「マリア様、本当に・・・・お綺麗ですわ。」
その言葉に、マリアは振り返って優しい笑みを浮かべた。
「まぁ・・・ありがとう。」
女官がマリアの姿を見て、目を潤ませている。
純白のドレスに身を包んだマリアの姿を見て、
その美しいだけではなく気品に溢れた姿に感動しているらしい。
それもそのはずだった。
このドレスは・・・さすがに同じものは残っていなかったが、
亡きマリアの母が着たというロイヤルウェディングドレスのデザインをかたどった物だ。
母の面差しとよく似ているマリアには本当によく似合っていた。
きっと亡き父や母も、マリアのこの姿を見たかったことだろう。
見たがるといえば・・。
「ふふ、マリア様。さっきから、カイン様がそわそわと扉の前をうろうろされているんです。
ずっとお待ちのようで・・・。私お呼びしてきますね。」
そして少し笑いながら、扉を開けて、何やら声を掛けている。
言葉通り、扉の前を行ったり来たりしているカインを想像して、
マリアは思わず笑ってしまった。
そんなに気にしてくれているのだろうか。
扉からパッと顔を見せたカインは、マリアの姿を見ると
思わず声を失ってしまった。
「・・・・・・・・・・っ・・」
「変かしら・・・?」
王族とは言っても、
さすがにこのような本格的なウェディングドレスは着慣れない。
思わず、どこか変だっただろうか?と見回してしまった。
「へ・・・・変じゃないよ・・・・!
なんて言えば良いか・・あの、綺麗だよ・・!!
あんまり綺麗だから・・・見入っちゃった。」
「まぁ、ありがとう。」
「背中から見ると、すっとして、とてもなんだか凛々しいんだね。
スカートの裾が長くて、綺麗だ。
なんだか気高さも感じるよ。」
傍に控えていた女官が、
これがかつてのムーンブルク王妃のドレスと同じデザインなのだと
カインに教えていた。
刺繍の入った長いトレーンが特徴的なのだとか。
「そうなんだ、素敵だね。
きっとお父様もお母様も今日のことを見守っていてくれるよ。」
「ええ・・そうだと良いわ。
でも見て。ドレスはね、ムーンブルクの伝統を踏襲したものだけど、
ティアラは違うのよ。
これはね、花をあしらったものなの。」
「本当だ。うん、綺麗だよ。」
どうやら言われても気付いていないらしいカインに
女官が再度教えてくれた。
「こちらはマリア様たってのこだわりだったんですよ。
慣例としては、ジュエリーをあしらったティアラなんですが、
どうしても、生花を使った花冠が良いと・・・。」
「生花?・・・もしかして・・・。」
ようやく気付いたらしいカインに、マリアはくすっと笑った。
「でもね、あなたにもらった花冠の方がもっと綺麗だった気がするわ。」
旅の終わりにカインがマリアにプレゼントした花冠。
あれはとうに枯れてしまったが、マリアの心には残っていたらしい。
正直、そう言ってもらえた事はすごく嬉しかった。
今日は、いよいよ結婚披露宴の日だった。
既に招待状を見て各国から多くの人が詰め掛けていて、
その賑やかさは建物の中にいても、感じられる。
多くの人にとっては、
今日がきっと新しいムーンブルクの出発の日と言うことになるのだろう。
その人々の前で、その旅立ちを見届けてもらうのだ。
マリアは、急に緊張してきた。
復旧も途上、多くの人を100%満足してもらえるとも思えない。
それでも精一杯心づくしの歓迎をしたいつもりだ。
うまくできるだろうか。
皆はこの新しいムーンブルクを認めてくれるだろうか。
「わっ・・?」
緊張していたマリアの口に急に中に何かを放り込まれた。
一体何をするのかと抗議したくなったが、
口の中に甘い香りが広がるのを感じて、抗議の声も弱まる。
「マリア、リラックスリラックス。
隣に僕が付いてるし。」
どうやら先ほど口に放り込まれたのは、
カインの作ったお菓子のようだ。
「ねぇ、どう?美味しい??
