「ちっくしょう!
そりゃあさ、連れて行ってもらえるわきゃないと思ってたけど、
どこ行っちまったんだよ?」
アレンは薄暗がりの空を見上げた。
先だって、アレンは勇者アレル一行を追うと宣言した。
しかし、当然アレル一行はアレンたちを気にするわけは無く、さっさと船で出航してしまった。
あっという間に置いてきぼりだ。
「仕方ないな、俺たちも船を手配してくるか。
船長返さなきゃ良かったか。」
「今から船を探してたら、とても追いつけなくなるよ。
見て、向こう側に小島が見えるでしょう。」
アレンの言葉にカインは首を振って、遠くを指さした。
その先には、そう遠くない距離に小島が見える。
「ああ、小島がある。何か建物のようなものも見える。
灯台かな。」
目を細めながらアレンも遠くを見つめる。
島には何かの建築物があるようだった。
「塔かもしれない。
マイラの町を拠点にダンジョンの挑戦してるのかもしれない。」
「なるほど。辻褄はあってるな。」
「じゃあ、追いかける?」
そう言って、カインはアレンにパッと手を差し伸ばした。
「飛ぶ……んだな?」
「うん、これくらいの距離なら行けると思う。
逃げられちゃう前に行ってみようよ。」
「よし、乗った!」
二っと笑ってカインの手を取ると、アレンは不意に浮揚感を感じた。
カインが自分の左手を掴んでいる。
見下ろすと随分地面が遠い。
すごいすごい、本当に飛んでいる。
「すげえ!ほんとに飛んでるな!」
「うん。」
カインはじっと前を見すえている。
これなら、目指す小島までそれほど時間はかからなそうだ。
「良いぞ良いぞ、これならすぐ着きそうだ。」
すぐ到着するかと思ったが、
残念ながらそう簡単にはいかなかった。
「魔物が飛んできてるぜ。
海にも魔物が出るんだから、やっぱ空にも出るんだな。」
「アレン、冷静だね……。
どうしようか。」
相手は羽のある魔物キメラのようだ。
こちらは空では自由がきかない。
「よおし、魔物は俺に任せろ!
おりゃあ!」
「うわっ!?」
アレンが剣を抜き、キメラに向かってするどく一閃する。
その勢いに一瞬カインが振り回されそうになったが、何とかとどまった。
剣戟は空を切り裂きキメラを直撃し、その羽が吹き飛び、海へと落下していく。
「とどめ……!」
さらなる追撃をしようとしたアレンであったが、
今度はアレンたちを熱波が襲った。
「うわっ!?」
「アレン、火の息だ、仲間がいるみたいだ。」
「ちっ、群れやがって……!」
振り返るとキメラの仲間が集まって来ていた。
「こんにゃろ!」
アレンの攻撃は仲間のキメラを直撃した。
が、そのダメージはすぐに回復された。
「ああん!?」
「全回復!?
回復魔法が使えるみたいだよ……!?」
「うっぜ!」
キメラはどうやら回復魔法が使えるようだ。
「魔物が多い……。
アレンここは僕らも魔法で……!」
「……魔法……?」
カインはベギラマを唱えようとしている。
だが、アレンはそれに首を振った。
「いや、カイン。魔法は良いから、高く飛び上がれ。」
「え、えっ……?」
アレンには何か考えがあるようだった。
キメラは再び火の息でこちらに攻撃をしかけてくる。
アレンはその炎を剣戟でぶち割ると、再度同じ指示を出した。
「いいから早く!急げ!全速力だ!」
「わ、分かった……!」
カインは訳も分からず空高く急浮上した。
キメラは獲物を逃すまいと、当然群れをなして追いかけてくる。
「ア、アレン……無理だよ、あっちのが早い。
逃げ切れないよ……っ。」
何とか虚を突いて飛び上がったものの、
スピードはキメラの方が早い。
徐々に距離を詰められる。
「いいや、作戦通りだ。」
「……?」
カインはその繋がった右手から、アレンの体に剣気がみなぎっているのを感じた。
「はぁぁぁぁ……。」
アレンの振り上げた剣からびりびりとした大気のゆがみを感じる。
「大挙して追ってきやがって。
お前ら一直線過ぎんだよ!!
