深い夜の闇と静寂に包まれた時間。
マリアは眠りが浅いのか、何度も目を覚ましてしまう。
隣ではカインが眠っている。
少し息が浅く荒い。熱が上がってきているのかもしれない。
マリアは手ぬぐいを濡らして額を冷やそうとした。
「カイン……」
何気なく名前を呼んだ。
深く眠っているようだから、聞こえないだろうと思ったが、
マリアの声が聞こえたのか、うっすらカインは目をあけた。
「マリア……?」
ただ眠りから覚醒しきってないようで、
少し呆けたように、問いかけてきた。
「あ、ごめんなさい。
起こしてしまったわ。」
「どうか……した?」
「熱があるから、冷やそうと思って。」
「…………」
言われてカインは自分の額に手を当てた。
でもまだボーっとしている。
その様子がおかしくてマリアは微笑んだ。
「眠っていて。起こしてごめんなさいね。」
手ぬぐいを置いてやると、
言われた通りカインは目をつぶった。
「……ありがとう。
冷たくて……、気持ちいい。」
そういうと、再びスーッと寝入ってしまった。
その様子に安堵しつつも、マリアはすっかり目がさえてしまった。
アレンが言っていた。とても過酷な旅をしていたと。
話は少し聞いたが、どんな旅だったのだろうか。
2人とも笑顔で楽しかったとも言っていた。
私はそこにいなかった。
実際は一歩間違えたら、旅の間に命を失っていたかもしれない。
帰ってこなかったかもしれない。
怖い。
相手は小さな子供ではない。
そんな事ある訳ないと思う。
それでも、行ってしまったら帰ってこないのではないかと、
マリアはずっと不安だった。
もう一度カインの名前を呼ぼうとして……やめた。
また起こしてしまう。
でも不意に、今度は起きてくれないのではないか、
返事がないのではないかとと、そんなおかしな不安にも駆られた。
カインの頬に触れて、その体温を感じてから、
マリアは自分も横になった。
私、どうかしている。
不在の間だって、こんなに惑わなかった。
問題なく日々の政務をこなしていたのに。
そうだ、アレンがカインは旅の間どうしていたのか言っていた。
強力な魔法も使っていたんだという。
勇者アレルにも負けないくらいの魔法も使って、
強力な魔物と戦っていたと。
あのアレンがすごかったと言っていた。
いつもそばにいてくれるカインだが、
マリアはそれで良いのかとも思った。
彼は本当はもっと何でもできる人なのだ。
自分がこんなことを言うから、
カインはそばにいようとしてくれているだけかもしれない。
本当はなんだって、やりたいと思うことはやらせてあげたい。
でも、ああ、なんて自分はわがままなんだろう。
居なくならないでほしい。
そばにいてほしい。
マリアは自分でもなぜ今涙を流しているのか分からかった。
神様……どうか、私から彼を奪わないで。
私を一人にしないで。
どうか……。
+++
考え事をしすぎたせいかもしれない。
夜中ろくに眠れずに、マリアは朝寝坊してしまった。
「ケホッコホッ」
少し離れたところで誰かが咳をしている音が聞こえ、
マリアは急に意識が覚醒した。
慌てて起き上がって周りを見渡したが、そういえば今日はオフなのだった。
それで誰も起こしにも来ないのだろう。
「カイン。」
どうやら、カインはもう起きていたらしい。
昨夜は熱があったのに大丈夫なのかと心配になってマリアも起き上がった。
「マリア。おはよう。」
「カイン。大丈夫?」
「え?あ、ごめん。僕起こしちゃった?
