アレンは語った。
自分たちが何者であるかを。
勇者アレルの子孫であり、はるか未来の世界からやってきたのだと。
かつて王者の剣を使って世界を救ったのだとも言った。
そして現在の旅の目的も語った。
粛々と語るアレンの言葉に、
エナや仲間たちは怪訝の顔をしている。
「し、子孫て。
馬鹿にするのもいい加減にして!
ねえ皆!?」
エナは鼻で笑って一蹴しようとする。
だが、隣のクリスは神妙な顔をしている。
勇者アレルも何か思うことがあるようで、
真顔のままだ。
「ねえ、アレル、真に受けないで。
あなた人がいいから、なんでもすぐ信用しちゃう。
そんな訳ないじゃない?」
勇者アレルに助言をしようとするが、
仲間のジェフがそれを遮る。
「でもエナ、馬鹿の俺でもわかるぞ。
アレンがあれだけ軽々と王者の剣を使いこなしていたことを思い出せ。」
「それがどうしたっていうの?
ただの武器じゃない。装備できるものとできないものがあるのは
当り前じゃない?」
「力自慢の俺やお前が、
あの剣は持ち上げることすらできなかっただろう?
あれは特別な剣なのさ。」
そういわれて、エナは少々憮然とする。
「私も……あなたたちが勇者だけが使う魔法を使ったことも、
勇者だけが使える剣を使ったことも、この目で見たし、忘れていないわ。
それに、アレンは私たちのアレルにとても実際よく似ているし。
不思議だと思っていたけど、もしそういう理由だとすれば、納得もいく。」
クリスはどうやらアレンの話を信じてくれたようだ。
「結局クリスの仮説のとおりだったな。」
何か予感でもしていたのか、クリスはこの事を事前に予測していたようだ。
勇者アレルとジェフは聡明な賢者の考察に恐れ入っていた。
「って納得、いく!?いくかなあ!?
ただの偶然かもしれないわよ!?」
エナはまだ納得しかねている様子だ。
「最初からお前たちは『時を超えて』やってきたのだと
言っていたから。今作った作り話でもないのだろう。」
勇者アレルはどうやら話を信じてくれたようだ。
「信じてくれてありがとう。
そう、それで、話が戻るんだけど、
その王者の剣なんだ。」
正体を明かしたところで、アレンは本題に入ろうとした。
元の世界に戻るために、王者の剣がいる。
その説明をすると、勇者アレルな神妙に頷いた。
「ああ、そこまで言うなら分かった。」
「えっ」
「俺たちが魔王ゾーマを倒すまで、待っててくれるなら
王者の剣を渡してやってもかまわない。」
やった。
やっと王者の剣を貸してもらえることになった。
「ありがとう!
ちょっと貸してもらえたら、リンダに見せたらすぐ絶対に返すから!
俺を信じてくれ。」
「ああ、わかった。
どうやら相当切実に元の世界に帰りたいらしいしな。」
勇者アレルは苦笑気味に頷いた。
本当にアレルは人が良いなとアレンは思った。
「あんたたち、そもそも、そんなに帰りたいんだったら、
なんでこの世界に来たのよ?」
「……それは、その、ロトの……じゃなくて王者の剣が
俺達にとっても大事で、大切な剣で。」
「そんなに大切なのか。すぐに返してもらって良いのか?
持って帰るか?」
「えっ、それはダメだ!
アレルが持ってないとダメなんだ!
アレル、お前人が良すぎるぞ!」
王者の剣を安易に手放そうかとする勇者アレルに
アレンがぶんぶんと首を横に振った。
「せっかくの好意に何怒ってんの。変なの。訳わかんない。」
エナはずっと憮然としている。
確かに、勇者アレルのせっかくの好意を無碍にするアレンの意図が
さっぱり意味不明なんだろう。
「エナさん、皆さん、
そしてアレルさま、ありがとうございます。
今はできたての武器ですけど、
僕らが、その剣を使ったことがあるという意味、
アレンが先ほど言った言葉とあわせて、
どうかご理解ください。」
ずっと様子を見守っていたカインが口を開いた。
その言葉に、ようやく勇者アレルも理解したようだった。
まさかこれから何度も世界を救うほどの武器とまでは
思わなかったかもしれないが。
話が無事についた。
勇者アレルは戦いの後にもう一度会ってくれると約束してくれた。
そして、いよいよ今度こそ勇者アレルたちは最後の戦いに備えて
次なる目的地へ向かうことになった。
「アレル、必勝!