くらいやがれーーー!!!」
「!!」
獲物を追うキメラの群れは、確かに一直線に並んでアレンたちを追いかけてきた。
格好の的である。
それらをアレンは狙いすませたように練り上げた剣気をたたきつけた。
魔物たちは一撃にして一網打尽だ。
「うわっ」
激しい衝撃がキメラの群れを襲った。
アレンの会心の一撃は魔物の群れを全滅させた。
「すごい、アレン!今の攻撃で全滅したよ。まるで魔法みたいだ。」
カインは浮上を止めて、アレンの攻撃の戦果に目をみはった。
「はは、案外うまくいったな。
斬りつける以外にも色々攻撃方法はあるもんだ。」
「そうだね、アレン空中戦も行けるんだね。
ホイミ」
「ん?」
「さっきの火の息の。火傷になってたよ。」
「あ、ああ。」
負傷のことなどすっかり忘れていた。
ホイミで傷はすっかり治った。
さぁ、気を取り直して、小島へ向かおうと
再びアレンとカインは飛び始めた。
振り返ると、さっきまでいたマイラの町がもうあんなに小さい。
「うっひょー。はええはええ!」
「ちょっと、きょろきょろ暴れないで……。」
「ん?」
暴れるというほど暴れてない。
ちょっと後ろを振り返っただけだ。
「暴れてねえよ。」
「アレンって、……重い?」
「は?急になんだよ。失敬だな。俺そんなに太ってないぜ。」
「マリアよりすごい重い。」
「そ、そりゃそうだろうけど。」
急に何か文句を言い出した。
なるほど、カインはマリアより重いものを抱えて長距離を飛ぶのは
初めてのようだ。
でもさっきまではキメラ相手に大立ち回りを見せてたのに、
突然そんなことを言いだして……アレンは怪訝に思った。
心なしか、飛ぶスピードも落ちた気がする。
「おい、大丈夫か?きついんだったら、
うーん……海に落としても良いぜ?
俺泳げるし。」
「え、いや!そんなことしないけど!」
決して落とそうなどとはしないが、やはり様子が変だ。
「カイ……」
「見て!あったよ!」
アレンの言葉をさえぎって、カインが何かを見つけたようだ。
見つめる先には、船があった。
「ん?」
勇者アレルたちの船だ。
やはりアレル達の目的地はこの小島であっていたのだ。
「追いついた!」
「やったあ……!」
なんとかアレンたちもそのまま小島に到着することが出来た。
「はぁ、良かったあ。」
無事に降り立って、カインは安堵の息を吐いた。
「やったな〜。
俺、重たかったか?悪かったな。」
「いや、ごめん。違った、言いがかりだった。」
「言いがかり?」
カインがポリポリと頬を掻いて説明した。
「前もあったんだけど、長く飛んでるとどうも重力と言うか何と言うか、
体が重くなってくるんだ。
で、さっき飛びながらホイミもしたでしょ。
そんなことしたら尚更で。
一瞬びっくりしたんだけど、よく考えたらそれだよ。」
「ほう……。
魔法2重に使ったってことになるからか?」
「うん。よっぽど好調でもなかったら、
魔法の同時使いはまずい……んだよね。」
カインはポリポリと頭をかいている。
いつかもそんなことは言っていたような気がする。
「てか、お前そんなんだったら、俺のあんな火傷程度に魔法使うなよ。
薬草だってあるんだし。」
別に重篤な負傷でもないし、
さっきのは無理して回復魔法を使う必要はなかっただろうと思った。
「そうだねー。
本当何でもかんでも魔法使ってたら駄目だね。
よく考えないと。」
はははと笑っているが、どうも危なっかしい。
危うく海の藻屑になるところだ。
何でもかんでもカインにばかり頼ってはいられない。
アレンは眼前の天高くそびえたつ塔を見上げながら、
とある装備を身に付けた。
「え、アレン、それって……。」
久しぶりのその装備を目にしてカインは一瞬目を丸くしたが、
その意図を理解したようで頷いた。
「懐かしいね。」
「だろ?」
アレンの姿に、カインは懐かしそうに目を細める。
その視線に少し恥ずかしそうにアレンは目を反らした。
「さて。
この塔がどういうもんかもわからんが、せっかく見つかったことだ。
行ってみるか。」
「うん、そうだね。
アレルさま達ここにいるっぽいもんね。
きっと何かあるんだろうね。」
「案外さ、この間の洞窟みたいに、
魔物とか何も出ない塔かもしれないよな。」
抱いたそんな淡い期待もむなしく、
一歩踏み出した先は、過酷でハイレベルなダンジョンが広がっていた。
+++
塔の中は今まで見たことのない罠がいっぱいだった。
落とし穴やダメージ床だけではなく、
進行方向を妨げる動く床。
そして宝箱型のモンスター。
「うわあ!?動いた、なんだこれ!
