エピローグ 3

涼しい風が吹いていた。
マリアは、カインのルーラでムーンブルクへと帰ってきた。

マリアは、サマルトリアやローレシアで笑顔を見せてはいたが、
どこか、心からの笑顔ではなかった。

自分にはこんなに歓迎して迎え入れてくれる国は無い。
歓迎して喜んでくれる人もいない。

彼らと違い、私が帰る国はかつての美しさなど微塵も残らない
朽ち果てた瓦礫の山なのだ・・・。

そんな事は、二人の前で考えてはいけない事なのに・・・。

「マリア・・・?」

足の重いマリアを心配そうに振り返るカインに、
心配をかけまいとわざと笑って見せた。

「なんでもないわ。
 さぁ、忙しくなるわよ。」

瓦礫の山を片付け、人が住める場所を作らなければならない。
それには人手がいるだろう。人手を募らねば。
だが、こんな自分の元に人は集まってくれるだろうか。
一度は魔物の巣窟になった城に、誰が戻ってきてくれるだろうか?

もし・・・誰もそんな事を期待していないのであれば、
ムーンブルク復興なんて私だけが希望しても、到底為し得ない。

「・・リア?・・マリア・・・!」

再度カインがマリアに声を掛けた。
考え込んでいたのだろう、どうやら、何度か声を掛けてくれていたようだ。

「真っ青だよ。大丈夫?」

真っ青だといわれて、自分と言うものが
何か急に不確かなものであると感じた。

今まで無我夢中でハーゴンを討つという目標のため
邁進してきた。だがずっと、マリアの最終目的はそこではなかった。
あくまで自分が生まれ育ったムーンブルクの復興だった。

ハーゴンの討伐には、ムーンブルク以外の国をも救う意味があった。
だからこそ、多くの人の支持もあり、
為し得た後、あれだけの大勢の人が喜んでくれたのだ。

だけど、ムーンブルク復興などに意味があるのか?

急に自分の足元が崩れるような不安感があった。

そんなマリアの肩ををカインが支えた。

「落ち着いて。急にいろんなことを考えると大変だよ。
 まずは、王様にご挨拶に行こうよ。」

「何を・・・?」

そういうと、カインはマリアの手を引いて、
崩れ落ちた瓦礫をかいくぐり、ムーンブルク城の中へと入っていった。

既にカインも王室への道は頭に入っている。

不思議と、以前来たときよりも
城内が明るくなっているような気がした。

そういえば、リビングデッドなどの魔物は現れなくなっていた。

ハーゴンがいなくなったが、
魔物は全てが消えてなくなったわけではない。
魔物とて命ある存在、その命が消えた訳ではない。

ただ、人間に対する敵意が消えたようだ。
帰路につく道中、襲い掛かってくる魔物はいなかった。

ガラッと物音がして、振り返るとそこには
兜ムカデの姿が見えた。
が、兜ムカデはマリアたちに興味もなさそうに、
すごすごと去っていった。

そして、リビングデッドや幽霊と言った
死者の怨念の魂で魔物化したものたちは、
その怨念から開放され、天へと帰っていったようだ。

その姿を見る事はなかった。

そのため以前2回とは比べ物にならないほど、
楽に王の間へとたどり着く事ができた。

「・・・・?」

以前来た朽ち果てた様子とは違って、
玉座が整えられていた。
誰かがここへ来ていたのだろうか?

魔物が去り、危険が去ったこの城を
訪ねようとしてくれる人がいるのは嬉しい事だった。

そして、そうだ。
前回、王の間に来たときは、
マリアは自分のかつての惨劇にフラッシュバックが起こり、
そこで意識を失ってしまったのだ。

まず、父に謝罪をしなければならないと思っていた。
もうここにいないとは分かっていたが、
墓も形見も何も無いのだ。
このいつも座っていた玉座を父として・・・。

そう思いマリアが目を閉じたとき、
思いもかけない事を言われた。

「・・・・マリア・・・、マリア・・・・。ねえ・・!
 ムーンブルク王が、お父上が来てくださってるよ!
 王妃様も!」

突然のカインのその言葉に、マリアは目を開けて眉を顰めた。
一瞬何を言ってるのか、分からなかったのだ。
憂鬱な自分の事をからかっているのだろうかと、最初は思った。

だが、カインはきょろきょろして周りを見渡して
驚いた表情をしている。

「あ・・・マリア。見えない?僕の手を取ってみて。」

「・・・・・・・?」

差し出された左手に触れてみると、
急にぶわっと風が吹いた気がして、視界が変わった。

「えっ・・・!?」

嘘ではなかった。
玉座に座るムーンブルク王の姿、そしてその傍には
まだ元気だった頃の王妃の姿まであった。

「お・・とうさま・・・?お母様・・・??」

何故こんな姿が見られるのか。
ハーゴン城で見せられたような幻の姿なのだろうか?

