自室に引きこもったアレンは乱暴に荷物を投げ捨てた。
クレハは何も言わず、落ちているその荷物を一つ一つ丁寧に拾い上げた。
その様子を見て、アレンは少しバツが悪そうに
「悪いな。」
と謝った。
クレハはただ首を振った。
アレンは少し荒れていた。
世界が平和になり、魔物の恐怖におびえる時代も終わった。
それと同時に、アレンの「力」が不要になった。
ローレシアの兵の誰もが、アレンの相手になるものはいなかった。
それ自体は昔からそうだったが、それ以上の違和感も感じていた。
もう、強くなる必要も無い世界なのだ。
こんな世界では向上心も何も無いのだ。
平和な世では、巨大な力など、もういらないのだ。
アレンは自分の取り得が剣だと思っている。
その剣が必要なくなるのであれば、
こんな人並みはずれて異端な自分など必要ないということではないか。
難しい政治の事も、経済の事も、
自分なりに向き合って、慣れない本を読み、識者にも学んできたが、
到底自分に向いているとも唯一無二の生きがいとも思えなかった。
何も言わずにアレンは自室のベッドに体を投げ出した。
無性に孤独感を感じた。
「・・・・・・・アレン様、お疲れでしょう。
お食事などお持ちしましょうか?」
「・・・・・・。」
アレンはチラッとクレハを見上げたが、
何も答えず横を向いてしまった。
「アレン様・・・?」
食事も欲しがらないとは珍しい。
「疲れてる訳無いだろう?
あんな程度で。」
投げやりに答えるアレンにクレハは心配になってきた。
アレンの考えている事は少しは分かるつもりだ。
皆、大した努力もせずに、すぐに限界と諦めてしまう。
男の癖に、情けない!
「アレン様!!
では、お疲れでないのなら、また私に稽古を付けて下さい!!
クレハは絶対音を上げませんよ!」
クレハのその言葉に、
アレンは、寝返って顔を向けると、大きな目でクレハを見つめ、
驚くほど優しそうな笑みで、首を振った。
「ありがとな。でも、あんまり無理すんなよ。
お前は女なんだから、大怪我とかさせる訳にはいかない。」
「・・・・・・っ・・・。」
力が足りない。自分では力が足りない。
女の身である自分が悔しい。
優しそうな笑みの中に少しの悲しみがあるのクレハは見逃さなかった。
アレンの孤独を理解できるのに、
自分では力不足だ。
だが、アレンは完全な孤独ではないはずだ。
アレンには仲間がいたではないか。
それこそ唯一無二の仲間たちがいたではないか!
あの仲間たちならアレンの置かれた立場、状況を
本当の意味で共感してもらえる事だろう。
だが、以前、サマルトリアの王女マイがやってきて
アレンに、カインには会うなと懇願してきた事があった。
それから、アレンは積極的にサマルトリアに向かう事もできなくなり、
そしてカインの方からアレンに会いに来る事も無くなっていた。
もう!何だというのだ!
あの人は何をしているというのだ。
確かな信頼関係がかつてあったはずなのに、
妹にあんな事を言わせたことで、
アレンは少なからず悩んでいる。
そんな鬱屈した空気が流れていた部屋に
突如違う空気が流れてきたのだ。
窓からだ。
「アレーン!!」
「!!」
アレンはその声に弾かれるように身を起こすと、
窓から顔を出した。
クレハも窓から見下ろすと、そこには今まさに考えていた
人物がやってきていた。
「カイン・・・!!」
***
幻じゃないか、すぐ消えるんじゃないかと思って、
アレンは急いで、外に出てみた。
だが、そこには幻でも何でもなく、
カインがそこに来ていた。
「アレン、久しぶりだね。元気だった?」
「お・・おお・・・!!
