はじまりと終わりの話 8



ずっとずっと前の事。
あの時……

ガキッと大きな音がなって、
アレンが『あ!??』と叫ぶ声が聞こえた。

その瞬間、カインの膜がかかっていたかのような視界が晴れた。
まだ、一瞬何が起きたのか分からず呆然としていたが、アレンが騒ぎ出した。

「げーーーー!!折れた!?折れた・・!??
 嘘だろ!!」

アレンはすごく慌てた様子だ。

折れた?何が?何が折れたって?
カインは手に持っていたものを見下ろした。

ロトの剣の、柄。
刃先はアレンが手にしている。

そう、折れたのはロトの剣だ。
自我を失った自分を止めるために、
アレンが必死に戦ってくれて、それで大事なロトの剣が折れてしまったのだ。

体も心も自由にならない状況で、
それでも、とんでもないことになってしまったという印象だけがずっと残った。

自分のせいだ。
どうしよう。自分のせいだ。

とんでもないことをしてしまった。
カインはずっとそれに責任を感じていた。

全てが怒涛の勢いで過ぎていく 日々の旅の中で、、
この事を、誰も咎めるようなこともなかったし、
アレンが責めるようなこともなかった。

だけど、思い出す。
ロンダルキアの洞窟で、苦しい戦いを繰り広げていく中で
聞いた言葉。

「俺やっぱり剣が好きみたいだ!」

ロトの剣を失ってから、ずっとドラゴンキラーで戦っていたアレンは、
少年のような顔をして自分は剣が好きなんだと言った。

ロトの鎧を手に入れたアレンの姿は、本当に格好良くて、
ロトの装備に身を固めるアレンの手にロトの剣があればと何度も思った。
きっとどんなに輝きが増すだろうか。
口にはしていないがアレンだってどれだけ喜ぶだろうか。

往年の勇者たちは立派だったと誰もが讃えるが、
アレンもまさにその勇者の姿であったのだ。

その背を自分は追っている。
そうカインはいつも、アレンの背を追っている。
必死についていかないといけない。
置いていかれないように。

はぁ……とカインは熱いため息を吐いた。

自分の体が呪わしい。
少し無茶をするとすぐに体が悲鳴を上げる。
アレンとやってきたこの世界は過酷な世界だった。
油断できる隙なんて一寸たりともない。

全力で戦わないと、簡単に殺されてしまうであろう。
でも”全力で戦うこと”自体、無茶なことだ。

それは人間の力をはるかに超える強力な魔力を使わないといけない。
無謀ではあるが、なんの干渉も受けない今ならその魔法を使えない訳ではない。
だったら、選択肢としては使うしかない。
死ぬわけにはいかないんだから。

でも、急に解き放たれた魔法を使って負担がない訳がない。
実際それは思った以上だった。

マリアにだったら何か相談できたかもしれないけど……。
それもないものねだりで。

そして、そうだ。
絶対に生きて帰るってマリアとの約束をしている。
今はもうアレンの背を追って、アレンを帰すだけじゃダメなんだ。
自分も最後までついていかないと。

だから何と思われても良い。
必死で戦うけど、死なない程度に回復させて、
体をだましだまし使って、戦い抜いて、生き抜いて
元の世界へ帰るんだ。





ぼんやりと意識が浮上した。

ヒヤッとした冷気が入ってきた。
周りを見渡した。どこかの家屋、室内ではない。
ああそうだ、ここは洞窟の入り口だった。
こんなところで眠ってしまっていたのだ。
周りには誰もいない。

そう言えば、アレンはどこへ行ったのだろうか?
そばにいたはずで、アレンも休憩をするとか言ってたのに。

カインが立ち上がると、ふいに洞窟の外で眩い光が輝いた。
直後、地面が震えるほど激しい衝撃があった。

「え?」

なんだ?
雷、が落ちた?