いや・・・、違う。
手の温かさも感じて、振り返ると、
不安そうなマリアにカインが頷いて見せた。

これはカイン特有の能力の一つだろう。
ザオリクを習得したカインは死者の魂を見ることが出来ると言う。

「お父様・・!私です、マリアです!!!」

『見える・・・見えるぞ・・・そなたは・・・我が娘、マリアではないか!
 おうおう・・そのような立派な姿になって・・・・。』

父の声が聞こえる。
気のせいか王妃のすすり泣く声まで聞こえる気がした。
これは一体どういう奇跡だろうか。

『マリアよ。
 そなたたちの働きは、魂となったこのワシにも感じる事が出来た。
 本当によくやったな。』

「お父様・・!私・・・私・・お父様に謝らなければ・・・」

『何を言う・・。』

ムーンブルク王の魂が玉座から立ち上がって、
こちらへと歩み寄ってくる。

『悲しむ事はない。
 お前はこんなに、立派な事を成し遂げたではないか。』

そう言って、王はマリアを優しく抱きしめた。
もちろん触れる事は出来ない。
そう・・感じただけだ。
なのに、どうしてだろうか。

こんなにも・・・暖かい。

マリアは目頭が熱くなるのを感じた。
父は許してくれていた。マリアの罪を。

ならば尚、マリアはやらねばならない事がある。
胸の奥の決意を王に話した。
口に出して、それを聞いてもらいたかったのだ。

「私、きっとムーンブルクを建て直します・・・。
 お父様、お母様の愛したこの国を・・・きっと・・・!」

王はその決意を応援してくれるだろうか?
もし、反対されたら・・・

だが、その言葉をかみ締めるように、王が頷いた。

『分かっておる。お前はわしの娘だ。頑張るのじゃぞ。
 いつでも・・見守っておる。天国で、王妃とな。』

王は何度も深く頷き、マリアの決意を認め、応援してくれた。
そして王は今度はカインのほうを見た。

『お前には力強い仲間もいるではないか。
 これからもマリアのこと宜しく頼みますぞ。』

「・・!・・は、はい・・・!」

思わぬ言葉にカインも恐縮して、頭を下げた。

『さあ、お別れじゃ。今度こそな。
 本当にありがとう、ありがとう・・・。どうか、元気でな。』

そう言って、王はマリアの頭をやさしく撫でた。
そして優しく微笑む王妃の手を取り、
2人は今度こそ空へと帰っていった。

もういくら探しても、その存在を感じる事はできなかった。

「・・・・・・お父様・・・?」

一瞬の事だった。
もしも会えるのなら、あんな事やこんな事をも言いたいと思っていた。
なのに、なんだか一方的に励まされただけな気がする。
マリアの目から涙が零れ落ちた。

「お2人は、マリアに会うために来てくれたんだね。
 良かったね、マリア。」

「・・・・カイン・・・ありがとう・・・。私にも見せてくれて。」

「ううん。」

涙を見せたものの、
マリアは少しすっきりした顔をしていた。

先ほどまで不安に思っていた
ムーンブルク復興に対する気持ちが変わったのだ。


両親に励まされて変わるなんて、
まるで子供のようだなと思うが、父も母もずっと自分を
見てくれている・・・それは大きな力となった。



「おお!マリア様!!」

背後から、誰か人の声がした。
そこにいたのは、ムーンペタでマリアたちが出会った
かつてのムーンブルク兵の姿だ。

「あなたは・・・・。」

「お忘れでしょうか!元ムーンブルク兵のクナと申します!
 私たち、マリア様がお戻りになるのを
 今か今かとお待ちしておりました!!」

「私・・たちって・・?」

生き残りはこの兵だけではなかったか?と思ったが、
振り返るとそこには、数名の人が集まっていた。
クナのような兵だけではない。
女性の姿も見える。

「マリア様が戻るまでに城を綺麗にしようと思っていたのです。
 なかなか完全な状態にはなっていませんが、
 新しい花々を植えたりなどして、少しずつ以前の姿を
 取り戻しつつあります!」

