「もう一回!もう一回!!」
「えー、また!?もう、無理だよ!」
アレンの懇願を振り切るように、カインは首を振った。
「せっかく回復してきた僕の魔法力、
また空っぽになるじゃないかー。」
帰路につく船上でアレンとカインが何やら騒いでいる。
アレンは初めて使った魔法の力に興味を持ったようで、
また同じことをやってみれるものかと、
先ほどから何度かねだっているらしい。
だが、いくらアレンがカインに魔法力をもらっても
もう同じようにはできなかった。
せめて小さな魔法でも、と思ったがやっぱり何も出来なかった。
「ちぇーーー!
何だよ、俺せっかく魔法使えるようになったと思ったのに。
ギラもでねえ。」
アレンがつまらなそうに唇を尖らせた。
「うーん。そうそう簡単に魔法使えてもらっても困るんだけどね。
大体君魔法の詠唱もひとっつも知らないじゃないか。」
「そうだよ、そんな俺によくもあんな無茶やらせてくれたな。」
えらそうに言う割りに、
あの時のカインの信じきった顔はなんだったんだと思う。
「稲妻の剣ではあんなに大きな雷は落とせなかったし、
やっぱりロトの力・・・というか、偉大な力が私たちに
力を貸してくれてたんじゃないかしら?」
アレンとカインの会話にマリアが入ってきた。
今アレンが手にしている武器は、稲妻の剣であった。
実は、ロトの剣は、
戦いを終えて、その役割を終えたように、
今度こそ刀身からぼろぼろと塵に返っていってしまったのだ。
あの勇者ロトやアレフが使った武器が、
本当に消えてしまったのだ。
自分たちが大事なその剣を失ってしまった事に
悲しいとも申し訳ないとも、
とても一言では表しきれない思いがあった。
だが、それも剣の最後の寿命だったのかもしれない。
「一発こっきりなのかな〜。」
「まぁ、アレン。時間はたっぷりあるんだから、大丈夫だよ。
いつか本当にロト様の力を借りなくても出来るようになるんじゃない?」
そう言ったのはカインだ。
確かに、時間はたっぷりある。
もう・・・何も急ぐことなどないのだ。
「おーい!!兄ちゃんたち!!
もうすぐ着くぜ。下船の準備をしてくだせえ!」
しばらくすると、
そう言って、ミゲルがアレンたちを呼びに来た。
ミゲルはアレンたちを送り届けたら、ルプガナに帰るらしい。
「ミゲル、船乗りは続けるんだろ?」
「え?当たり前さ。
せっかく平和になったんだ。
俺の大好きな海を知ってもらうため、
もっと沢山の人に船に乗ってもらおうと思っている。」
「そっか・・・。」
だから、これでお別れになる。
アレンは少し考えて口を開いた。
「なあ、ミゲル。
俺はもう少しして、国のこととか落ち着いたら
もう一回旅をしたいってお思ってるんだ。」
「おー、そいつは良い事だ!」
「その時は、俺お前の船以外は乗らねえから。
予約あけとけよ?よろしくな。」
アレンの言葉に、思わずミゲルは返す言葉に詰まった。
希望に満ちた顔で、少しの不安を抱いて
船の旅を始めた少年たちは、とうとう世界を救った。
本物の英雄になったのだ。
なのに、こんな一介の船乗りにまた声を掛けてくれると言う。
アレンたちの旅の助けに少しでもなれば良いと思ったが、
どうやら自分を認めてくれていたらしい。
「兄ちゃん・・・ああ、絶対俺に声をかけてくだせえ。
すぐに、いつでも、駆けつけるから。」
珍しくミゲルが感激の涙を流していた。
「ミゲル、本当にお世話になったね。
お礼いっぱいするから、船の上だけじゃなくても、陸でもどこでも
近くに来たら遠慮せず、是非立ち寄ってね!」
「あなたほどの船乗りは、世界のどこを探してもきっといないわ。
だってとても安全で楽しい船の旅だったもの。
胸を張って、これからも沢山の人に素敵な海を紹介してあげてね。」
カインとマリアの言葉に、ミゲルの涙腺はとうとう崩壊したらしい。
「うおおおーーー!
緑の兄ちゃんもどうかお元気で!!また会いましょう!
姉ちゃんも、あなたこそ胸を張って生きてください!
