はじまりと終わりの話 2



「……ムーンブルクの王女……だって?」

アレンは訳が分からなくなって、隣のカインをつついた。
つつかれて、カインは慌てて首を横に振った。

知らない。
ムーンブルクの王女リンダだって?
カインはそんな人物知らなかった。マリアからも聞いたこともない。

でも嘘をついている雰囲気はない。
それに空を飛んでいるところからも、彼女が相当の魔法使いであることはうかがえる。
金髪の髪の少女で、娘のアリスと少し似ているかなという気はした。
でもあんな鋭い視線は娘はしたことがない。

少女は値踏みをするかのように、
アレンとカインをじろじろと見つめている。

「あ、あなたがロトの剣のことを教えてくれた人ですか?」

今度はカインがリンダに質問した。
リンダは一瞬なんだ?という顔をしてから答えた。

「ロトの剣?ああ、そうだったわね。」

少女はこともなげにうなずいた。

「どうして、その情報を?」

「私ね、未来が見れるの。
 そう言ったら信じる?」

少女はそう言ってふふっといたずらっぽく笑った。

「未来!?」

思いがけないことを少女が言った。
未来が見れるなんて能力は今まで聞いたことがない。

「信じないって言うの?結構よ。誰も私の言うこと信じないもの。
 お母様だって。」

少女は少しむくれてしまったようだ。

「大体誰なのよ貴方たち。私、あなたたちの事知らない。
 私が声をかけたのは、貴方たちなんかじゃないんだけど。」

そう言えばさっきから呆然とするばかりで自己紹介をしていなかった。
少女が夢で告げたのはマリアだったはずだ。
自分たちのことは知らないのも無理はない。

「お……私はローレシアの王アレンだ。」

アレンの自己紹介を聞けば少しは態度を改めるかと思ったら
少女は憮然としたままだった。

「何よ、ローレシアって。どこの辺境の国?それとも村か町の名前?」

「は!?ど、どこって……!?」

ムーンブルクの王女と言う少女が
よもや同じ同盟国であるローレシアを知らないと言う。
アレンはもうすっかり訳が分からない。

カインは横でアレンとリンダのそんな会話を聞きながら、
少し気づいたことがある。
自分の推測が当たっていれば・……

「リンダ様のいう事信用しますよ。
 未来が見られるなんて、本当にすごい能力です。」

ん?とアレンはカインが何を言うのかと思った。

「そう?あなたは私のいう事信用してくれるの?」

「勿論です。
 僕らを過去に招待してくださるなんて、すごい能力だ。
 リンダ様が未来が見られると聞いて、ますます得心がゆきました。」

「過去!?お前何言ってるんだ!?」

アレンは目をむいて驚いた。
カインはしーっと、アレンに目配せした。何か思う所があるようだ。
ここは成り行きを見守ることにした。

「あ、あなたは誰なの?」

「はじめまして、カインと申します。
 僕は……あなたから何代か先のムーンブルクの王女様のお婿さんなんです。
 お会いすることができて光栄です。」

「……お、お婿さん!?」

鋭い表情で話を聞いていた少女はポンっと顔を真っ赤にした。
あれ、どうも若い姫には刺激の強い言葉であっただろうか。

「私の妻もですが、リンダ様もすごい魔法力をお持ちなんですね。
 やはりさすがはムーンブルクの王女様です。」

ポッポっと顔を赤らめている少女はぼんやりとして
地に降り立った。

「良いわ、案内するから城内へお入りなさい。
 話をしてあげるわ。」

「ありがとうございます!」

「そこのローレシアって言ったかしら?
