・」

「誰も彼もが、ロトの勇者を英雄と思っていると思うなよ。
 誰も彼もが、邪教の崩壊を喜んでいると思うな。」

「お・・・お前は、邪教徒なの・・・!?」

クレハのその言葉に、ジャックは馬を急停止させた。

「・・・!?」

そして、クレハを馬から引き釣り下ろした。

「少し話しすぎたようだ。
 そうだ、不幸な王妃は自害を選んだ事にしようか。」

そう言って、ジャックは剣を取り出した。

「安心しろ、心臓を一刺しだ。
 楽に逝ける。
 最愛の王妃に先立たれた時の、英雄王の表情が見ものだな。」

その言葉に、クレハは首を振った。

「アレン様の足かせになるつもりなどないわ。
 ギラ!!」

クレハはギラを唱えると、
両手両足を縛っていた布を燃やした。
そして胸元に隠し持った護身用の聖なるナイフを取り出した。

「私を何も出来ない女だと思わないで。
 アレン様に危害を与えるものを、
 私は許しはしない!!」

聖なるナイフを構えたクレハをジャックは驚いた目で見つめた。

「女だてらに武器を持つか。」

「お前を捕らえ、アレン様の元に連れて行く。
 ローレシアに内紛を仕向けるなんてとんでもない事。
 お前はわが国の法の裁きを受けなさい!!」

それにどれくらい時間が経っているか分からないが、
恐らくアレンもクレハの不在に気付いているだろう。
泣きじゃくっているであろう子どもも気になる。

「俺を捕らえ、馬でローレシアへ生還する気か?
 無理だな。」

「無理?」

「ローレシアの森は鬱蒼とした道無き道。
 馬で走るなど女のお前などには無理な事。
 既にローレシアを出て半日になる。
 追っ手も追いつけはしない。」

その言葉に一瞬クレハが動揺した。
その隙にジャックは魔法を唱えた。

「マヌーサ!!」

「・・・!」

マヌーサの幻で、ジャックが何人にも見える。

「な、何・・・を・・・!」

「悪いなあ、これから化物と対峙するんだ。
 お前には人質として大人しくしていてもらいたい。」

クレハが何度聖なるナイフを振っても
ジャックを切り捨てても、偽の幻らしく、残像がいくつも見える。

「大人しくしない女だ。
 その足の一本くらい動けないようにしてやろうか!」

そう言うとジャックはクレハをとらえ、
地面に叩き付けた。

「うう・・・!!」

思わず苦痛に顔をしかめるが、
だが、手を捕らえられているという事はこれは幻ではない。

「ギラ!!」

「うおっと!!」

至近距離でのギラはジャックの肩を掠めていった。

「危険な女だ・・・!
 こんな至近距離での火炎魔法など、自分も巻き添えになるぞ!」

「構うものか。お前のような悪党、私は絶対許さない!」

「マホトーン。」

「・・・!!」

マヌーサにつづいて、ジャックはマホトーンを唱えた。

「あはは、滑稽だ!
 先ほどの勢いはどうした!ギラを唱えてみろ!」

なおも強くジャックはクレハの体を押さえつけた。

「・・・・・ううっ。」

「諦めたようだな。
 女だてらに勇猛な王妃だったな。
 そうだ、英雄王の女はどんな味がするのか・・・・。」

「は、離せ・・・!!
 離さないか・・・!!」

暴れもがきクレハだったが、
ジャックの力は緩まない。
こういうときにクレハは自分が所詮女の力しかないのだと
悔しくなる。こんなやつすら振り払えない。

ジャックはクレハの衣服に手をかけた。

「嫌だ、離せ!!アレン様・・・!
 アレン様!!!」

思わずクレハは目をつぶって、
愛するその人の名を呼び叫んだ。

「黙れ!今更呼んでも来やしない!」

そう言って、ジャックはクレハの衣服に手を剥ぎ取ろうとした。
どれほど恐怖に満ちた顔をしているのかと思いきや
