はじまりと終わりの話 1




きっかけは、マリアが見たと言う妙な夢の話だった。

「この間、変な夢を見たのよ。
 オリハルコンを扱える刀鍛冶が現れたから、ロトの剣が作れるんだって言う話よ。」

その思わぬ言葉にアレンとカインは目を丸くした。
あまりにも意外な言葉だったからだ。

刀鍛冶なんて単語がマリアから出てくることも珍しいが、
数年ぶりに聞いたロトの剣なんていう単語が意外過ぎたからだ。

ロトの剣はアレンとカインが旅の間使っていたが、
旅の最中に折れてしまって、今はもうない。
勿論今も忘れることなどできない大事な装備であったが、
旅が終わって数年経つのにその単語を聞くのは予想外だった。

「マリア、どうしたんだ?
 ロトの剣だって?」

アレンは驚いてその真意を尋ねた。
カインも驚いた様子でマリアの返答を待っている。

今、3人は城の公式行事で久しぶりの再会を果たし、
行事を終えて夜に乾杯がてら昔話に花を咲かせていたところだ。

宴もたけなわ、と言うときにふと思い出すようにマリアが語った夢の話はこうだった。

誰だかは分からないが、とある女性が自分たちの世界へおいでよと招いているような夢だ。
その女性が良い話を教えてあげるよと、こそっと教えてくれた秘密話が冒頭の話だった。

「え、でもどこへ行けばいいの?」

他愛ない夢の話だと一笑に付すのも簡単ではあったが、
その女性は気になることを言ったという。

「『これは、これからの未来に関わることだから、
 あなた方には扉を用意するわ。
 その場所は、ムーンブルク城から見える四方を橋に囲まれた場所』って。
 四方を橋に囲まれた場所って……」

ムーンブルクからほど近い橋に囲まれた場所、
その言葉を聞いて、アレンとカインの脳裏には、ある場所が思い出された。

「ラーの鏡があった毒の沼地じゃない?」

「だな!
 って言うか、なんだよ、未来に関わるって。
 ロトの剣がこれからの未来に関わってくるって言うのか?」

前傾姿勢になって勢い込むアレンにマリアの方がたじろいだ。

「わ、分からないわよ。」

マリアは慌てて首を振った。

「マリア、どうしてこの夢の話黙ってたの?」

「黙って……って、こんな他愛ない話、してもしょうがないじゃない。
 ごめんなさい、気にしないで。ただの夢なんだから。」

カインにも問われて、マリアはバツが悪そうな様子だった。
まさかこんなに食いついてくると思わなかった。
先ほどからしてる他愛ない昔話の流れで、ふと思い出した夢の話をしてしまったのだ。

だけど、話したことをマリアは少し後悔していた。
こんな話、アレンとカインにとっては『他愛ない話』で済むはずがない。
2人にとって、とてもとても大事な武器だったんだから。

「夢でも何でもいいさ。当たって砕けろだ。
 ロトの剣が復活するんならそれに越したことないじゃねえか。
 なあ、カイン。」

「うん、それはそうだね。復活させることが出来るなら、
 やれることはやってみたいよね。」

ほら見たことか。
2人はすっかりやる気になっている。

「駄目よ、そんな場所へ行ってる暇なんてないわよ。
 明日からだって忙しいんだから。アレンだってそうでしょう?」

「ん?まぁちょっとくらい大丈夫だろう。
 なら、マリアはここにいてくれよ。ラーの鏡の沼地を見に行くくらい俺とカインで十分だ。」

「そうだね。マリアはここにいてよ。
 すぐに戻るからさ。」

失敗した。
2人をとどめるために、忙しくて行けないと言ったが、
そしたら2人だけで行ってしまうと言う。

「待って、待ってよ!二人で行くって言うの!?」

沼地はさほど遠くない。日帰りも可能な距離だ。
今更危険もないし、そもそも危険なんてあったところで、この2人にかかれば、何ほどのものでもない。
でもマリアは妙に胸騒ぎがした。

2人は、
カインは、ちゃんと帰ってこられるのか?
カインが遠くへ行ってしまう。

アレンと一緒なら、何を心配することがあろうか、と思う気持ちもあるのだが、どうしても不安がある。
心の片隅で、いつかカインはアレンと旅に出てしまうのではないのかどと思っていたが、
いきなりそれが本当のことになった。

