5−3.魔術・魔法


深く礼をして、王の間を出た3人は
マリアが言う城内の書庫へと向かった。

マリアは少し緊張した面持ちで、
書庫の扉を開いた。

中は、つい先ほどまで誰かが魔法の研究でもしていたかのような
形跡があった。

「相変わらず、魔法の本がいっぱいだな、ここは・・・。」

アレンが嫌そうにそう呟いた。
以前来たときも、アレンだけはここで本を開きながら必死に眠気と
戦ったものだ。

カインは篭る空気に少し咳込んで、きょろきょろしながら、
マリアに尋ねた。

「マリア・・・ここに、何の用が・・?」

マリアは物言わず、机の上に開かれた書籍の元へと歩み寄った。

「カイン、先ほどのラダトーム王のお言葉は本当に
 力強くて、私たちを励ましてくれたわ。」

「う、うん!」

それは同感だった。
生きたいと望む自分の考えはさらに強くなった。
もしかして、本当に助かるのかもしれない、そんな事を考える事すら出来た。

「あなたは、私が助けるわ。
 必ず。」

「えっ・・・?」

カインはマリアの言葉に驚いた。

カインが、病を得てから、
マリアは勿論完全回復魔法のベホマも含め、色々な魔法を試してきた。

絶対助けたいと思ったからだ。
だが、病気に回復魔法は効かない。

魔法は万能ではないのだ。
それはマリアも知っているはずではないか?

「おい、マリア。
 止めようぜ。パデキアの種をもらったんだ。
 それを育てたら、きっと大丈夫だ。」

アレンは何故かマリアを止めようとしている。
何故だろうか?

「マリア・・・何か考えている事があるの?
 いいよ、僕は何でもやるよ。」

助かるためなら、何でもしたい。何にだって耐えてみせる。
そう思っているのは本当だった。

「ありがとう。
 一つは、これよ。」

そう言って、マリアはとある書籍をカインに見せた。
回復魔法の本だ。

「・・・・・?
 回復魔法は・・・・。」

効かないと知っているはずではないか?
それにマリアは回復魔法なら既にマスターしている。
いまだわざわざラダトームへ来て、この本を開いている意味はなんだろうか?

「カイン、私新しい魔法を一つ覚えたのよ。」

「え・・・?新しい魔法?」

既に魔法のエキスパートであるマリアが、
さらに何の魔法を覚えたのか?
カインにはさっぱり分からなかった。

「ベホマよりさらに強力な魔法よ。
 もしかしたら、死ぬかもしれない・・・。」

「・・・・・!?」

回復魔法といったではないか?
なのに、死ぬかもしれないとはどういうことだ?

「これは本来は使われることがない魔法よ。
 過剰回復魔法、マホイミ。」

「・・・か、過剰・・・って?」

「ホイミっていうのは、本来生きとし生けるものを助けるものよ。
 いうなれば、枯れかけた花に水を上げて蘇らせるような意味合いね。」

「う、うん・・・。」

「過剰回復魔法とは、花に水をあげ続け、
 逆に花を枯らせてしまうような恐ろしい魔法よ。」

「・・・・・・・。」

カインがごくりと息を飲んだ。
回復させ続けて、死に至らせると言う事か?

「これで、あなたの体に掬う病の原因を
 死滅させるわ。下手な使い手が使えば、
 体ごと死に瀕することになるかもしれないけど、
 私は絶対そんな事はしないわ。
 ギリギリの所で調整して、あなたを助けてみせる。」

