はじまりと終わりの話 9



2人は、どこへともなく無言で歩いていた。

今しがた、自分たちはとうとう目前に念願のロトの剣を垣間見ることができた。
だが、それを手にして、元の世界に戻ると言う希望を叶えることは
存外難しいものであった。
と言うか、あり得ないことであった。

伝説通り、通説通りであれば、
その剣は勇者ロトが手に入れ、そして世界を救い、
伝説の武器として、アレンたちが生まれ育った元の時代まで伝えられるのだ。

自分が持ち去ってしまったら、世界の歴史が当然変わってしまうだろう。
きっと先の未来にも影響が出てしまう。

これからどうしていけば良いか。
アレンは隣のカインの考えを求めた。

「なあ、カインどうすれば良いと思う?」

カインはどう考えているだろうか?

「そう……だね。
 いくつか方法はあるかなあ?」

「えっ!?」

アレンは八方ふさがりな気がしていたが、
それに対してカインはいくつか道があると言うので驚いた。

「なんだ、こんな状況でどうしろって言うんだ?」

「まぁ、ひとつはリンダ様に正直にこういう状況で無理でしたって言う。」

「お、おう……。」

そうか、そういうあれか。
そんな全てを解決できるスペシャルな方法がある訳はないかと落胆した。

「でもそれだとリンダ様怒っちゃうかもしれないね」

「話が違うからな。」

「じゃあ、もしかして一番可能性として現実的なのは、
 目的のためには手段を選ばずという事で、
 あのロトの剣買っちゃって、いっそアレンが魔王ゾーマを倒して、世界を救っちゃうこと?」

「んな……な、何を!」

カインが恐ろしいことを言いだした。

「世界的には、ロトの勇者がロトの剣で魔王を倒してるんだから、
 変わりはないような?」

「あるだろ、ある!変わりある!色々問題だわ!
 なんつーか、ほら、ロトの子孫どうなるんだ!
 俺がロトの勇者になったら、俺から俺は生まれないだろう!?ローレシアどうなるんだ!」

あばばばとテンパってまくしたてる様子のアレンに、カインは笑った。

「そう、ロト様が勇者ロトの名前を冠しないとしたら、
 きっと未来が変わっちゃうから、僕らも皆生まれてこないかもだね。
 それは良く……ない?」

「良くない、良くない良くない。」

「うん。」

けろっとした様子でカインは頷いた。
こういう所はカインの怖いところだと思う。
自分でも言ったが、目的のためとあらばなんでも、自分の命だって散らすし、
倫理的に良くないこともやってのける怖さがある。

そしてちらっとカインが言ったことだが、
自分が魔王ゾーマを倒す……なんていう事は、アレンには正直考えにくいことだったが、
それができるとカインは半ば本気で思ってそう、なところもだ。

「良いか、第一の前提として、
 勇者ロトの邪魔をしちゃいかんし、
 世界は救われないと朝が来ない。」

「そうだね。」

「まぁ、このまま諦めてムーンブルクに戻っても戦果なしだし、
 お前の案の折衷案という事で、
 ロトの剣をそのまま持って帰るのは諦めて、
 勇者ロトが世界を救ってから、剣を借りてリンダ様のところに行って正直に言う、くらいか。」

「なるほどね。
 リンダ様がなんて言うか分からないけど、それなら世界の大勢に影響はなさそうだね。」

ひとまずの成果の形が見られればリンダは納得してくれるだろうか。

「じゃあ俺たちはこれから……どうすれば良いんだ?
 吉報は、寝て待てば良いのか?」

自分たちが何かしなくても、
待ってれば、その内勇者ロトがこの暗闇の世界を救ってくれるはずであると思う。

「えええ、それじゃダメじゃない。
 そんな見ず知らずの人間に大事な愛剣を貸してもらえる訳ないよ。
 多少、その、何と言うかお近づき?にならないと。」

「お近づき!」

なんか、話が妙な方向に転がってきた。
でもせっかく過去に来ているのだから、
勇者ロトの戦いぶりをもっとこの目に焼き付けたい。

伝説上のアレンもあこがれの人物だ。
近づけるものなら近づいてみたいが、
そんな事許されるないと思っていた。

でも、こんな大義名分……ができたら話は別だ。 

「うん、よしやっぱりせっかくだもんな。
 勇者がどんな人物だったか知るまたとない機会だもんな。」

「アレン、急に目が生き生きとしだしたね。
 さっきまで死んだ魚みたいになってたのに。」

そわそわしだしたアレンにカインは笑った。
ひとまず、勇者ロトこと、アレルの動向を追ってみようという事になった。

おそらく、間違いなく、アレルは道具屋に戻ってくる。
王者の剣、後のロトの剣を手に入れるために。

2人は少し道具屋の前で張っていたが、
結局その日はアレル達一行が現れることはなかった。

どこへ行ってしまったのか?
今はどこにいるのだろうか?