「必ず戻ってくるから、ね。」

カインは穏やかそうに安心させるように、いつものように笑った。
それは逆に、カインは絶対行きたいという意思表示だ。
止められないだろう。

マリアはふうっと息を吐いた。
そうだ、自分の不安の気持ちはきっとあまりに子供じみている。
他愛ない夢、だからこそ心配するようなことはない。
それに、この2人なんだから。

「分かったわ。
 気を付けて。カイン。アレンも。」

「うん。」
「おう。行ってくるな。」

マリアは、二人を見送ることにした。


+++

2人がたどり着いた4つの橋に囲まれた毒の沼地。
はたしてそこに、『入り口』はあった。

「ううーん、懐かしい場所だけど、
 毒の瘴気はまだ残っているようだね。」

カインはあからさまに顔をしかめてそう言った。

「だなあ。本来はこんな場所に入るなんて正気の沙汰じゃねえが。」

かつてラーの鏡を見つけたあの時以来である。
そしてあの時同様、目的があれば毒の沼地にも入らねばならない、時もある。
目をこらすと、毒の沼地の中に不自然な渦巻きが見られる。

「きっとあれだよな。毒の瘴気で真っ黒で良く見えねえけど、あの旅の扉か。」

「そうだろうね。
 マリアの言っていた話、本当だったんだ。」

なんのために、マリアがそんな夢を見たのか。
何か意図があるんだろうが、その意図とは?
謎が一層深まってしまった。

「なんだっけ。知らない女性が呼んでるって?」

「知らない女性って誰なんだろう。ロトの剣を知ってる女性って?」

そんなお告げのようなことができる不思議な能力がある女性とは?

「うーん。精霊ルビス様とか?」

アレンにはそれくらいしか思いつかない。
その名前を聞いてカインはおお……と唸った。確かにルビス様ならそれくらいできるんだろう。
が、それでわざわざマリアの夢でこんなお告げをくだすなんて、違和感はぬぐえない。

「だって、マリアロトの剣は一度だって装備してないもんなー。
 俺かお前に言ってくれたらいいのになあ。」

「確かに、なんでマリアなんだろうねえ?」

沼地の前でひとしきり考え込む二人であるが、答えは見つからるはずもない。

「とりあえず行ってみるか。
 その前に俺クレハに連絡入れとくわ。」

そういってアレンは付近の伝書鳩を探し始めた。
その様子にカインもうなずいて、自分もマリアに連絡を入れておくことにした。

『入り口』が本当にあったと。
様子を見に行くから、戻りは少し遅くなるが、心配はしないでと。

二羽の伝書鳩を離すと、アレンは意を決して毒の沼地に足を踏み入れた。
毒の瘴気がアレンの身体を襲う。
確かに少々ダメージはあるが、鍛え上げられたアレンの肉体なら、
これくらいなら大丈夫だと思った。

カインも後に続いた。

ずぶずぶと無言で歩を進める2人。
そういえば、とアレンはカインの方を振り返った。

「お前あれできないんだっけ?毒とか効かなくなるやつ。」

「あ、トラマナ?ごめん、ちょっと今は無理だよ。」

「ちぇ……そっかー。」

魔法が使えないカインと言うのも中々不便なものである。
まぁ、鍛え上げた体があれば、これくらい突破できる。
さっさと抜けてしまおう。

アレンはガッガっと歩を進めた。
旅の扉があるのは、ちょうど中間あたりだ。

「よし、とっとと行こうぜカイン。」

「う、うん。アレンちょっと待ってよ。歩くの早いなあ。」

慌ててアレンのあとを追うカインは
足元の毒から目を離して、ふとアレンが飛び込んだ旅の扉を見上げた。
遅れまいと自分も手を伸ばしたが、旅の扉に飛び込みつつ、
おや?と気づいたことがあった。

沼に囲まれてよく見えなかったが、
いつもの青い旅の扉ではなくて、この旅の扉は赤い光を放っていたのだ。


+++



「うわっ!?
 ぶはっ、ぐはっ!」

一瞬海にでも落ちたかとアレンは思わずその場でもがいた。
そこは水の中で息が出来なかったのだ。
何とか水面に出て周りを見渡すと、そこは真っ暗だった。

海ではない。
そうだ、毒の沼地だここは。
どうも来た場所より深みになっているようで、足がつかない。
こんな毒の沼地で溺れたら、さすがに事だぞとアレンは気合を入れた。