せっかくだから、皆にも少しお出しするんだ〜。
さすがに、アレン時みたいに何でも自分でやるのは無理だけど。」
カインの作るお菓子は、どうも人を自然と笑顔にさせる。
きっと来賓の皆も喜ぶだろう。
マリアも自然と肩の力が抜けて笑顔になった。
「ふふ、美味しいわ。
カインも最高にカッコいいわよ。」
「え・・ふぇえ!?」
さらっと言った言葉に、今度はカインが照れている。
普段着ない真っ白のタキシード姿はよく似合っているし、
決して衣装にも負けておらず、
彼もやはり生来の王族なのだと思わせる雰囲気だった。
「さぁ、カイン行きましょうか。」
****
屋外で開かれた結婚の儀式は、つつがなく進行した。
少々たどたどしかったが誓いのキスや、指輪の交換、
永遠の愛の誓いも取り交わした。
列席する来賓たちは暖かくそれを見守った。
最後に、2人は来賓方を向いて口を開いた。
「本日 私達は 皆様の前で結婚の誓いを致しました。」
そして、マリアは列席者に向かって、思いのたけを話した。
「皆様、本日はお忙しい中お集まり下さりありがとうございます。
我がムーンブルクは、今日新たな岐路に立ったばかり。
私達がこうやってここにいるのも、
ここに来て下さる世界各国の皆様のおかげです。
これからも私達は日々努力し、
かつての皆様の知るムーンブルクを必ずや復興させると同時に、
ロト同盟国としての使命を忘れず、
お集まりいただいた皆様方、そして世界中の人々の平和を祈り続ける事を
皆様方にお約束させていただきたく存じます。」
力強い誓いの言葉を聞いて、皆は暖かく拍手をして
新たな門出を祝ってくれた。
そんな様子に一つの大役を無事に終えることが出来て、
マリアは少しホッとした。
見ると、本当に懐かしい顔ぶれが集まってくれている。
小さい頃のマリアを知っているムーンペタの長老などは
もう大粒の涙を流しているし、
本来大事な招待客や来賓を警備するはずのクナを初めとした
ムーンブルク兵も今は涙ぐんでいた。
ルプガナで船を貸してくれた長老も、来てくれていた。
一緒に船で来たのであろう航海士ミゲルも
今日ばかりは船から下りて、精一杯の正装姿で2人を祝ってくれた。
ミゲルには本当に世話になった。
その姿を見つけるとカインもマリアも少し無邪気に手を振った。
また、アレフガルドからは
ラダトームのラルス王とその面々が。
親類のような優しい瞳で2人を暖かく見守ってくれていた。
縁深い彼らの幸せと、そして末永いロト各国の幸せを、
このラダトーム王はいつも祈っていた。
一方、少し場違いなほど賑やかな一行は
デルコンダル王とそのお付の従者たちだ。
まさか2人が結婚するなどとは思わなかったなどと
王はマリアたちに豪快に笑いかけた。
さらに、是非またデルコンダルへ遊びに来るように、何度も声を掛けてくれた。
その言葉に、ありがたく、何度もマリアは頷いた。
そして・・・・
サマルトリアの面々と、そしてカインの父が
2人の傍へとやってきた。
「父さま・・・!」
もっと早く近くに来てくれたらいいのに、と
さすがに笑顔でカインは父を歓迎した。
「うむ。マリア殿、本日は誠に素晴らしい一日だ。
美しいロングトレーンのドレス姿は
先代の王妃と瓜二つだよ。」
「本当でしょうか。ありがとうございます!」
その言葉を聞き、マリアは深く頭を下げた。
「何かと若い2人では大変な事も多いだろう。
だが、マリア殿は最早天涯孤独の身ではない。
今日からは、このカインがあなたの家族となる。
そして私もマリア殿のただ一人の親とも言える。
何か困った事があれば、いつでも力になろう。
何でも言ってきなさい。」
「は・・・はい・・・・。
ありがとうございます・・!!」
思わぬ暖かい言葉に、マリアは思わず胸がいっぱいになった。
実両親がいない自分にとっては唯一の親と言えるのだ。
まだまだ未熟な自分達はきっと色々教えてもらわなければならないだろう。
「そして、カイン。」
「はい。」
次に、カインのほうを向いた父王に緊張したように顔を向けた。
「お前、影が薄くて、どこにいるんだかさっぱり分からんかったぞ。」
「え・・ええーー?」
相変わらずの父の辛らつな言葉に、
少し子供っぽいふくれた表情をしたカインに父は、少し懐かしそうに笑いかけた。
「しっかりやれよ。
マリア殿を泣かせたりしたら、許さんからな。」
「はい。分かっています。」
カインはその言葉にしっかりと頷いた。
「お前は・・・大して、強くもなければ、頭もさほど良くもない、
何の才能がある訳でもないが・・・・。」
「・・父さまー?」
ここに来てもお説教か?と思ったが、どうやら言いたい事は違ったらしい。
「それでもお前は私の自慢の息子に違いない。
だから、ちゃんと体を厭えよ。」
「・・・・・・。
はい、ありがとうございます。」
普段に似合わぬ優しい言葉が、カインは素直に嬉しかった。
父とのやり取りに思わずしんみりとしていると、
少し離れた所から、また良く見知った2人の大好きな仲間が会いに来てくれた。
その顔を見た瞬間、思わずカインもマリアも心からの笑顔になる。
「アレンだ。アレン〜〜!」
「アレン!ようこそ、よく来てくれたわ」
「よお。」
アレンも笑顔で、手を振ってこちらへやって来てくれた。
「カインは、影が薄いな〜〜。
全然目立ってないから、今日はいないのかと思ったぜ?」
「ええ!?嘘、本当にー?