玉座を整えてくれたのも、このクナたちだろう。

「マリア様の好きなお花、聞いておりますよ。
 やっとお戻りいただいたんですもの。
 裏庭など一度見てください。とても綺麗なんですよ。
 これから忙しくなりますわ!」

女性がそう言った。

「あなたは・・・?」

「私はムーンペタに住むフルートと申します。
 ムーンペタでも、ムーンブルクの復興を待っている人は沢山います!
 マリア様が戻られたのを知ったら、皆喜んで、
 きっともっと多くの人が力をお貸しに飛んできますわ。」

この女性はムーンペタの住人らしい。
そのように言ってくれる人がいるのは本当にありがたかった。

「マリア様、何もご心配されなくても、大丈夫ですよ。
 あなた様がいるだけで、私はじめムーンペタの住民も
 どれだけ勇気をもらった事か!」

「いずれムーンペタにも顔を出して頂きたいですわ。」

「おいおい、マリア様はお忙しいのだ。
 そうそうあちこちに顔を出したりする暇は無いぞ?」

そのやり取りを聞きながら、マリアは嬉しくなった。
自分の存在が誰かを勇気付けるなんて、
なんて嬉しい言葉だろうか。

ムーンペタにももちろん顔を出したい。
力を貸してくれる人がいるのなら、一人一人の顔を見て
お礼を言いたい。

「ありがとう。あなた達。
 私、とても心強いわ。」

マリアはクナと女性にそう言った。

「マリア様、こちらも見てください。
 簡単な炊事場、それから質素ではありますが
 寝室も作ってあるんですよ。」

「やだ、あなた。あんな粗末なところに
 姫様を寝泊りさせる気?
 キメラの翼がありますので、夜は我がムーンペタの宿へ。」

2人は今日のマリアの寝る場所まで心配しだした。
それより、既にある程度、城が整えられている事に驚いた。
また、ムーンペタの宿を気遣ってくれる心遣いも嬉しかった。

「ありがとう。寝床なんてどこでも大丈夫よ。
 私もう何日も野宿した事があるんだから。
 ねえ、カイン。」

マリアはそう答えて、カインのほうを向いた。
が・・、カインの姿が見えなかった。

「え・・・?カイン?」

部屋中を見渡してみたが、やはりいなかった。
もしかして帰ってしまったのだろうか。

カインも暇で来てくれた訳ではない。
本当はやることがいっぱいあるだろう。

サマルトリアでのあの歓迎っぷりが思い出される。
国でもあれだけ必要とされてたのだから、
ここが一段落したら、自分の国へ帰るのは道理。

クナたちが来てくれたのを見て、
もう安心したのかもしれない。

でも・・・・

まだ何も伝えていない。
お礼の一つも伝えていない。

「カイン・・・!」

思わずマリアはその場を駆け出した。
ルーラで帰ったのなら、
ここで自分が走ったところで追いつけないなんて
分かっていたのに・・・。

ムーンブルク城の通路も
ところどころ綺麗な花が植えられている。
きっとあの女性たちの尽力だろう。

だけど、今のマリアにはそれも目に入らなかった。

「待って・・・・待ってよ、カイン・・・!」

ずっと自分を支えてくれていた。
どれだけ励まされただろう。

自分の荒唐無稽なムーンブルク復興の夢を、
一緒になって応援してくれた。

時には自暴自棄になったマリアを
傷だらけになっても、一つも嫌な顔せず受け止めてくれた。

文字通り出来る事は何でもやって、時には出来ない無茶もやって
マリアのことを助けてくれた。

もちろん、カインが誰にでもそうだと言うのは分かっている。
アレンの事だって全力で支えていたのも知っている。

だけど、言いたい事があったのだ。

「私は・・・あなたのことが・・・。」



息を切らしながら、気がつけばマリアは
裏庭のほうへやって来ていた。

城門の方では見つからなかった。
あとは裏庭にいなければ・・・きっと本当に帰ってしまったのだ。

最後の希望を頼りに、とぼとぼと裏庭覗いてみると
そこは一面の花畑になっていて−・・

「マーリア〜〜 !」

満面の笑みのカインがそこに居た。
両手を振っていた。

「え・・・?カイン?」

なんだ、居るではないか。
帰ったのではなかった。良かった。
荒い息を整えながら、マリアもカインに笑顔を見せた。

「マリア、あ・・あのさ・・!
 ちょっと後ろを向いててくれないか?」

「?」

歩み寄ろうとしたマリアに、
よく分からない事をカインが頼んできた。
後ろを向いている間に、またいなくなったらどうしようかと思ったが、
素直にマリアは後ろを向いた。