アレンは王者の剣を誰か関係ない別の人物が買い求めないかを
ハラハラしていた。

「結構高額だから、そうそうは買えないだろうけどね。」

「でもこんな無防備に売り出して、
 変な輩が手に入れたらそれで一貫の終わりだぜ?
 気をもむなあ。」

確かに、害のない武器愛好家が入手するかもしれないし、
あるいは下手をすると簡単に魔王軍の手に渡ってしまうかもしれない。

「主人と話しておこう。」

アレンは道具屋に入っていった。

「おや、あんたまた来たのかい。」

「なあ、オリハルコンの持ち主まだ帰ってこないのか?」

「さあまだだなあ。
 そうそう、あんたがたが来る前、
 一度道具屋に顔を出してたんだが、どうも35000ゴールドがなかったようで、
 その時はそのまま帰っちまってなあ。
 金がないのはしょうがない。」

「え、え、金がなくて行っちまったのか!?」

まさか金がないだなんて、そんな理由とは思っていなかった。

「金なら俺がなんとかするから、
 なんとかしてくれよ!!」

「なんとかって……。
 お金があるなら、俺はあんたに買ってもらえたら、それで良いんだが。」

「だから俺が買ったら駄目なんだってば!」

「もう……なんなんだい、一体」

何を反対されているのかも良く分からず、
店主も少々面食らっている様子だ。
カインはアレンの手を慌てて引いた。

「アレン落ち着いてって。
 ご主人びっくりされてるよ。」

店主に焦燥感ばかりぶつけていてもしょうがない。

「あの、ご主人、きっと持ち主帰ってくるから、
 それまで取り置きしてもらえませんか?」

「うーん、取り置きったって本人じゃないと駄目なんだけどなあ。」

何が何やらと言う風でぼやく店主であったが、
しぶしぶと言った風に立ち上がろうとしたとき、
道具屋の扉がカランと開く音がした。

「お?」

その音にアレンとカインも振り返った。
店に入ってきた人物は、まぎれもなく……。
店主ははあと息をついた。

「噂をすれば何とやらだ。
 あんたを待っていたんだよ。」

「ん?どうしたって言うんだ。
 俺の顔に何かついているかい?」

男は3人の仲間を引き連れていた。
すっと店内へと入ってくるが、アレンたちは一歩後ろに後ずさって声も出ない。

カインがちらっとアレンの方を見ると、
アレンはその視線に気づいてこくりとうなずいた。

あの洞窟の外で見た人物に間違いない。

勇者、ロトだ。

「さっきからそこの旅の人がこの剣のことでうるさくってさ。」

店主の示す方を勇者ロトが向いた。
アレンはその視線を感じてますます固まってしまった。

「ん?あれ、ああ、どこかで……。
 確か洞窟のそばでも見かけた旅の人か。」

そう一瞥したが、特に何をするでもなく、
店主の方を向き直した。

「ああ、王者の剣、まだ売ってあったか。良かった。」

「お。今度は金を用意できたのかい?」

「もちろんだ。」

アレルはそう言って35000ゴールド耳をそろえてきっちり支払った。

「うむ、確かに。随分金策してきたんだなあ。」

そんなやり取りをして、勇者ロトは王者の剣を受け取った。

「うむ、やはり素晴らしい仕上がりだ。
 無理をしてでも購入した甲斐はあったようだ。」

「アレル、似合っているわよ。」

「ありがとうクリス。」

勇者ロトはクリスと呼ばれる女性の仲間に似合っていると言われほほ笑んだ。
アレンとカインも脇で見ながら、感嘆の思いであった。
ようやく勇者ロトがロトの剣を装備したのだ。
その瞬間が見られた。