帰ってくるの、待ってるぜ!」
アレンは手を大きく振って、
一行にエールを送った。
勇者アレルはその様子に苦笑しつつ笑った。
「まぁ、お前のいう事が本当なら、
大丈夫だろう。」
「おう大丈夫だ!信用しろ!」
「ちっとも信用できないし、待ってなくて良いわよ。
とっとと自分の世界に帰りなさいよ。」
「だから、帰るのに王者の剣がいるのよ、エナ……。」
「ええ?」
何だかもう一つ理解しきれてないエナをクリスが再度説明していた。
「気を付けてね。
何ももう僕らが出来ることないけど、
無事を心から祈っているから。」
戦地へ向かう仲間へ何もできないのはつらいものだなと思いつつも、
勝利を知っているからこそ、
アレンとカインは一行を笑顔で見送った。
背中が見えなくなるまで見送って、
アレンはようやく安堵の息を吐いた。
「は〜〜。
なんだかかんだか、色々あったが、
やったな。あとは待ってるだけで良いぜカイン。」
「そうだねー。良かった……。」
アレンが笑顔を見せると、
カインもふわっと笑みを浮かべた。
「ほら、帰ろうぜ。
あとは吉報を待ってれば良いんだ。
はー、肩の荷が下りたなあ。」
カインの腕を取ってみると、火照ったように熱い。
アレンはふと真顔になったが、特に何も言わず、
その手を引いて先いた宿に戻った。
+++
「ゴホッゲホッ……ゲホッ……」
勇者一行の前では何事も無さそうな雰囲気を装っていたが、
宿に帰ってきてから、カインは具合が悪そうで
ベッドから起き上がれないでいた。
「大丈夫か?
咳が止まらねえな。
無茶するからだぞ。」
「は、はぁ……。ごめん。
でも、良かった、じゃない。
全部、うまくいった。」
カインは苦し気に咳き込みながらも
満足げな表情だ。
「まぁな。
良かった。
だから、あとは待つだけだ。
結果がどうなるかは、もう俺たち知ってるもんな。
こんな余裕のミッションはねえ。
お前もゆっくり寝てろ。」
「そうだね。」
にやりと笑ったアレンに、
カインも頷いた。
そして仰向きになって目をつぶって、アレンに聞いた。
「アレンは、その間何をして待ってるの?」
あとは待つだけの身。
せっかくの機会だから、この世界をもっと知りたいが、
一人でうろうろするのは危険だし、
カインを放っても行けない。
「そうだなあ、あとどれくらいかかるんだっけか。
まぁ、剣の稽古でもしてるさ。」
「そっか……。」
「元気になったら、お前俺の相手を……。」
剣の相手をしてくれ、と言おうとしてアレンはやめた。
話相手はもう眠っていた。
「なんだ、話の途中でもう寝たのかよ。」
よっぽど疲れてたんだなあとため息をついて、
アレンは起さないように静かに席を立った。
+++
それから3日経った。
アレンは焦っていた。
世界は変わりない、勇者アレルたちは今も戦っているのだろう。
何も変わりない。
部屋の様子もずっと変わりない。
そう、カインはずっとあれから眠ったままだった。
なんで目を覚まさないんだ?
最初の日こそ、熱があるから額を冷やしたりなどしていたが、
今はさほど熱さもない。
熱がなくなって、逆に生気もなくなったかのようにも感じた。
うんともすんとも言わないのだ。
アレンは不安になってきた。
ひょっとして、起きないのじゃないか?
って、そんな馬鹿なことがあるか!
慌てて、町の医者を呼んできたが、
疲れて寝てるだけじゃないかと匙を投げられた。
なんてやぶ医者だ!
アレンは憤慨した。
くそう、医者といえば、そうだ、カインを連れてこればいいんだ。
って、だからその本人が目の前で寝てんじゃねえか!
アレンはクルクルと一人で百面相のように慌てていた。
あと1日待ってみよう。
2日待ってみよう。
そうやって待ってみてもカインは目を覚まさなかった。
『これ、やばいだろう。
もう5日になる。何も飯も食ってない。』
まさかこのまま起きないなんて事ないよな。
あんなに元の世界に帰るんだって、
マリアの元に帰るって言ってたもんな。
「お前の頑張りもあって、
あとは待つだけなんだぞ?
