母のことはカインに知らせるべきか。
いや、知らせるべきではない。
そうしたら、戦いどころではなくなるかもしれない。
今彼らはもっと大変な局面で
ロトの子孫としての運命を背負い、
世界を背負って戦っているのだ。
こんな家族の事で煩わせる事は出来ないと思った。
そして、そもそもサマルトリアの国とは、何なのか。
先代の王から一度だけ聞かされた話があった。
今頃になって頭を離れない。
色々な考えが頭を逡巡する。
マイが怒ったような顔で覗き込んできた。
「お父様!」
「なんだ、マイか。
大声を出して騒々しい。」
「お兄ちゃんが帰ってきたわ!」
「何、カインが?どうしてだ?」
母の病状はあえてカインには伝えないでいたのに、
どうしてカインが唐突にやってきたのかと思った。
「お父様が何も連絡しないから、
私がお兄ちゃんに手紙を出したの!!」
「お前、何を勝手なことをしている!?
今、あいつが何をしているのかは
お前だって分かっているだろう!?」
大事な旅をしているカインを、
マイは独断で呼び戻したらしい。
そんな言い争いをしている内に
カイン達は王の間までやってきていた。
「カイン?お前が何故こんな所にいる!?」
本当に本人か、私は凝視するようにカインを
玉座から見下ろした。
その表情に一瞬カインはびくっとしたようだが、
しかし、淡々と口を開いた。
「マイから手紙をもらったんだ。
母様の体調が悪いって。
どうして、父様は何も教えてくれないのさ?」
「ふん。」
取り合わないでいると、
マイが飛び出してきた。
「あ!!お兄ちゃん!お兄ちゃんだ!!」
そうしてカインに飛びついて喜んだ。
「手紙届いたんだ。ああ……!良かった。良かった!
アレン様もマリア様も来てくださって、ありがとうございます!
きっとお母様喜びます!」
ここの所、塞ぎこんでいたマイは
兄の顔が見られて、少し気が晴れた・・・ようだった。
マイはそのまま一行を母の元へと案内しようとした。
もうここまで来たら反対などしない。
「カイン。後で……話がある。」
「……?分かりました。」
今のうちに、少し話したいことがあった。
夕方になり、
王妃の病室にいるカインを尋ねた。
アレンたちは別室に行っているようだった。
カイン1人でちょうど良い。
歩を進めたが、
うつむき気味のカインはこちらに気付かない。
「泣いているのか…?」
そう尋ねた声に、驚いたように振り返った。
そして慌てたように目をごしごしと擦って
泣いていたことを隠そうとした。
やはり、思っていた通りだ。
どうやら、王妃は少し目を覚ましてカインと
言葉を交わしたらしい。
ここ数日は目を覚ますこともなかった王妃だが、
カインが来た事が分かるのだろうか。
王妃もきっとカインに会えて嬉しかったのだろう。
「お前の事をそれだけ心配してたんだろう。
王妃も会えて嬉しかっただろう。」
そう言うとカインはまた目を真っ赤にして、
鼻をすすった。
元来この子は泣き虫なのだ。
小さかった頃のカインを少し思い出す。
元々剣術どころか体も強くなかったし、
ぼんやり、おっとりした子だった。
それが、そのまま大きくなったようだ。
だが、今は昔とは少々違うようだ。
カインは私に向かってどうにか母を助けたいと
色々な案を提案してきた。
その中には、私が聞いたことのない
人知を越えたようなアイテムの存在もあった。
カインたちが一体どんな過酷な旅をしてきたのかと言うのが
少し案じられた。
だが、王妃が助かる事は無いだろう。
私だってただこの数ヶ月手をこまねいていた訳ではなかった。
手を尽くしてきたのだ。
そして、王妃のあの言葉を思い出した。
幸せだったと涙を流しながら言った言葉。
十分に苦しみ戦ってきた王妃を
もうこれ以上いたずらに苦しめたくなかった。
私はカインの提案に首を横に振った。
そして、あくまで冷静に答えた。
「これが王妃の寿命だ。
いたずらに余計な苦しみを与えようとするな。」
と。
またどんな反論をしてくるかと思ったが、
カインは、静かにその言葉をかみ締め、
そしてまた涙を零した。
「泣き虫だな、カインは。」
こんな風に泣く所は、小さい頃から変わっていない。
