「我が息子アレンよ!!ロトの血を引きし者よ。
お前に今こそ王位を譲ろうと思うのだが、
引き受けてくれるな?」
「は・・・はあーー!!?」
鳩が豆鉄砲を食らっても、実際はこれほどは目を丸くはしないだろう。
唐突なその言葉に、アレンはただただ唖然としていた。
話は少しさかのぼる。
カインがルーラを使おうか?と言うのをかたくなに断って、
アレンたち3人は歩いてローレシアまでやってきた。
颯爽とアレンたち一行を出迎えたのは、
どこでその情報を得たのか
ディアン一人であった。
「アレン殿、無事のご帰還何よりでござる。」
「・・・・・ござるってお前、どこの人間だよ。」
誰が出迎えに来てくれるのか、
誰も来なかったらどうしようかなどと思っていたが、
どの道、微妙にテンションがあがらない結果だったなとアレンは思った。
「さぁさ、カイン殿マリア殿も奥へ。
我が王がお待ちしております。」
低頭姿勢のディアンは少しは心を入れ替えたのだろう。
「ええい、皆のものよ。
英雄の帰還だ、下がるように!」
が、沿道にアレンたちの帰還を一目見ようと集まる人だかりに、
ディアンは自分が英雄であるかのように沿道に手をあげて応えている。
この辺はやっぱり相変わらずだなー と思う。
まぁ、ディアンは良い。
沿道の人だかりの歓声にも、適当に応えつつ、
アレンが向かうは王の間だ。
帰還の報告をしなければならない。
そうすれば・・・・・
きっと俺は城に戻り、
カインやマリアも自分の国へ帰る。
そこが終着点になるのだろう。
そう思うと・・・
帰還を始めて何度目かだが、アレンの足が重く感じる。
もう逃げることはできないと分かっているのに・・。
「なあに?照れるなんてあなたらしくないわよ?」
足が止まりがちなアレンにマリアがそっと後ろから声を掛けてきた。
大きな歓声を受けて、アレンが戸惑い照れてると思ったのだろう。
いや・・照れてるとかそういう訳ではないんだが・・。
「お父上が待ってるよ。
さぁ行きなよ。」
まだ止まっていたアレンの背を、カインが後ろからポンッと押した。
押された背中に覚悟を決めた。
ええい、行くか・・!
そして、踏み入れた王の間には歓声が上がった。
歓声に応えるようにアレンが王の前に進んで
そして一礼をした。すぐ隣には母王妃の姿もあった。
何やら涙ぐんでいる。
こういうお涙劇は俺は苦手なんだ。
早く切り上げよう。
「アレン、ただいま帰りました!!」
そう。
そうして返された言葉が冒頭の言葉だ。
***
「お・・・・王位・・・・・?」
脈絡的に、おかしくないか?
唐突に何を言うんだこの父は・・!?
だが、おそらくアレンが戻れば、王位を譲ると言うのは
大分前から既定路線だったようだ。
王の傍に仕える執事や兵たちも皆
驚くと言うよりは感慨深そうな様子だ。
本人にも相談の一つくらいして欲しかったが・・・。
「俺で・・・良いのか?」
知らずにアレンはそう呟いていた。
だって、自分はローレシアで誰もが認める存在だったわけではない。
自分のことを疎んじていた奴だっているだろう?
そうだ、魔法の使えない自分を
ロトの血を引いていないと言うやつだっていたじゃないか。
だから、アレンが王になるのを嫌がるやつだっているだろう。
そう思ったのだが・・・。
「新しいローレシアの英雄王、アレン王の誕生だ!!」
その言葉に歓声が一様に沸き立った。
それを言ったのはディアンだった。
おいおい、待てお前。
お前が一番俺を疎んでたじゃねえか。
が、今はそんな事を感じさせないような満足そうな表情をしていた。
「アレン王ー!!」
「ローレシアに栄光あれ!!」
「新しい王の誕生にばんざーい!!!」
そうして気がつけば、皆が万歳三唱である。
ちょっと待てよ。俺引き受けるって言ったか・・・?