「・・・・・・・。」

カインはその言葉に驚いた。
そんなやり方があるなんて全然自分には想像も付かなかった。

「って、信じてもらえないわよね。
 まだ一度も使ったことのない魔法だもの・・。
 それに受ける側にも相当の負担がかかるわ・・。」

「ううん、信じるよ。マリアは・・・天才だもの。
 マリア、すごい。そんな方法があるなんて、
 僕全然知らなかった。負担なんて、絶対耐えてみせるよ!」

カインは一つも疑うことなどなかった。
マリアの魔法の力は信じきっていたからだ。

そう言われて、マリアは少しだけホッとしたように笑みを浮かべて、
直後にまた顔を曇らせた。

「カイン、もう一つあるの。」

「もう一つ・・・?」

首を傾げたカインに、
今まで一言も発せず見守っていたアレンが
食って入ってきた。

「なあ、マリア。それは必要ないだろう?
 止めようぜ!」

「・・・・?」

何の事だろうか?
マリアはさらに何を考えているのだろうか。

カインには分からなかった。
だが、マリアの表情を見ていると
あまり良い事ではないようだ。

「マリア、教えて。
 僕、何でもやるよ。
 マリアと一緒に生きて行きたいもの。
 何でもやるって決めたんだ。」

その言葉にマリアはぐっと言葉を詰まらせた。
だって、これは今までのカインの努力を全て無に返すようなものだ。
自分だけが先走って、独りよがりになってるだけかもしれない。

それでも、カインは今手に余る魔法の力に苦しめられている、
マリアはそれを見てきた。
だから、それだったら・・・・。

「私が・・・・あなたの魔法を、封印するわ。」

「・・・・・・・・。」

一瞬カインは返す言葉が思い浮かばなかった。
そのため沈黙してしまった。

それをマリアとアレンはどう受け取っただろうか?

「マリア!!お前見てないかもしれないけど、
 こいつ、すげえ魔法が使えるようになったんだぞ!?
 お前にだって使えないようなすげえ魔法なんだ!」

アレンは先に聞いて、さっきからそれで反対していたらしい。

「お前だって、カインの魔法で、
 命だって救われてんだぞ!?
 なんで、そんな事をお前が言うんだよ!!」

「アレンお願い、やめて。」

アレンがマリアを非難するようなことを言うので、
カインはそれを止めて貰うようにアレンに頼んだ。

「分かってるわ・・・。
 あなたが得てきた力を私もずっと一緒に見てきたわ。
 その力に私は助けられたことも何度もある。」

「マリア・・・・。」

「だけど、あなたはその魔法の力で今すごく苦しんでいる。
 心を痛めている。本当は夜も眠れないくらいに。」

「・・・・・・。」

「そんな生活を続けていたら、きっとまた倒れてしまう。
 これは私の独りよがりの考えかもしれない。
 でも、私は・・・あなたがもう苦しむのを見るのは嫌だ・・・。」

「マリア・・・。」

「カイン、私は・・・・ただ守られているだけの存在ではない。
 あなたがもし魔法を使えなくなっても、戦えなくなっても、
 私が絶対あなたを守るから。だから・・・だから・・・・。」

「・・・・マリア・・ねえ、マリア。」

カインは、なおも話し続けようとするマリアの名前を呼ぶと、
その手を引いた。
そして、震えるその肩を優しく抱いた。

「カイン・・・?」

「泣かないでよ。」

「・・・!?」

そう言われて、マリアは自分が泣いている事を気づいた。

「君の事をいっぱい苦しめて、本当にごめん。
 僕の事をいっぱい考えてくれて、本当にありがとう。」

「カ・・・イン・・・・?」

カインはあくまで冷静な様子だった。
本当は勝手なことを考えて、怒られるかと思っていたのだ。

「カイン、それじゃあ・・・・・?」

「構わない。魔法が使えなくなっても・・・構わない。
 それで、生きていけるんなら。」

アレンはその判断に驚いた。
今まで身につけてきた力を放棄しても構わないとカインは言う。
アレンにしてみたら、たとえ剣が使えなくなったとしたら、
そんなのは絶対嫌だった。なのに、カインはそれでも良いと言った。

「嘘だ、嘘だ、カイン!!
 お前ずっと、あれだけ魔法の勉強してたじゃねえか!
 あんなにギラが使えるようになって喜んでたじゃねえか!
 本当は嫌だろう!?嫌なら、嫌って言えよ!!」