 その辺境の村の人も一緒にどうぞ?」

「む、村じゃねえよ……。なんなんだ失敬だな。」

城内へと踵を返す少女にカインはぺこりと礼をしてついて行く。
アレンもその後に続く。

「よう、この天然ムーンブルクの王女たらし。」

「ちょっとアレン。何さ、その言い方。」

「どういう事だよ、俺に説明しろよ。」

アレンは不満そうにカインに耳打ちした。
どうしたものかと思いつつ、カインは前を向いたまま答えた。

「旅の扉、赤かったでしょう?
 だからきっと時間移動したんだと思うんだけど。」

さらっとカインは答えた。
謎の赤い旅の扉でアレンたちは時を飛んだことが、あった。

「え……?あ、ああ、そういう事なのか!?
 つまり、あの王女は何代か前とかのムーンブルクの王女か!」

「そうだと思う。」

「っても、おかしいだろ。
 ローレシアのことを知らないって。
 子供過ぎて世の中の事、知らなさすぎるんじゃないか?」

アレンはぷんぷんと憤慨している。
自分は いくら子供時代でも、サマルトリアとムーンブルクの同盟国のことくらいは
知っていたぞ。勉強不足じゃないかと思った。

「アレン、知らないの?」

「ん?」

カインは振り返らずに言った。

「ムーンブルクって国は、サマルトリア、それにローレシア、
 この2国より遥かに長い歴史があるじゃない?」

「!」

アレンは、そういわれて、かつてロト国の歴史を講義で学んだ時のことを思い出した。

ロト3国と言われるローレシアとサマルトリア、ムーンブルク。

この3国は今でこそ絆が深いが、
勇者アレフが建国したローレシア、サマルトリアと違って、
ムーンブルクは魔法大国としてそれより遥か前に建国されていたのだ。

そしてそのアレフの娘が嫁いだことで、初めてムーンブルクはロト同盟国に名を連ねることになったのだ。

「そ、そんなに大昔なのか!?ここ……!」

驚いて、ふと城内の設備を見渡した。
城内のランプは煌々と明るく点灯し、城内の様子がうかがえる。
そんな大昔のものとは思えない洗練された設備に見えるのだが……。

「多分ね。
 だって、毒の沼地からの距離感は……さほど変わらないし。」

毒の沼地が深かったくらいは自然現象の範疇だろう。
沼地からの距離、城から見える海などの風景、
ほぼほぼ思い当たる通りだ。
城のたたずまいが変わってしまっているのは、
長い年月のせいであろう。

それにしても自分たちは一体どれほど大昔に来てしまったのだろう?

考えながら歩いていると、
リンダが足を止めた。

「この部屋よ。入って。」

案内された部屋に二人は入室した。
てっきり来客用の部屋にでも通されたのかと思ったが、
その部屋は机や寝台があり、リンダの私室のようだった。

「王女!お帰りなさいませ。
 また姿が見えなくなるから、どこへ飛んで行ってしまったかと
 心配しておりましたよ。」

部屋にはおそらく王女に仕えているのであろう老女がいた。
どうやらリンダはしょっちゅうどこかへ消えてしまうようだ。
部屋の主が帰ってきて老女は安堵した表情をしたが、
ふと後ろの二人を見て何者かと眉をしかめた。

「ばあや。いたの。
 ちょうど良いわ、この人たちにお茶でも出してあげて。」

「王女、こちらは?」

「ああ、えっと……。なんて言うのかしら。
 ええっと、お婿さんと、村の人よ。」

「王女!?お婿さん……ですと!?
 この馬の骨が!?
 おのれ、そんな言葉は、このワシを倒してから言ってもらいたい……!
 このリンダ様は我らがムーンブルク秘蔵の、ひーっ、げっふげふ。」

