アレンは、ほどなくマイに追いついた。
「おい、姫どうして逃げるんだよ。」
「あ・・・・っ。アレン様。」
マイはアレンの姿を認識すると
観念したようにその場に座り込んだ。
「大変だったな。まさか魔物が出てくるとか。
姫も良く戦ったな。
さっきの台詞しびれたぜ。」
「え・・?」
「最後にメガンテを選ぶか、ベギラマを選ぶかで
男っぷりが分かるんだってやつ。
俺もそう思うぜー。」
褒められて少し笑ったマイだが、
直後に悲しそうに首を振った。
「あれは・・・お兄様を納得させるために言った言葉です。
本当は、私が・・私がお兄様が死ぬなんて、絶対嫌だっただけで・・!」
「ああ、だからよく言ったなって言ってるんだよ。
あの馬鹿がへたれて来れないから
代わりに褒めてやるよ。あれだけの魔物と良く戦ったな。」
そう言うとさらに大きく首を振った。
「違うんです。魔物を呼び寄せたのは
私の責任なんです!」
「どういうことだ?」
アレンの問いかけに、
マイは重い口を開いた。
過去に戻りたいと思ってしまったと。
魔物がいたって構わないと思ったのだ。
「あの宝物庫は何だか、闇の・・なんだっけ・・
とにかく闇が膨れ上がるような場所なんですって。
それをロトの盾が守ってたとか何だとか。
だから、本当に私のせいなんです。」
「ロトの盾?」
それなら、今自分が持っている。
闇を封じ込めていたなんて話初耳だが。
「私達も初耳でした。
あんまりみだりに入っては行けないと言われたのは
そう言う理由だったみたいです。」
「そうなのか・・・。」
なら、このロトの盾はサマルトリアに返すべきだろう。
「それより、姫なんで昔の方がいいとか思ったんだ?」
「それ・・は・・・・。」
今思えば子供じみた感情だっただろう。
旅に出た兄は自分達の事を考えてくれなくなったと思ってしまった。
母が亡くなり、兄がいなくなるくらいだったら、
昔の方が良いだなんて考えてしまったのだ。
「でも、今回お兄様がメガンテで死ぬかもとか思ったら、
生きてることが一番嬉しい事だと思いました・・・。」
言いづらそうにそう言うマイに、アレンは少し苦笑気味で口を開いた。
「あいつが、サマルトリアの事を考えてない?
そんなはずないぜ。
一度は命を投げ出してでも、この国を助けたんだし。」
「えっ?この国を?」
「聞いてなかったか?旅の最中に世界樹の葉を俺らが使った理由を。」
マイはてっきり、魔物にやられて大怪我を負ったのだと思っていた。
アレンは話していいものかと思いつつ、
マイに、カインがハーゴンの呪いに倒れたときのことを話した。
サマルトリアの国を救うために、その細みな体で、一心に呪いを受けた。
誰にも相談せずに。
「えっ・・・えっ・・・・!?嘘ですよね・・・!?」
「嘘なもんかよ。
大変だったんだから。」
マイはそんな事知らなかった。
「それに、あいつ意外とサバサバしてるしな。
本当に、この国がどうでも良かったら、
とっとと出て行ってると思うぜ。
今もこの国をうろうろしてるのが、その証拠だよ。」
「・・・・・・。」
自分が兄の足を止めていたのだろうか・・・。
マイがそう思い、少し胸に手を当てた。
そんな様子を見てアレンは話題を変えた。
「ああ、ところで姫も、あの門兵とはどうなってんだよ。
もうさ、結婚して、王位をついだらどうなんだ?」
「は!?門兵ってリックの事ですか?