違う、これは天災じゃない。魔法だ。
雷の魔法で、しかも自分が唱えたものより強力じゃないか?
洞窟の外で何か起きているようだ。

カインは慌てて洞窟の外に出た。

「……アレン……!?」

洞窟を出てすぐ近くにアレンがいた。
アレンはカインに気が付くとちらっと視線をあげて手を挙げた。

「カイン、起きてたのか?
 あれ、やっぱり今のお前がやったのか?」

アレンはなんだか沼に落ちたのかびしょ濡れになっていた。
所々負傷もしているようだった。

「いや、今起きて洞窟から出てきたんだ。
 アレンどうしたの?怪我してるじゃないか。
 魔物が出たの!?」

「あ?まあ、そうなんだけどな。
 大丈夫大したことはねえ……。」

「?」

アレンは何か言いにくそうに言いよどんだ。
いったん二人は洞窟に戻った。

「やっぱり魔物が出たんだね。
 どうして僕を起こさなかったのさ。」

回復魔法を唱えながら、少し不満そうにカインが言った。

「だってお前魔法力もきついくらい消耗してたんだろ。
 起こしても戦力になんないじゃん。」

「ぐ……。」

起こしても戦力にならないと言われるとつらい。

「見てよ今ホイミ唱えたじゃない。
 ぐっすり寝たから多少は回復したよ。」

「こんな洞窟でも一瞬でぐっすり眠れるなんて、
 お前も旅慣れたもんだな。」

「そ、そうでしょ?
 だてに長旅やってないよ。」

と笑って見せたが、
あの時は疲れ果てていて、本当にすぐに深く眠りこんでしまったのだ。
多分アレンはそれを察している。

「でさ、俺腹ごしらえ出来ないかと思って、
 外に出たらその魔物につかまったんだよ。
 なんて言ったっけか。……ゴールドマン。」

記憶を思い返しながら魔物の名前を言った。
またこの土地にだけいる魔物なのかカインは初耳だった。

「ゴールドマン?初めて聞くね。
 アレンは知ってる魔物だったんだ。」

「いや、知らない。教えてもらった。」

「教えてもらった?誰に?」

問われてアレンは少し考えてからふっと笑った。

「聞いて驚け、勇者ロトがいたんだ。」

「え、えっ?」

突然の言葉にカインは驚いた。

「どうしてそう思うの?
 勇者ロトと名乗る人物が現れたって言うの?」

「そんなもん名乗らないけど、
 雷の魔法を使うってことが証拠さ。
 いくら俺が魔法音痴だってそれがどういう事がくらい分かるさ。」

「雷の魔法……さっきの……そうだったの!?」

「そう……って、お前気づいてたのか?」

先ほど感じたあれは現実のものだったようだ。
勇者だけが使えると言う雷の魔法。
自分が使えるのもおこがましい話だと思っていたが、
自分よりよほど強力な雷だったように思う。

つまり本当に本物の勇者がいたという事だ。

「ど、どこにいるの!?どこに行ったの!?」

近くに勇者ロトがいるのかとカインは気色ばんで尋ねた。
が、アレンは笑って手を振った。

「いやあ、ルーラでどっかに飛んで行っちまった。
 どこ行ったんだろうな?」

「飛んで……?そうなんだ……。」

残念ながら、今このすぐそばにはいないようだ。
アレンは良いものを見れたと嬉しそうだ。

「いいなあ、僕も見たかった。」

「見たんじゃないの?」

「いや、衝撃があったので雷が落ちたような感じだけ気づいたけど、
 見てはいないよ。」

「そっか。
 まぁ同じ世界にいるんだから、
 もう少し旅をしてたらそろそろ会えるかもな。」

「そう、だね。」

勇者ロトはきっと大魔王ゾーマを倒すための旅をしているのであろう。
今はそのための必要な武器防具やアイテムを探している頃であろうか。

「さて、お前も回復したんなら、マイラに向かうか。
 どうだ?」

「うん。そうだね。もう大丈夫。行こうか。」

休めた分魔法力は回復した。
これでまた戦えるだろう。

「あ、一つ言っとくな。
 お前がいてくれると本当に心強いんだ。
 強い魔法とか、回復も含めて全部、お前に負担になることさせてるのは分かってるから、
 さっきみたいにきついなって思ったら休んでいいから言えよ。
 俺とお前の関係だからな。遠慮はなしだぜ。な。」