クレハは何故か天を一点見つめ、そして叫んだ。

「アレン様・・・!?」

「アレンだと、こんな所にいる訳が・・・!」

ジャックがそう言って振り向くと、
空からすごいスピードで舞い降りたアレンが
その首をひっとらえた。

「ぐっふ!!?」

「てめえ、クレハに何・・・・やってんだ・・・!!!」

そのままの勢いでジャックを遠くへ叩き付けた。

「ぐああ!!」

苦痛の声をあげて、ジャックは悶え苦しんでいる。
クレハはさっと起き上がると、衣服を正した。
そした目の前に現れたアレンを信じられないように見あげた。

「クレハ、無事か。
 怪我はないか!?」

「は、はい!怪我はしておりません。」

「そっか・・・。」

クレハの声に、安堵したようにアレンは一度息を吐いたが
改めてジャックを睨み付けた。

「でも、アレン様どうやってここへ・・・?」

「ローレシアの森は俺にとっての庭だ。
 それにこの森が全部高い崖に覆われてるは分かっている。
 で、クレハ、お前の声が聞こえたから飛び降りたって訳だ。」

そう言ってアレンは空高く手を伸ばした。
確かに森の周りは猛々しい崖に囲まれていた。
飛び降りたというが、崖には手をかけるような場所もない。

「馬鹿な!飛び降りるなどと自殺行為だ!!」

ジャックが信じられないというように叫ぶが、
アレンは馬鹿にしたように答えた。

「ふん、知らないのか?
 勇者は空、飛べるんだぜ。」

「何を戯言を!!
 お前は魔法も使えないはず!!」

クレハはアレンの姿を見て、ぴんと来た。
アレンが纏っているマントは特別なものだ。

確か、その名前は風のマント。
これで自在に空を飛んだのだ。

「それより、てめえがクレハを城から攫いだし、
 さらに危害を与えようとしていたのは許せねえな。」

アレンは拳をバキバキとならして、
ジャックに詰め寄った。

「オレは知ってるぞ!
 ローレシアの英雄王、アレン!!
 お前はロトの血を引く勇者の中でただ1人魔法を使えず、
 世界を救った。」

「それが、どうした。」

アレンは足を止めることなく一歩ずつジャックに近づいていく。

「お前の武器はその人間離れしたその力だ!
 いや、もう人間とは言えぬ。お前は化物だ!!」

「言いたい事は、それだけか。」

アレンは、ジャックの胸倉を掴み上げた。
そして、右の拳を振り下ろした。

「知らぬとは言わせぬぞ!!
 ローレシアの兵、いや国民は皆お前の力を恐れている!
 化物のようなその力を!!」

アレンの拳はジャックを直撃せず、
背後の岩壁を突き破った。

その勢いに脂汗を流しながらも
ジャックはアレンを尚を揺さぶろうとした。

「ふ、ふん・・・!やっと分かったようだな。
 お前が少し力をいれて触れれば誰も彼も壊れてしまうのだ。
 お前の最愛の王妃ですらな。
 だから、誰もがお前の事を恐れているのだ!」

「てめえ・・・。」

アレンの表情が変わったように見えた。
その手は震え、顔は苦々しくジャックを見つめている。

「アレン様!そんな男の言葉を聞く必要はありません!」

「クレハ・・・」

アレンは少し顔を上げたが、クレハのほうを向こうとはしない。

「危険な場所には、自ら一番に足を踏み入れ兵たちを救い、
 冷え切った兵たちに進んでスープを勧めてくださる!
 このアレン様の優しさが、皆に伝わっていない訳がありません!!」

「クレハ・・・・。」

アレンは何度か首をぶんぶんと振った。
クレハの言葉を聞いて、少し何かを振り切ったようだ。

「ふん、オレを捕らえようと、オレがいなくなろうと、
 国民達の内なる声は異質な存在のお前をいつか
 追い出そうとする。
 魔物より強いお前を人々が恐れない訳はない。」