なのに、そんなのってないだろ?」
そうだよ、俺はカインを連れて帰らないとダメなんだ。
「起きろ、カイン起きろよ!」
アレンはやや乱暴にカインの肩を揺さぶった。
それでも起きない。
アレンはさーっと蒼白になった。
もうこれは普通ではない。
もしかして、このまま……。
「起きろって。
ダメだって、ダメだってそんなの。」
再度肩をゆすってみてもやはり何も変わりない。
アレンは完全にうろたえていた。
どうしたらいい?
こういう時、どうすればいい?
仲間に相談したい。
マリアに、そうだこういう時はマリアに相談すれば……。
そんなことを考えて、アレンは天を仰いだ。
『あーもう、いないんだよ!
マリアここにいないんだよ!』
いつも頼もしいマリアはここにいない。
打つ手なしとうなだれたアレンの後ろから声がした。
「どうしたの?」
「あっ、え!?
マリア!?」
背後から急にマリアの声がした、気がした。
「違っ……。」
慌てて振り返ったが、
そこにいたのはマリアではなかった。
マリアに似ていたが、マリアではなかった。
アレンは自分の目をこすった。
ああ、そうだ。
この人物は……知っている。
「リ、リンダ……。」
そう、この世界のムーンブルクの王女リンダだ。
リンダは今ルーラか何かで突然やってきたようで、
部屋の様子を興味深そうに見まわしている。
「なにこれ?食事中だった?」
アレンが片付けないまま散らかしたままの食器類を見て不思議そうにしている。
「は?や、あとでやろうと放ったらかしなだけ。」
「すごい量。何人で食事してるの?」
「俺一人だよ!こいつ寝てんだから。
ってなんだよ、そんな事言いに来たのかよ!?」
王女たる身分のリンダはこんなに散らかった部屋は見たことがなかったようで、
そこに目を丸くしていたが、今はそんなことはどうでもよかった。
「ああ、いえ。あなたが、なんだかすごく狼狽してたから、
何事かあったかしらと思ってきてみたの。」
「そ、……んなこと出来んのかよ。
って俺たちの行動って筒抜けだったのか!?」
「ええ、まあ。」
こともなげに頷くリンダにアレンは唖然としつつ、
しかし納得した。
「さすがムーンブルクの王女だな。」
魔法に疎いアレンには何もわからないが、
相手がムーンブルクの王女だというのなら、
何が出来ても不思議はなかった。
「それで納得しちゃうんだ。」
リンダが拍子抜けしたようだった。
「来る予定はなかったのよ。
でもあなたあんまりうろたえてるから、どうしたのかって気になって。
で、どうしたの?」
「どうしたのって、見てもらったら分かるだろう。
カインが起きないんだ。」
沈痛な面持ちのアレンの顔を覗き込んでから、
リンダは眠っているカインの顔を見下ろした。
「ええ、寝てるわね。」
リンダも医者と同じことを言う。
「寝てるって、もう5日になるんだぞ!
こんなの変だろ!?
こいつ体悪くしてるんだ、このまま目を覚まさなかったら……。」
アレンの悲壮な様子に、リンダはもう一度カインの方を向いた。
「でも、寝てるっていうのは本当よ。
ラリホーって知ってる?多分それを自分にかけてる。」
「えっ?」
ちょっと予想していなかった言葉だった。
「あなた、この人に寝てろとか命令したんじゃないの?」
「……あ、あーー!!」
思い当たる会話があった。
確かにゆっくり寝てろと言った。
なんだ、こいつ馬鹿正直にゆっくり寝てるだけかー!
アレンは脱力した。
「で、でも本当かよ。
5日だぞ。どうやったら起きるんだ?」
「うーん、そうね。術者が自分だもんね。
ラリホーは普通しばらくしたら解けるもんだから、ちょっとおかしいわね。
そのうち起きるんだと思うけど、その体力がないとしたら、起きないかもね。」
「ほら駄目じゃん!」
起きる体力がない、自分で魔法を解けないのなら、
睡眠魔法は通常の睡眠より、やっかいになる。
「……しょうがないわね、
無理やりにでも、起こしてほしい?」
「えっ。できるのか?」
さすがムーンブルクの王女だ!