全然、大丈夫だよ。」
「……。」
マリアは無言で起き上がって、カインの額に触れてみた。
熱はなかった。
「あなた昨夜熱があったわ。
今は大丈夫そうだけど……。」
「ああ、よく眠れたから大丈夫だよ。薬も飲んでるし。
心配かけてごめんね。」
心配をかけたとカインは謝っている。
申し訳なさそうなカインを見て、
謝ってほしい訳じゃないんだとマリアは思う。
自分に申し訳なく思う必要もないし、
まして、しばりつけたい訳でもない。
昨夜の自分はどうかしていた。
「寝坊しちゃってごめんなさい。
すぐに支度するわ。」
マリアは急いで身支度をしはじめた。
「いや、良いんだよ。今日はマリアお休みでしょ?ゆっくりしててよ。
マイが来るのもお昼頃だし。
午前中は何もないでしょう?」
そうだった。
今日はマイが来るから予定を調整してオフにしたのだった。
そう思いつつ、身支度をしていると、
カインはテーブルから何か持ってきた。
良い香りがする。
「なんだか、いい香り。
何を持っているの?」
「アリスが朝ご飯で野菜を食べたがらないそうだから、
ちょっと作ってみたんだ。」
アリスは2人の長女だ。
好き嫌いはないのに、食べたがらないのは珍しい。
「かぼちゃのマドレーヌなんだ。
でも、作ってるうちにアリスたちは魔法講義の時間になっちゃったので、
食べてもらいそびれちゃってさ。
あまーいよ。ちょっと甘すぎたかな。
マリアも食べない?一緒に食べようと思って持ってきた。」
「え?カインの手作り?」
「そう、味が大丈夫そうなら、マイにもあげようかと思って。
一緒に毒見しようよ。」
「毒見って。」
いたずらっぽく笑っている。
どうやらカインは元気そうだ。
明るい表情にマリアも楽しい気持ちになってきた。
一緒にいられる時間を、大事にしよう。
「アリスってば好き嫌いしてはだめね。
きっとカインが帰ってきたから、甘えているのよ。」
「甘えんぼさんだよね。
じゃあ、マリアもおひとつどうぞ。」
マリアもカイン手製のマドレーヌを食べてみた。
甘い香りが口いっぱいに広がる。
「おいしい。」
「本当?良かった。」
「カインの手作り、すっごく久しぶりだわ。
ねえ、アレンとの旅の間はまたカインが食事を作っていたの?」
「うん。まぁそうだね。」
「大変だったわね。」
「大したものは作ってないよ?」
アレンもアリスと同じで甘え上手だ。
頼んでせがめば、いつでもカインは応じてくれる。
マリアはどうしてもそういうのが苦手だった。
「……どうかしたの?」
「え?いいえ、なんでも。
これすっごく美味しいわ。マイさんもきっと喜ぶ。」
「本当?良かった。」
子どもたちのおねだりでご相伴にあずかれてラッキーだった。
食べ終わってカインは窓の外に目を向けていた。
「良い天気だね。
ねえ、聞いてよマリア。
ロト様の世界、あそこさ、本当に伝説で言われたように、
ずーっと夜だったんだよ。」
「本当?」
「ずっと夜だと、気がめいっちゃうよね。
あれで皆よく時間の切り替えができてたなあって思ったよ。」
カインが明るい世界をまぶしそうに窓を眺めていた。
「確かにそうね。
ずっと暗いと私なんて何だか悪いことばっかり考えちゃいそう。」
心当たりならいっぱいだ。昨夜の自分はなんだったのだと思う。
「アレンはね、朝になったらお腹がすくから、それで時間は分かるんだって言ってたよ。」
「ま、アレンらしい話ね。」
面白いエピソードにマリアはくすくす笑った。
鬱屈とした気持ちをマリアも晴らしたい気持ちになった。
「ねえ少し散歩でもしましょうよ。」
+++
朝の目覚めの時間はムーンブルク城下町も少し賑やかな時間だ。
アリスもマナもちょうど魔法講義の時間で、
教室のそばを通りかかって、緊張気味の2人の姿をこっそりと覗き見した。
「あんな真剣な顔をして勉強してるんだね。」
「ふふ……。そういえば新しい魔法を覚えたとか言ってたわ。
先生もこの年で凄いことだとか言ってた。」
「へえ……。まだ幼いのに。えらいなあ。
僕なんてこれくらいの年だと、まったくやる気なかったな。」
「それが意外。
カイン真面目に受講してそうなのに。」
アレンと違って、カインはそういうのは真面目でさぼったりしなさそうなイメージだった。
「別段さぼってるってわけじゃないんだけど、
僕マイペースな人間なんで、気が乗らないと、
あんまり集中しないんだよねえ。」
自分で自分のことをマイペースというカインが少し面白かった。
やる気のないことをやらせようとしても、身にならないんだそうだ。
「マリアは天才肌でどんどん吸収していったんでしょう?」
「そんなことは無いけど、
誰かと一緒に勉強してるわけじゃないので、
夢中でどんどん教本を読み進めてたわ。
それが早いペースなのかどうかも分からず。」
「きっと先生もびっくりしたんじゃないかなあ。」
そんな風に子供時代の話を懐かしんだ。
あんまり教室のそばでしゃべっていると子どもたちにばれそうだったので、
2人はその場を離れた。
のんびりと雑談しながら散歩しているムーンブルク女王夫妻が珍しいのか、
見かける人は恐縮そうに敬服している。
「皆不思議そうな顔してるわね。」
「のんびりお散歩してる女王様が珍しいんじゃない?」
言われてみれば、最近は眉間にしわを寄せて王宮や政務室にこもっていることが
ほとんどだった。
「マリア、 クナさんたち今日は裏庭で剣の稽古してるみたいだよ。」
カインがマリアの手を引いた。
ムーンブルクの兵も日々修練を怠らない。
元気で大きな掛け声が聞こえてくる。
「活気があっていいねえ。」
クナがこちらの気配に気づいたのか駆け寄ってきた。
「マリア様カイン様!