俺が前にそっちに行って以来だな。
久しぶりだな。」
やっと来た。カインが自分からアレンに会いに来るのは
本当に久しぶりの事だった。
アレンはまだ何やら幻でも見ているような
ふわふわした感じだった。
カインは誰か見知らぬ人間を連れて来ていた。
いや、どこかで見た覚えもある。
「アレン王、このような形でお目にかかれ幸せです。」
突然、ひざをついて最敬礼の姿勢を取った。
「えー・・・っと・・。」
「アレン覚えてない?
ムーンブルクの生き残り兵のクナさん。」
「あ・・?ああ・・・。」
少しアレンは記憶を辿って、思い出した。
確かムーンペタで出会って、マリアに会わせてやった兵だ。
何やらあの頃と比べて、小奇麗になった。
「堅苦しい挨拶は無用だ。
普通にしてくれて構わない。
で、俺に何か用か?」
「は・・はは・・・っ・・!あ、あの・・・。」
楽にして構わないといったが、
どうやらクナは緊張して固まっているようだ。
そんな様子を察してカインが助け舟を出した。
「アレンに剣の稽古をつけてもらいたいって。
わざわざここまで来たんだよ。
アレン、忙しいと思うけど、少し良いかなあ?」
「へー・・・。」
ムーンブルクの兵を、何故カインが一人で連れてくるのかと
思ったが、まぁ、カインはしょっちゅうマリアに会いに行くだろうから、
マリアに託されたのだろうか。
「武者修行の成果を明日、マリアに見てもらうんだけど、
やっぱり剣の修行と言えば、アレンに相手してもらうのが
一番だろうなあって思って。」
「武者修行?」
「うん、兵の少ないムーンブルクだけじゃ修行が足りないって、
サマルトリアにも行ったんだよ。で、最後にここに来たんだ。」
「なるほどね。
それで仕上げがここで、明日はお前、マリアに会うのか。」
「そうだよ。強くなった所を見てもらいたいんだよね。」
カインは笑顔でうなずいた。
何だ、嬉しそうな顔をして。
カインはずっとこいつの修行に付き合ってやってたのだろうか。
それがマイの言ってた事と何か関係あるのかは
正直よく分からないが、そう言うことなら・・・ちょうど良い。
「良いぜ。ちょうど、さっきローレシアの兵たちに付き合ってたんだが、
不完全燃焼だったところだ。
どれほどのもんか、見てやるよ。」
アレンはバキバキと腕を鳴らした。
カインはその様子に少し眉を顰めた。
「・・え・・・・・ア、アレン稽古だよ?稽古。」
「光栄です。アレン様、ありがとうございます。胸をお借りします。
カイン様ここまで連れて来て下さり、ありがとうございます。」
クナはカインに頭を下げると、
剣を手に、ゆっくりと一歩前に出た。
紛れもない英雄であるマリアやカインに勿体無くも目をかけてもらって、
若輩だった自分も沢山の修行を重ねてきた。
かつて守れなかった国を今度は守れるようになりたかった。
強くなりたかったのだ。
実は、クナはアレンを前にして、その迫力に足が膝から砕けそうな思いをしていた。
アレンには、カインやマリアとも違う迫力があった。
だが、せっかく胸を借りる機会だ。怖がっていてどうする。
クナは恐怖する足を叱咤して、
その場を駆け出した。
「・・・・・っ・・クナさん!!ちょっと待って・・・・!」
駆け出した直後、背後からカインの声が聞こえた。
何故止めようとするのか最初理解できなかった。
微動だにせず棒立ちしているアレンに
一矢報いるくらいの事は、この自分にも出来るはず・・・!
が、直後、自分と同じくらいの背丈だったはずの
アレンがまるで巨大な壁のように感じられた。
こんな巨大なアレンの一体どこを攻撃すれば良いのか・・?
