戴冠 1



いきなり訳も分からず連れてこられたサマルトリアは、
相変わらず緑が鮮やかな明るい国である。

「リック、ただいま!」

「マイ様、 おかえりなさいませ!」

門兵のリックが笑顔で出迎えてくれた。

「ええ。
 お兄さま連れてきたわ。」

「え?カイン様?め、珍しいですね。
 おかえりなさいませ!」

門兵が戻ってきたマイに会釈をしようとして、
カインがいるのに驚いたようだ。

「や、どうも。」

「おかえりって言われてるのに、
 どうもって返事はないでしょ〜。
 マリアお姉さまも一緒よ。お父様何してる?」

「は。王は今王の間にこもっております。
 ローレシア王と面会しているようですが。」

「うそ、そうなの!?
 急展開すぎるわー!
 ありがと、リック!」

マイはリックに手をあげて、
そのまま城へと入っていった。

「え、マイ。ローレシア王って、もしかして
 アレンが来ているの?」

マイは城に入ってから足を止めた。

「ってことよね!ローレシア王ってアレン様よね?
 アレン様まで呼ぶなんてお父様本気なんだ……!」

今回の用件はどうも父絡みらしい。

「父さまがどうかしたの?」

カインの質問に、マイは周りを見渡した。
賑やかな人の往来がある。

「ここでは話せないわ。人の耳があるもの。
 どうしよう。お父様も今無理でしょ?
 しょうがない、私の部屋に来てくれる?」

「わかった……。」

カインはマリアと顔を見合わせた。
アレンはローレシア王なのだから、
隣国のサマルトリアの王と用があったりするだろう。

アレンが自分たちじゃなくて父と会ってるなんて、
何だか不思議な感じだ。

それにしても、急用でサマルトリアの王が
ローレシアの王に面会するというのは
一体何事だ?

マイのこの焦りよう、なるほど何かサマルトリアでは
何かが起こっているようだった。

マイは恥ずかしそうに2人を部屋に招きいれようとした。

「マリア様、すいません散らかってるけど、気にしないでくださいね。
 どこかに座っていてください」

「いえ、そんな。」

そんなと言ってみたものの、
マイの部屋は、今しがたまで生活をしていたかのようで、
本当に散らかっていた。

「ちょっと……マイ。
 本当に散らかってるとかどうなの。」

座っていてと言われても、
机には読みかけの本が散乱し、
ソファにも普通に今朝着ていたと思われる
ネグリジェが脱ぎ捨てられていた。

カインはそれをどこかに片付けようと手を伸ばそうとしたが、

「ちょ、待っ!いやあああーーー!!」

と悲鳴をあげて、マイはネグリジェをクローゼットにぶち込んだ。

「年頃の姫の夜着なんてさわんないで!お兄さまの馬鹿!」

「じゃあちゃんと片付けておいてよ……」

そんな怒鳴られても……と、
カインは呆れていた。

「分かったわよ。
 片付けるから、3分外で待ってて。
 ごめんなさいー。」

カインたちは部屋の外に追い出されてしまった。
どうもマイの様子だと、
カインたちを連れてくる予定は急遽決めたようだった。
もし、最初からそのつもりなら、部屋だって片付けていただろう。