「懐かしい話だね、アレン。」

カインはアレンの方を見て笑った。
本当に懐かしい思い出だ。湖の洞窟で苦労して初めてギラを打てたのだ。
今でもあの時の嬉しさは、昨日のことのように覚えていた。
新しい魔法を使えるようになった喜びは格別のものだった。
だけど、それよりも・・・。

「だけど、僕は生きたいんだ。アレン。」

「・・・・・っ・・・!」

「それにアレン、僕戦えなくなるわけじゃないと思うよ〜。
 アレンに教えてもらった剣があるからね。」

「・・・・カイン・・・・。」

「それに、人を癒す方法についても、今僕勉強してる所だよ。
 魔法に頼らなくても、戦うことや助けることは出来るはずだよ。」

医学の勉強をしているといった。そのことだろう。
カインは笑っていた。
何故、笑えるんだろうか?
アレンには分からなかった。

「ば、馬鹿やろう・・・!
 勝手にしやがれ・・・・・・!!!」

「アレン・・・。」

「だけど、一つだけ・・・耳の穴かっぽじって聞けよ!?
 あの時、ローレシアで戦ったとき、
 お前後悔するなって言ってた言葉・・。
 俺は、後悔なんかしてないぜ!」

「・・・アレン?」

「お前のすごかった姿を俺は見れたんだ!俺は絶対忘れない・・!
 強かったんだ、お前は・・・本当に・・・。
 絶対、絶対・・・忘れないからな・・・!!」

もう二度とあのカインは見られない。
あの戦いが、ああやって魔法を使って戦う、
最後の姿になってしまったのだ。

アレンはそれだけ言うと、背中を向けてしまった。
どんな表情をしているのかは、もう窺い知れなかった。

「ありがとう、アレン。」

あの強かったアレンが・・・、
カインにとって、いつも憧れだったアレンが、
今こうやって口にしてくれた言葉。
本当に嬉しかった。

「カイン、本当に良いのね・・・?」

マリアもそのやり取りを聞いて
色々なものが去来していただろう。
最後に確認のためにカインに尋ねた。

「うん。マリア、僕は、どうしたら良いの?」

あくまでカインは冷静だった。
一度も取り乱すことはなかった。

「こちらへ・・・。」

そう言うと、マリアはカインを書庫の奥へと案内した。
アレンも無言でそれについてきた。

そこには魔方陣が描かれていた。
魔法の力をより確実にするための魔方陣だ。
失敗は絶対に出来なかった。

「ここへ、座って。」

言われるとおりに、カインは魔方陣の中央へと座った。

「まずは魔法封じから行うわ。
 その後に、マホイミをする。おそらくカインは眠ったままでいけるはずよ。」

「うん、分かった。」

「目が覚めたら、きっと・・・全てが解決しているわ。」

それは断定と言うより、願望だったが。

「ありがとう、マリア。お願いするね。
 目を覚ますのが楽しみだよ。」

カインが楽しみだと言ってくれた。一つも疑っていない。
失敗すれば、死ぬかもしれないのに・・・。

少しマリアは勇気が持てた。
そうだ、絶対成功する。

「ええ。絶対成功させるわ。カイン。
 では、まずは左腕を貸してくれるかしら。」

カインは左手を差し出した。
いつもカインが魔法を使っていたのは左手だった。
この手から、何度も何度も魔法が唱えられていた。

その腕に対して・・・。

「私が封印を施すわ。カインを目を瞑っていてくれる?」

「うん。」

カインは言われるとおりに目を瞑った。
すうっと意識が遠のく気がした。
もう、マリアが手を触れている感触も感じられなくなった。

がくっと、首を垂れてしまった様子にアレンが心配そうに声を掛けた。

「おいっ、大丈夫なのか・・・?」

「だい・・じょうぶよ・・・っ・・!」

この場合の魔力封じとは、いわゆるマホトーンとは違う。
今まで使っていた精霊の力を、
力技で封じ込めてしまうのだ。
その封じた証として、小さな魔方陣がカインの左腕に
刻み付けられていく。