「……う、うん!ありがとう。」

自分が知るアレンは、いつも優しくて頼もしかった。


+++

洞窟の中にいた採掘員の男たちから聞いたように、
洞窟から北へと向かうとマイラの町へと無事たどり着くことができた。

マイラの町は露天風呂が湧いている。
独特の硫黄のにおいが町の特徴だ。

「温泉かあ……。湯気湧いているな、この町。」

ボーっとした様子で、カインは周りを見渡していた。

「マリアがいたらきっと喜ぶだろうね。」

その言葉にアレンも昔を思い出して頷いた。
マリアは風呂好きだったが、特に綺麗だったり広い温泉などで
ゆっくりできる時間が至高のようだった。

「確かになー。あいつこういうの好きだもんな。
 せっかくだから俺たちも温泉にでも入って旅の疲れをいやそうぜ」

「早く帰って、マリアも温泉に連れて行ってあげたいね。」

カインはマリアと温泉に行くことしか頭にないようだ。
その様子を見てアレンが笑う。

「マリアマリアってねえ。
 そうだな、お前らはどうも縁側で茶を飲んでる風景が似合うなあ。
 お風呂上がりの緑茶とお饅頭に限るねとか言ったりして。」

「お茶とお饅頭?
 な、なんか馬鹿にしてない?」

「してないしてない。」

はははと笑いながら、2人は温泉街を歩く。

マリアはどうしているかな?
寂しい思いをしていないかな。
大変なことになっていないかな。

無事に帰ったら本当にゆっくり温泉でも行けたら良いな、
不思議な旅の話を聞いてもらいたいな。
そんな風に大事な人を思い出す。

そんな話をしながら宿に行こうとした2人だったが、
途中、武器屋があったので覗いてみた。
旅慣れた二人でも見たことのない武器防具が沢山並んでいた。

「うわ、全部すごいぞこれ。
 買い占めたいくらいだ。」

「水の羽衣が、ここでは売ってるんだね。」

アレンたちがかつて苦労して手に入れた水の羽衣が
店頭に普通に並んでいることからも、どれだけすごい店かが分かる。

「なあカイン今金っていくらあるんだ?」

「え?戦闘いっぱいしてきたからね。
 3万くらいはあるよ。」

「3万か……。じゃあ結構買えるじゃねえか。
 お前何買う?水の羽衣買えるんだぜ?」

アレンは指折り数えてお金の計算をしている。

「いや、ちょっと待って冷静になろうよ。
 水の羽衣は帰ればマリアが持ってるし。
 それにアレンのロトの鎧は勿論、稲妻の剣だって決して引けを取ってないと思うよ。」

「んんん。武器マニアとしては、見ず知らずの武器は触らずにはいられない。」

アレンはそわそわと立てかけられたウォーハンマーなる巨大な武器を手にしてみた。
ものすごい重量だ。おおかなづちと似た形状だが、破壊力は格段に上だろう。

「アレン、うずうずしてるのは分かるけど、試しに僕を殴るのはやめてよ。
 アレンが好きなのは剣なんでしょ?剣。」

そりゃあ好きな武器は何かと言われれば剣であるが、
百戦錬磨のアレンは武器なら何でも使えるのだ。
珍しい武器を手にしたら使ってみたくてしょうがないらしい。

「駄目だよ。アレンの目的はそれじゃないでしょう。」

「ちぇーー」

あれこれ目新しい武器を手にして試しぶりなどしているアレンに
店主が声をかけた。

「なんだい、あんたたち、どんな武器を探してんだい?」

「ああ、店主。騒がしくしてすまんな。
 俺武器が好きでさ。この武器屋はすごいな。
 俺は世界中を旅してるんだが、こんなに充実してる店初めてだ。」

「そうかい?褒めてもらえて嬉しいがな。
 最近魔物も物騒な世の中だ。どんどん取り扱う武器も強力になってきた。」

「なるほど。」

「あんた武器が好きなら、あっちの道具屋も覗いてみな。 
 あそこの店主は器用だからな。
 なんでも役にも立たなさそうな材料を自分で仕入れては、
 細工して武器にして売り出してるって言うぜ。
 あれにゃあうちの店もかなわねえ。」

貴重な情報を教えてもらえた。
道具屋は普段薬草や毒消し草といったものがメインになるため、
そこに武器があると言う発想はなかった。
危うく見逃すところであった。

「店主ありがとう!良い情報を教えてもらえた。
 そっちも覗いてみる。」

アレンは礼を言って武器屋を出た。
うきうきと道具屋を探している。

カインはその表情を横目に見ながら、
アレンは本当に武器好きだなあと思いながら、別の事も思っていた。

先ほどの情報で、
道具屋の主は自分で材料を仕入れて武器にするという話を聞いた。

一番最初にマリアが言っていたことを思い出す、
オリハルコンを扱える鍛冶師が現れたからロトの剣を作れるんだと言う話。

ドムドーラで消えたオリハルコンと、それを手にした勇者ロト。

もしかして、マリアが言っていた鍛冶師はここにいるんじゃないのか?

