「あの……マリア……お姉さま……?」
いつも明るいマイであったが、
先ほどとは雰囲気の違うマリアに何と声をかけたら良いのか分からず、
思わず口をつぐんだ。
先ほどまで、マリアは大勢の人の前に立っていた。
そして、ムーンブルクへの来客を歓迎するべくいつもように朗らかな笑みを見せていた。
だが、今の表情は打って変わって重苦しい雰囲気で浮かない表情をしている。
何かあったのだろうか?
マリアお姉さまがこんな不安そうにしているのに、
一体あの兄は何をしているのかと周りを見渡して呼んで来ようとして、はたとマイは足を止めた。
ずーっと見ていない。
今だけじゃない。
マイが今朝このムーンブルクについてから一度も見ていない。
兄の姿を全然見ていない。
いつも、マリアのそばから離れろと言っても離れず、隣にいなくとも
見渡すとすぐそばに紛れているから、笑って兄を見つけられるのに。
マイもふと不安な気持ちがよぎった。
「あ、あのマリアお姉さま……?」
その不安そうな表情を見て、マリアは心配をかけていると思ったのだろう。
ようやくこちらに気づいて申し訳なさそうに笑って見せた。
「マイさん、ごめんなさい。
せっかく来てくださったのに、ご挨拶が遅れてしまって。」
「え、いや。そんなのお構いなく。
あのお兄さま、どっか行ったんですか?何かあったんですか?」
人々の前ではまるで何事もなかったかのように気丈にふるまっていたマリアであった。
あまりに自然な姿で多くの人は何も気づいていないだろう。
「マイさん、落ち着いて聞いてね。実は……。」
マリアは、今起きていることを教えてくれた。
兄のカインはもう何日も不在にしているらしい。
それを聞いてマイはさーっと色を失った。
「え、何……何故そんなことに?
一体どこへ?無事なんですか?いつ帰ってくるんですか?」
矢継ぎ早な質問に、マリアは苦笑気味に首を振った。
「どこに行っているのか、今どうしているのかも分からない。
連絡も取れないわ。
伝書鳩を使っても手紙も届かないし。」
「そ……そんな……それって……」
連絡が付かないなんて、何かあったんじゃないか。
どこかで倒れて苦しんでいるんじゃないか、
もしかして、もうどこかで……。
最悪のシチュエーションを想定して蒼白になるマイに
マリアはふっと柔らかい表情で微笑みかけた。
「ごめんなさいね、突然心配をかけて。
マイさんには伝えた方が良いと思っていたの。」
「……あ、はい……。」
言葉にならない思いを抱いているようなマイを
安心させるように言った。
「大丈夫よ。大丈夫。」
「え……だって、伝書鳩が届かないって。
お兄様たちが使っているそれは必ず届くものなんでしょう?」
「過酷なダンジョンにいるときなんかは鳩が入って来れなくて届かないわ。」
ロンダルキアの洞窟に行った時もそうだった。
「そうなんですか?
でも、そんな過酷なところって一体……。」
「大丈夫よ。そんなに心配しないで。
きっと今頃楽しそうに冒険していると思うの。」
楽しそう?
悲壮な話が続くかと思ったら、意外な言葉が出てきた。
「だって、アレンが一緒にいるんだもの。」
「アレン様?」
そう言えば、アレンの姿も見ていない。
特に何も聞かないがローレシアの国も同じように来ているはずだ。
自分たちより先だって到着していたはずだから、もう国に帰ったと思っていたのだが……。
「ことを大事にしないようにって、
クレハさんにもお伝えしたから、皆も騒いでいないでしょう?
実はね、カインはアレンと一緒に旅に出ちゃったのよ。」
「え……っ、え……・!?」
マイはもはやどこから突っ込めば良いのか分からない。
アレンもこの国の行事の最中にいなくなった。
どうやら兄と一緒に、旅に出た……と言う。
「マリア様、何故そんな……。」
「私も行けばよかったって思ったけど。
でもロトの装備のことは私には分からない世界……でもある。」
「……??」
「ロトの剣を探しに行ったのよ。」
「…そう、なんですか……?」
付いていけなかったこと、入れなかったその世界に、
少し悔しそうな、悲しそうな、でもどこか吹っ切れたような様子だ。
「あの、アレンとカインの2人よ。
マイさん、想像してみて。」
「お兄さまと、アレン様……。」
親友である2人。
2人の仲はマイもよく見て知っている。
戦いのスタイルも性格も何もかも互いに熟知している。
「兄は……とてもアレン様を信頼して慕っています。」
「……。そうでしょう?