ふと後ろを見ると、
カインとマリアがさすがの展開に、
何とも言えない驚いた表情をしていた。
そうだろう。この反応が普通だ。
なぁ、この国ちょっと変だろう?と、この2人と愚痴りあいたい。
だが湧き上がった歓声は、もちろんそんな事を許すはずも無く、
アレンの一声を今か今かと待ちわびている。
でも、皆・・・・・・嬉しそうな顔をしてるな。
きっと世界が平和になった事も喜んでくれてるし、
ローレシアにアレンが帰ってきた事も嬉しく思ってくれているのだろう。
それなら。
そう思ってもらえているのなら・・・。
「・・・・こんな俺で・・・よければ・・・。」
小さな声で、そう頷いたアレンに、
王・・いや、元ローレシア王の父がそれを耳聡く聞きつけると
がばっと台座を立ち上がった。
「よくぞ言った!アレン・・いやローレシアの新しい王よ!
さぁ、カイン王子、マリア王女も前へ!!」
言われるままに、3人はアレンの父の前に進んだ。
「これからも3人で、力をあわせて、
平和を守ってくれ・・・!」
歓声は、今日一番に盛り上がった。
おそらく王の間の外からも、事情を察した国民たちが
歓声をあげているのだろう。
最初は驚いた表情をしていたカインとマリアも
もう今は、新しい王の誕生を拍手で喜んでいた。
*****
「信っじられねえ・・・・!!!」
一通りの儀式を終えて、
ようやく自室に戻ったアレンは
疲れ果てて寝台に転がっていた。
「俺が王・・・?
いきなりそんな事を言われて、俺は何すれば良いんだよ・・・!!」
そう言って頭を抱える。
怒涛の展開で、頭を整理する時間も無かった。
久々に帰ってこれたのに、頭がそれどころじゃなかった。
そうしていると、しばらくしてドアをノックする音が聞こえた。
「あの・・アレン・・王?ここだって聞いたん・・ですけど、
入って良いですかー?」
カインの声だ。
なんだ、その微妙な敬語は。むかつく。
「入れよ!!」
機嫌の悪そうな声にびくびくしながら、カインが部屋に入ってきた。
どうやら一人らしい。
「アレン・・・ってもう呼んだら駄目なのかな・・?
アレン王?慣れないなあ。
あの、王様に即位・・おめでとう。」
その言葉に、アレンがカッとなって立ち上がった。
「お前なあ!!
アレン王とかそんな呼び方したら、
お前との仲もそれまでだと思え!!」
「え・・!な、なんで・・・?そんなのやだよ?」
カインはアレンの機嫌が悪いので、どうしたものかと思っているらしい。
おろおろとアレンの様子を伺っている。
「アレン・・・。
あの、ごめん・・・。それからありがとう。」
「何が?」
「もし、違ってたら指摘してね。
君は別に王様になるのが嫌だって訳じゃないんだろ?」
「・・・・・・。」
アレンは沈黙したまま返事をしなかった。
「いつか、アレンは言ってたよね。
アレンが立つことで、全世界が勇者ロトの再来だと浮き足立つし、
それを期待する。そんな重い運命があるかって。」
良く覚えている。
以前・・・それを口に出した事がある。
「その重さを一番理解できるのは、僕だったのに、
僕は君のその重荷を結局軽くする事はできなかった。
それどころか、余計負担をかけちゃった・・よね・・?
君にはいっぱい迷惑をかけてしまった。」
こいつは、確かにどこかで「アレンならやってくれる」と言う
絶対の信頼を持っていた。それはアレンも感じていた。
だけど、それが負担だったのだろうか?