「お前は小さい頃から、泣き虫で、体も弱くて、
引っ込み思案で…、変わらないな。」
私は何故か昔話をするような
穏やかな気持ちになっていた。
「こ、こんな時に何を……。」
ああ、本当なら……許されるなら、
王妃の命のカウントダウンが始まった今、
もう何もかも考えずに家族の時間を過ごしたい。
しかし、それは許されない。
そんな事をすると、世界の多くの人が逆に魔物たちに襲われてしまう。
カインをここにとどめたいと思う私情は殺さなければならない。
だから、私はカインを呼び戻したくなかったのかもしれない。
「今回、お前を呼び戻すつもりは無かった。
きっとお前は子供の頃のように泣くだろう。
あまりの悲しみに塞ぎ込んで、
その歩みを止めるだろうと思った。」
「僕は…帰ってこられて良かったと思うよ。
何も知らずに旅を続けてたら後悔していた。」
それは紛れもなく本音だろう。
つかの間であるが、家族揃えたのだ。
良かったのだ……と思う。
だが、今揺れてるカインの心を私は戦場へ戻さなければならない。
あえてそれを振りきるように言った。
「そうか……。ならば、良かった。
だが、カイン…我が息子よ。
では命じる。」
厳しい口調の私にカインは緊張した様子だった。
「何…改まって……。」
「これ以上の足止めは無用だ。
明日には、アレン殿に付き従って旅に戻れ。」
もう十分だ。
私達家族は救われた。
これ以上の足止めは無用だ。
ロトの勇者は、昔も今も世界の人々の為に
戦わなければならないのだ。
だから今は、ロト同盟国筆頭のローレシアの王子を中心に
戦わねばならないのだ。
私が先代王から告げられたサマルトリアの国の意味を思い出す。
ロトの血は、何百年も経ち、徐々に薄まっている。
伝説で謳われるような強力な魔法も今や使い手はいない。
それでも世界を覆う闇と戦っていけるように、
隣国ローレシアのロトの勇者をその隣で全力で助け支えるのだ。
文字通り盾となってでも……。
「分かってる!分かってるよ!
この国にはロトの盾があった。
僕らサマルトリアの人間には装備できない盾だ!」
「カイン……。」
「それはアレンが、ローレシアの人間が使うべき盾だ!
だから…それが、サマルトリアの…この国の意味なんだ……。
僕も、僕自身もアレンの盾になるって……。」
カインは十分その覚悟を持っていたようだった。
「父さまが言いたいことは分かるよ…!
旅は1日遅れれば、その分、人が死ぬんだ。
それを止められるのは、アレンなんだ。
アレンの歩みを止めさせてはいけないんだ……!」
だが、それは半ば泣き叫ぶような声だった。
子どものころから変わらないと思っていたが
良く見ると、やはり違う。
背だって伸びた。
華奢だった体つきも随分しっかりしていた。
泣き顔は昔と同じ。
だが、もうあの頃とは違う。
大きなものを背負ってこの子は戦っているのだ。
私は思わず泣く子どもをあやすように
カインを肩を抱きしめた。
思わぬ行為にカインは驚いたようだった。
そう言えばこんな事はずっとしてこなかった。
「早く泣き止め。
アレン殿やマリア殿の前でそんなに泣いていては
愛想を付かされるわ。」
「………はい。」
慣れない行動がおかしかったのか、
カインが少し笑ったようだった。
私は一瞬その笑みに戸惑った。
王妃が浮かべた笑みとよく似てた。
俗世のものではないような透明な笑みだった。
この戸惑いに慌てて首を振った。
勘違いだと思おうとした。
私はカインを残して部屋を後にした。
そいて翌日、約束どおりに
アレンたち一行は旅に戻って行った。
次に戻る時は、きっと世界を救ったあとだろう。
+++
しばらくして、王妃は静かに息を引き取った。
最期は苦しむことなく逝ったことがせめてもの救いだった。
バタバタした数日が過ぎると、
まるで心にぽっかり穴が空いたような空虚な日々がやってきた。
物音一つしない静かな王室で日々を過ごすと、
私は少しずつあの時感じた戸惑いが
大きくなっていくのを感じた。
この世のものではないようなカインの笑み。
そして既に決めていた悲壮な覚悟。
それは私が考えた以上のものだった。
あの子は何と言った?