いってえ!噛みついてきた!」
「アレン罠だよ!!」
「くっ!!」
「ギラ!」
ギラの炎に一瞬モンスターが怯んだ。
アレンはその隙に剣を抜いて反撃する。
剣は相手に通ったが、まだしつこく飛び跳ねている。
「案外頑丈だな。」
「攻撃は通ってる!
カイン、どんどん畳みかけろ!」
「!」
アレンのかけた発破にカインも追撃した。
隼の剣劇は素早く二度モンスターを切り刻む。
「まだまだあ!!」
アレンの裂帛の攻撃が、
ついに宝箱を真っ二つに叩き割った。
モンスターは動かなくなった。
「死んだ……かな。」
「だな。
ちぇー、せっかく宝箱と思ったのに、とんだ罠だったぜ。」
モンスターの死を確認してから、
アレンはため息をついた。
「んもう、アレンってば。宝箱の罠なんて昔からよくあるじゃない。
なんでそんなにむきになってるのさ。
動く床もやっかいだし、宝箱なんかよりさ、早く先に進もうよ。」
カインのいう事も一理ある。
目的はお宝回収ではなくて、アレル達一行を追う事である。
だが薬草でも何でもいいから、アレンは貪欲になっていた。
少しでもカインの負担を減らすため。
そんな貪欲なアレンが
再度そばにある宝箱を開けると、
中には「すごろく券」が入っていた。
「……なんじゃこれーー!」
「アレンー、もう早く行こうよ。」
どう見てもただの紙切れである。
イラっとして、握りつぶしても良い音しかしない。
はあ、そうなんだよ。
宝箱なんて、そうそう便利なものなんて入ってないんだよな……。
アレンはため息をつきながら、先を急ぐカインに続いた。
+++
「っは〜、今考えても訳分かんないわ!」
つかの間の休息の時間、武闘着を着た女性は
壁にもたれ腕を組みながらどうもイラついた様子だ。
すぐそばで腰を下ろしている細身の女性と、
剣の様子を確認している屈強の男性が、その発言にふと顔をあげる。
「あんなのおかしくない?あいつらなんなのよ。
本当に怪しい馬の骨。」
「エナ、相変わらず手厳しいな。馬の骨……か。」
勇者アレルは苦笑気味に武闘着を着た女性をエナと呼んだ。
エナはそばにいる仲間に同意を求めた。
「クリス!クリスもそう思うでしょう!?
突然降って湧いてきて、あいつら何を言っているんだか。」
「そう……ねえ。」
クリスと呼ばれる女性も困ったようにうなずいた。
アレル達は4人のパーティである。
パーティ構成は、勇者のアレルを中心に、
戦士ジェフ、武道家エナ、賢者クリスの3人の仲間がいる。
既に長い旅を続けてきた勇猛果敢な一行である。
その4人の前にマイラの町で突然二人組が現れた。
彼らはどうもアレルが手に入れた王者の剣に何か思う所があるようで、
自分たちについて回ると言う。
「私たちが不正をして手に入れたわけでもないじゃない?
なのにさ、あいつら何なの!」
「エナ。お前のいう事は良く分かる。」
「でしょ!?」
我が意を得たりとエナが身を乗り出した。
それを抑えるようにジェフは手を差し留めた。
「だが、少し思う所がある。
武器についてはそれなりに見聞のあるこの俺から見ても、
その王者の剣は並の武器ではない。
刀剣の華奢な趣にも関わらず、どこか神々しくて、触れるのもはばかられる。
俺にはきっと持ち上げることもできない。」
屈強の戦士が意外なことを言う。
「え?なんの冗談よジェフ。
どんな超重量級の武器をも片手で振り回すあなたが、持ち上げられないって?」
エナは何言ってるの?と馬鹿馬鹿しそうに笑い飛ばそうとするが、
戦士ジェフはいたって真面目だ。
「本当さ。
アレル、ちょっと失敬するぜ?」
ジェフはアレルの王者の剣を手に取った。
ぐっと力を入れて持ち上げようとするが刀剣は地面にへばりついたように動かない。
「は?え!?」
エナは信じられないような表情でそれを見ている。
別にジェフがジョークを言ってるわけではないのは、血管が浮きあがり震える二の腕の様子からも分かる。
ずるずるとひきずるのが精一杯だ。
「何それ、何やってんのよ!?」
そう言ってジェフに代わってエナも剣に手を出すが、
あまりの重量に驚いて剣を落としてしまった。
落ちて横たわるその様子を見るとそんなに超重量の剣には見えないのだが。
「不思議だな。
俺にもお前たちがふざけているように見える。