だから、きっと今頃は楽しい旅をしているんじゃないかしらって思うの。
私いつかはこんな日が来ることもあるかもしれないと思ってた。」
アレンはローレシアの一国にはとどまらない器の持ち主だ。
それに誰よりカインを信頼している。
もし国を出るとしたら、カインと旅に出たいのかもしれないと言う事は、
心の片隅に思っていたことだった。
「マリア様……。」
「そしてね、私は留守を預かっているのよ。
彼らが不在のうちに、世界に混乱が問題が生じることがないように。
重要任務だわ。」
アレンとカインがいないのであれば、
自分が世界を守らなければ、と言う気持ちを
マリアは持っていた。
2人が帰ってくるときに、こちらは何事もなかったと笑顔で迎えられるように。
その覚悟の表情に、マイもうなずいて覚悟を決めた。
「分かりました。マリアお姉さま、私もやります。」
「え?やるって何を?
まさか、アレンたちを追ってマイさんも旅に?」
鋭い視線のマイにマリアは少したじろいだ。
「まさかあ、どうせお兄さまは私を旅には連れて行ってくれませんから。
私、マリアお姉さまと一緒にアレン様達不在の世界を守りますわ。」
思わぬ宣言にマリアは目を丸くした。
「私もロトの子孫ですから。」
「そう……そうね……。ありがとう、マイさん。
とても心強いわ。
カインたちは必ず帰ってくる。それまで共に戦いましょう。」
「はい!」
マリアの言葉に、嬉しそうに誇らしげにマイもうなずいた。
+++
薄暗い森の中では、馬の機動力も鈍る。
都合の悪いことに雨まで降ってきて、コンディションは最悪だ。
「くっそ、カインしっかりつかまってろよ。
とっととこの森抜けてやるぜ!」
「無茶だよ、やたらに進んだら余計に道が分からなくなるよ!?
止まって戦った方が良いよ!」
アレンにしがみついた状態のカインはそれをとどめようとした。
尽きない魔物の群れにしびれを切らしたアレンは
馬で一気に駆け抜けようとしたが、
ぬかるんだ土に足を取られて、思うほどは進まない。
「うわっ!?」
そして急に走っていた馬が大きく前につんのめった。
勢い、2人は馬から振り落とされそうになる。
魔物の来襲かと大きく後ろを振り返ったが、
何もいなかった。
「なんだ、どうしたんだよ?」
馬は手綱を引いてもその場から動こうとしない。
「あ、ギラ!」
するとカインが何かを見つけたのか、
突然大地に向かってギラを唱えた。
するとひょこひょこと馬は前に歩み始めた。
「アレン、マドハンドだ!」
「なるほど。」
一気に駆け抜けようにも、馬が負傷したようで走ってくれない。
アレンたちは馬から降りて応戦した。
「この野郎、何すんだ!」
アレンの反撃を受けて瀕死になったマドハンドは仲間を呼ぼうとした。
だが、その前にカインの隼の剣が一閃した。
「お。」
「悪いけど、これ以上付き合ってられないよ。」
マドハンドは一撃を受けてぱたりと前に倒れて動かなくなった。
「まぁなー。
あーあ、それより馬が負傷しちまったよ。」
馬はひょろひょろと歩くかと思いきやその場に座り込んでしまった。
マドハンドに足を傷つけられたのだろう。
「この子に悪いことしちゃったね。
ドムドーラに帰した方が良いかな。」
そう言いながらカインはホイミを唱えた。
負傷には効いたはずだが立ち上がらない。
「おかげで大分進んだよ。もうあとは歩いてだっていけるよ。
雨もひどいし、道も悪い。これ以上酷使したらかわいそうだよ。」
「そう……だなあ……。
ここまで走ってくれてありがとうな。」
アレンがそう言うのを確認すると、
カインはルーラで馬をドムドーラに帰した。
ふうっと息をついて、周りを見渡した。
どんどん雨が強くなる。町はまだ見えない。
一度小休止を取るためにも少し雨宿りをしたいものだ。
「今日はいったん野宿できる場所を探さないか?