なおも吼えるジャックに対し、
アレンは静かに口を開いた。

「俺には、子どもがいるんだ。
 まだまだ泣き虫の赤子だよ。」

「・・・・?
 何の話だ・・・?」

「アレン・・・様・・・?」

ジャックもクレハもアレンが何を言わんとするのか
分からなかった。

「本当によく泣く奴でな。
 おっぱいが大好きでな。
 怖がりで甘えん坊なんだ。」

「それが・・・何だというのだ!?」

「でも、俺はあいつが生まれた時、少し安堵したんだ。
 これでローレシアの後は安泰だって。」

「安泰・・・?」

「国民皆が俺を恐れ、俺がいなくなった方が良いなら
 そうするさ。それで王位はカルに譲る。」

「アレン様、アレン様・・・!!何を仰るのですか!!」

クレハはアレンの言葉に息を飲んだ。

「知っている。
 俺が化物だって言われてる事くらい、
 ずーっと前から、子どものころから知ってる。」

「ア・・・レン・・・様・・・。」

少し寂しそうに笑ってから、
アレンは再度ジャックをにらみつけた。

「で、それとお前がクレハにやった事とは全然話が違うな。
 許しはしねえぜ・・・・。」

「くっ・・・!!」

ジャックは慌てて駆け出して、
先ほどの馬に飛び乗った。
そして、そのまま駆け出した。

「に、逃げる気か!!?」

クレハが慌てて追いかけようとするのを、
アレンは静かに止めた。

「アレン様、何故止めるのです!!
 あんな奴許してはなりません!!!」

「ああ、分かっているぜ?
 お前に手を出したんだからな。」

「そう・・・っじゃなくて!!」

クレハは泣きそうになった。
アレンにあんなことを言わせたジャックの言葉が本当に許せなかった。
だが、逆にアレンの表情は冷静だった。

「俺は、あいつを許しも逃がしもしないさ。」

そう言ってアレンは、ここに来て初めて
腰に差した剣に手を掛けた。

「魔法を使えないお前だ。
 馬には追いつけまい!!」

馬上から聞こえるジャックの声にアレンは
皮肉そうに笑った。

「そいつぁ、お前『化物』を甘く見た言葉だな。」

深く腰を下ろしたアレンは
剣を鞘から抜き去り、そして一度だけ横一閃になぎ払った。

その剣戟は激しい衝撃があったものの
馬に乗ったジャックには当たらなかった。

「外した・・・?」

思わずそう呟いたクレハだったが、
一瞬の後、それがアレンの狙い通りだったことに気づく。

アレンの剣戟ははるか先の老朽化した古びた橋を直撃した。
橋は大きな音を立てて崩れ落ちていく。

「ぐっ・・・!!」

慌てて馬を止めたジャックは
逃げ道が閉ざされた事を悟った。

「橋が壊れちまったが、どうせ建て直す予定だったからちょうどいいな。
 さあ、これで逃げられねえぜ。次はどうしようか?」

アレンはジャックを睨み付けた。
遠く離れた場所の橋を剣で破壊するくらいだ。
馬上の有利など無に等しかった。

アレンが剣を振り上げただけで、
恐怖に打ち震えたジャックは白目をむいて、
落馬してしまった。

「なんっだ、そりゃ。
 怖がりすぎだろ。」

アレンが倒れたジャックに駆け寄ろうとするのと、
森の中から多くの兵たちが現れるのが同時だった。

「アレン様ーーー!!」

「アレン王!!ご無事ですか!!」

どうやら、先ほどの破壊音で
兵たちに居場所が伝わったらしい。

「皆!!来てくださったのですね!」

クレハは嬉しそうに兵たちを迎え入れた。

「おお、クレハ様もこちらに!
 お怪我ありませんか!?」

「スコアも来てくれたのね。
 怪我はないわ。
 私も、勿論アレン様も。」

「良かった。」

スコアたち兵はアレンらの無事を心から安堵して笑みを浮かべた。

ジャックはすぐさまお縄につけられて、
ローレシアに連れ帰る事となった。

「アレン様、こやつ連れ帰ってどうしましょうか!?
 死刑に処しますか!??」

「牢にでも入れとけ。
 処遇は俺が考える。」