こんな小さい身体なのに、戦ったりして・・
本当に、本当にすごかったっ!!」
「馬っ鹿だなあ。永久の別れでもないのに、
泣きすぎだろ。」
泣きじゃくるミゲルの肩をアレンがポンポンッとたたいた。
「じゃあな!」
*****
アレンたち3人が、まず向かったのはサマルトリアだった。
マリアもサマルトリアとローレシア両国の王に
挨拶をするまではとりあえず同行すると言っていた。
久々にサマルトリアに降り立った3人であったが、
そのサマルトリアは妙に静かだった。
「・・・・・・・?」
いつもなら、ここらで門兵が声を掛けてくるのに・・。
そもそも門兵が居やしない。
「あ・・あれえ・・?」
カインはきょろきょろ見渡しながら、
その静けさに何だか妙に不安になってきた。
先日に母である王妃が亡くなったのだ。
きっと皆沈痛な悲しみを抱いて暮らしているんだろう。
それを考えると、なんとも切ない気持ちになるが、
とりあえずは王室に向かって、
父王や妹のマイに無事の帰還を報告したい。
「おい。」
神妙な顔をして歩いているカインの頭をアレンがぽかっと殴った。
「・・な、何するの?」
「なんで、お前まで辛気臭い顔になってんだよ。
世界を救ってから、誇らしい気持ちで凱旋したかったんだろ?
胸を張れよ。」
「!」
ロンダルキアの雪原でカインが言ったことを
アレンは覚えているのだろう。
「う・・・うん!」
もう二度と帰れないと覚悟した事もある。
でも、皆のおかげで、無事帰って来れたんだから。
恐る恐る王室の扉に手をかけた。
まずは父に帰還の報告をして、それから・・・・
色々やるべきことを考えていると、
カインが扉を開けるよりも先に
中からバッと扉が開けられた。
「お帰りなさいませ!」
そして、室内からは、まったく想定外だったが
わあっと大勢の歓声の声が上がった。
「わあ!!お帰りなさいませ!」
「お帰りなさいませ!ロトの勇者よ!」
「カイン様よくぞご無事で!」
口々に歓声が上がった。
どうやらどこからか間もなく帰還の報が入っていたらしい。
そこで王室内に、全てではないだろうが多くの兵や
民が集まって、アレンやカインたちの帰還を待ちわびていたのだ。
「わ・・・わあ・・・。」
なんだ、悲しい顔をしているんだと思ったら
皆すごく嬉しそうじゃないか。
「3人の勇者を胴上げだ!!」
「・・!?」
誰かがそう言って、カインたちを担ぎ上げようとした。
「ちょ・・ちょっと・・・待って・・。
あの・・・僕、先に父様に挨拶を・・・!」
少し困ったようにカインは首を振った。
何だ何だ、これは。
さながらこの空間は、お祭り騒ぎのようになっていた。
しかし皆元気そうなので、少し安心した。
だが、さすがに父や妹に挨拶するのが先だろうと思った。
ちらっと奥を見ると、玉座に父の姿が見える。
渋い顔をしているように・・・見える。
ドキドキしながら、カインは王の前に進んだ。
「サマルトリアのカイン、
それからローレシアのアレン王子、ムーンブルクのマリア王女
皆、無事に帰還いたしました。」
ここはカインの国だから、最敬礼の姿勢をとったカインに、
アレンやマリアも倣った。
「カインか・・・話は聞いている。
よく・・・無事帰ったな。」
父にねぎらいの言葉を掛けられ、カインはホッとした。
だが、そんな父の隣に、いつもいるはずの母の姿は・・・・
やはり無かった。
その意味を改めてカインは感じていた。
最愛の母はもう居ない。
居ないのだ。
「と・・・父さま・・・。
ごめんなさい・・・・。」
「・・何がだ・・?」
父の穏やかに問いかける言葉に
堰を切ったように、カインの思いがあふれ出た。
今まで誰にも言えなかった思い・・・。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・!
帰って・・・来れなくて!
帰って来れなくて・・・・ごめんなさい・・・!!」
唐突にカインは叫ぶような声でそう言った。
顔を覆っているので見えないが、
・・・泣いているのかもしれない。
アレンは、カインが秘めていたその思いに驚いた。
母が亡くなったとロンダルキアでアレンたちに報告したカインであったが、
落ち着いた様子で取り乱す事は無かった。
帰らないと言った決意のあの瞳も、この間のことだ。
よく覚えている。
でも本当はもっと前に帰りたかったんだろう。
きっと王妃が生きているうちに。
それが間に合わなかった事を、実はずっと悔やんでいたんだろう。
本当に馬鹿で不器用な奴だな・・と思った。
だが、気づいてやれなくて、申し訳なくも思った。
「馬鹿だな。」
そう言ったのは父だ。
ゆっくり玉座を立ち上がると、
未だ顔をあげないカインの元へ歩み寄った。
「私が言った言葉を聴いておらなんだか?