前進はまた明日にしようぜ。」
「そうしよっか。
油断するとすぐ魔物が出るから、一度態勢を整えた方が良いね。」
そう言って2人は休める場所を探した。
どこか洞穴のようなものでもあれば良いのだが……。
アレンたちの次の目的地はマイラだ。
ラダトームで情報を集めたところ、やはり、どこの世界からか
勇者を名乗る人物が現れたという。
ラダトームで聞く話はどれもこれもかつてのロト伝説を思わせた。
秘宝太陽の石や妖精の笛の話。
大魔王ゾーマの存在についても聞くことができた。
伝説の中で謳われる存在は全て実存していたのだ。
そんな様々な話を聞くことができて、アレンたちの気持ちは内心高揚していた。
勇者は一度付近を旅してラダトームに戻ったと言うが、次はマイラに向かったという。
アレンたちもあとを追うことにした。
「会えるのかなあ。伝説の勇者に……。」
まるで少年のような気持ちで憧れの存在を追っているのだ。
とても不思議な感覚だった。
そんな夢見心地とは別にして、
現実問題として、旅路は非常に過酷だった。
このアレフガルドに来て、アレンは痛感しているのだが、
歴戦のアレンをもってしても、手に余るほど魔物は強かった。
正直これほど過酷な旅になるとは予想していなかった。
アレンはいまや世界のどの剣士より腕が立つと自負している。
それはかつてカインやマリアと共に厳しい戦いを乗り越えたからこそだと思っている。
あの頃の魔物たちは十分強かったが、
今は、もしかしてあれ以上に強い魔物ではないかと思うくらいだ。
見たことのない魔物も沢山いた。
勇者ロトが戦っていた時代はこれほどだったのかと思い知らされた。
しかし、そうはいっても、アレンはあっさり全滅して終わる訳にはいかなかった。
カインももちろんそうであろう。
本人に聞いてはいないが、おそらく道中の戦闘では自分と同じ印象を受けていると思う。
だが、一歩も引かず、むしろ鬼気迫る勢いで剣と魔法を駆使して戦っていた。
アレンはあまりカインの魔法に頼りたくなかったが、
そうも言ってられない状況になっている現状である。
その分、激しい戦闘が続いて相当消耗しているだろう。
だからこそ、馬でも何でも使って、旅路の負担の軽減をしたかったのだ。
「さっさと町に着くか、それか洞窟なり小屋なり出て来てほしいな〜。」
焦燥感からアレンはぼやいた。
しかし状況は悪い。
道の分からぬ森の中でめくらめっぽうに馬を走らせたせいで、
今どこにいるのか良く分からない。
マイラの町はどっちなんだ。
このままではこの雨の中歩くだけでも体力が0になってしまう。
道もぬかるんで、この先は沼地だ。
「アレン……。あそこに洞窟が見えるよ。
そこで休憩する?」
「ん?」
沼地から引き返そうかと思ったが、
カインが沼地の奥を指さした。
確かに、洞窟が見えた。
怪しい雰囲気が漂うが、この際贅沢は言ってられない。
「お前勘が良いな。
そうだな、あそこなら雨風くらいはしのげそうだな。
ちょっと沼がやっかいだが、行くか。」
雨で沼地は水かさを増して、足を取られそうになる。
沼に転びそうになって、世界を救った英雄ともあろうものが、
中々に悲惨な姿だなと思う。
だが、泥水をすすってでも前に進む、これこそが冒険の旅だなと、
心の奥底に湧いた感情に我ながら呆れて笑えた。
「アレン、体斜めにして、何がおかしいの。」
この状況で笑ってるアレンをどうかしたのかと
カインが不思議そうに見ている。
「ははは。
こんなの笑わずにやってられるか。」
「?」
カインは何が面白いのか分からず、首を傾げたままとりあえずついて行った。
洞窟は外から見えた規模とは裏腹に
中に入ってみると非常に奥深い洞窟だった。
「なんだ?ここ。」
アレンが奥を覗いてみるが、行き止まりが見えない。
雨宿りには少々勿体ないほどの規模の洞窟だった。
何かこの先にあるんだろうか?
「なぁ、この先さぁ……。」
アレンは振り返ってハッとした。
カインが洞窟を入ってすぐのところで座り込んでいた。
「どうした?大丈夫か?」
「え?何が?