って、なんでもかんでもそれで片付けて良いのかと思うが、
目覚めの魔法というのがあるらしい。
「まぁ……それくらい良いわよ。」
そういうとリンダはカインの目の前に手をかざして一言唱えた。
「ザメハ!」
アレンが初めて聞く魔法だった。
ただ、リンダが唱えると、直後にゆっくりとカインが目を開けた。
「お、起きたーーーー!!」
アレンは思わずカインに抱き着いた。
「……わっ!どうしたの、アレン……!
っ……げほっ」
「あ、悪い。力入れすぎた。」
アレンは慌ててカインを横たわらせた。
何度か咳き込んでいたが、
カインは目の前の存在にびっくりしたようだった。
「え……リ、リンダ様……何で?」
「ほら、ちゃんと起きたわよ?」
リンダは得意げな様子だ。
カインの方はなぜここにリンダがいるのか驚いている。
「ど、どうして、ここに?」
「お前が起きないから、俺がうろたえていたら、
起こしに来てくれた。」
「えっ、えっ……?何?」
アレンの説明がさっぱり理解できないようで、
カインが目を丸くしている。
「だから、お前が全然起きないからだろー!」
「そ、そんなに寝てた?
アレンが、ゆっくり寝てろって言うから、
睡眠魔法掛けてみたんだけど。」
どうやらラリホーを使った方が
深い眠りに入って体力回復ができるらしかった。
カインがラリホーを使えた覚えはないから、全く思いつきもしなかった。
「ああ、まさに俺の言った通りだな?
ほんと右往左往してた俺が馬鹿みたいだよ」
アレンはふてくされて横を向いた。
「??」
カインはまだ良く分からない。
仕方なくリンダが助け船を出した。
「あなた、5日も寝てたんだって。
すごい心配してたわよ、彼。」
「え……あ、そんなに?
ごめん。アレン心配かけて、ごめん。」
「まぁ良いんだけどさ。
医者とか呼んだ俺はなんだったんだ。
先に作戦だと言っとけよ。」
カインはよほどアレンに心配をかけたのだと思って、
申し訳なく謝罪した。
「あの時は、起きてるのが辛くなってて……。
説明とかできなくてごめんなさい。」
「……もういいよ。
今は、少し良くなったのか?」
素直に謝ってくるカインに、アレンの方が折れた。
「うん、平気。」
平気というが、その笑顔は少し弱弱しい。
「そっか……。」
まだあんまり顔色も良くないし、
無理やり起したりせず、まだ寝ててもらっても良かった。
勇者たちもまだ帰ってこないし。
アレンは髪をぐしゃぐしゃかいた。
「それよりリンダ様、、どうしてここに?」
「こいつ、さすがムーンブルクの王女だぜ。
目覚めの魔法唱えるだけじゃなくて、急に飛んでくるし、
俺たちの行動筒抜けだったらしいぜ。」
「えっ。」
筒抜け、筒抜け……という事は。
「ロトの剣、手に入らなかったようね?」
「……。」
全て知られているという事だ。
「そうだ、無理だった。」
「馬鹿よね。手に入れるチャンスは何度もあったんじゃないの?」
言われてみれば、確かに手に入れるチャンスは一度といわず何度かあった。
店頭に売り出されている王者の剣を購入してしまうという事もできただろう。
だが、その道はアレン達には選択できなかった。
「あんたなんて、剣を手にして何だか戦ってたじゃない。」
実際にアレンはアレルの王者の剣を手に取って魔物と戦った一幕すらあった。
「あったよ。でもあれは俺が持って行っていい剣じゃないんだ。
でもアレルと約束したから、もうしばらくしたら貸してもらえる。
そしたらそれをリンダに持って行ってやるから……。」
「別に、要らないわよ。」
「は?」
今まで、ロトの剣を手に入れて、それをリンダの元に持っていったら
元の世界に帰れるんだと思っていた。
だからあんな大冒険だってしたし、すわ泥棒かと怪しまれられながらも
勇者一行に接触していったのだ。
「要らないってどういうことだよ。」
「私がそんな武器欲しがってもしょうがないじゃない。
それより、どうなの、その勇者アレルって一行は?」
「え?勇者アレル一行?」
アレンは勇者アレルとその仲間たちのことを思い出した。
誠実で懐の広い勇者アレル、寡黙で信頼感の篤い戦士ジェフ、
特攻隊長で切れ味抜群の武道家エナ、そして聡明で時に激情的な一面を持つ賢者クリス。
「最強の勇者パーティだと思うぜ。
もうすぐ、きっとこの闇を晴らしてくれるさ。」
「そうしたら、今度はそのアレルが、この世界を征服しようとするんじゃないの?」
「な、なに言うんだ!?」
リンダは思わぬことを言った。
「だから、魔王亡き後は、そのアレルがこの世界を好きにするんじゃないのかって。
そのすごい武器を使って!