あまりに唐突で詳細を欠いたリンダの説明に、
老女は杖を持ち上げ何事かと気色ばんで、勢い込んでむせている。

「ああ、もうばあや。良い年なんだから、そんな杖振り回しちゃだめよ。
 私の、じゃないわ。」

「ほ?そう、すると?ひょっとして?」

「そう、そのまさかよ。私の言っていたこと、正しかったでしょう?
 さ、お茶が用意出来たらばあやは席を外して。」

老女はすごすごとお茶を差し出すと、
きっとこちらを睨みすえて、言われた通り部屋を出て行った。

「さ、そこに座って。良かったらばあやのお茶をどうぞ?
 あなた方は未来から来たのよね?」

差し出されたお茶を受け取ってアレンとカインは
席に着いた。

「え、ええ。」

「それで、お婿さんは一体いつ頃の未来から……」

「あ、あのお婿さんって呼び方はちょっと……。」

どうやら、リンダはカインを気に入ったようだった。

「ああ、ごめんなさい。確かにそうよね。
 じゃあ未来のお婿さん。」

「えーっと……。いや、そうじゃなくて。」

それも違う気がする。
カインは変な言い方をしたことを少し後悔した。
ただ、リンダは少女っぽく言葉遊びを楽しんでいるだけのようだった。

「それから村の人。あなたたちはお友達なのかしら?」

今度はアレンの方に話しかけてきた。

「と、友達は友達だけど……。」

アレンは憮然としていた。
いい加減村の人呼ばわりは勘弁してほしい。

ここが本当に過去だとすると、どこまで実際の話をしても良いものか。

「俺は遠からずこの国と同盟を結ぶことになるローレシアって国の王だ。」

「同盟……?王……?」

本当かと言う表情でリンダはアレンの顔を見すえて首を振った。

「私たちムーンブルクの国が他国と同盟なんて結ぶわけないわ。
 ムーンブルクは誇り高き魔法大国なのよ。」

魔法大国として誇り高く名高いムーンブルクは
他国の力などは現在必要としていないようだ。
少女ながらに凛と気高い姿は、少しマリアに似ている気もする。

「まぁ、別に信用してもらわなくて良い。
 俺が聞きたいのはロトの剣のことだけだ。武器だぜ?
 なんで魔法大国の王女がそんな事知ってるんだ?」

敬語も使わないアレンの態度に少し憮然としながらも、
その毅然とした様子にリンダはしぶしぶ口を開いた。

「何だか、知らないけど、
 今それをめぐって不穏な空気が流れているわ。ここまで届いている。
 世界が、私たちが今までにない変革を迎えようとしているようで……。私はそれが嫌なの。
 だからそんな事になるくらいなら、可愛い子孫に譲った方が良いと思ったわ。」

「どういう事だ?不穏って?なんだ、もう少し詳しく説明してくれ。」

「だから、なんでだか知らないけど、
 貴方たちもロトの剣探しているんでしょう?
 私の子孫はそう言ってたわよ。だから、思ったの。
 見知らぬ不穏な輩に渡して世界がおかしくなっちゃうくらいなら、可愛い子孫にあげた方が良いって。
 もう貴方たちで良いわ!
 先に見つけて来て。あの輩よりも早く。」

「あの輩って……?誰なんだよ。」

「ロトの剣を探している輩がいるのよ。
 良い?そうしないと、元の世界へ帰さないから!
 私が開けないと帰る扉は開かないんだから。」

「え!?」

なんと強引な。
アレンとカインは顔を見合わせた。
話をまとめるとこういう事だろう。

ロトの剣を探している他に者がいる。
そのせいかどうか分からないが、世界に不穏な空気が流れている。
それは世界の変革をもたらすほどのものらしい。
どこで起きていることかは分からないが、その空気をリンダは察知して嫌悪している。
それを防ぐために、自分たちが先にロトの剣を見つけないといけない。
じゃないと許さない、元の世界へも帰さない。

という事だ。

「元の世界に帰れないのは……」
「困る……ね。」

アレンとカインの考えは一致した。
何より帰れないのは嫌だ。

「まぁロトの剣を土産に持って帰るのは悪くないな。
 しょうがねえ、その話乗ったよ。」

アレンはそういうと自分も立ち上がって、
リンダに手を差し伸ばした。
了解したという協定を結ぶ握手をしようとしたが、
いくら待ってもリンダは手を出さなかった。

「握手くらいいいだろうが。」

「何故どこの馬の骨とも分からないものの手を私が掴まないといけないの?
 無礼者。」

「ぶ、無礼者って俺はローレシアの……!」

「まぁまぁまぁ。落ち着いて。」

カインがアレンとリンダの間に割って入って仲立ちをした。

「リンダ様、話は分かりました。
 とても不安になられるお気持ちもわかります。
 きっと探し出してきます。
 それに、僕たち絶対元の世界へ帰らないといけないんです。」