「どうしたのかしらね?」

マリアも心配そうにカインの方を見た。

多分、父であるサマルトリア王が何らかの発言をしたのだろう。
それがこうやってマイやアレンを動かして、
マイが慌てて自分を呼び寄せる事態になっているという事だ。

見える限り城を見渡してみても、
サマルトリアは平和そうで、何かひどい大事件が起きているとか、
そういうことではなさそうだった。

それなら一安心なのだが、マイの慌てぶりは……。

もしかして……。

扉がぎぃぃっと開いた。

「お待たせしましたー。
 片付けたから入ってくださいー。」

部屋の片づけを終えたマイが少々バツが悪そうに、2人を招き入れた。
部屋の中は散らかった衣類も本も片付けられていた。

「マイさん、今回のことは突然何かあったのね?」

「マリアおねえさまあ、そうなんです。
 突然でごめんなさい。」

「いいえ、全然大丈夫よ。
 どうかしたのかしら?」

「はい。昨日のことです。
 お父様が、王位を退くって、突然……。」

「えっ!」

マリアは驚いているが、
カインは、この状況的に、そんなところじゃないかと予測があたったと思っていた。

「父さま、どこか体悪くしたりしてるの?
 どうして、突然そんなことを……。」

「いいえ、元気そうですよ。
 相変わらず頑固ですけど。」

「じゃあ、どうして。」

どうして、と言っても、それほどおかしいことじゃないかもしれない。

ローレシアも先王が王位を退いて、アレンが戴冠してから
もう数年が経っている。
ムーンブルクもマリアが戴冠している。
世代的には、もう次の世代に移っていると、
他の国々も思っているかもしれない。

そんな中サマルトリアは王位が変わっていなかった。

「私、全然聞いていなかったわ。
 アレンがすぐさま駆けつけてるのに。」

同じロト同盟国なのに。

「サマルトリアは……良くも悪くも、
 国の生まれがローレシア国の弟国、みたいなもんだからね。
 アレンの承諾を得ないと、進めなかったのかも。」

カインの補足に納得するようなしないような。
ムーンブルクは歴史は3国の中ではるかに長いのだ。

「そういう……こと?」

「マリア様、わわ、気を悪くしないでください?
 本当昨日突然言い出したんですよ。
 私もまさか昨日の今日でアレン様呼び出すまで本気だなんて
 思わなかったですもの!」

「……。」

まぁ、そこは良いとする。
そして、王位の譲与という事になると……

「サマルトリアは王位継承権をもつものは2人!
 私とお兄さまでしょ。」

「え……。」

カインは少し戸惑った顔をした。
カインはすっかり国を出たつもりでいたからだ。

「私、私の本音は……」

それなのに、マイは決死の表情で言った。

「次のサマルトリアの王は、お兄さまが良いと思うの!」

マリアはマイのその言葉に二の句も何も告げられなかった。
カインが驚いたように、首を振った。

「……今更、それは……。」

ありえないと思っていた。

「ない。」

ないと言ってみたものの、マイは強く首を振った。

「ないことはないわよ!
 マリアお姉さまと結婚したからないって言うの?」

「もちろんそれはそうでしょう。
 それに、マイがずっとこの国を守ってきていたじゃない。」

「私じゃ駄目じゃない。」

「何が駄目なの。」

カインは今までずっとサマルトリアにいたマイこそ適任だと思うが、
マイは自分がその資格がないという。

「ローレシアにアレン様、ムーンブルクにマリア様、
 じゃあサマルトリアは?
 私なんかじゃ、誰だお前って世界中の人がおかしいって思うわ。」

「そんなの!言わせないよ!」

「それにね、私お父様から聞いてるんだから。
 お兄さまの身分も王位継承権も何もかも、お父様が預かってるものだって。」

「…………。」

一度、父は言っていた。
ムーンブルク復興のために、カインのムーンブルク行きを認めるのだと。
ムーンブルク復興は、対外的には順調になっていると思われているだろう。
もう、その役割が終わった頃とでもいうのだろうか。

マリアがなんとも言えない蒼白な顔になっているのを気づいて、
マイは慌てて補足した。

「あ、マリアお姉さま。
 何もお姉さまとお兄さまを引き裂こうとか、そういう事じゃないんです。
 心配しないでください。
 普段いなくったって、要所要所で来てもらえるとか、
 そもそもお兄さま大体この国にいないもんだから、皆そこは納得すると思うの。」

何も別れ別れにしようという訳ではないらしい。
ただ、その言葉はマリアにとって安心材料だろうか?

ムーンブルクだって、カインが大事な存在だ。
皆今日だって親しそうにカインに話しかけてきていた。
いてもいなくてもどっちでもいいような存在ではない。

それは、誰より、一等私がそう思っていることだ。

「お兄さま、この問題。
 自分はムーンブルクに行っててもう関係ないなんて、
 流すことはできないですよ。」

それでもマイは手厳しくカインにくぎを刺す。

「もちろん、そういうことなら。
 僕はこの国の長子なんだから。
 サマルトリアと無関係でいるつもりはない。」

カインがはっきりとそう言った。
マリアは心臓がバクバクしてきた。
カインがサマルトリアに帰る?
ムーンブルク復興という役割を終えたから?