私見たんだから、未来のムーンブルクは滅亡しちゃうの!
滅んじゃうのよ!」
「そんなこと、ないですよ。
アレル様は関係ない。」
アレンとリンダの会話に、カインが割って入った。
いつの間にかベッドに体を起こしていた。
「カイン?」
「リンダ様、心配、しないで。
違うから。」
カインは何となくリンダが不安に思っていることが分かった。
「だって、リンダ様の大事なムーンブルクは、ずっとずっと……。」
リンダは自国ムーンブルクが、 どこの国とも同盟を持たないムーンブルクが
新勢力などに脅かされることを恐れ、
魔王ゾーマと同じくらい勇者一行を恐れていたのだ。
「ずっと、何?」
「今も慈しむように大切に、大事に、妻のマリアが守っています。」
「でも、言ってたじゃない。
あなた達は勇者の子孫だって。
アレンのローレシアはムーンブルクの同盟国なんだって言ったじゃない?
ムーンブルクは誇り高いただ唯一の魔法国家だったのに。
世界はどこかで選択を誤ったのよ。」
その同盟を不可侵のムーンブルクを侵されたとでも思っただろうか。
「それは……!」
決して略奪的な意味などないとアレンが説明を補足しようとしたが、カインが手で遮った。
「リンダ様、あなたは本当にすごい魔法使いだ。
それにとても誇り高い王女さまだ。
だから、本当にムーンブルクの未来を見たんですよね。」
「そ、そうよ!
ムーンブルクは滅ぼされてしまうんでしょう。
私たちはだれからも知られていない国だったのに、
同盟なんて組んだから、標的にされてしまった!」
ローレシア、サマルトリア、ムーンブルクの3国のロトの絆の同盟は
今からはるか先の勇者アレフの子供たちによる話だ。
今すぐ起こることではない。
でもリンダは見てしまった。
その先にあるものは、大挙して魔物の群れが襲い掛かってきて、
愛するムーンブルクが滅亡してしまう未来を。
震えるように語りだすリンダにアレンも少し合点がいった。
「その原点が、ここにあると思ったのか。」
ロトの剣を使って勇者アレルが魔王を討たなければ、
その未来は来ないのではないかと。
「リンダ様、怖い未来を見てしまったんですね。
でも大丈夫ですよ。
ムーンブルクは決して滅んでいないし、途切れもしない。
マリアが立ち上がってあなたから続く糸をずっと紡いでいます」
「……!」
「僕が、保証します。」
はっきりと言うその言葉を聞いてリンダは目を真っ赤にした。
リンダは天才ではあるが、まだ年幼い少女なのだ。
「そーだそーだ。ムーンブルクのことは俺も良く知ってるよ。
それに勇者アレルを魔王と一緒にするとか、どうなってんだ。」
「だって、恐ろしい剣を手に入れたんでしょう?」
魔法使いから見える武器というのは、
よほど不気味で、得体のしれないもの、なんだろうか。
最強の武器を手にした勇者は、魔王に等しい脅威に感じたようだ。
「恐ろしいわけあるか。
あったけえ武器なんだぜえ。」
「??あったかい?」
「これから何年も何百年も年を経て、
この世界だけじゃなくて、何度も世界を救ってくれるんだ。
俺も……。俺もこいつも命を救われてる。
そりゃあ、大事で大事で他には代えられない武器さ。」
「そんな大事な剣、持って帰らなくて良いの?」
「だかーら、持って帰ったら、
この先の世界が救われなくなるだろー?」
「ああ……、ああ、そう……なの。」
「ったく天才なのに、発想が足りねえなあ。」
「何よ。」
リンダは少し不貞腐れたように横を向いた。
でも少し吹っ切れたようで、ふっと笑った。
「それと、カイン、私との約束はどうなの?」
「えっ……。」
「約束?約束ってなんだ?」
そういえば、最初会った時こそこそと何か言ってたなと思いだす。
「ごめんなさい。僕、妻がいるので、
コイビトにはなれません。」
「ぶへっ。こいびと!?」
こいつら何を言いあってんだかと思う。
「良いじゃない、王族は何人か側室を持つものじゃない?」
「うおう、あんた何を言ってんだ。」
「ごめんなさい。それも無理です。」
苦笑気味に申し訳なさそうにカインが言った。
「なんで、なんで、あなた達帰るんでしょう?