こんな隙だらけに見えるのに、背後になど回れそうも無かった。
一瞬の迷いの直後、急に地震が起きた。
いや、地震など起きていない。地震の様に床が揺れたように感じたのだ。
アレンの一撃が床を破壊したのだ。
「おっと、かわすとはやるじゃねえか・・・。」
そしてアレンはそう言った。
違う、かわしたのではない。ただ足がすくんだだけなのだ。
「クナさん、動かないと!!」
背後から声が聞こえる。
正確にその言葉を理解する余裕もないが、
クナは反射的に剣を振った。
が、もちろん当たる事も無く、次の瞬間には衝撃に吹き飛ばされていた。
続きざまに剣戟がクナの頬を鋭くかすっていった。
「強くなりたいって?こんな風にだろ?」
吹き飛ばされたクナは何が起きたのか分からない。
今の剣戟は何だ?剣が届く距離ではなかったではないか。
人間、想像できない事態が起こると、自然と恐怖心に駆られる。
今クナは、手を出してはいけない相手に手を出してしまったと言う
恐怖に支配されていた。
だが、ムーンブルクが復興に立ち上がってせっかく1年近くにわたって、
剣の修行を重ねたのだ。
この1年は無駄ではなかったはずだ。
それを信じ、少しでも一矢を報いたい。
「おおおおーーーー!!」
雄たけびを上げながら、クナはアレンに向かっていった。
バキィーーン!!
だが、その懸命に伸ばした剣先は、無常に叩き割られた。
「・・・!?」
「・・・折れちまったな。次はどうするんだ?」
唖然と真っ二つになった剣を見つめるだけのクナに
アレンは舌打ちした。
その直後、剣を反対に持ち替えた。
そして剣の柄の側で、クナの腹部を突いた。
「ぐっふ・・・・!」
鎧を身に着けていたはずのクナが腹部を押さえて、
もんどりを打って苦しんでいた。
最早身動きも取れないクナに、
アレンは尚も、大上段に構えた剣を振り下ろした。
「こんな・・・程度かよ・・・!!!」
だが、そのアレンの攻撃がクナに届く事は無かった。
キィン!と金属音が鳴り響く。
「アレン・・・やりすぎだろ・・・っ!?」
アレンの一撃を、カインが間に入って防いでいた。
「何言ってんだ?やりすぎ・・・?
ちゃんと剣先返してたぜ。
俺が今普通に攻撃してたら、今頃そいつの腹は風穴が空いてらあ。」
そう言われて、ぞっとした。
そして、倒れているクナをチラッと見た。
最早剣を持つ事もできず、
喘ぐように苦しんでいる。
「アレンこそ何を言ってるんだよ!
剣を折って、心まで折る事無いだろ!?
せっかくここまで強くなったのに・・・。」
「お前が連れてきたから、どれくらい強いのかと思ったが、
大した事無かったな。」
アレンは残念そうに言った。
「ア・・アレンの力試しに連れてきたわけじゃないよ。
きみの事を頼って来たんじゃないか。
アレンは何より、剣が大好きじゃないか?
だからアレンを頼って来たんじゃないか!」
そのカインの言葉に、アレンの眉がぴくっと動いた。
「知ってるか?
その剣ってもう別に要らなくなるみたいだぜ?」
「え・・・?」
「世界が平和になったんだ。
こんな化け物じみた力、もう何の意味も無いんだ。」
「アレン・・・・?」
カインもアレンの様子が変だと気づいていた。
「俺は自分の手で、自分が要らなくなる世界を作っちまったって事だ。」
「・・・・・・!?」
カインは思わず息を呑んだ。
そして、背後でずっと見守っていたクレハも
顔を覆って愕然としていた。そしてその目からは涙が流れ落ちた。
アレンにそんな事を言わせてしまったのが
悲しくて仕方が無かった。
「アレン・・どうしたの・・?
変だなあ。アレンらしくないよ・・・。」
「らしくないのはお前だろ?