否、違う。
アレン一人では達する事の出来ないところへ
連れて行ってくれたのが、こいつだ。
最後のシドーとの戦いも、
あんな戦術は俺一人では決して思いつかなかった。
カインがいなければ、重荷を感じるもクソもない。
皆、死んでいただろう。
さっきだってだ。
アレンの背中をポンと押してくれた。
だが、押されて前に進む決断をしたのは自分自身だ。
「ごめんね、アレン。」
負担ではない。迷惑じゃない。
こんな自分を信頼してくれて嬉しかった。
仲間たちに、頼りにしてもらえたことが嬉しかった。
「お前が・・・謝ることじゃねえ。」
アレンが引っ張っているつもりだったのに、
いつの間にか、アレンの方も仲間を求めるようになっていた。
「でもね、アレン。どうか、孤独に思わないで。
アレンの強さも、・・・弱さも、僕は分かってるから。
何かあれば、いつでも飛んでくよ。
ね、僕ルーラ使えるようになったんだし。
マリアだってそうだと思うよ。3人の絆はいつまでも有効だよ。」
「そんなのは・・・。」
「だから、お別れじゃないよ。」
・・・・こいつは、俺の心でも読めるのだろうか。
『別れじゃない。』
きっと3人の中でいつしか、
アレンが一番独りになるのを怖がっていたかもしれない。
国に帰ったって、魔法の使えない自分は認めてもらえない。
仲間もきっと自分の国へ帰ってしまう。
もう会えない。
そう思っていた。
だけど、どうだろうか。
ローレシアの皆あんなに喜んでくれたじゃないか。
カインやマリアも、いつでも飛んできてくれると言う。
そういや、こいつら魔法使いなんだから、
瞬間移動など、お手の物なのだ。便利な奴らだ。
そっか・・。そうだよな・・・。
アレンはその言葉をかみ締めた。
「ところでさ、アレン。
マリアがムーンブルクに帰るそうだよ。
僕も一緒に行こうと思うんだけど、アレンは−」
「俺はいかねえ。」
「えっ。」
てっきりアレンもついて来てくれるんだと思ったカインは
その即答に驚いた。
「俺、王になったからな。
もう予定が分刻みで入ってて、忙しいのなんのって!」
「って、さっきからずっとベッドでゴロゴロしてるじゃない。」
「うるせー。」
そう言うアレンは笑顔だった。
少し心が晴れたようだ。
「お前一人で、何か事足りない事があるのか?」
「いや・・・どうなんだろ?」
そもそもカインも自分がついていって
何をするという具体的予定がある訳ではない。
「マリアに言っとけ。俺の力が必要なら、いつでも言えって。
そのときは、行ってやるから。」
「アレン・・・・。
うん。分かった。」
アレンももう身軽な立場ではない。
それでも、やっぱりマリアの事はいつも心配している。
良い事を言ってくれるなあと思ったが、
何故かアレンがニヤニヤ笑っている。
「気を利かせて、2人にしてやんだから、
後でどうなったか聞かせろよー。」
「は!?」
「は?って言う奴があるかよ。
まぁ、お前がへたれなのは、世界的に有名だけどな。」
「えーー!?何それ!
世界的に有名って、ちょっとひどすぎない!?」
「ははは。」
カインが顔を赤くして怒っている。
こいつが・・・・カインがマリアを大事に思ってたのはアレンにも分かっている。
どういう結末をカインが求めているのか知らないが、
それでも、このまま別れやがったら、
こんなへたれは世界中探してもいないだろう。
「もう・・・っ。僕は行くからね。」
「ああ。行け行け。さっさと行け。」
アレンはひらひらと手を振った。
さっきまで不安そうにしていた姿とは別人のように
余裕のある・・いつもの姿だった。
「ああ、そうだ。
アレンは孤独じゃないって言ったけど、本当にさ、
もうちょっと回りの事見てあげたほうが良いよ。」
「はあ?
どういう意味だ?」
「クレハさん、ずっと扉の前で心配そうにしてるから。」
「え!?ずっとっていつから!?」
「知らないよー。僕が来たときもずっとここにいたよ?
じゃあね!」
そう言ってカインが部屋を出ようとする。
クレハのことも気になるが、最後に一つ・・・・。
アレンはカインの手を取って、再度ぐっと引っ張った。
「わっ。」
驚くカインに、アレンは満面の笑みで驚く事を言った。
「なあ、カイン!