珍しいですね、今日はお二人で私たちの修練へいらしてくださったのですか!」
「え、ええ。」
マリアとしては通りがかっただけなのだが、
そういえば近く修練を見に行くと約束していたものの、
ずっと見に来れていなかったなと思いだした。
「カイン様、この間は短い時間でしたがありがとうございました!
今日も是非良かったら、ご指導いただけませんか!」
「えっ。や、今日はやめときます。」
「そうですか、残念です。」
なるほど、こうやってカインは引っ張り出されていた訳かとマリアは理解した。
通りがかるだけで、あれこれ言われるのだろう。
「また、今度ゆっくり来るわ。
クナしっかりね。」
「はっ。皆もマリア様が来てくださって、気合100倍です!
なあ皆!」
どうも大げさな気がするが、クナの声に一同もおおっと声をあげた。
「ありがとうございましたー!」
マリアは手を振って、修練場を後にしたが、
どこを歩いていても、マリアとカインの2人は目立つのか
人々の視線を感じられた。
マリアを一目見るだけで、皆畏敬の念で背筋をピンと伸ばし、
今日も一日頑張ろうと思える。
ムーンブルクはそんな国なのだ。
「マリアは偉大な女王様だなあ。」
「何を馬鹿なことを言ってるのよ。
それより、カインに親しそうに話しかけてくる人って多いのね。」
人々にとってカインは親しみ深いのか、
何を話しかけても気さくに答えてくれるからか
マリアは一人で歩いているときより、
多くの人が話しかけてくれると思った。
「私一人だと、眉間にしわがよっているから、見た目怖いのかしら。」
「ええ!?あはは。
そんなんじゃないだろうけど。」
わざわざ眉間にしわを寄せてみるマリアを見てカインが笑った。
「でもなんだか、どこに行っても人がいて、
2人になれないねえ。」
「え?え、ええ、そうね。」
「どこかにエスケープしたい気分だねえ。」
2人になりたければ部屋に戻るしかないのだろうが……。
「エスケープ。してどうするの?」
「何、というほどでも無いけど。
あんまり人目を気にせずに……手をつないで歩いたりとか。」
何を言うのかと思ったら、手をつないで歩きたいというカインの言葉に
マリアは笑った。
「わ、笑われた。子どもっぽい事言ってるね。
気にしないで〜〜。」
恥ずかしそうに手を振っているカインの顔をマリアは見つめた。
「カイン。」
「何?」
「なんでもないの。」
「?」
カインは手をつないで歩きたい自分のことを子どもっぽいというが、
私なんてもっとひどい。
すぐ、そばにカインがいる。
呼べば答えてくれる距離にカインがいる。
それだけのことがすごくうれしかった。
「ど、どうかしたの?