でもそう言われたら、それがカインの役目だ宿命だと言われたら
逃れることはきっとできない。
自分がムーンブルクから逃れられないのときっと同じ。

自分が挟める口など何もない。

そう思っていると、ぽんっとカインが肩に触れた。

「マリア、父さまと話してくるから、
 ちょっと待ってて。」

「え……ええ……。」

マリアは緊張感で手がかじかんでいた。
その話し合いの意向によっては、
カインはサマルトリアに帰ってしまう。

そんな不安に思っているマリアの思いに気付いているのか、
カインはやさしく笑った。

「心配いらないよ。」

いつも通りの笑顔だ。
カインはあまり動揺している感じでもない。

いつか、こんな日が来ると思っていたのだろう。

カインが立ち上がると、ちょうど同時に扉を誰かがノックした。

「姫、さっき門兵からカインたち来てるって聞いたんだけど、
 ここにいるのか?」

アレンの声だった。
マイは慌てて立ち上がって扉の方へ向かった。

「アレン様!
 はい。いらしてます。」

マイが扉を開けると、その向こうには確かにアレンが来ていた。

「おおー。お前ら。久しぶりー。
 ってこの間会ったところだな。
 ははは。」

アレンは気さくに親し気にカインとマリアに手を振った。
しかし、部屋の中の緊張感あふれる空気にげんなりした顔をした。

「お前ら、そんな辛気臭い顔やめろよー。
 なあ、姫。俺も部屋に入って良いか?」

アレンはマイに入室の許可を尋ねた。
マイも断るはずもなくコクコクと頷いた。

「アレン、父さまの話は終わったの?」

「終わったよ。
 いやあ、俺急に呼び出されて緊張したあ。」

アレンはテーブルの椅子に反対向きに座った。

「それは、ご苦労様だったね。」

「なー、とうとうサマルトリアも代替わりだってなー。」

やはり王がアレンを呼び出した件はそのことだった。

「わざわざ俺なんかに承認を求めてこられても、
 人の国のことだし、俺に何も言えることないよなあ。」

「はぁ。そうだよね。」

大役を終えてアレンはぐでんと背もたれにもたれかかった。
実際、アレンは別にこの件に関して、良い悪いと言える立場じゃないだろう。
 
「アレンが帰ってきたってことは、父さま今一人だよね。」

「ああ、王の間にいるぜ。」

「ちょっと行ってくる。」

「おう。」

アレンはふりふりと手を振った。
カインはすっと立ち上がって、部屋を出て行った。

部屋に残されたマリアの表情を見て、
アレンは心配になった。

「マリアどした?お前大丈夫か。」

大丈夫かと言われても、正直大丈夫じゃない。
いや、そんな事言ってはいけない、心配をかけるし、
きっと顰蹙だ。

ただマリアはつい今朝がたも思ったことなのだ。
やっと帰ってきてくれたカインともう二度と別れたくないと。

でもそんな子供じみた感情は、
国を守る立場であるからこそ、殺さなければならない。
まして、アレンはともかく、マイに言ってはいけないと思った。

だって、きっと彼女もずっとつらい思いしてきた。
だからこそ、今こそカインを頼りたくて、呼び寄せたんだろう。

「マリアお姉さま……?」

マイもそんな自分の様子を少し心配そうに見ている。

「なんでもない、わ。」

絞り出すように言った言葉にアレンは言った。

「なんでもないような顔じゃないな。」

「ちゃかさないで。」

必死な表情のマリアにアレンはため息をついた。

「お前が心配するようなことには、ならなさそうだけどな。」

ぽそっとアレンの言った言葉は
マリアにも届いていた。

どうやらアレンはサマルトリア王の
その後の意向を聞いてきたのだろう。


 

- 完 -


2020/09/08

▲


【後書き】
これの続き
続き物が続く……やっぱり終わらない(頭を抱える)。

サマルトリアの次世代王位譲与の話。
やってなかったこれを、やってみようかと。

まぁ、展開は予想がつくと思いますが。

カイマリしつつのメインマイちゃんの話です。多分。





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