「俺も鍛冶屋として一世一代のいい仕事をさせてもらった。
 旅の人、ご武運を祈る。」

店主は満足そうに武器を手にするアレルを眩しそうに見つめている。

「ありがとう。」

礼を言うと、アレルたちは店を後にした。

一方、アレンたちもでその一部を始終を無言で見送った。
無事王者の剣が勇者ロトの手に渡った。
これで一安心である。別に自分が何をした訳でもないが。

「さて……と、えーっと、あんたたちは、結局なんだったんだい?」

主人の声にはっと我に返る。

「アレン、このまま見送ったらまた会えなくなるよ!?」

「あ、そうだな!」

結局なんだったんだと不思議そうな主人を残して、
アレンたちも店を出た。
幸いにアレル達一行の後ろ姿はすぐ近くで見つけられた。

そうだ、このまま別れてはいけない。

慌ててアレルに駆け寄っていくアレンとカイン。
その気配に気づいてアレルも振り返った。

「ああ、さっきの。
 よく会うね、何か用かい?」

屈託のない表情だ。
きっとアレルは裏表のない性格なのだろう。
勇者ロトは良いやつに違いない。
思い切って、アレンは正直に胸の内を話した。

「あ、あの!俺!
 勇者ロト……じゃなくてアレルさま…じゃなくてさんと
 お近づきになりたくって……ですね!」

「え……?」

アレルがものすごく怪訝な表情をしたのは言うまでもない。

「アレン、アレンってば……!」

カインは再度アレンの袖を引いた。

「怪しすぎるでしょ、アレンそれ何者なの!」

「おおおおおまえが言ったんだろ!?
 勇者ロトとお近づきになれって!」

「言ったけど!もうちょっと言いようってものがあるでしょう!?」

「あああ、もうお前言ってくれよ!!」

アレンは匙を投げて、カインの背中をぐいっと押した。
なんだなんだと勇者一行は今度はカインの方を注目した。
なんだか非常になんな流れだなと思いつつ、カインは頭を垂れた。

「はじめまして、私はカインと申します。こちらは仲間のアレンです。
 このアレフガルドを旅をしていて、あなたがたの噂を耳にしました。
 数々の激しい戦いを乗り越えて過酷な旅をされているとか。
 是非私たちもその旅にお連れ頂けないでしょうか?」

そう言われて、勇者たちは顔を見合わせて首を傾げた。

「俺たちの事、どこで聞いたのか知らないが、
 とても連れてはいけないよ。
 何か知っているようだが、本当に過酷な旅だからね。」

断られてしまった。
それはそうだろう。
過酷な旅にいきなり現れた不審極まるどこの馬の骨かも分からないような輩を
連れて行くなど到底できないだろう。

「実は、僕たちも、世界を救うための旅をしてるんです!
 そのために力をつけてきました。
 魔物とも何度も何度も戦って、野宿も何度もして、海も越えてここまでやってきました。」

「へえ……。
 そうだったのか。」

アレルの気を引くためにフェイクだが、
アレルはカインの言葉に耳を傾けてくれた。
アレンも良いぞ良いぞもう一息だと、心の中でカインを後押しした。

「それは結構なことだ。
 だが、俺にはこの3人の仲間で十分だし、
 これ以上誰かを連れて行く必要は感じてない。
 悪いが、話はこれくらいにしてもらおう。」

アレルは話を終わらせようとした。
背中を向けて一行は立ち去っていく。

やはり、すでに長旅をしている勇者の一行に付け入る隙などない。
会話をしようにも取り付く島もない。
それどころか、随分とおかしな奴らが現れたとでも思われているだろう。
このままではまずい。

こうなったら……。

「ア、アレル!」

カインが勇者ロトを呼び捨てで呼んだので、隣のアレンがぎょっとした。
だが、よくよく考えると相手は年下なのだ。
ここで「様」とか「さん」などとへりくだって敬称をつけるのも、傍から見ると不自然な話だ。

アレルは不審げに少し後ろに視線を向けた。

「僕らもその剣をずっと探していたんだ。
 大陸を駆け巡り、海を渡り、時も越えてやってきたんだ。」

「時……?なんのことだ、お前たちは……何者?」

自分たちの言葉にアレルが少し不思議そうに耳を傾けてくれた。
カインはアレンに目配せをした。
仲間になることはできない、それでもこのまま別れる訳にもいかない。
だとしたら……。

アレンもカインに続いて口を開いた。

「その剣がどういうものか知っているか?」

「この、王者の剣か?
 オリハルコンで鍛造された剣だ。
 武器強度は他のものと比べて圧倒的だろう。」

「それだけじゃない、その剣は俺らにとっても大事な剣なんだ。」

「……?」

何を言い出すのだと言う顔をしている。
そりゃあ赤の他人が今出来上がったばかりの剣を自分の大事な剣と言うのは
何を言うのかと思うだろう。

「下手なやつには渡したくない。
 お前が、これを託すべき人物であるかは俺が見極めようと思う。」

「……ええ?」

「もし、この剣を使いこなせなかったり、ふがいない戦いをしたら、
 その時は俺がもらう!」

発破をかけるようにアレンは続けた。

今すぐ仲間にはなれない。
それなら、しょうがない。
今は何と思われても良い、無理やりでもアレル達勇者ロト一行の旅について回ってやる。
きっと一緒について回れば、人となりも分かるし、いずれ共闘する機会も出てくる。
それをきっかけに知己にもなれるかもしれない。

それまでは怪しまれても無理やりアレル達一行を見張り続ける。
もしアレル達が不甲斐ない様子であれば、
それこそロトの剣は渡せない。

「なんだって言うんだ…」

アレル達は厄介そうに仲間たちと顔を見合わせていた。

この険悪なムードから、大事な愛剣を貸してもらえるような
仲になるだろうか?





- 続く -


2018/07/17

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【後書き】
無理やりロト一行について行ってみるようですよ。




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