僕の顔、何か変な物でもついてる?」
じっと見つめてくるマリアに、カインは不安そうに顔を撫でた。
「ないわ。大丈夫よ。かっこいい顔よ。
カインとこうやって歩いているだけでも楽しいんだけど、
そうね、エスケープしちゃおうか。」
「ええ?」
「私もカインと二人でどこかへ行ってしまいたい。」
「…………。」
カインは少し驚いた顔をしているが、
嫌がる様子もない。
幸いに今日はオフだ。
少しくらいの自由時間は許される。
ルーラで少しここから離れた場所へ、2人で。
「マリア。ちょっと手を借りるね。」
カインはそういうとマリアの手を取った。
マリアは自分がルーラをするつもりであったが、
カインはマリアと一緒にふわっとその場に浮遊した。
「え、カイン。違う。私が……っ。」
マリアは自分がルーラを唱えるつもりだった。
どこかの街か村にでもルーラで行くつもりだったのだ。
カインは人差し指を口にあててしぃっと言って、そのまま天高く飛び上がった。
「ほら、ここなら誰もいない。」
マリアは周りを見渡した。
どこまでも透き通った青い青い空が果てしなく広がる。
何もない。
誰もいない。
そうだ今、ここにいるのは私たち2人だけ。
私たち以外はだれもいない。
ルーラでどこかの街へ行ったって、こんな場所はないだろう。
「カイン……っ。」
マリアはたまらない気持ちになって、カインの首筋に飛びついてその身に抱きついた。
「ど、どうしたの……っ?」
カインの方がその勢いに驚いている。
最初、あまり高くてマリアが怖がってるのかと思ったが、どうもそうではなかった。
「大好き。大好きなの。
カイン、帰ってきてくれてありがとうっ。」
気持ちがあふれてマリアは、この誰もいない世界でカインに思いを告げた。
「……。
マリア。一人にしてごめんね。」
カインは、マリアを支える手にぎゅっと力を込めた。
「私、本当のことを言っていい?」
「な、なに?マリア。」
マリアはわざわざ言う必要もないような子供じみた感情を秘密話をするように
言いたくなった。
「アレンがね、カインと旅をして、楽しかったって。
すごかったって。言ってたわ。」
「…………」
「私、うらやましいってずるいって、思っ……ちゃった。
それまでは、私がずっとカインと一緒にいたのに。
すごかったってどんな風に?
私も全部見ていたかった。」
言ってから後悔してしまった。アレンに対する嫉妬心。
なんて面倒くさい女なのかと嫌われないだろうか。
「ご、ごめんなさい。私、嫌な女でしょう。」
目を伏していうマリアに対して、カインは小さい声で言った。
「僕も……本音を言おうか?」
その言葉にドキッとした。
何を言うのか。
「必死で、とにかく必死で。
どれだけ背伸びしても僕じゃあ力不足なことがいっぱいあった。」
「カインが?」
「帰れなかったらどうしようと思った。
アレンは前向きだったけど、結構、大変な状況……だったし。」
楽しいという気持ちがなかったとは言わない。
でもそれより不安な感情が大きかった。
「3人だったら、もっとうまくいったかもしれない。
マリアがいれば、アレンにもあんな顔させなくて済んだかもしれない。」
アレンのあんな顔とはどんな顔なのか、その場にいなかったマリアには分からない。
「僕らはやっぱり3人なのが一番、だったんだよね。」
マリアはかつての冒険の旅に思いを馳せた。
「マリア。
待っててくれてありがとう。」
カインはマリアをひときわ強く抱きしめた。
「おかげで頑張れた。大好きだよ。」
+++
ふわっと浮き上がったまま、
カインは、ムーンブルク城が一望できる高台に降り立った。
「はー ……はあ……」
カインはそこで何度か深呼吸して息を整えた。
空にいた時間はちょっとだけだったけど、
あまり体調が良くないカインには少し負担だったようだ。
「ケホッ、ゲホ。」
「カイン、大丈夫?」
樹木に手を当て額をつけてもたれかかって何度か咳き込んでいた。
ほんのり顔を上気させたまま、カインはうんと頷いた。
「ごめん。大丈夫だから、こんなのいちいち気にしないで。
なっさけなくて嫌になるよね。」
ずるずると木の幹に座り込んだ。
マリアもその隣にいって、そばに並んで座ってみた。
カインが自分に心配をかけたがらないのは知っている。
あんまり気にされるのは、カインの方が嫌だろうと思った。
「私もルーラしようと思ったのよ。
そしたらカインの方が空を飛んじゃったでしょう。」
「そうだよね、マリアに頼ったら良かったんだよ。
マリアルーラできるようになったんだもんね。馬鹿だよね、僕。」
カインは自虐的にそういった。
そりゃあ、頼ってもらえるならいくらでも頼ってもらいたいのは本当だが。
「でもこんなことしてくれるの、カインだけだと思う。
どこの街に行ったって、2人っきりになんてなれないじゃない?