ここで休憩するんでしょ?」
「あ?まぁそうだけど……。」
アレンは洞窟の奥がどうなっているのか気になったが、
やはりカインはこれまでの旅の疲労感があるようで、
やっと休めると、疲れた様子で座り込んでいた。
奥がどうなっているか気になったが、
ひとまず体力の回復をはかるのが先決だろう。
「アレンってば、本当に冒険が好きだねえ。
休もうって言ってたのに、洞窟に入ったら冒険心がうずいちゃったんでしょう?」
その通り過ぎてぐうの音も出ない。
あえて、うんともすんとも言わずに、濡れた体を服ことにした。
「けほっ、けほ。」
カインが咳をしている。
一抹の不安がよぎった。
「おい、お前もぼっとしてないで体拭け。
風邪ひくぞ。」
「うん、ありがと。」
タオルを受け取ってカインも体を拭いた。
暖を取れるように、ギラで松明も起こした。
「お、良いな。」
火の前でアレンは濡れた服をひらひらと乾かした。
だがカインは何だか眉間にしわを寄せて強張った表情だった。
「アレン……ごめん…。
あのさ僕疲れちゃって、魔法力もほとんど残ってなくて、
ちょっと寝て良い?」
「え?あ……。ああ。
宿にも泊まらず来たもんな。
ちょうど良いぜ、雨が止むまではもう小休止だ。
寝てろ寝てろ。」
「ありがとう。」
自分でそう言ってくるのは成長だなと思った。
カインは横になると、すーっと寝息を唱え始めた。
もう眠ったようだ。
戦い続きで疲労もたまるだろう。少し心配だ。
魔法って便利だけど、やっぱり身一つで勝負してる自分とは
少し違うんだよなあと改めて思う。
でもカインのおかげでどれだけ助けられているか。
こういう洞窟を目ざとく見つける勘の良さもさすがだなと思う。
ぐ〜。
考え事をしていると腹がなった。
そういや、そろそろ飯の時間じゃん。
腹減った。俺の飯は……。
眠っているカインの伺い見るが、
さすがにいくらアレンでもこの状況でカインをたたき起こして
飯の準備をさせることはできない。
武器の手入れなど始めてみたりしたが、
すぐに終わってどうにも手持無沙汰だ。
さっきからこの洞窟では魔物の姿は見えない。
ここは安全な洞窟のようだ。
なら、カインを寝かせておいて、少し洞窟の様子を見てこようか。
腹ごしらえできるものとか、
何かお宝とかあるかもしれない。
「カインカイン、俺ちょっとこの先見てくる。
何かあれば声出して呼べよな。」
「うー……ん。」
聞いてるのかどうか良く分からない微妙な返事をした。
まぁすぐに戻れば良いだろう。
洞窟はメインの通路の他、細い通路がいくつかあった。
細い通路の方も気になったが、
まずは一本道の通路の方を進んでみた。
歩くにつれて、カーンカーンと何かの音が一定のリズムで聞こえてくる。
「なんだ?何の音だ?」
近づくにつれて音は大きくなる。
魔物か何かがいるかもしれない、とアレンは警戒を強めた。
音と共に何か一定のリズムで何かを唱える声も聞こえてきた。
何かの呪術だろうか。
もしかしたら、この奥にはかつて見たような邪教徒の祭壇があるかもしれない。
いよいよ洞窟の行き止まりについた。
果たして、そこには屈強の男が2人いた。
「おい、そこのお前!何をしてるんだ!?」
アレンは武器に手をかけてそう叫んだ。
男たちは気づかないようで、いまだ何かを唱えている。
「おいってば!」
至近距離で呼ぶ声に、男はびっくりして振り返った。
手には何か大きな武器を持っている!?
と思ったが、手に持っていたのは大きなスコップだ。
「ん……?なんだこれ?」
「あー、びっくりしたー。
もう作業の邪魔さしねえでくれよ。
早くリムルダールへの道を掘らねえと駄目なんだから。」
「掘る?道?」
「掘ってー掘ってー掘りぬいてー。」
「えいこら、どっこいしょ。」
「…………」
呪術のように聞こえた一定の音程の言葉は2人の男のこの掛け声だったらしい。
祭壇なんてなかった。
トンネルを作っているようだ。
「なぁ、この先ってリムルダールなのか?」
「ああ、そうだ。」
「俺たちマイラに行きたいんだが。
マイラはどっちだ?」
「あんたそれなら反対方向だ。
こっちじゃねえ。洞窟を出てもっと北だよ。」
「そうか。ありがとう。」
このトンネルはリムルダールへのトンネルを作ってるらしい。
リムルダールへの洞窟……。
ふと、アレンは昔話が頭をよぎった。
ロト伝説でローラ姫が囚われたのが、そんな洞窟じゃなかったか?
そして勇者アレフがローラ姫を救ったという伝説の……。
ひょっとして、これがそれ、だろうか?