そういえばカインは?
あいつあんまり泳ぐの得意じゃなかったなと周りを見渡す。

案の定、カインはようやくと言った様子で水面に顔を出した。

「おい、大丈夫か!?」

アレンが手を差す伸ばすと、カインはその手を取って必死の形相でアレンの方を向いた。

「アレン!」

「ん?」

アレンの手を光が伝ってくる。カインの体から放たれている光だ。

「んん??」

光りが体を覆う頃には、すっかり毒のダメージが楽になった。
どうやらトラマナのようだった。

「お?」

なんだ、トラマナ出来るんじゃないか。
必死になったせいでカインの魔法のストッパーが外れたのか。

まぁおかげで楽になった。

先ほどまで沼の瘴気は体の自由を奪うかのようにまとわりついていたのに、
今はすっかり澄んだ湖を泳ぐかのような抵抗感だ。
よし、一気に沼を抜けてしまおう。

アレンはカインを引っ張って泳いで岸までたどり着いた。

「はぁ、はぁ、びっくりしたーーー。」

沼から上がると二人はぜえぜえと一息ついた。
いきなりとんだ歓迎である。
並の人間なら死んでてもおかしくないトラップのお出ましだ。

「ったく、なんなんだよここは。
 ん?」

見ると、カインが自分の毒の爛れを癒している。
ホイミだ。

「おお、サンキューな。
 お前、なんだ魔法使えるじゃないか。」

「あ、うん、今は必死だったせいかトラマナ使えたよ。
 せっかくだからホイミも。」

毒で爛れていた皮膚が癒されていく。
ダメージはおかげで全快だ。

しかし、びしょ濡れになってしまった衣服はどうにもならない。

「ここどこだよ?
 近くの町で宿にでも行きたいな。」

「そうだね。ムーンブルクからは随分離れちゃったのかなあ?」

そういって周りを見渡すが、どうも今は夜のようで視界が悪い。
元の場所は4つの橋に囲まれた沼地であったが、
今も沼地は沼地であるが、橋は4つも見当たらない。
大体沼だって、こんな深みではなかったはずだ。

一体我々はどこへ来てしまったのだろうか?

「とりあえずちょっと歩くか。
 わざわざ俺たちを招待してくれた奴にあってみたいんだがな」

「そうだね。」

ここで野宿をしても良かったが、体力的にまだまだ元気だし
2人は町を探すことにした。

歩いているうちに朝にもなるだろうと思ったのだ。

しばらく歩くと見知らぬ城が遠目に見えた。
どこの国だろうか?

世界中を旅していたアレンとカインである。
近くへ行けばどこの国かは当然分かるだろうと思ったが、
どう見ても初めて見る城だった。

「……?」

夜ではあるが、所々灯りがともされていた。
おかげで城の様子が見て取れる。城は少し古びていてひっそりとした様子である。

「どこだよここ。ローレシアでもサマルトリアでもないし、もちろんデルコンダルでもラダトームでもないぞ。
 辺境の小国か?」

世界は広く自分たちがまだ知らない国があったんだろうかとアレンは思った。
だがカインも不思議そうに注意深く城を観察している。

「夜にいきなり行くのも失礼になるかな。
 朝を待つか?」

アレンがそう提案すると、どこからか声がかかった。

「その必要はないわ。」

「え?」

アレンとカインはその声に振り返った。
声はなんと空から聞こえてきた。

「わ……」

声の聞こえた方を見上げて、
2人は目を丸くした。

声の主は小さな少女。
奇麗な金色の髪をなびかせて、少女は宙に浮かんでいた。

「だ、誰だ!?」

思わず尋ねた声に、少女はにこりともせず答えた。

「私の名は、ムーンブルクの王女リンダ」

「!?」

少女の言葉に二人は返す言葉もなく
立ち尽くした。



- 続く -


2018/01/28

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【後書き】
久しぶりにアレカイ書いてみようと思います!
アレカイ2人旅。まだしばらくは続くと思います。SF(すこし不思議)っぽい話になれば良いと思うのですが。




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