すると、カインが傍に駆け寄って来る足音が聞こえた。


「よいしょ・・と、それっ・・!」


その声と同時に空から何かが降りそそいできた。
最初何か分からなかった。
太陽の光を受けて、それはまるで雪のようにキラキラと輝いていた。


よく見ると、それはほのかに甘い香りがする
鮮やかに彩られた花びらだった。


「花・・・?」

そして、頭に何かを乗せられた。

それは花で作られた花冠だった。


「こ・・これ・・・・?」


「うわあ〜マリア・・・すっごく綺麗だよ。
 女王さまって言うより、なんだか花嫁さんみたい。」

「あの、あの・・・じゃなくて・・カイン・・これは一体・・?」

喜んでくれると思ったマリアの表情は
真顔で固まっていた。

「あ、あれ・・・!?駄目だった・・・!?
 大丈夫だよ、せっかく生えてきた花々を無為に手折ったりは
 してないからっ!!」

「じゃなくて・・・。」

「あ・・ごめん。
 花で作った王冠とか、馬鹿にするなって事だよね・・!
 ごめん!!そんなつもりじゃないんだ!!
 あんまり、綺麗で・・・。」

どうやら花冠は、王冠のつもりらしい。
ムーンブルク復興を唱える王族がマリア一人なので、
自然とマリアはもう王女ではなくて、
女王になったと言った方がいいのかもしれない・・・。
即席の手作りではあるが、その記念にと言う事のようだ。

が、そういうことでもなく。

「あの・・・普通・・・逆じゃない・・・?」

「逆!?向きが・・・!?」

逆と言われて、カインが花冠を反対にしてみる。

「うーん・・・?
 でも逆にすると、せっかくのお花が下向いちゃうよ・・?」

その言葉にマリアはとうとう噴出してしまった。

「えっ・・?えっ・・・?
 あの・・・マリア・・・?」

カインがそのマリアの様子に戸惑っている。
が、マリアは笑いすぎて、肩を震わせている有様だ。

「違うわよ。花細工なんて、普通するのは
 女の子の方でしょ?」

「えっ・・・!?あ・・・そういう・・・?
 でもでも、マイと良くこうやって・・・遊んで・・た・・
 わー!確かに男の癖に何やってんだ!だよね・・・。」

言いながらカインはしゃがみ込んでしまった。
どうやらその指摘が恥ずかしいらしい。

それにしても居なくなって何をしているのかと思ったら、
こんなところでせっせと花冠を作っているなんて
そんな事予想すら出来やしない。

でもカインはきっと、
綺麗になったムーンブルクの花々の様子に素直に胸を打たれ、
こうすればマリアが喜んでくれると思ったのだろう。

その様子を想像すると微笑ましいと言うか何と言うか。

マリアは笑いを堪えながら、
・・・今なら、自然と言えると思った。


「でも私は、そんなカインが好きよ。」



唐突に発せられたその言葉に、
しゃがんだままのカインがバッと顔をあげた。
その瞳は驚きで、見開いていた。

「ふふ・・・。最後だものね。
 迷惑かもしれないけど、言わせてね。
 ずっとずっと、カインが傍にいてくれたお陰で
 私の肩の重荷がすとんと楽になってたわ。」

そしてマリアは、心からの笑みを浮かべた。

「それどころか、とても楽しい旅だった。」

「マ・・・・リア・・・・?」

「思い返せば、いろんな事があったわね。
 巻き込まれたあなたにはとんだ迷惑をかけてしまったけど、
 私は本当に感謝しているの。
 今まで、本当にありがとう。
 サマルトリアに帰るあなたに、こんな事を言っても迷惑−」