「……絶対?」

「はい。元の世界で僕のお嫁さんが待ってるんで。」

「あ……そう……よね。
 なら、私との約束、守ってよね。」

「わかりました。」

そう言うとリンダは指切りをしようと思ったのか
小指を差し出してきた。
子供っぽいその行為にほほえましく思って
カインはリンダと指切りの約束をした。

そしてさらに、こっそりとカインの耳に何かを耳打ちした。
それを聞くとカインは驚いた声をあげて、首をあわてて横に振った。

「良い?分かったわね。」

そして、リンダは鋭くカインに何かを釘差した。

「おい、何秘密話してんだ。
 おれはどこかの馬の骨で握手も出来ずで、お前たちは秘密と指切りか。
 なーんか納得いかないな。」

隣でアレンがぶーたれている。
何のタレコミをしたのかは、後でカインから聞くことにして今は聞かないことにする。

「それでリンダ様、
 不穏な空気と言うのはどこから感じられますか?
 我々はどこへ向かえばいいでしょうか?」

「そうね、おそらくここから遥か北西の方ね。
 未開の地よ。」

「未開の地……?」

北西と言えば……どの辺りになるだろうか。
世界地図を持ってこればよかった。
今は船もない。この時代の地理にも明るくない。

「お前適当にルーラしてみる?
 北西って言えば、アレフガルドの方角じゃねえか?」

駄目もとでしてみたアレンの提案にカインはうーんと考えて首を振った。

「む、無理だと思う。」

「無理?魔法がか?」

「……。そもそもね、毒の沼地でもそうだったけど、
 何年もの月日の経過で、僕の知ってる地形が変わってる可能性がある。
 だから、思った場所に行ける保証がないよ。」

なるほど、そういう事か。
陸と思って飛んだ先が昔は海だったりすると、自分たちは海の藻屑だ。
行動は慎重に行わねば。

大陸を移動するなら船が欲しいところだが……。
どこかで船を調達できるだろうか?
2人のそんな話し合いにリンダが口をはさんで助言した。

「船?そうね、旅に出るなら、船が良いかもしれないわね。
 海岸寄りに船着き場があるわ。まずは行ってみてはどうかしら?」

「へえ、そうなのか。
 行ってみるか。」

「助言ありがとうございます。」

リンダの助言に礼を言った。
しかし、向かうにしても、今は辺りはまだ暗い。

「朝になってから行くか。
 しょうがないから、今日のところは宿へ行くか。」

アレンの提案にカインが頷いた。
が、リンダは怪訝な顔をした。

「宿?こんな時間から?」

「え、だって、まだ暗いじゃないですか。」

「大体いつもこんなものよ?」

「????」

2人は窓から外を確認した。
やっぱりまだ暗くて夜のままじゃないか。

「あー、貴方がた未来の人だもんね。
 そっかそっか。そういう事か。ごめんなさい、気にしないで。
 まあ、宿くらいあるけど、こんな時間に寝てる人はいないわ。
 皆働いてるわよ?」

リンダは一人納得したようだ。
暗い時間であるが、人々は活動をしているらしい。

「どういうことですか?」

「すぐに分かるわ。
 せいぜい気を付けていきなさいよね。」

「もう、なんなんだ、ツンデレな姫だな。」

なんだか良く分からないが、
宿を取らずに先に進んだ方が良いようだ。
まぁ自分たちもあまりゆっくりしていくつもりはないので、その方が良いと言えば良い。
ならばさっそく船着き場へ向かおう。

「リンダ様、色々貴重なお話をありがとうございます。
 許されるならば、またいつかもっといろいろなお話を伺いたいです。」

「そ、そうね。帰ってきたら、お話してあげても良くてよ
 だから、必ず帰ってきなさいよね。」

「はい。」

何と言うか、多分本当は人懐っこい性格なのだろう。
普段は親密に人と話すこともきっとないのだろう。
見送る表情が少し寂しそうだ。

そんなリンダに一礼をして、
二人は部屋を出た。







- 続く -


2018/02/10

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【後書き】
話が進んでない気がする。。良いんだ、少しずつ前進!
いい加減何が何か伝わったかな。
祝DQ3 30thvv




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