だって、こいつはこんなに羽のように軽いじゃないか。」
持ち主のアレルが手に取ると、その剣はふわっと羽のように持ち上がりアレルの手に収まっている。
「うっそー。私腕力には自信あんのよ?」
「俺だってそうだ。
だが、武器の中には持ち主を選ぶものもある。
それゆえ、これだけ百戦錬磨の俺でも使えない武器と言うのはある。
ただ、これだけ持つことすら拒絶される武器は初めてだ。
そいつはどうやら持ち主を選ぶ。よっぽどの剣らしいぜ。」
エナとジェフは王者の剣の特殊性を察したようだ。
「やっぱり、伝説のオリハルコンで作られた武器は並ではないのね。
その武器を使いこなせるアレルもやっぱり並の剣士ではないわ。」
今まで事のあらましを見守っていたクリスも納得したようにうなずいた。
「まぁ、アレルが並の剣士じゃないことは皆分かってるだろう。」
ジェフがそう言うと、褒められてくすぐったいようにアレルが照れている。
「いや、褒めてるんじゃないんだ。」
「じゃないのか。」
ちょっとがっかりしたアレルを見てクリスがくすくすと笑った。
「問題は、その並じゃない剣をあの怪しいやつらは良く知っていた。
まるで持ち主のアレルより使いこなせる自信もあるようだった。」
「こんなに馬鹿重い剣を、あの輩が?
アレルならともかく戦士ジェフでも持てなかったような剣よ?
大体この剣生まれたてほやほやよ?
知ってるってどういう事よ。訳分かんない。
アレルの知り合いなの?」
「いいや、知らない。」
「気になることを言っていたわね……。
時を越えてって……。」
どうも訳が分からないと彼らは頭を抱えるように話し合っている。
3人はアレルなら何か知っているかと振り返ったが、
アレルとてほぼ初対面の相手なのだ。何も分からない。
「怪しいやつらだが……。
だが、このダンジョンは到底着いてこれまい。
もう会う事もないかもしれんな。」
「ああ、確かにな。
それにしても、このダンジョンは難解だな。
動く床で随分足止めされている。
お前たち、十分に気をつけろ。」
「アレル、もう大丈夫よ。
時間を取ってくれてありがとう。
全てわかったわ。」
「クリス、分かったの!?」
アレル達は小休止もこれまでと立ち上がった。
クリスは自作のダンジョンマップに視線を落として、
行き先を示した。
「動く床は一定のルールで動いている。全て理解したわ。
普通にまっすぐ通らず、コツがあるのよ。」
そう言うと、クリスはすっと落とし穴はびこる
動く床の通路を事も無げに通り抜けた。
「クリス!すごいじゃないか!
さっきあれだけ苦労したのに。」
「やっぱり間違いないわね。
アレル達、私の言ったとおりに進んでみて?」
「ふふー。さすがクリス。
我がパーティのブレーン。頼りになるわあ。」
エナはクリスを褒めたたえる。
細腕のクリスはこのパーティの頭脳。
多彩な魔法のみならず、その博識でパーティに貢献しているのだ。
「やーっと追いついた……。」
動く床を攻略したアレル一行を
アレンたちは死角から見つめていた。
「聞いたか?カイン、俺たち怪しい馬の骨だって。」
「うん……まぁ、うん。怪しいからね。」
カインは真顔でそりゃそうだろうねとしか答えようのない様子だ。
さらに隠れながら尾行のような真似をして、
我ながら怪しさ満点である。
「休憩してたようだな。
おかげで追いつけたぜ。
悪口も聞いたが、良いことも聞けた。」
「ぐるぐる回る動く床、ルールがあったんだね〜。」
「な。
さっきからぐるぐる翻弄されまくってたけど、これで怖くねえ。」
塔の内部は外と比べても魔物も非常に強力で、
ダンジョン攻略は想像以上に難解だった。
がむしゃらに突破してきたアレンとカインであるが、
先ほどクリスが言う法則には気づいていなかった。
「どうする?追いついて声をかける?」
アレル達は動く床を越えて、
次なるフロアへ向かおうとしている。
「いや、まだ良いよ。
つかず離れずの距離で追いかけてみようぜ。」
アレンはまだ少し様子を見るつもりのようだ。
アレルが階段を上っていくのを確認して、
動く床を突破し、後を追って行った。
- 続く -
2018/10/24
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【後書き】
地味に続き中。