あんなの全然・・・今もさっきも全然助けにも来ないし!」
きっと怖くて逃げ出したんだろう。
まぁ、安全な所で無事にしていたら良い。
そう思ったがアレンが言う事は違った。
「城門の所で魔物と戦っていたようだな。
城外に魔物を出さないって使命を頑なに守ったらしいぜ。
中々良い奴じゃねえか。
姫の事も必死に心配してたしな。」
「・・・・ほ、本当ですか!?」
あんな弱虫が随分頑張ったではないか。
弱い弱いと思っていたが、
実は強い心と優しい心を持っているのかもしれない。
誰かに、似ている気がした。
「・・・・ありがとうございます。
後で、顔を見に行きます。」
マイはそう言うと、立ち上がった。
でもリックより先に、兄に謝りに行かねばと思った。
そう思ったとき、
カインとマリアの方がマイを探してやってきた。
「あ、マイ。アレン見つけてくれてありがとう。」
カインの傷はすっかり治っていた。
マリアの回復魔法だろう。
兄は、マイを庇うように戦っていたので、
自分と比べて傷だらけになってしまったのだ。
マイの回復魔法では追いつかなかったが、
さすがにマリアの魔法は桁が違うらしい。
「お・・・お兄様・・・。
ごめんなさい、私ひどい事を言った。」
「ううん、僕のほうこそ
マイの気持ちを考えずに、ひどい事をしてきたし、
実際ひどい事も言ったと思う。
反省してるよ。ちゃんとサマルトリアに残って−。」
「ううん!!」
マイはカインの言葉を遮った。
「聞かせて、お兄様。
マリア様のことをどう思っているの?
ごまかさずに、ちゃんと教えて!」
その言葉に少し考えて、
カインは、しかし正直に答えた。
「とても・・大切で、世界で唯一愛している人だよ。
一緒に生きて行きたいと思っている。」
その言葉にマイは少し涙がこぼれた。
「マイ・・・・。」
「お兄様、宝物庫の封印をしないといけませんね・・・。」
「え?あ、ああ・・・・。」
唐突に代わった話題に戸惑ったが、カインは頷いた。
「アレン様、ロトの盾をサマルトリアに、
お返しいただけませんか?」
「・・・・・・分かった。」
急に話を振られたアレンも、少し戸惑いつつも頷いた。
ロトの盾を返すことに異存はなかった。
無言でそれをカインに手渡した。
「では、お兄様。ロトの盾は私に渡してください。」
「え・・?何、何なの?」
この盾の渡しあいは何の意味があるのかと
最初分からなかった。
だが、いざロトの盾をマイに差し出すと
カインはその意味を嫌でも感じた。
ロトの盾はこの国の至宝だった宝だ。
それをマイに手渡すと言う意味は・・・。
「お兄様から預かったこの盾は、私がこれからこの国で守っていきます。」
「マイ!?何を言ってるの!?」
「だからお兄様ご安心ください。
そして、もう何も気にせず行って下さい・・・っ・・・!!」
こぼれる涙をマイは一度その袖で拭った。
「お兄様・・・。お兄様の行動に、
私はいつも何も関与できなかった。
私がいてもいなくてもお兄様は旅に出たし、
強くなったし、世界を救ったんです。
でも今回は違います。
これが私の意志です。」
そして涙を流したまま、マイは精一杯笑ってみせた。
「最後に一緒に戦えて嬉しかった。
私達息ぴったりだったよね・・・!
だから、だから・・・もう、行って下さい。
そして、どうか、お兄様幸せになって下さいねっ。」
「マイ・・・・」
その健気な妹をカインは力を込めて、
精一杯優しく抱きしめることしか出来なかった。
この兄妹を引き裂くような事をして良いのか
ずっとマリアも悩んでいた。
だからこそ、その言葉にマリアも思わず涙した。
「マイさん、ずっとあなたに、返したかったものがあるの。」
「?マリア様?
何ですか?」
マリアの言葉に、マイは顔を上げた。
マリアが差し出したのは一枚の古びた赤い布だった。
でも見覚えがあった。
「それ・・・・。」
「魔よけの効果があるっていう赤いスカーフ。
あなたがカインに渡したものよね。」
「は、はい!でもどうして、マリア様が?」
旅立ちのときに、マイがカインに手渡したものだった。
「私が犬になって呪われていたときも
この赤いスカーフのおかげで、私達3人は出会うことが出来たの。
きっと魔よけの効果は本当よ。
こうやって3人揃って帰って来れたんだものね。」
マリアは、それを実感していた。
旅の間、このスカーフをずっとマリアは身につけていた。
きっと旅慣れない自分を守っていてくれただろう。
「マイさん、本当にありがとう。
これからはきっとあなたを守ってくれるわ。」
そう言ってマリアはマイの首にそのスカーフを巻いてやった。
このスカーフには、カインやマリアの思いが篭っているだろう。
それに、自分が知らない兄達の旅の事を知っているだろう。
そう思うと少し首周りが暖かく感じられた。
「大分痛んでしまったの。ごめんなさいね。」
「いいえ、いいえ。
嬉しいです。とても・・・嬉しいですっ!!」
マリアの優しさに触れたマイは、
マリアの方を見てそしてずっと言いたかった事を言った。
「マリア様・・・私、マリア様に一つ・・一つだけお願いがあるんです。」
「なあに?