広い広い世界に2人だけだった瞬間。
すごく貴重な時間だったわ。」
城に戻れば、多くの人がいる。
もちろん、城下町だって。
変装したって、すぐに2人は顔がばれてしまうくらいだ。
そんな自分たちでも、誰にも邪魔されない空間と時間。
それを実現してくれたのが嬉しかった。
「そう言って、もらえるなら、良かった……。」
カインは力なく笑みを浮かべた。
「ねえ、カイン。」
「なに?」
マリアはカインの名を呼んだ。
カインは振り返ってこちらを見ている。
自分が呼んだとき答えてくれる。
こちらを見てくれる。
私とともにいてくれる。
それだけのこと。
そんな些細なことが幸せだと感じた。
「なんでもない、ありがとう。」
「……?」
カインが少し不思議そうな顔をしている。
私は今はもう満たされて、何かを言う必要は感じなかった。
自分でもどうにも厄介な性格と思った。
カインの方は、今なぜ自分の名前を呼ばれたのかと不思議そうにしている。
「いいの、ごめんね。気にしないで。」
人々の喧噪のない場所で、
まだ少しこうやって穏やかな時間を過ごしていたいと思っていたところ、
急に突風のような一陣の風が吹いた。
「……!?」
穏やかな天気だったのに、
急な突風に驚いていると、
それは風ではなく、魔法の力だった。
「あ……。」
風がやむとそこにいたのは。
「マイ!?」
ルーラでやってきたマイだった。
そういえば、今日はマイと会う約束をしていた。
でも確か午後からとかカインは言ってなかったか?
のんびり過ごしているうちに、もう昼になってしまったかと思ったが、
どうやらそうではなかったようだ。
「お兄さま、お久しぶりです!
ちょっと早く来ちゃった!元気にしてた!?」
「あ、うん。マイ、久しぶりだね。
早……早いね。お昼とか言ってなかった?」
「ちょっと事情があって……。
ねえ、お兄さまサマルトリアにきて欲しいの!」
「えっ!?」
カインは勢い込んでやってきた妹の発言に驚いた。
マリアも少し怪訝な顔をした。
マイが来るとは行っても、ムーンブルクで少しお茶をするくらいのことだと思っていた。
「急にそんな事言われても。
それにこんなところで喋ってなくても、一度城に戻ろうよ。
お菓子も用意してるからさ。」
「大事な話があるの。
お兄さまにサマルトリアに来てほしいの。」
「ど、どうしたの、急に何を言ってるの?」
今更、何故自分をサマルトリアに呼ぼうとしているのか。
「急な話でごめんなさい。
ねえ、マリアおねえさま、お兄さまを少しお借りしても良いですか?」
マイはマリアの方を向いてそんなことを言った。
サマルトリアで大事な話があるんだという。
きっとこの様子だ、嘘ではないのだろう。
でも……。
「マリアおねえさま?」
マイが返事のないマリアを怪訝そうに見ている。
マリアは、正直嫌だった。
やっと帰ってきてくれたカインを
また取られてしまうような気がした。
どうして皆私からカインを奪おうとするんだ。
なんて、何ていう馬鹿げた感情だろうか。
相手はカインの妹なのだ。
サマルトリアはカインの国だ。
そこで何かあったのかもしれない。
理解はできる。
それなのに、小さい子供みたいだと自分でも思うが、
それでも、答えられなかった。
マリアの様子を見てカインの方が口を開いた。
「マイ、マリアも一緒で良い?
それなら、行くけど。」
「カイン?」
カインはマリアも一緒なら行くといった。
多分自分のこの感情を読み取ったのだろう。
「え、マリアお姉さまも?
私、マリアお姉さまお忙しいのかと思ったんだけど。」
だからカインだけを誘ったようだ。
「マイさん、私あなたが来ると思って何も予定がいれてないのよ。
良かったら、私も一緒に行ってもいいかしら。」
「あ、そうなんですね!
はい。そういうことなら、もちろん大丈夫ですよ。」
特段、マリアが一緒にいって悪いことはなかったらしい。
マイはマリアの同行を快諾してくれた。
「じゃあ、ルーラしちゃいますね。」
「本当にもう行くの?
鉄砲玉みたいだな、お前は……。」
突風のようにやってきたマイは
もうとんぼ帰りするそうだ。
マイはそんなカインの言葉を意にも介さないようだった。
「じゃあ、行きますよー。」
そして、マイはルーラを唱えた。
- 完 -
2020/09/05
▲
【後書き】
帰還後のつづき
カイマリを書くのだぞと思ってやっていたら、
なんでやねんという感じで、なんでか続き物になった。続き、書くかなあ。。
指呼の間とは呼べば返事が返ってくる距離、みたいな意味。
続き
【 1P漫画化しました 】