アレンまでそんな事言うの!?」
思わず唇を尖らせたカインにアレンは笑った。
「はは。冗談だよ。さっきの会話が聞こえてたんでなー。」
どうやら単にカインをからかっていたらしい。
なんだろうか、自分はからかわれやすいらしい。
憮然とした表情のカインに
アレンは今度は少し真面目な顔をして言った。
「マリアは本当に、綺麗だな。
ドレスもティアラもよく似合ってるよ。」
「まぁ、アレンありがとう。」
珍しく自分を一番に褒めてくれたアレンにマリアは礼を言った。
「こんなに綺麗な姿を見せたら、
きっと世の中の多くの男たちが羨んでると思うぜ。
カインお前、そんな男たちが大挙して現われたらどうする?
マリアに手を出そうとしたらどうする?」
「駄目だよ。そんなの分かってるでしょう?
マリアは、僕が守るから。手なんて出させないよ。」
カインのそのきっぱりとした言葉に、アレンは満足げに頷いた。
「ああ、しっかり頼んだぜ。」
それはアレンからカインへの激励の言葉だったんだろう。
「長かったような、短かったような・・・。
とにかくだ、2人ともおめでとう。」
仲間からの祝福の声は、やっぱり素直に嬉しかった。
「ありがとう、アレン。
今日は、赤ちゃんは?」
クレハの姿も見えなかった。
「ああ、悪いな。
あいつはまだまだいっつも泣いてて騒々しい赤子なんで
今日はクレハと一緒に留守番してるんだ。
俺だけ来た。」
「そうなのね。いいえ、アレン来てくれて嬉しいわ。」
「お前らもまた2人で
・・いや、1人でもいいから、いつでも遊びに来てくれよ。」
「うん、必ず行くよ。」
アレンとの会話は、何気ないものでも、とても楽しかった。
今となっては俄かに信じられないが、
ずっとこの3人で一緒に世界を旅していたのだ。
そして世界を救うという偉業を成し遂げたのだ。
それを他の来賓客も知っているから、
3人の英雄の邂逅を暖かく見守ってくれていた。
「でさ。なあ、マリア。
俺、お前に渡すものがあるんだ。」
「え・・・アレンから、私へ・・・・?」
なんだろうかと考えてみたが、すぐには思いつかなかった。
だが、アレンが大事にそうに持参したものを見ると
すぐにそれが何かは理解できた。
「これは、お前の国を守る『守り神』みたいなものだろう?