アレンの盾となるのだと言った。
それはただの比喩表現ではないかもしれない。
元々カインの性格は王妃によく似ている。
穏やかであるが、自分の事より人の事を考えるような子だ。
ロト伝説はいつでも勇者の勝利を謳っている。
勇者は生きて凱旋するのだ。
だがそれが、ローレシアの王子だけだとしたら…。
もし仮に、文字通りアレンを生かすために、
本当に盾となるのだとしたら……。
いや、仮などではない。
カインも自分の口ではっきりと言っていたではないか。
考えれば考えるほど思い当たる節がある。
カインはザオリクの魔法を、いつの間にか知っていた。
その先にある、命の魔法の存在を私は知っている。
もう、その覚悟が出来ているのだ。
そうだ。カインは死ぬ。
私はごくりと息を飲んだ。
死ぬ……。
あの時足止めをしていたら
止められていたかも、しれないのに。
もう遅い。
王妃に続いて、息子まで死ぬのだ。
私は、いつも何も出来ない。
それどころか、
苦しめたくないからと王妃に最後の手を尽くさず、
息子をもこの手から喪うことになる。
私のせいだ。
私があの2人を殺したようなものだ。
ああ……何と言う事だ………!
私は悪い人間だ。
ずっと世界中の人々の為になどと言っておきながら、
その天秤が掛かった時、とてつもない後悔が私を襲った。
目の前が真っ暗になったような気がした。
が、その静かな真っ暗闇の中で、
私は誰かの声で揺り起こされた。
「……う…さま!
……お父様!」
何度も私を呼んで、
心配そうにマイが私の顔を覗き込んでいた。
「マ…マイ……か?」
マイは心配そうに私の汗をハンカチで拭ってくれた。
「お父様、大丈夫??
すっごい汗よ?
ほら見て、絞れそうよ。」
そんな事を言ってマイは笑った。
この笑顔は……。
昔から変わらない人懐っこいマイの笑顔だった。
いつも、賑やかだった家族の中で
ひときわ明るく笑っていたマイ。
その笑顔が今はとても眩しく、
それが皆がいたあの日々を感じさせて懐かしかった。
「マイ……っ!」
思わずマイを抱き寄せた。
年甲斐の無い私の行動にマイは驚いたようだった。
「やだ、お父様どうしたの?
抱きついたりして。」
「お前は……どこへもやらん。
お前だけは、どこへも行かさんからな……!」
「………。」
マイは、私の言葉に何かを感じ取ったようだ。
「王妃がいなくなり、
カインもいなくなった。だが、お前はどこにもやらん!」
「お父様、どうしたの?寂しくなったの?
お兄ちゃんならきっと帰ってくるわ。
最近手紙が帰ってこないけど、
きっと元気にしてると思うよ。」
マイはそう言った。
きっとカインの覚悟を知らないのだろう。
それはマイには知らせない方が良いだろう。
きっと余計に苦しめる。
「お兄ちゃんの事弱いと思ってるんでしょう?
お兄ちゃん、強いんだから!絶対帰ってくるわ。」
「…………。」
無邪気なマイの言葉に何と返したものかと思った。
「お父様、ちゃんとお兄ちゃんの事認めてよ。
いつまでも弱い弱いって思ってないで。」
認めている。
認めたからこそ、帰って来ないと思うのだ。
私はそう思ったが、マイは違うようだった。
「どんな苦難があったって、乗り越えるの。
それがロトの勇者様だもの。
お兄ちゃんだってね、ロトの血を引く勇者だよ。」
「……っ」
勇者はローレシアのアレンだけだと思っていた。
マイはカインも勇者だと言う。
そうだ、確かにロトの血は引いているのだ。
私はあの時サマルトリアに戻ったカインが、
見事にロトの剣を使いこなしていた事を思い出した。
アレンだけではない。
マイの言葉に、私は少し今までの暗い気持ちが晴れるようだった。
「んもう、そんなにお兄ちゃんが不安で心配なんだったら、
やっぱり私も一緒に旅に出ようかしら?」
そしたらカインを助けられるのに〜と唇を尖らせるマイに、
私は慌てた。
「な、ならん!!ならんぞ!何度言ってもそれは認めん!」
マイは事あるごとに旅に出たいというのだ。
その度ごとに反対しているのだが、中々言う事を聞かない。
……もうマイまで失うなんて耐えられないのだ。
慌てた私にマイはふふっとまた明るく笑った。
「行かないよ。もう言わないわ。
だって、こんな危ういお父様置いてけないもの。
しょうがないから、私だけはずっとお父様の傍にいてあげる。」
いつもの少し生意気なマイの言い方だ。
だが、それが不思議に胸に迫った。
不意に目から涙が零れ落ちそうになる。
「マイ……。お前は良い子だな。」
「やだ、今頃気付いたの!?」
マイは私の涙に気付かない風に言った。
「ねえ、お父様。
ふふっ、お兄ちゃんが帰ってきたらね。
ぱあっとお祝いしようね。」
「ああ、帰ってきたらな。」
不思議と、
カインが本当に帰ってくるような気がしてきた。
+++
それから、しばらくして……。
いや、大して時間は経っていない。
その喜びのニュースは、驚くべき早さで世界中を席巻した。
大神官ハーゴンは倒れ、
世界に平和が戻ったと言うのだ。
勿論倒したのは
3人のロトの勇者だという。
『3人』のロトの勇者。
1人ではない。3人だ。
当然、その中にはカインも含まれるだろう。
ああ、マイが言った事が本当だった。
「ほらほらっ!!!お父様!