なんでも言って。」
「私・・・・・私・・・・」
カインとマリアが結婚するんだから、
決して、兄がいなくなるのではないのだ。
そうじゃなくて、増えるのだ。
家族が。
だから・・・・。
「マリア様・・・・の事を・・・・
おね・・お姉さま・・・・って呼んで、良いですか・・・・っ・・!?」
ボロボロ涙を流してそう言うマイに
マリアは胸を打たれて一瞬返す言葉に詰まった。
そして、優しい笑みで答えた。
「ええ、勿論よ。駄目な訳がないわ。
こんなに可愛い妹が出来るのなら、私も本当に嬉しいもの・・!」
「えへへ・・・。ありがとうございます。
へたれなお兄様ですけど、よろしくお願いしますね。」
ふふっと笑ってマイがそう言った。
だが直後、廊下で話していたその話が聞こえたのか
誰かがつかつかとこちらへやってきた。
「話は聞かせてもらった・・・が。」
「お父様!!」
「父さま。」
やってきたのは、サマルトリア王とオリーブ先生だった。
見ると、2人とも魔物と戦ったらしく傷を負っていた。
「まずはカイン、この戦いの戦況についてだが。」
「は・・・はい。」
そうだ、今サマルトリアは戦場となっていた。
あまり浮かれている場合ではない。
「城内にいる魔物どもは全て殲滅した。」
「・・・本当ですか!良かった!」
あまり強くないと言われるサマルトリアの兵たちだが、
城下には一切被害もなく、
今回は本当に頑張ったようだ。
「ええ、王子が以前使われた魔法の結界よる
集団ルカナンが今回も面白いように決まりましてな。
うちの脆弱な兵達でも倒す事ができました。
王子の経験はこの国の力にもなっています。」
「オリーブ、余計な事を言わんで良い。」
「はい。」
「ともかくだ。
お前の力などなくても、我々は勝利を得たのだ。
つまり、お前の力など要らんという事だ。」
「父さま・・・。」
父は相変わらず少し辛らつな言葉でそういい捨てた。
反発するようにマイが噛み付いた。
「お父様!何を言うんですか!
宝物庫の中で、どれだけお兄様が戦ったと思っているのですか!」
「それは、マイが余計な事をしたからだろう。
お前も反省せい!!」
「あ・・・はい・・・。」
しゅんとなるマイを他所に、
王は再度口を開いた。
「もう一度言う。カイン、お前の力は必要ない。
だから、早く行くなら行ってしまえ。」
「え・・・行く・・・って?」
「お前は馬鹿者か。
ムーンブルクだろう。
ムーンブルク再興のためにならば、
我がサマルトリアも一肌も二肌も脱ごうと言う事だ。」
カインは驚いて目を見開いた。
今までずっと反対されていたのにどうしたと言うのだ?
「ここに縛り付けておいても、いつか王子が全てを捨てて
飛び出していくかもしれないと王は思っておるのじゃ。
それだったら、王の認めた中で巣立ってもらいたいと言う考えじゃ。」
「オリーーーブ!!余計な事は言わんで良いと言っている!!」
「はい、はい。」
オリーブは首を竦めた。
だが、その言葉は間違いではなかった。
「だが、カインよ、全ての権利を手放すなどとは認めん。」
「え?」
「王位継承権は私が預かる。マイにはまだ早いからな。
今回のことで再度そう思ったわ。」
「ぐ・・・。」
マイは思わずうめき声を上げたが、
だが、王位などとは少し荷が思いと思っていたので、安堵もした。
「それからお前の地位も部屋も何もかも残したままだ。
お前が私の息子である事に代わりはないからな。」
「・・・!」
「そして、いつでもサマルトリアに来たいときに来るが良い。」
「あ・・・・・。
ありがとうございます!!!」
カインは思わず父に頭を下げた。
マリアも同じく深く礼をした。
2人は、サマルトリア王の、その温情に感謝せずにはいられなかった。
- 終 -
2013/10/31
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