俺が持っているより、お前の国にあるのが相応しいだろうさ。」
アレンが持ってきていたのは、かつて彼自身が身につけていたロトの鎧だ。
アレンの命を何度も救っただろう。
やり取りを見守っていた観客達も
伝説のロトの鎧を見るのは初めてとあって、少々ざわついていた。
「ずーっとこいつは、このムーンブルクにあったこの国の至宝なんだ。
盾もサマルトリアに返したしな。
鎧もお前の国へ返すよ。」
「でも・・・アレン良いの?」
正直言うと、ロトの鎧がムーンブルクに保管されていた事は
ムーンブルク滅亡後に聞いた事で、
マリア自身はさほどこの国にロトの鎧が存在した事に実感がない。
「て言うか俺さ。
お前達2人にしたら、どっか心配なんだよな。
だから、こいつがこの国を守る力に少しでもなれたら嬉しいと思う。
それに、きっとお前の亡き父上と母上は、
こいつが無事返ってきて喜んでくれるだろうと思うしな。」
「アレン・・・ありがとう。本当にそうね。」
自分たちの事を、いつになっても心配してくれている。
アレンは本当に優しくて素晴らしい仲間だった。
「で、実際この鎧を必要とする事態が起きたら、
俺が飛んできてやるよ。お前ら装備できねえし。
あ、カインが装備できるようなってるかもしれねえか?」
「え?僕?いや、無理だと思うけど・・・。」
カインはロトの鎧を見ながら首を振った。
重い鎧の類は、旅の間でもカインは一度も身につけたことがなかった。
「だから、何かあればすぐに俺にも声掛けろよな。
俺は3人の絆は、これからも何年も何十年経っても有効だと思ってる。」
「ありがとう、アレン。
その通りだよ。本当に心強いよ。」
「アレン嬉しいわ。
あなたも何かがあれば私達に言ってきて。
いつでも力になるわ。」
3人の仲間達の力強いその約束を聞いていた
列席者達は、目の当たりにした英雄達の絆に胸を熱くして
拍手してそれを称えた。
その音が耳に入って、アレンは慌てて振り返った。
「わ、すっごい聞かれてた。
やべ、今の世界中に聞かれてるじゃねえか。」
慌てたように左右を見渡してるアレンに、
マリアが落ち着いて話しかけた。
「大丈夫よ、何も悪い事は言っていないわ。
ロトの鎧、責任を持って私が守り続けます。」
「あ・・・ああ。」
マリアの言葉に、アレンも心配などはしてないという風に頷いた。
そしてぐいーっと伸びをした。
「さて、一段落したところで、結婚式と言えば、うまい飯〜〜!!
今回も、カインが作ったのか?」
話題を振られて、カインは指で少しだけと指し示した。
「ううん、違うよ。
でもちょ〜っとだけ、お菓子を作ったよ。」
「じゃ、それは食う。
あとは適当に頂いて来ます。」
「どうぞ、どうぞ。」
妙に丁寧に言うアレンを2人は思わず笑いながら見送った。
ムーンブルクの心づくしの料理は来賓の人々も喜んでくれたようだ。
皆にこやかに、歓談しながら、料理を食べてくれている。
他国の人などとは普段滅多に会えないし、
珍しい国々の交流なども生まれているようだ。
今日と言う日が新たな縁の始まりとなり、
人々の輪がさらに繋がっていけば良いと思う。
無事につつがなく式は進み、日も傾き始めていた。
そろそろ宴の時間も終わりである。
皆すっかり出来上がって、楽しげな様子をしていたが、
少しだけ、気にかかる事があった。
「カインどうしたの?」
マリアは、カインが少し浮かない顔をしているのに気付いた。
その理由には思い当たるものがあった。
来賓の列席者たちは、
皆2人に顔を見せてくれて祝いの言葉をかけてくれるのに、
1人だけまだ一度も顔を見せてくれていない人がいた。
「マイは・・・・来てくれないのかなあ。」
カインの妹がまだ姿を見せてくれない。
マイは、一時は結婚にも大反対だっただけあって、
素直に顔が出せないのだろうか。
・・・それとも、実は今も結婚には反対なのだろうか。
もしくは、別の理由で来れないのだろうか。
それならそれで、逆にすごく心配になる。
父に聞いてみても「知らん」と、にべもなく言われてしまった。
わが父ながら、何だか薄情じゃないかとも思う。
「カイン・・・・。」
「あ、大丈夫だよ。今度、日を改めて様子を見に行ってみるよ。」
マリアに心配をかけてる場合ではないと、
カインは努めて平常を装った。
そろそろ、終わりの時間。
最後に今日来て下さった来賓客へお礼の言葉を言おうと
マリアが立ち上がったとき・・・
ふわっと、何かが空から降ってきた。
もしや、雨でも降ってきたのかと思い、慌てて見上げるとそうではなくて、
鮮やかな花びらが振ってきたのだった。
「え・・・?」
何だか見覚えのあるシチュエーションと思って、隣のカインを見たが、
カインのほうも驚いているようだった。
「わあ・・・綺麗・・・。この花・・って。」
オレンジ色の鮮やかな花は、カインにも見覚えがあった。
サマルトリアの花だ。
「ごめんなさいっ!!!間に合ったかな・・・!?」
そんな慌てんぼうな声と共に、
これも鮮やかなオレンジ色のドレスに身を包んだ
マイが両手に大きな花束を抱いて、空から舞い降りてきた。
おそらく、ルーラで飛んできたのだろう。
突然の事態に、来賓客も驚いている。
「マリアお姉さま!!ご結婚おめでとうございます!!