「マリア・・・?」

カインの方ばかりを見ていたアレンは、
マリアのほうを見て驚いた。

ひどく苦しそうだ。

「マリア!?」

マリアは答えられなかった。

深層の底に眠る精霊たちを無理やり封じ込める。
これは圧倒的な力量がなければ出来ないことだ。

マリアはあらゆる魔法を自在に使うことが出来る。
精霊たちにも愛されている。
だからこそ、こんな事が可能になる。

だけど・・・。

カインの体がふわっと光だしていた。
緑色の光。
何度か見たことがある、カインの魔法の光だ。

その光は、氾濫するように、
カインの体を何かを探すようにぐるぐるっと回り、
そうしてマリアを襲い始めた。

「キャアッ・・・!!」

マリアは思わず声をあげてしまった。

「おい、カイン何するんだ!!
 自分で納得したんじゃないのかよ。
 なんでマリアを攻撃すんだ!?」

アレンが驚いて、思わずカインに問いかけたが、
カインからの返答はない。

「アレン・・・やめてっ・・・!
 カインじゃないの・・・・!!!」

「カインじゃない?」

だって、この光の氾濫はカインから発するものではないのか?

アレンには分からないようだったが、
マリアには分かっていた。

精霊に愛されていたのは、
自分だけじゃない。カインもそうだ。
特に炎の精霊との相性は、カインは抜群だった。

「・・・う・・・うう・・・・っ・・。」

マリアの目から涙が流れてきた。

精霊たちが怒っている。
別れたくないと言っている。

分かっていたことなのに、
マリアには良く分かっていたことなのに、
精霊たちとの絆は、ほかに変えることが出来ない。
魔法を使えば使うほど、
精霊たちとの絆は深まる。

そんな事マリアが一番分かっている。

それを切り裂こうとしている。

それに対して精霊たちが
悪意をむき出しにして怒っているのだ。
今まで精霊たちに愛され続けたマリアにとって、
こんなに敵意を向けられるのは初めてだった。

「ごめん・・なさい・・・。ごめんなさい・・・。」

やっぱり独りよがりな考えだった。
こんなにカインは精霊たちに愛されていたのに。
無理やりそれを切り裂こうとするなんて。

思わず、ひざをつきそうになったマリアを
支えたのはアレンだった。

「おい、マリア大丈夫か!!
 泣くなよ、しっかりしろよ!
 お前とカインが決めたことだろ!?」

「ア・・・レン・・・・。」

そうだ、決めたのだ。

カインはマリアを信頼しきっていた。信頼に答えたかった。
ここで泣いてるなんてしったら、また心配をかけてしまうだろう。

もう、止まることなんて出来なかった。

「その身に宿る精霊たちよ、
 永劫の闇へ・・・沈め・・・・!!」

マリアは声をあげて、襲い来る精霊たちへと命じた。

次第に、怒り狂っていた精霊たちが、
その身に吸収されて消えていく。
封印されていく。

全てを、封じ込める・・・!

「あと・・・少し・・・。」

だが、抵抗するように
残ったわずかな緑色の精霊たちが天高く
舞い上がった。

「あ・・・・っ・・・!?」

思わず見上げたマリアは、
ふいに集中力が途切れたのを感じた。

がくっと、膝をついて、
マリアがその場に崩れ落ちた。

「マリア・・!?おい、大丈夫か!??」

あわてて、アレンがマリアに声をかけた。
アレンにとってしてみれば、何がどうで、どうなったのやら
さっぱり分からない。

魔法封じは・・・果たして成功したのだろうか・・・?






- 終 -

2013/09/30

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 後編です。一連の流れでやらせてもらいたかったので、3話構成で長々と失礼しました。
 マリアが考えていたことについて。
 すごく苦しんで決めた道なので、見守っていただけると幸いです。

 続き⇒「41.強がり」

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