やっぱり私の言ったとおりだよ!!」
「あ、ああ……そうだな。
お前の言ったとおりだ。」
マイは私の手を取ってぴょんぴょんと飛び回って
喜びを表していた。
「すごい!!お兄ちゃんすごい!!
あ、もう勇者様だからお兄ちゃんは失礼かしら。
これからはお兄さまって呼ぼうかしら。変かな?
ねえ、お父様どう思う?悩むなあ。」
そんな事を真面目な顔をして相談してきた。
マイの悩みは、なんとも可愛い悩みだ。
「……好きにしたら良いじゃないか。
お前がそうしたければそうしたら良い。」
「じゃあそうする!」
私のアドバイスにマイは神妙に頷いた。
「ああ、早くお兄さま戻ってこないかなあ〜〜。」
もう帰還が待ちきれない様子だった。
いや、もう心配は要らない。慌てることは無いのだ。
私達は凱旋する勇者達を
万全の態勢で出迎えたいと思った。
あえて城の人間を皆王室に集めて、
王室にやってきた3人を
私達は全力で歓待することにした。
凱旋した3人は、
その勢いに驚いた様子だったが、
人をかき分けて、私の元へとやってきた。
その中にはちゃんとカインがいた。
幽霊でも何でもなくちゃんと五体満足で
自分の足で歩いてこっちへやってくるではないか。
「カインか……話は聞いている。
よく……無事帰ったな。」
万感の思いがこみ上げる私に対して
カインは何故だか謝罪してきた。
「と…父さま……。
ごめんなさい………。」
一体何を謝っているのか、私は本気で分からなかった。
するとカインは溢れる感情をそのままに
その気持ちを吐露した。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!
帰って……来れなくて!
帰って来れなくて………ごめんなさい……!!」
……ああ、王妃の事を言っているのだろう。
カインは王室へ入ってから、
誰かを探しているようだった。
王妃がいない事を現実として今受け止めているのだろう。
だが、間に合いはしなかったが、
カインがちゃんと帰ってくるつもりがあったんだと安堵した。
心配はいらなかったか。
だが、きっと苦しい思いもしたのだろう。
とにかく泣きじゃくるカインの姿を見て
私は苦笑するように立ち上がった。
「馬鹿だな。」
そしてカインの傍へと近寄った。
「私が言った言葉を聴いておらなんだか?
私は『よく帰ってきたな』と言ったんだぞ?」
顔をあげたカインの顔は
やっぱり昔と同じ泣き顔だ。
「どれだけ強く、逞しくなって帰ってくるのかと思っとったのに、
カイン、お前その泣き虫ちっとも直っていないではないか。
皆が見ているんだぞ。」
そう言うとカインは恥ずかしがるように涙を拭った。
めでたい席なのだ、涙など似合わない。
せっかく世界を救った勇者が3人揃い踏みなのだ。
明るく行こうではないか。
カインがマイを探しに王妃の墓へ行ってる間に、
私は準備していた祝宴の用意を
この場へ持ち込ませた。
私はこの場に残ったアレン王子とマリア王女に接待をせねばと思った。
「アレン殿、マリア殿もよくぞ無事に戻られた。
本当に素晴らしい喜びの日だ。
目いっぱいの歓待を用意させてもらった。
良かったら今日一日は羽を伸ばして行くといい。」
「はい。嬉しいです。」
「王様、ありがとうございます。」
アレンもマリアも嬉しそうに笑みを浮かべている。
この笑みの奥でどれほど大変な事があったのだろう。
想像すら出来ない。
「カインはアレン殿に迷惑ばかり掛けたんではないだろうか?」
「そんなことありませんってば。」
私はアレン王子にカインの事を聞いてみたかった。
私の感じたカインが死ぬなどと言う心配はただの杞憂だったのか……。
するとアレン王子は、マリア王女と顔を見合わせて、
少し言いにくそうにカインの事を話してくれた。
案じたように、カインは本当に2人の盾となり、
その命を一度散らせたと言うのだ。
しかも、そんな傾向は一度ではなかったと言う。
その身を呈して、
命すら顧みず危険を冒したことは何度もあるという。
「なんと……。」
生きて帰ってこれた事が、
やっぱり奇跡だったのだ。
これはもう、精霊ルビスへ感謝しなければならない。
「あの……、言いにくいことなんですけど、
カインは、自分を必要とされないって思ってたみたいで…。
王様はカインにそんな事を言ってたんですか?」
アレンは思いがけないことを言った。
だが、私を見るその視線は、思いのほか鋭いものだった。
「そんな馬鹿な事はない!