俺から避けるように逃げ回りやがって。
妹まで使って、俺に忠告してきやがって。」
カインが驚いたように顔を上げた。
「い、妹・・・?マイが何かしたの?」
その問いに、クレハが答えた。
「マイ様がローレシアに単身いらっしゃいました。
そして、忠告されました。
二度とアレン様が、カイン様に会いに行ってならないと。」
「え・・・・ええ!?」
「理由は聞いておりません。
ただ、普通の様子ではありませんでした。」
カインはその事を知らなかったらしい。
胸に手を当てて、少し苦々しい表情をした。
「ごめん・・・知らなかった・・・。
アレンがそんな風に思ってる事も知らなかった。
マイがそんな行動を起こしてるのも知らなかった。」
「お前一体・・・・。」
「ごめん、僕が悪かったんだよ。逃げてたんだ。
全てが手遅れになる前に・・・歯車が壊れる前に・・・。」
「・・・?」
「ぎりぎり、まだ・・間に合うなら・・・。」
カインの方こそ何を言ってるのだ?
だが、カインは持っている隼の剣をアレンに向けた。
「カイン・・?」
「カイン様!?」
あからさまなその行動に、アレンもクレハも驚いた。
だが、カインは至って冷静だった。
「アレン、言っただろう。
君の強さも弱さも僕は受け止めるよ。
やろう?真剣勝負。」
「え・・・ほ、本気か!?」
シドーを倒し、凱旋をしたときに、
アレンとカインが交わした真剣勝負の約束。クレハもそれを聞いていた。
既に1年近く経過していた。
「クナさんと戦ったんじゃあ満足できないんだろ?
僕が相手をするよ。
・・まぁ、アレンに敵うとは思わないけど、
少しは暇つぶしにはなるんじゃない?」
アレンは気持ちがいつになく高揚するのを感じていた。
ローレシアの兵とも、マイともクナとも違う。
こいつなら・・カインなら・・きっと受け止めてくれる。
「泣いて、尻尾巻いて逃げるなら今だぜ?」
「・・・今僕が逃げたら、アレンが後で泣くんじゃない?」
「へっ。言うじゃねえか。」
アレンの言葉にも一歩も引かない。
カインがあれからどれくらい強くなったのかは知らない。
聞いた所によると、さほどあまり剣の修行に励んでいる様子は無い。
もしかして、アレンは再び失望するの事になるのかもしれない。
それでも・・・・。
「良いぜ、やろうぜ真剣勝負。」
クナはいまだに気絶している。
立会人はクレハ一人。
クレハはごくりと息を呑んだ。
どんな戦いになるのか全く想像できなかった。
***
「らあっ!!」
「・・くっ・・・!!」
アレンの攻撃をカインは寸での所で何とかかわした。
そして、手にする隼の剣を素早く2回振るった。
その風は二度アレンの元まで届いたが、
一撃目はかわし、二撃目は自分の剣で相殺をした。
戦いはアレンが有利に進んでいた。
素早い隼の剣を使ってもアレンを捕らえきれない。
そしてカインの動きも鈍かった。
どうやら、本当に剣の修行はしてなかったたようだ。
「なまってるな!どうした、そんな調子じゃあ、
妹の方が元気良かったぜ・・・!」
「・・・・アレンはマイとも戦ったの・・・!?」
「ああ、姫はベギラマも使っていた。
お前より強いんじゃねえか?」
それを聞いて、カインは悔しがるでもなく
喜ぶでもなかった。ただ少しだけ唇をかんだ。