「あんた何さね。じーっと見つめて。
作業の邪魔せんでくれね。」
「ああ、悪いな。
なあ、この洞窟、その内、俺たちの大事な姫がお世話になるんだ。
綺麗な部屋、作っといてくれよ。」
「は?姫?」
何の話だ?と言う顔をして、
男たちは作業に戻った。
そっかあ、この洞窟、勇者ロトの時代にはまだ通じてなかったんだな。
人の力で作った道だったんだな。
きっとマイラ方面からの人々の往来を期待して作る道なんだろうが、
まさか竜が居つくなんて皮肉な話だ。
今の自分たちからすると、もはや全てが伝説の話になるんだが、
この時代ではそれが紛れもなく現実のことなんだなと思った。
なんとも不思議な感覚だ。
それにしても、飯にできそうなものなんて、何もなかったな。
冒険心は満たされたけど、腹は満たされなかったぜ……。
などと思いながらアレンも元来た道を戻っていく。
戻ってみると、カインはまだ眠っていた。
いったんそばに座ってみるが、起きる様子もない。
寝てるのは良いんだが、俺腹が減ったんだよな……と、
アレンは手持無沙汰にきょろきょろ辺りを見渡した。
洞窟の中に食べ物が落ちているはずもない。
ちょっと、洞窟の外を覗いてみる。
どうも、雨はあがったようだ。
「なんか……木の実でも見つかんねえかな。
魚でも良いしな。」
すぐに戻るつもりで、洞窟の外に出た。
沼地の洞窟の眼前には海が広がっている。
さすがに降雨で荒れ気味の海に肴求めて飛び込むのは馬鹿だよな……と思いとどまった。
沼の手前の森の方がまだ良いか?と洞窟から出ると、
すぐに魔物が突進してきた。
「げっ。なんだお前」
最初はまたマドハンドが出たのだと思った。
沼からぬっと腕が出てきて殴りかかってきた。
「うわっ!っと。」
謎の腕の攻撃をかわしたが、もう一匹いたようで、
今度はアレンの足を掴みかかってきた。
「仲間がいるのか!」
どうも魔物は複数いるようだが、沼に隠れているので正確な数が分からない。
しかもマドハンドよりよほど強固な体の持ち主のようだ。
アレンの一撃を受けても、がっしりと足を掴む力は緩まない。
そしてもう一匹がアレンの攻撃の手を止めるべく、右手に絡みつく。
「くっそ!」
そして、仲間の魔物は身動きの取れないアレンを面白いように何度も殴りつける。
こういう正体不明の敵には真正面から物理攻撃をするよりは
魔法で攻撃するのが効果的だ。
が、今はアレン一人しかいない。
まさか腹が減って飯を求めて勝手な行動を取ったら、見事になぶり殺された、
なんて事になったら色んな奴に合わす顔がない。
「なめんなああ!」
自分の身長くらいの大きさもあるその腕を、アレンは左手で逆に力任せに殴りつけた。
全力の捨て身の一撃は効果的だったようで、魔物はバラバラと砕け散った。
一匹葬り去ることができた。
「うっ……。」
しかし、強固な魔物を素手で殴りつけたせいで、その手がしびれて動かない。、
足元と右腕も魔物にとらわれて体が自由にならない。
「や……べ……。」
仲間を殺されて怒ったのか、アレンの足をとらえ沼地に隠れていた魔物は
その本体を沼地から表した。
それはマドハンドとは比べ物にならない巨大な魔物であった。
「なんだ……こいつ。」
初見の魔物だった。
怒りに狂う魔物はアレンの体を振り回し、たたきつける。
沼地に沈められ息が出来ない。
やばい、このままだと……。
カインがこの騒ぎに気づいてくれないかと思ったが、
こうなったのは勝手に洞窟から出た自分の自業自得である。
動けない体と遠のく意識に覚悟を決めようとしたとき、
沼の中からでも分かるくらいカッと空が眩く輝いた。
直後激しい雷が魔物を直撃する。
「!?」
その衝撃に魔物は手を離して沼の奥底に沈んでいった。
「ぶはっ!!」
あわててアレンは地上に顔を出した。
今のは……雷の魔法だ!
周囲にいた魔物たちは例外なくその稲妻のダメージを受けていた。
「カイン!?来てくれたのか!?」
てっきり、カインが唱えた魔法だと思った。
だが、魔物にとどめをさしている人物はカインではなかった。
「え……? ……誰?」
「ああ、やはり人間が巻き込まれていたんだな。
きみ、大丈夫だったか?
ゴールドマンはどこに潜んでいるか分からない。
気を付けた方が良いよ。」
アレンに優しくそう忠告してくれたその人物は
仲間たちと魔物の全滅を確認し、ルーラを唱えるとどこかへ消えていった。
カイン以外に雷の魔法を使える人物の心当たりなんて、
アレンは一人しか思い当たらない。
もしかして、もしかして、あの人……。
呆然としてアレンは一行が消えていった空を見上げた。
- 続く -
2018/05/27
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【後書き】
なんか、無駄にうろうろうろうろしている二人です。