「ま、待って待って!」

カインが慌てたように立ち上がった。

「カイン?」

その顔は真っ赤になっていた。
そして、頬を少し掻いて上を向いた。

「あーーー。
 これだから、僕はアレンにへたれだって言われるんだ。」

「え?」

何故ここでアレンが出てくるのか、マリアには分からなかった。

「僕が言おうと思ってたのに。
 あのね・・・ずっと小さい頃から僕は魔法の才能も剣の才能もなくて・・・。
 父様にも先生にも匙を投げられてたくらいなんだけど・・・。
 まぁ、今思えばそれ自体、僕も子供だったんだけど・・・。」

「・・・・?」

何やら急にカインが昔話を始めた。

「覚えてる?
 12歳のとき、初めてアレンやマリアと3人で魔物と戦ったでしょ?」

「え・・・ええ・・・。」

ラダトームでのロト祭の事だろう。

「誰も認めてくれなかった、何も出来なかった僕のことを
 マリアが初めて認めてくれた。褒めてくれた。
 すっごくすっごく嬉しかった。」

「・・・・・・。」

「それから、ずっとマリアの力になりたいって思ってた。
 僕を強くしてくれたのはアレンだったかもしれないけど
 君の・・、マリアの力にどうしてもなりたくて、
 強くなりたいって思ったんだ。」

実際カインは強くなった。
最初の頃からは比べられないくらいに。

そして、カインは一度大きく息を吸って、
今まで言えなかった気持ちをマリアに伝えた。


「あの・・・だから、あの・・・ね・・・。
 大好きだ・・よ。
 ずっとずっと前から、僕はマリアのことが大好きなんだよ。」



「・・・・・・・!」

マリアは手で顔を覆った。
自分がどんな顔をしているのか分からない。

カインの顔も紅潮して、赤らんでいる。
でも、ずっと前から・・・って・・・?

「でも、でも・・!
 そんな事、あなたずっと言わなかったじゃない・・・!?」

自分のことを棚にあげているのはわかるのだが、
マリアは少しだけ恨みがましくそんな事を言ってしまった。

「い、言えなかった・・・よ。
 言って、変な事になるのは嫌だったし、
 それに・・・それより、僕は今日みたいな日が来るって思わなかった。」

「今日みたいな日って・・?」

「本当に・・・僕が、生き残れるとは思ってなかった。
 長い間、呪いの事とかもあったし。
 それに僕の最強の魔法は、あんな魔法だったんだから・・・。
 だから、言えなかった。」

サマルトリアでハーゴンの呪いを受けたときも、
メガンテを心の中で意識してからも、
いつか別れる日が来るんだと思っていた。

そんな状況で、既に最愛の人を失っているマリアに、
自分の気持ちを伝える事なんて、到底出来なかった。

だから・・結ばれる事すら、あってはならない事だったのだ。

「馬鹿・・・。そんなつもりだったんだとしたら、
 私は絶対許さないわ。」

マリアはそこまで聞いて、カインの気持ちを
ようやく、初めて理解できた。
カインのその前提は許しがたい事ではあったが。

だが、・・・その全てを乗り越えて、今2人はこうしているのだ。

「でも・・・ありがとう、カイン・・・。
 最後に私たちの思いが伝えられれて、私本当に嬉しかった。」

「最後って・・・?」

カインが怪訝な顔をした。

「あなたはサマルトリアの大事な王子様だもの。
 私は、ここでムーンブルクを復興させるわ。
 だから、これでお別れ・・・ね。」

「ま・・待ってよ・・・!」

寂しそうにそういうマリアに、カインは首を振った。

「どうして、最後なんて言うの?
 お別れなんて嫌だよ。」

「だって皆待っているでしょう?サマルトリアで。
 あなたの事あんなに大歓迎してたじゃない。
 私はあなたを困らせるつもりで言ったんじゃないの・・・。」

互いに異なる国の王族。
しかもどちらも王位継承者だ。

で、あれば勿論思いを遂げる事なんて出来ない。
もし、どちらかの国へ嫁ぐような事があれば、
それはどちらかの国の消滅を意味するのだから。

サマルトリアでの大歓迎ぶりを見て、
ますますこれは考えてはいけない事、
その思いが遂げられる事は無いのだとマリアは悟ったのだ。

「あー ・・・。
 今ね、僕すごく欲張りでね。」

ロンダルキアで、アレンに欲を持てと言われたが、
それから・・考えなかったわけではない。

「僕、諦めるつもりは無いよ。
 勿論サマルトリアのことは大事だよ。
 母様がいなくなって、大変なのも分かってる。
 マイにも沢山負担をかけたって分かってる。
 でも、マリアの事も諦めたくない。」