私また一人になっちゃうじゃない!」
リンダの言う事を疑わないで聞いてくれた人は他にいなかった。
実の両親だって信用してくれない。
リンダはいつも孤立感を感じていた。
「あなた達みたいな友達いないもの。」
「そうそれ。」
アレンは、リンダを指さした。
「あんたは孤独を深めすぎて耳年増になってんだよ。
友達なら、いくらでもやってならあ。なあ、カイン。」
「うんアレン、もちろん喜んで。」
リンダはアレンとカインの顔を交互に見た。
「俺たちのことずっと見てたんだろ?
仲間って悪くないだろ?
あんた同盟なんていらないって突っぱねてたけど、
俺たちその同盟がもとに生まれた縁で仲間になったんだぜ。」
なー、とアレンはカインの肩を組んだ。
「子どもっぽいわ」
「あん?」
「友達なんて子どもっぽいって言ってるの。
良いわよ、どうせあなた達もう帰りたいんでしょう?
友達にだってなれないじゃない。」
リンダはアレンの申し出に首を振った。
「帰り……って、結局ロトの剣は?」
「要らないって言ってるじゃない。
手に負えない一行がいるから、その子孫にあなた達に
その最強の武器を奪ってきてほしいって思っただけ。
もう要らないわよ。」
「え、ちょ、まじかよ。」
本気で何だったんだあの大冒険は……と思いつつ、
全てを見たからこそリンダが理解してくれたのかと思う。
「アレルたちも悪い奴らじゃないみたいだしね。」
「おう。そうだよ。やっとわかってくれたか。」
結局リンダにとってよそ者の勇者アレルを怪しんでいたのだろう。
「帰してあげるわよ。」
リンダは二人に向き合った。
すっきりした表情をしている。不安は解消されたようだ。
「リンダ様……」
「本当か?」
「本当よ。あなた達の二人旅なかなか見ごたえあったわよ。」
「本当にみられてたんだな……。」
そこは複雑な思いがある。
「リンダ様、友達にって言ったのは本当ですよ?」
「ふふ、カイン。そうねー。
またマリアの夢を介して、会いに行くかもしれないわよ。」
リンダがそんなことを言った。
「でもさ、今俺たち帰っちゃったら、
勇者アレルと約束してんのに。」
「めっちゃ嘘つきになっちゃうね。」
「やばくね?」
今でも大概迷惑かけまくってるのに。
「何?帰りたくないの?
私ももう帰るし、気が変わっちゃうわよ。」
時期を延ばそうとすると
今度はリンダがへそを曲げるようだ。
「ええっ、待ってくれよ!