「おらあっ・・・!」
動きの鈍いカインの首筋をアレンは捕まえると
そのまま激しく壁にたたきつけた。
「ぐはっ・・。げほっ・・・!!うう・・。」
「おい、お前・・本気を出せよ。」
アレンはカインを追い詰めたままそう言った。
こんな一方的な勝負は想定していない。
こんなもんじゃないはずだ。
「ア・・・レ・・・・・」
カインはぐっと顔を上げると、アレンの表情を見て驚いた。
悲しそうな表情をしていたからだ。
「なぁ、本気で来いよ。
・・・本気で来いよ!!頼むから!」
自分が弱いから、アレンを悲しませるなんて、
そんなのはカインだって真っ平だった。
「分かった・・よ。あとで後悔しない・・でね・・。」
「しない。」
アレンがはっきりそう言ったので、
カインは左拳をぎゅっと握り締めた。
その腕には次の瞬間に物言わずとも炎が宿る。
「--- っ!!」
アレンはその炎を避けるように、カインから手を離し、
少し距離をとった。
そして笑った。
「相変わらず、やっぱりお前はそれだよな。」
「行くよっ・・・!!ベギラマー!!」
カインがベギラマを唱えると同時に、アレンはその炎を
剣で真っ二つに切り裂いた。
相手がマイだったときには、炎の先のマイまで
真っ二つにしてしまうからとそれを避けていた。
だが、カインはアレンのその攻撃などは
最初から読んでいたかのようだ。
アレンの剣戟が届く頃には、背後へと回って隼の二連撃を仕掛けてきた。
「・・・っと!!」
しかし、その攻撃は浅かったらしく、
アレンの肩筋に一筋の切り傷をつけるのが精一杯だった。
「・・・・・アレン様!!」
だが、戦いを見守るクレハは、初めてアレンに傷を付けられたのが
驚きであった。こんな相手は初めてだった。
さすがに旅を供にした仲間の力は大きいようだ。
クレハには少し気になることがある。
いつだったか、アレンは「次に戦えば負けるのは自分かもしれない」と言った。
きっと、この言葉は少し誇張してたのだろう。
クレハはまだアレンが負けることなどは全く予想できなかった。
動きも攻撃力もアレンのほうが圧倒的に力強く、洗練されている。
今だって、ようやくアレンに擦り傷をつけるのがカインは精一杯だった。
まだまだ余裕のあるアレンは息一つ乱れていないが、
カインは早くも肩で息をしていた。
だが、この戦いでアレンが少しでも満足してくれたなら、
それはそれで意義あるものだったのだろう。
クレハがそんな事を考えている間にも、戦いは進んでいた。
「へへっ。やっぱりお前はそのベギラマと剣の二段攻撃が
鉄板のようだな。だけど、それじゃあ俺は倒せないぜ。」
「・・・・・・・・。」
アレンの動きをカインが読める以上に、
カインの動きをアレンは読める、その自信があった。
何故ならあいつに剣を教えたのも自分だし、
その隣で戦ってきたのも自分だからだ。
カインは少し隼の剣を握り締めると、
おもむろに、その剣を鞘に戻してしまった。
「・・!?おい、なんで剣をしまう!?」
「剣と魔法を使っても、アレンには効かないでしょう?」
カインはそう言うと、少し息を落ち着けて、
そしてすーっと息を吸った。
「アレン、本気で・・やるからね・・・。」
「・・・・!?」
剣をしまっておいて、何が本気だ?