「え・・・?」

「僕はマリアと・・・・か・・家族にだってなりたいって・・・思ってる。」

「む・・・無理よ・・・。それは無理な事よ。」

だって、カインがサマルトリアを捨てられる訳が無い。

「あのさ、思うんだけどね、アレンのところと違って
 うちの父様当分王位から退く気はないよ。」

「そ・・それは・・でも・・・・。」

そうだったとしても、それは問題の解決にはならない気がする。
そもそも王位継承権を持つものが、他国へ行くなんて聞いたこと無い。

「僕じゃなくて、ずっとサマルトリアを守ってくれていたマイが
 即位しても良いだろうし・・・。」

「・・・カイン、そんな事って・・・あなたが言う事じゃないんじゃない?」

結構すごい事を口にしているな、と思いつつ・・
でもやはりそれは、カインが決める事ではない。

「どうしても駄目だったとしても、
 た、たとえばの話だよ。こ、子供が2人生まれたら・・・
 ・・・そしたら、サマルトリアとムーンブルクに・・・。」

ここまで言って、元から赤かったカインの顔が
いよいよ瞬間湯沸かし器のように
真っ赤になって、また後ろを向いて座り込んでしまった。

「ご・・・ごめん!!ちょっと、むちゃくちゃ言った・・!」

「・・・・・・・。」

マリアも何と返せば良いのか分からなかった。
カインは背中を見せたまま、ぼそっと呟いた。

「でも・・・子供って2人は欲しいと思うんだ・・。
 兄弟っていいもんだよ。」

「そ・・・そうね。あなた達を見てたら、そう思うわ。」

カインの言いたい事は分かる。
ちょっとびっくりしたが、決して嫌な気分ではない。
未来の風景を思い描くのは、ただの青写真だとしても
とても幸せで嬉しく思えるものだ。


でも、まだ信じられない。
信じてはいけないと思っている。

カインが、再度立ち上がって、マリアのほうを向いた。
すーっと息を吸って、ごくりと息を呑んだ。
すごく緊張しているのが分かる。

でも、一生懸命その思いを語ろうとしていた。

「だから・・・まだ分からないけど、
 どういう形になるかは分からないけど、
 いつか・・いつか、君を迎えに行くからっ!!
 今度こそ・・・壊れてしまう指輪じゃなくて、
 花で作った王冠でもなくて、本物の指輪を持って・・・!!」

「・・・・ほ、本当に・・・?」

今の言葉は本当だろうか・・?
そんな事を考えてもいいのだろうか?
本当に待っていても良いのだろうか?