「なあ、手先が器用な道具屋ってどこにあるんだ?」

自分の考えをアレンも察したか、
足早に歩を進めて町人に話しかけている。
尋ねられた女性は驚くことを言った。

「どこで聞いてきたんだ?うちの人の事かい?
 うちのはジパングで刀鍛冶をしていたから腕は確かだよ。」

「ジパング?
 ジパングって言うのは……、えーっと、どこかで聞いたことがあるような、ないような。」

「お若い旅の人は知らないかもね。
 上の世界の国の名前さ。実は私たちはやまたのおろちから逃げてきたんだ。」

「上の世界!ああ!あー、知ってる、知ってるさ。」

話をあわせようと知った風な返事をしてから、アレンとカインは顔を見合わせた。
そうだ、ロト伝説で聞いたことのある国だ。
上の世界とは、もともと勇者ロトのいた世界のことだ。
確かジパングでは恐ろしい魔物がいたんだとかなんとか。
それでこの夫妻は逃げてきたのか。
いよいよ伝説が現実味をおびてくる。

「うちの人の道具屋なら、そのすぐ軒下さ。
 この間も特別な金属を手に入れたって張り切って打ち込んでたね。
 そろそろできている頃じゃないかね」

「あ、ありがとうございます!」

やっぱりそうだ。
噂の鍛冶師はここにいたんだ。

はやる気持ちを必死に抑えて、
アレンたちは案内された道具屋へと赴いた。

そこは質素なつくりの目立たない道具屋だった。
品ぞろえはさほど多くない。
いつも見かける薬草と毒気し草とキメラのつばさといったアイテムが並んでいる。
その中に、異色の商品が並んでいた。

「あれは……。」

”その装飾”は見覚えのあるものとは違った。
初めて見た装飾であった。
なのに、とても懐かしい、かつて自分の手で自分の右腕として
一緒に戦ってくれたあの剣だ。

「アレンッ …!」

カインもアレンの肩を揺さぶって同じことを思った。

名札には王者の剣と書いてある。でも二人には分かる。
これがロトの剣だ。あのロトの剣だ。

料金は35000ゴールドとある。
少し背伸びした価格ではあるが、手が出せないほどではない。
これで元の世界に帰れる……!

「アレンやったね、見つかったね!」

「ああ。だけど。」

「だけど?」

これがきっとあのオリハルコンから作られた剣であることは間違いないだろう。
そして、きっとそのオリハルコンを持ち込んだのはあの勇者ロトだ。

「あ、あの店主、質問なんだが……。」

「いらっしゃい。
 お目が高いね、この剣はさっき完成したばかりだよ、良いところに来たね。」

一応、無駄な質問だが聞いてみる。

「この店では、この剣がいつも売り出されているのか?」

「ええ?
 いや、それはないな。
 この剣の材料になったのは特別な金属だ。オリハルコンと言ってね。
 刀鍛冶の間でも伝説とうたわれていて、簡単に手に入るものじゃない。」

やはりそうだった。
これはオリハルコンで作られた剣だ。
ぐっとアレンは息を飲む。

「そうか。
 作ったのは、この1本きりか?」

「そうだ。」

「もう一本作ることはできるか?」

「それは無理だ、もう材料がない。
 ようやく出来た自慢の一品だ。
 贋作もレプリカもないからなあ。」

あっさりと答えられてしまった。

「無理……。」

生み出された王者の剣、すなわち後のロトの剣は一本限り。

「オリハルコンを持ち込んだのはどんな人物だった?」

「あれ?
 そう言えば、お客さんとよく似ているな。
 お客さんとよく似た屈強の旅人だったよ。」

ああ、そうだ。
これは勇者ロトが持ち込んだオリハルコンで作られた世界に一つだけの王者の剣。
この剣で、勇者ロトは世界を救う。
逆に言うと、この剣がなければ、この闇に覆われた世界が救われることはない。

当然、横入りしたアレンたちが持ち去って良いものではないのだ。

「ありがとう。」

「なんだい?この剣買わないのかい?自信作なのに。」

一礼して店を出ようとしたアレンたちに店主は残念そうに声をかけた。

「アレン……。」

「欲しかったよ!欲しかったけど……!」

今自分たちが手にすることは許されない。
そして勇者ロト以外の誰かが手にすることも許されない。

「店主、頼むよ。
 この世界の運命がかかってるから、
 その剣はオリハルコンの持ち主以外に売らないでくれよ!」

その剣の価値を分かっているのかいないのか。
普通に店頭に並んでいたら、誰でも購入することができるじゃないか。
まさかロトの剣が最初こんな風に売られていたとは思いもしなかった。

アレンは店主に釘をさしながら店を出た。

カインもそれに付き従うしかない。
ロトの剣に触れることはできた。
もう、一歩で元の世界に帰れるというところまでこれたのに、遠のいてしまった。

と言うか、ロトの剣を自分たちがこの世界で手に入れることなんて
そもそも出来ないのではないか?

色々な現実が見えてきた。
希望が手に届く所まで来て、アレンたちは諦めざるを得なかった。 

- 続く -


2018/06/20

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【後書き】
バッドエンディーング?(え?)
って、いやいや。




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