そう思ったが、すぐにアレンは考えを改めた。
カインのからだの回りに魔法力の収縮が感じられたからだ。
まるでマリアのイオナズンのような激しい大気のうねりを感じる。
「・・・・魔法・・・か!?」
そして、その左手と右手に炎が集まってくる。
なるほど、両手のベギラマか。それなら見た事がある。
そう思ったが、そうではなかった。
カインは珍しく詠唱を唱えた。
「太古から蘇る炎の力よ、今・・・この手に一つに集え・・・!!」
「違う・・・っ!ベギラマじゃない!!」
両の手にあった炎は今ひとつの炎となり、窮屈そうに燃え上がった。
そして、それは放たれた。
「ベギ・・ラ・・・・ゴ・・・ン・・・・・!!」
「・・・・!!!」
それは、竜王が見せていた魔法だった。
既に現代では失われたと言う古代の魔法。
その威力はベギラマを二つ合わせたよりもはるかに強大なものだ。
アレンは稲妻の剣でそれを切り裂こうとした。
が、一列に切り裂いても、まるでものともしない巨大な炎の固まりが
あっという間にアレンを飲み込んだ。
「う・・わああ・・・・っ・・・・!!!」
「アレン様!!?」
炎に包まれたアレンを案じるクレハであったが、
驚くべき光景を目の当たりにした。
カインが炎の中心に飛び込むと、
あれだけの巨大な炎がふっと掻き消えたのだ。
あれは幻だったのだろうか?そう思ったが、
アレンが負った火傷が、嘘でも幻でもないのだと語っていた。
「っ・・・お・・前・・・!!」
カインは炎に飛び込んだ勢いそのままに
ダメージを負ったアレンを床に押し倒した。
「や・・るじゃねえか・・・・。
旅の間は・・・っ・・・何回やっても使えなかったくせに・・・!」
ロンダルキアでにこれが使えれば多少違ったかもしれない。
遅きに失するではないか。
まぁ、それもカインらしいと言うか・・。
「アレン、驚くのはまだ・・・早いよ。」
カインが息を切らしながら、その言葉を言ったとき、
アレンはカインがどんな表情をしているのか分からなかった。
真っ暗だったからだ。
「・・・・・・・なんだ・・・これ・・・・。」
まだ昼間のはずだ。
何故こんな真っ暗なのだ?
そして一瞬だけ、ピカッと光って空が明るく輝いた。
「・・・・・・・・な・・・んだ・・と・・・?」
アレンが驚くのも無理は無かった。
今の閃光は知っている。
これも、出来なかったはずだ。
どれだけ練習しても、カインには出来なかったはずじゃないか。
アレンは背中に嫌な汗が流れるのを感じた。
一瞬恐怖すら感じた。
そして・・・カインは空に向かって手を差し伸ばした。
「天空の大いなる精霊達よ・・・一筋の光となって、
我が力となれ!!」
「・・・・・!!!」
アレンは目をむいた。
これは雷の魔法じゃないか。
アレンたちがシドーを倒すため、最後に使ったあの魔法じゃないか。
「い・・・っけええええ!!!」
その叫びに合わせて一筋の雷は、
だが、アレンに命中することなく、その左手を掠めるように地上に突き刺さった。
外された?いや・・外れた・・・?
「はっ・・・・はぁ・・・はぁ・・・はあっ・・・。」
一瞬硬直状態だったアレンであったが、
耳元の妙に荒い息遣いに、はっと我に返った。
今の稲妻もまるで幻のように一瞬で消えてしまったが、
地面が真っ黒に焼け焦げているのを見ると、本物だ。
あの時の雷と同じ・・いや、少し規模は小さいか・・?
でも、思いも寄らない魔法じゃないか。カインの奴、すごいじゃないか。
そう声を掛けようとしたアレンは再び、凍りついた。
「げ・・ほっ・・・げほ、ごほっ・・・げほっ」
「お・・おい!!カイン、どうした!?」
カインが苦しげに咳きこんで、その場にうずくまってしまったのだ。
「げ・・ほっ・・・。
だ・・・だめ・・・だなあ・・・。け・・きょ・・く 、失敗・・・
・・・ーーーー っ・・・!!」
そこまで言って、胸元を苦しげにかきむしった。
「おいっ・・!おい、カイン!!」
大きな魔法を使った後は反動で意識を失ったりする事がある。
それは長い冒険の間で何度かアレンも見てきている。
だが、それとは明らかに違って、カインは苦しそうだった。
「クレハ!!ホイミを・・・!回復魔法を・・・!!」
アレンは戦いを止めて、クレハに回復魔法を指示した。
「は、はい・・!!」
あわてて、クレハがホイミを唱えた。
だが・・・、そのホイミが届く事は無く、
苦しげに目を閉ざすカインが目を覚ます事は無かった。
- 終 -
2013/09/06
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