「カイン・・・本当に?それは、本当なの・・・・?
 私・・・私は・・もう大事な人を失うのも、
 一人になるのも・・・嫌よ?」

「うん。もう、一人にしないから。
 一緒に大人になろう。一緒に生きていこう。」

そう言ってカインはマリアをぎゅっと抱き寄せた。
その腕の力を感じながら、
マリアの目からは、つーっと涙が流れる。

「夢よ・・・きっと、これは幻よ。」

実際のところ、ムーンブルクに帰ってきたとき、
いつかは一人で生きていかなければいかないと覚悟をし、
だが、たった一人であることの重さにつぶされそうになった。

「夢・・・じゃないよ。本当だよ。
 僕の事、信じられないかなあ?」

「あなたのつく嘘は、時に残酷だもの。」

自分を置いて、先に死を選んだ事だってあるカインに
少し恨みがましくマリアは言った。

「うー・・・・ごめん。それは・・・反省してるよ。
 もう、マリアを置いて、先にいなくなるなんてしないから。」

「なら、・・・約束よ。
 私より先に・・・いなくならないでね。」

「うん。きっと。」

その言葉にカインは一度だけ大きく頷いた。
生きてさえいれば、いつまででもその約束を信じて、
マリアは待っていられる。

「・・・・ありがとう・・・・。」

そのマリアの言葉を聞いて、カインは手を離した。


その表情は少し照れたように恥ずかしそうで、
でも心底嬉しそうな笑顔だった。

「だから・・さ。
 まずは、ムーンブルクの事も一緒に考えていこう!」

「え・・・ええ・・・。」

今までは三人で戦ってきたマリアにとって、
国を一人で立ち上げる事は、
あまりにも途方ない道に感じていた。

「そーだ。まずは、この界隈の浄化しなきゃね。
 まだ魔物がいるもの。人が住めるようにしなきゃ。
 アレンも呼んで、一気にやろう!」

「アレンを・・?でもアレンはもう・・・。」

アレンはローレシアの王になった身だ。
今までみたいに、そうそう容易く動けはしないだろう。

「大丈夫だよ。アレン言ってたもん。
 アレンの力が必要なときはいつでも言えって。
 ね、マリアは絶対一人じゃないからね。」


マリアはその言葉を聞くと、
再び零れ落ちそうになる涙を堪えて、空を見上げた。

これからは一人で歩む事になると思っていた。


だが今も、あのどこまでも続く広大な青い空の下
あの日から続く道が、まだ尚続いていることを感じた。


ラーの鏡を見つけて、アレンとカインが
自分を助けてくれたあの日から続いていた日々。


三人で始めた旅の道は、途切れる事はないのだ。
そしてきっと、それはこの先も続いていく。




ずっと、ずっと未来まで・・・・・。








****




ローレシア、サマルトリア、そしてムーンブルクの三国は
歴代のどの時代よりも深い絆で結ばれて行く。


各国のその後を少しだけ書き残しておく。



ローレシアでは、
若き英雄王アレンが、慣れない中でも、鋭敏な王政を振るったと言う。
一見、むちゃくちゃにも感じるアレンの政策に
周りは慌てふためき、最初は反感を覚えるものもいた。
それでも実は、民の事を一番に考えた愛情にあふれたものだったと言う。

時には王自ら、先頭に立って
誰よりも危険な場所で、誰よりも勇敢に、国民を助ける。
そんな誰よりも愛情深いアレンの真意を知った国民は、
昔の黒い噂を忘れ、徐々にこの若き王を慕っていったと言う。



サマルトリアでは、長く元の王の治世が続いたようだ。
王妃を失った悲しみを感じさせず、
情が深くなったと言われる王を中心にサマルトリアは長く平和が続く。
また次第に王女のマイが、慣れた様子で、父の手助けをするようになった。
王子のカインは何故か一歩引いたところから、そんな2人を支えていた。
旅のさなか身に着けた数々の知識で、皆を驚かせる事もあったと言う。
困った事があれば、どんな些細な事でも必ず親身になってくれるカインは人々の信頼も篤かった。

だが時折、どこを探してもカインが見つからなくなるのだと嘆かれることも増えてきた。
そんな時、父王は「あいつは昔からすぐ迷子になるからな。気にするな。」と取り合わなかった。
どうやら、何か事情があるようだが、その事情について王に聞いても
「まだ話す時期ではない。」と答えなかったと言う。



そうして、ムーンブルクでは、女王マリアを中心として、
復興の道を歩んでいく事になる。
凛とした強さと、誠実な優しさを持つマリアが立ち上げる新しい国に、
多くの人が新たな夢や憧れを抱き集まってきた。
そして、徐々にムーンブルクは往年の輝きと美しさを取り戻していった。

しかし中には女性の身であるマリア一人で、
王国を作り上げるなどとは、到底為しえるはずがないと
いぶかしむ人もいた。

だがそんな時、マリアはいつも決まって、こう答えたと言う。

「一人じゃないのよ。」 と。










- Fin -

 

2013/07/05
▲

     
     エピローグ3、ムーンブルクのマリア編となります。
     皆のハッピーエンドを目指して、ずっと3年弱書いてきました!
     大丈夫かな?皆幸せになれてるかな??
    
     最後は今まで言えなかった思いを全部伝えるべくカインとマリアが精一杯向き合いました!
     そんな、この話の終了を持ちまして・・・・
     長編小説「そら色の冒険譚」は完結となります!!

     長い間、応援を頂いた皆様、本当に本当に本当にありがとうございましたーーーーー!!!!

      ★8P漫画化しました
      【 見る  】
 
 
 
 
 
 
 
 

  ★縦長漫画化しました
      【 見る  】
 
更新の活力。楽しんで頂けましたら是非ポチを。→