帰る、帰る!」
「じゃあ、準備できたらそこに立って。
元の世界に帰る扉を開けてるのは1時間だけよ。」
「わ、分かった!」
アレンは慌てて宿の滞在費を清算して旅装束をまとめた。
カインもベッドから起き上がって、
アレンが散らかした食器類を片付け始めた。
準備ができると、
別れを惜しむ様子もなく、
リンダはにっと余裕の笑みを浮かべて、何かの魔法を唱えた。
+++
「帰ってきた……?」
行きと同じく出入口は毒の沼地にあった。
「この足の着く感じ。見覚えのある景色。
そしてまばゆいばかりの太陽の光、
帰ってきたーーー!!!」
沼地の中で大喜びではしゃいでいるアレンはきっと周りの人が見たら
怪しさ満点だっただろう。
「ゲホっ、ケホ……」
アレンは隣にしゃがみこんでいるカインに手を差し伸ばした。
「大丈夫か?」
「うん、この毒の瘴気は何度経験しても慣れないね。」
青白い顔をしているのは毒のせいばかりでもないだろう。
そういえばこいつ5日間寝込んでて、何も食ってないんだった。
「結局アレル様達にとったら、僕らは
本当一陣の迷惑な風だったね。」
「まったくだな。でもエナあたりは
ほら見たことかって思ってそうだ。」
「確かに。」
「本当、とんだ迷惑ものだったなあ。はは。
いや、笑い事じゃないか」
そんな雑談をしつつ、アレンは帰路をどうするか迷った。
もうカインにルーラは頼めないし。
歩いていくしかない。
「カイン、肩かせよ。」
「……ありがとう。」
ムーンブルクまで歩く体力が戻っていないであろうカインに
アレンは手を貸して立ち上がらせて、肩を貸そうとした。
カインも自分の状態を認識してるようで、素直にそれに従った。
「アレン、ごめんね」
「全然。なんも。」
見知った道を帰るだけだ。
心は逸っているし、何も苦なんて感じない。
そう思った時、目の前に何かまぶしい光が飛び込んできた。
「!?」
光が消えゆくと、その中から、
懐かしい見知った顔が現れた。
「マ、マリ……。」
「カイン……!!!」
光の中から現れたのはマリアだった。
マリアはすぐさま手を伸ばしてカインに飛びついて抱き着こうとした。
「わっ……ちょっ、マリア!?」
そのマリアの勢いに耐えられず、
ふらついて毒の沼地に再び倒れこみそうになったカインを
アレンが横から支えた。
「ほら、しっかり立ってろ。
お前の姫のお出ましだろ。」
アレンはこそっとカインに耳打ちした。
「う、うん……。」
そう言われて、カインは足を踏ん張った。
「カイン、カイン!!無事で良かった!」
「マリアだ……。マリアだね。」
カインはまじまじとマリアの顔を見つめた。
今度は、本物だ。
本物のマリアだ。やっとマリアに会えた。
「良かった……。」
本当に、帰ってきたんだ。
そう実感して、カインもマリアの腰に手をまわした。
「ただいま。」
カインはようやく心から安堵することが出来た。
「おかえりなさい。ずっと待ってたわ!」
「心配かけてごめんね。」
一連のやり取りをする二人を見て、
無事帰ってこれて良かったと思いつつも、隣で憮然と見守るアレン。
「おい、マリア。
お前の大事な仲間はここにもいるんだぜ?
二人の世界じゃなくて、三人の世界にしてくれよ。」
放っておくといつまでも二人の世界を満喫しそうなカインとマリアに
文句を言うアレンであった。
「あ、アレン。ごめんなさい。
アレンも、無事おかえりなさい。クレハさんが城で待ってるわよ。」
「おー。そうか。
マリア、ルーラして来たのか?」
「ええ、そうよ。あなた達の気配を感じたから
飛んできちゃった。」
今帰ってきたばかりなのに、
飛んできたってことはよっぽど神経を研ぎ澄まして
待ち続けていたのだろう。
「さっすが、こっちの姫も天才だあ。」
「?」
こっちの、とは何かと思ったが、
積もる話は戻ってからゆっくり話そう。
「ロトの剣は手に入ったの?」
「ああ、それはダメだったよ。」
「そうなの。」
マリアはまだカインと話したそうにしているが、
そういえば、カインは立ってるのもやっとなんだった。
あんまりここで長話するのは正直きついんだろう。
「なあマリア、あのさ、ご歓談中悪いけどこいつ絶不調なんだ。
丸5日眠ってて、やっと意識戻ったところだし。」
アレンはカインを指さしてそういった。
カインは言うなとばかりに慌てている。
「えっ、えっ、ごめんなさい。
カイン?大丈夫なの……!?」
カインに抱きついていたマリアは
慌ててその場を離れた。
カインは答えず、申し訳なさそうに頷くだけだった。
「だから悪いけど、ルーラできるんだったら頼むよ。」
「わかったわ。任せて。
帰りましょう。ムーンブルクへ。」
そう言って、
マリアはアレンとカインの手を取った。
長旅も終わりだった。
そうして、一行は懐かしのムーンブルク城への帰還をしたのであった。
- 完 -
2020/08/13
▲
【後書き】
やっと終わったよーー!
長くかかってしまったし、取っ散らかった話になってしまいましたが、書きたかったアレカイが沢山かけて幸せでした〜!
⇒
後日談(カイマリ)