私は『よく帰ってきたな』と言ったんだぞ?」
そう言って、顔を覆っているカインの手を取り、
顔をあげるように促した。
そしてその泣き顔を見て、呆れたように笑った。
「どれだけ強く、逞しくなって帰ってくるのかと思っとったのに、
カイン、お前その泣き虫ちっとも直っていないではないか。
皆が見ているんだぞ。」
その言葉に、ハッとして、さすがにばつが悪そうに、カインは涙を拭った。
「帰ってくるなと手紙に書いたのは私だ。
お前のその思いは、私が受け止めよう。」
それだけ言って、今度はアレンとマリアのほうに声を掛けた。
「アレン殿、マリア殿もどうか顔をあげよ。
ロトの血筋が力をあわせて、世界を救ったのだ。
こんなに嬉しいことはない!!」
「あ・・・ありがとうございます。」
「ローレシアでも、アレン殿の帰還を今か今かと
待ちわびていると言う。
早速明日にでも、帰国されよ。」
その言葉にアレンは会釈して応えた。
「カイン!お前もアレン殿をローレシアまでお連れするように!」
「あ、はい!」
帰ったばかりなのに、結構急な話だなと思いながらも、
カインはそれに従った。
ひとしきり挨拶を終えて・・・
どこからか妹のマイが顔を出すと思ったのに、
まだその姿を見ない。
「父さま、マイは?」
「あいつめ、何故か恥ずかしがって顔を出さん。
墓の世話でもしていると言っていたな。」
「じゃあ・・・そちらに行ってみます。」
まだ、母への挨拶をしていない。
父に挨拶をしたんだから、当然母にもするべきだろう。
多分、王室で待っている皆は凱旋の祝いの宴会でも
始めようとここで待っていてくれたのだろう。
部屋にご馳走が運ばれてきた。
が、あんまりカインはそんな気分になれなかった。
「ご、ごめんなさい。
あ、でもアレンがきっとお腹空かせてると思うので、
ご馳走を食べて、楽しくやっていてください。
また戻りますー!」
「は?俺?」
なんで俺やねんという顔をしたアレンだが、
ご馳走と聞けば、腹がなる。
「うむ、アレン殿マリア殿は、ささやかではあるが、
祝宴で旅の疲れを癒して頂きたい。
色々聞きたいこともある。
さぁ皆のものアレン殿マリア殿に馳走を!」
わあ!と再び場が沸いた。
父王もアレンとなにやら話をしたいらしい。
カインはそーっとその場を出ると、
母の眠る墓地へと向かった。
母の墓参りはしたことがないが、
歴代の王族の墓地なら大体場所が分かる。
高台に上がると、
サマルトリアの美しい自然が一望できる。
そこに先代までの王が眠る墓地がある。
さて、母の墓はどこかと探したが、
めぼしい場所に見当たらない。
もしかして、もっと奥のほうなんだろうか?
うろうろと道に迷っているカインに
呆れたように誰かが背後から声をかけた。
「そっちじゃないわ。こっちよ。」
その声は懐かしい妹のものだった。
思わず振り返って、その姿を見て驚いた。
無邪気だったあの妹が
以前より少し大人びた笑顔でこちらを見ていた。
その表情が優しかった母の笑顔にそっくりだった。
「お兄様、お帰りなさい。」
「お、おにいさまーー??どうしたのさ?
いつもそんな事言わないじゃない。」
マイはいつもカインの事をお兄ちゃんと呼んでいたのだ。
少し驚いた風をしていると、マイは今度は子供っぽいやんちゃな
表情で笑った。
「ふふ・・・。
だってお兄様はこの国自慢の勇者様だからね。
英雄だよっ!?私の自慢なんだから!」
「・・・・・・。」
思わぬ回答にカインは驚いた。
そっか・・・そういう風になったのか・・・。
妹にそう言われるなんて、嬉しいやら、気恥ずかしいやら。
「どうしたの?固まっちゃって。
お母様のお墓参りに来たのよね?
奥じゃないの。こっちなの。」
「あ・・・うん。ありがとう。」
リアクションを取れないまま、マイの先導にしたがって進むと、
少し外れた場所に出た。
元から高台だったが、この場所はさらに高い。
「・・・なんでこんな場所に・・。」
お墓を作るには、足場が不安定な気がした。
「ここからなら、サマルトリアがすごくよく見えるのよ。
きっとここならお母様もサマルトリアをずっと見守ってくださるわ。」
なるほど・・・。そういう思いがあったのか。
カインは母に帰還の報告をした。
遅くなってしまったことに関する謝罪と、
けど・・・もう世界は平和になったんだから、
何も心配せずゆっくりと眠って下さいと。
「母様、今まで本当にありがとうございました。
これからも見守っていてください。」
その様子を隣でマイは静かに見守っていた。
そのマイにも、どうしても言っておきたいことがあった。
「マイも本当に大変だったね。
留守番をありがとう。頑張ったね。」
自分が後ろを振り返らずに進めたのは
妹が国に居てくれたからだろう。とても心強かった。
実際サマルトリアでも大変な事が沢山あった。
この大人びた様子は、その間のマイの苦労を物語るものだろう。
「頑張ったって・・何を?