「はっ、分かりました!」

スコアはその指示に従った。

アレンはそう言うと、一息ついて、
ジャックが乗っていた馬を引っ張ってきた。

「この馬もローレシアのだろ?
 俺が乗っていく、クレハ後に乗れ。」

「は、はい!」

「では、皆撤収だ!!」

クレハはアレンの捕まって馬の背に乗った。
しばらく走ると急用があるのだといって、
アレンは他の兵たちより早く馬を走らせた。

「アレン様!!急用って・・・!?」

「カルが泣きじゃくってお前のおっぱい待ってるぜ。
 急いで帰らないと。」

「そ、そう言うことですか・・・。」

言われて子どもと見ればこんなに離れていた事はない。
自分の胸も張ってきているようだ。

だが、さっきアレンが言っていた言葉がクレハは気になった。
カレルに後を譲って、自分はローレシアを去るというアレンの言葉。

「アレン様、さっきのお言葉です・・・。」
「まぁ!なんだ。」

アレンはクレハの言葉を遮るように言った。

「まだ子どもって言っても赤ちゃんだからな。
 あんな泣き虫に後を譲るのもまだまだ無理だ。
 俺はローレシアにいるしかねえよな。
 当分。」

「アレン様・・・。」

笑いながらそう言うアレンだが、でもいつかは去りたいと思っているのだろうか。
そんなのはクレハは認められなかった。

「駄目ですよ。アレン様。カルが大人になったって、
 一人前になったって子どもはずっと父が必要なんです。
 そもそも私があなたを必要としているんです。
 どこかへ行くなんて駄目ですからね!」

「クレハが・・・?」

「大体、あんな馬鹿者の言う事聞いてたら駄目ですよ!
 アレン様一緒じゃなかったから知らなかったかもしれませんけど、
 あのスープ、兵たち皆すっごくすっごく喜んでくれたんですよ。
 皆だってアレン様の事が大好きなんですから!!」

アレンの人としての優しさ。
誰よりも勇敢で優しい、その偉大さ。
それを知ったから、昔と違って皆がアレンを慕うようになったのだ。

「まぁ・・・覚えとくよ。」

だが、言葉少なくアレンはただ馬を走らせた。
アレンの心に、クレハの言葉は響いたのだろうか。

「クレハ、一つ教えておいてやる。」

「なんですか?」

アレンの言葉をクレハは緊張して待った。

アレンは、思った。
子どもが小さいからどうのこうのと言うのは、後からついてきた言い訳で、
クレハがいるから国に帰れるのだと。

自分がこの国で居場所がないのではないかなんて、
旅の間からずっと考えていたことだ。
子どもの頃からずっと自分の異質性は感じていたし
同じ年頃の子と友達になれないのにも気付いていた。

その自分に居場所を作ってくれたのはクレハだ。

だが、そんな事を口に出すのは
こっぱずかしくて嫌だった。

だからアレンは違う事を言った。

「旅の間でもな、俺は馬には乗ってねえんだ。
 だから、俺が誰かを馬に乗せるのは、お前だけだぜ。」

「・・・・。」

あれ、反応がない。
外したかなと思ったら、
クレハはぎゅっとアレンに抱きついてきた。

「う、嬉しいです・・・。」

抱きついてきたクレハの顔をちらっと振り返ると、
真っ赤になって視線を感じるさらに恥ずかしそうに俯いた。

「ははっ、何だその反応!!
 よっし、飛ばすぞ。
 振り落とされないように、クレハはしっかり俺にくっついてろよ!!」

そう言ってアレンはクレハが馬から落ちないように
自分を抱える手をあたたかく握った。


「さぁ、帰ろうぜ!」


 



- 終 -

2014/08/13

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 「化物」は、クリア後のアレンで一度やってみたかった題材です。
 相変わらず意味不明の長さでスイマセン。

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