遅くなって、ごめんなさい!!」
「マイさん、よく来てくれたわ。
待っていたわよ。」
「ありがとうございます!
お姉さま、ドレス姿本当にお美しいですわ。」
そう言ってマイは花束をマリアに手渡した。
両手にいっぱいの花束は今しがた用意されたのか
いまだ甘い香りがした。
突然の登場には驚いたが、
待ちわびた来訪にマリアはマイを歓迎した。
「マイ、お前どこから飛んできたの。
それにどうして、こんなに遅くなったの?」
カインの批難めいた声に、マイはチラッと視線を向けて
あっけらかんと言った。
「あ、お兄さまいたの。」
「いーるーよ!!そりゃ、いるでしょう!
何さ、お前まで僕の影が薄いって言うの?」
三人続いて影が薄いなどと言われると、さすがに少々心外だが、
実際に影が薄いのかと思って、逆に若干心配にもなってきた。
「ふふ、冗談よ。お兄さま。
そろそろお兄さまがサマルトリアを恋しく思って、
ホームシックにでもなってるかなあって思って。」
「え?」
何を言い出すのかと思って少々怪訝な表情をした兄に、
マイは少し笑った。
「マリアお姉さま、もしお許し頂けるのであれば、
もう少々の花々を私から贈らせて頂けませんか?」
「マイさん・・・?え・・ええ・・」
既に両手にいっぱいの花束をもらっているのに、
これ以上とはどういうことだろうか?
「ありがとうございます。
この屋外の広いスペースなら、きっと大丈夫だと思います。」
「な、何が・・・?」
マイが何をしようとしているのか、
カインにも分からなかった。
「マイ、何をするの?」
「お兄さま、もう忘れちゃったの?
サマルトリアは、花と緑の国よ!!」
マイのその一言と共にパッとどこかから花々が魔法のように現われた。
いや、実際魔法なのだろう。
各テーブルの卓上には可愛らしいブーケが花開く。
来賓客が驚きの声をあげている。
が、驚きはそれだけに留まらない。
これはサマルトリアの花々なのだろう。
カインには見覚えがあった。
その明るい色合いの花と緑が会場を彩っていった。
「ど、どうでしょうか・・・?私からの贈り物・・。」
ちょっとやりすぎたかな・・?とマイは少し心配げに
顔を上げた。
勿論会場には最初から装花がほどこされている。
そこに、この鮮やかな花が舞い振ってきたことで、
それだけでムーンブルクとサマルトリアの双方の国を感じられるのだ。
「素晴らしいわ、マイさんありがとう。」
マリアは感激したようにマイに礼を言った。
カインは少し驚いた様子だったが、
正直、こんなプレゼントがあるなんて思ってなかったので嬉しかった。
「それにしても、花のプレゼントなんて、
あなた方は本当によく似ているのね。」
「え、何がですか?」
マリアの言葉に、少しカインは思い当たって顔をそらした。
マイは何のことか分からなかったようだ。
「ふふ、こちらの事よ。」
マリアはそれだけを言った。
さぁ、いよいよ楽しかった時間もおしまいである。
マリアの父や母も今日のこの日を見守ってくれていただろうか。
喜んでくれているだろうか。
懐かしい顔にも沢山会えたし、
皆も喜んでくれていた。
また、逆に思いもよらない贈り物も受け取った。
本当に夢のような素晴らしい時間だった。
ムーンブルク復興はマリアにとっての本願であった。
きっとそれは今日大きく進んだ事だろう。
「カイン、ここまで連れてきてくれてありがとう。」
思わずマリアは、隣のカインにそう言った。
カインは優しく首を振ると、マリアのその手を取った。
「ううん。ここまで、じゃないよ。」
「カイン?」
マリアは一瞬否定されたのかと思ったが、
カインの表情はあくまで優しいものだった。
「ねえ、マリア。
この素晴らしい人たちに見守られてるんだと思うと、
本当に心強いね。」
「ええ、ええ・・・。」
「だから大丈夫だよ。
僕らは、きっともっと先へも進んでいけるよ。」
その言葉に、マリアは静かに涙を流した。
- 終 -
2013/12/29
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