私、全然モンスターと戦ってないよ?」
手を振りながら、マイは馬鹿にしたように首を振った。
「もっと大変な事と、
マイはずっと向き合ってくれていたでしょう?
知ってるよ。」
その言葉に、笑っていた妹の表情が強張った。
あれ、なんか変な事を言ったかな・・と思ったら、
ぶわっとマイが泣き出した。
「は、反則だよ!私を褒めるなんて!
わ、私がいっぱい・・いっぱいいっぱい
お兄ちゃんを褒めてあげようって思ったのにー。」
と、言ってしまってから口調が戻ってる事に気づいて、
「わっ、違う」と、なんだかあわてて口を覆い隠したり、
涙を手の甲でこすったり、忙しそうだ。
カインはその様子にくすっと笑った。
「いーよ。お兄ちゃんで。
そんな泣いて、目ごしごししたら、美人さんが台無しだぞ?」
まぁ、自分だって、さっき大勢の前で大泣きしたんだから、
とても妹の事は言えない。
マイの頭を撫でてやると、その仕草に恥ずかしそうにした。
だが、どこか嬉しそうだ。
「かえろっか。」
「うん、行こう。皆、待ってるよ。」
今度こそマイはぐいっと涙を拭いて笑顔になった。
そして、少し照れながら差し出された兄の手を取って、
王室へと戻った。
***
王室に戻ってみると、カインはぎょっとした。
「遅ーい!!どこまで行ってたのじゃ!?
やっと帰って来たな!?」
「どこまでって・・・母様のお墓までだよ・・?」
父王が真っ赤な顔をしながら、
つかつかとこちらに歩み寄ってきたのだ。
すごい勢いだったので、思わず怒鳴られるのかと思ったら
がばっと抱きしめられた。
「え、ええ・・・!?」
再会ならさっきもしたのに、
まるで今初めて会ったかのような勢いだった。
大体父がこんな風にカインを抱きしめるなんて無い事だ。
も・・・もしかして・・・・
「これってハーゴンの幻じゃないの?」
思わず、そう呟くと、
バッカもーん!!と頭を叩かれた。
「痛い・・・。」
なんだなんだ、さっきから何なんだ?
どうしたんだこの父は。
「アレン殿に聞いたぞ!
誰が、命を粗末にして戦えなど言った?
誰が、お前を必要としていないなどと言った!?」
「・・・・・・・・。」
カインはアレンをちらっと見た。
だが、こっちの様子などまるで意にも介さない様子で、
ご馳走を平らげている。
アレンめ・・・寄りによって、一体何を父に言ったのだ?
「この未熟者め!
剣も魔法も得意でないお前を強くしたいと、
きつい言い方をした事もあったかもしれん。
だが、それはお前を思っての事!
何故それが分からん!伝わっておらん!
未熟者め!馬鹿者め!愚か者めー!!」
「と・・父様・・・・。ちょ・・・ちょっと言いすぎ・・。」
せっかくの父からの感動的な言葉だったのに、
最後がやや勢い余りすぎてる気がするぞ。
小さかった頃のカインは、それらの言葉を真に受けていた。
だけど・・・本当の父の気持ちは・・・。
「大体、お前を必要としている者なら、見ろ!こーんなにおる!
こんなにおるではないか!!
もちろん・・・もちろん私もだ!!」
そう言うと、盛大に手を広げた父がひーっくとしゃっくりをした。
どうやら・・・・酔っているのだ。
景気良く酔っている。
こんな父の姿初めて見た。
だけど、これが父の本当の気持ちなんだろう。
そうして、父王の言葉に、
わあ!!と観衆も沸いた。
ようやくアレンもこっちを見てにやっと笑った。
見ると、マリアもカインのほうを見て頷いている。
マイも、一体何事なのかと言う顔でそこにいた。
「聞いとるのか!?分かったか!?」
唐突にそんな事言われても・・・と思いつつ、
こみ上げる思いにカインは顔を隠して、答えた。
「・・・・うん・・うん、ありがとう、皆。」
- 続く-
2013/06/28
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