私は……私はいつだってあの子の事を案じていた。
泣き虫なあの子が心配でならなかった。」
私の言葉にアレンは安堵したように笑った。
「なら、良いです。
その言葉、是非本人に言ってやってください。
カインは王様には何も必要とされてないなんて
思ってるみたいだったから。」
弱いあの子に強くなって欲しいと、
ずっと厳しくは接してきた。
だが、いつしかカインは私には明るい笑顔を見せなくなっていた。
まさかそんな風に思っているとは……。
「まぁ……王様もいっぱい飲んでください。
そしたらきっとカインと腹を割って話せます。
あいつ、いい奴なんですよ?」
カインがいい奴だと、そう言って笑ったアレンの笑みは
かつて兄貴分と慕ったローレシア王によく似ていた。
そうか、こうやってアレンはパーティを率いていたんだろう。
言われるままに注がれた酒を飲み干す。
少し良い気分になる。
「しかし、アレン殿。
私はあの子を見直しているよ。
最初、何も言わずに国を飛び出したときは、
正気の沙汰ではないと思ったが、
きっとロトの使命があの子を突き動かしたんだろうな。」
その言葉にアレンは頷かず、少しきょとんとした。
「ロトの使命ぃー……?
ううーん……そんなもんじゃないと思いますけど……。」
「うん?」
アレンの言葉に私の方がきょとんとなる。
違うと言うのか?立派な志だと思っていたのに。
アレンは「あ、少しまずかったかな」と言うような表情で
何でもないと首を振った。
「ま、これはいつか分かると思うんで、
俺は……えっとこの辺で。」
どこかへ行こうとするアレンを押し戻した。
いやいや、こんな話が中途半端で
放置しないで欲しい。
「アレン殿、どう言う事なのだ?」
アレンはきょろきょろと周りを見渡した。
カインはまだ戻ってきていない。
マリアは今誰か別の誰かの歓待を受けていた。
それを確認して、
ぽりぽりと頬を掻いてからぼそっと言った。
「マリアですよ。
カインは、マリアを助けたかったんです。」
「んん??」
「なんか、昔約束したらしいですよ?」
一瞬何を言われたのかと思った。
マリア王女と言えば、
ムーンブルク滅亡で行方不明になってしまった。
そのマリア王女を助けるために……。
つまり、世界を救うためではなく、
ただ、マリアを助けたかったのだと。
アレンはそう言った。
「なんと……。」
だが、ある意味それは腑に落ちた。
サマルトリアの国内しか知らなかったあの子が
突然世界を救うために!と故郷を飛び出すのは
少々話が行き過ぎていると言うものだ。
マリア王女とはロト祭のときなどに
会っているはずだ。
恐らくその頃の、
子どもの頃の約束と言う事だろうか。
「あー……あとは俺からはなんとも!
本人と話してください!」
アレンはそう言って、
いよいよその場を離れてしまった。
何だその吐き台詞は。
まさか、子ども同士の約束を超えた何かが
あるとでも言うのあろうか?
ひくっと私はしゃっくりが出た。
「…………。」
まぁ、それは良い。
今日は目出度い日なのだ。
カインが戻ったら、したい話が沢山ある。
腹を割って、
少し大人になったらしいカインと話がしたかった。
早く戻ってこないか、私は待ち遠しかった。
カインへのひどい誤解も解かなければならない。
私は目を細めて、再度グラスの酒を飲み干した。
- 終 -
2015/05/23
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