あのさ、今度さ、真剣勝負しよーぜ!」
「え・・・ええ!?本当に!?」
カインは唐突な言葉に驚いている。
今のアレンと真剣勝負だなんて、どんな事になるのか予想も出来ない。
「約束だ。握手。」
差し伸ばされたアレンの手を、おずおずとカインが握った。
アレンとは、真剣勝負を何度かやったことがある。
一度はカインからアレンに頼み込んた事もある。
だから勿論断る事はないが・・・。
だが正直、ここに来てのその発言に、カインは少し困っているようだ。
「う・・・うん、分かったよ。
でも僕殺されるんじゃない?」
「死なないように、修行してろよ!」
「死なないようにって・・・わーー。怖い。
気をつけるよ。」
その言葉にアレンが笑った。
どんな事になるかはアレンにも想像できない。
でも、『また会う約束』も出来た。
「じゃあな、ありがとうな!またな!」
「うん、ありがとう。またね!」
そう言って、去り行くカインを送り出しそうと
今度はアレンがカインの背中をぽんっと押して送り出した。
よし、あいつに言いたい事は言った。
「入れよ、クレハ。」
アレンはドアの傍で本当にずっと見守っていたらしいクレハを
静かになった部屋に招きいれた。
「ア、アレン様・・・真剣勝負だなんて・・・
下手したら国際問題ですよ・・?」
久々に口を利くなり、クレハはそんな事を言った。
確かにサマルトリアと表立って戦闘でも開始したら
国際問題かもしれない。
「違うよ、そんなんじゃない。分かるだろ。」
そう言ってアレンは再び部屋に戻って寝台に座った。
まぁ、旅の仲間、ほかならぬこの2人の仲である。
間違った事にはなるまい。
「でも、今度あいつと戦ったら、
そろそろ俺の方が負けるかもしれない。」
「アレン様が?まさか!!」
クレハにとってそれは信じられないし、
アレンが負けるところなんて、想像したくもない。
「冗談だよ。」
その言葉にようやくクレハはほっとして、
そして今度はおそらくずっと言いたかった言葉をアレンに告げた。
「アレン様、お帰りなさいませ!!
無事のご帰還心より・・・心より、お待ちしておりました!」
クレハはようやくアレンと話す機会を得て、
そう言いながら頭を下げた。
アレンは今や本物の勇者。
さらに言えば、自国の王となった。
気安く、昔のように話が出来る相手ではなくなってしまった。
だけど、せめて一言くらい声を掛けたかったのだ。
ちゃんと伝えられて、もう満足だった。
「よう、クレハ。良いって、そういう堅苦しい挨拶は。
お前髪が少し伸びたか?」
だが、アレンのほうはそんな風に思ってはおらず
気安い風に口を開いてくれた。
「あ、はい。少しは女にも見えるようになりましたか?」
「うん。そうだな。もう男には見えねえよ。
剣の稽古はまだやってんのか?」
そう言ってアレンは笑った。
「ア・・アレン様から見れば、子供のお遊戯です。」
「へー。今度見せてみろよ。」
「ご、ご冗談を・・!」
大神官ハーゴンを討ち、破壊神シドーを打ち倒したアレンに見せるようなものではない。
「なんだったら、俺が稽古つけてやる。
でもせっかくお前、綺麗になったんだし、そんなのも変か。」
アレンがぶつぶつと言っている。
さらっと何を言ってるのだ?この人は。
「なぁクレハ。お前はどこにも行かないだろう?
俺の傍にいるだろ?」
アレンはそう言って、クレハの手をぐっと引いた。
そして自分の隣に座らせた。
何故かアレンの目は真剣だった。
「え・・・!?
は・・・はい。私で宜しければ・・。」
そんな幼少時代のように、近くに寄るなんて事は
許されないだろうと思っていた。
だが、アレンは傍にいても良いという。
「あいつらは呼べば来るだろうけど・・
お前は、呼ばなくても俺の傍にいろ。クレハ。
さっきみたいに扉の外で待ってなくて良いから。」
「ア、アレン様・・・!?」
「返事は?」
「は、はい・・!必ず私はお傍におります。」
「ん。」
その答えに、アレンは満足げにベッドに転がった。
一段落して、腹がぐーっとなった。そう言えば腹が減った。
夜になればきっと宴会があるんだろうけど・・・。
「なあ、俺腹減った。」
まるで子供のようなその言い方にクレハは笑った。
アレンは確かに英雄になったはずなのに、まるで昔のままのようだった。
「分かりました。すぐに用意させます。」
「じゃなくて、手作りが良い。
お前の手作り。」
ベッドから手だけ伸ばして、アレンがそう指示を出した。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
「えっ、私ですか・・!?
私はさほど料理は得意ではなく・・・職人に作らせた方が。」
「いーや、お前が良いんだよ。
大丈夫。最初はそんなに美味くなくても良いんだ。
作ってるうちにどんどん美味くなるみたいだぜ。
料理ってのは。」
誰かみたいに、とアレンが呟いた。
「は・・・はあ・・・そういうものですか?」
「時間はこれから、たーっぷりあるからな。」
アレンはそう言って大きく伸びをした。
これから先の未来に、もう不安は無かった。
- 続く-
2013/07/05
▲