さっきからちらちらとアレンの視線を感じる。
自分を気にしているらしい。
気にしてほしくなんてないんだけどな。
道はただ前にだけ開けていた。
クリスが見つけた道は幸いに正しいルートだったようで、
もう迷う事もなく、道が開けてからは、道は一方通行で前方のみに開けていた。
「ちょっと信じられない!超邪魔!」
エナが前方に向かって何か呆れたように言った。
細い一本道には、巨大な石像が鎮座していた。
巨大な彫刻美すら感じる精巧さであった。
アレル達一行はそんな石像を見つけると颯爽と身構えた。
「どうした?通れないのか?
銅像か?」
アレンは一行が止まってしまったので、
一瞬通路の邪魔な石像をどかせようとしているのかと思ったが、そうではなかった。
「先手必勝よ!」
エナがそう叫ぶのと、石像ゆらりと立ち上がるのは同時だった。
「魔物か!」
石像の攻撃より前に、先手を打ってエナは攻撃に出た。
「はぁぁあ!」
裂帛の気合を込めた正拳突きは、石像の顔面を直撃した。
が……。
「いっ……いったーー」
エナは右の拳を抑え、着地した。
動く石像はちっとも応えた様子がない。
「何あいつ、馬鹿みたいに硬いわ。
バラモス城にいたやつとは別モンスターみたいよ!?」
「あれは、もうワンランク上の魔物のようね。
確か名前は大魔神。」
賢者のクリスが何か手製のメモ帳から魔物の名前を調べた。
「あんなの初めて見たぜ……」
彫刻美などと言っている場合ではなかった。
しかもあの石像はその巨大さとは裏腹に、驚くほど俊敏に動いた。
それに、石像がその巨体で足を踏みしめると、
それだけで地面が揺れるのだ。
踏みつぶされでもしたら、ひとたまりもないであろう。
「エナは怪我しないよう下がってな!
こういうやつは、俺の出番だぜ!」
戦士ジェフは自慢の剛腕をならし、石像に負けない迫力で
その腹部に一撃を浴びせる。全身が石でできている魔物であるが、
ジェフの一撃でパラパラと石片が飛び散る。
いくらか効果があったようだ。
倒せない敵ではないと思い、勇者アレルも剣を構えた。
「いけるな!アレンも続け!」
「ああ!」
力自慢のこの戦士陣なら、
突き抜けた守備力を誇る大魔神にも通じる。
「待って、アレル囲まれてるわ!」
前方の大魔神に気を取られている隙に、
背後にも魔物の気配を感じた。
魔物の群れがいる。
マドハンドの他、翼の生えた魔物もいる。
「クリス、あいつはなんて名前なの?」
事ここに至って、まだ初見の魔物と遭遇する。
この世界の魔物はいったいどれほどの種類がいるのか見当もつかない。
アレンもカインも勿論知らない魔物だった。
「ええっと……。待ってね。」
クリスは再度先ほどの手製のメモ帳で調べようとした。
「確か……サタンパピー!その特徴は……」
だが、相手はそんな情報を調べるほどの時間は与えてくれなかった。
サタンパピーと言われた翼の生えた魔物はばっと手を前面に構えるとメラゾーマの魔法を唱えた。
「クリスさん、危ない!!」
巨大な火の玉が渦を巻くようにして襲い掛かってきたが、
カインがクリスを抱えて横っ飛びに飛んでギリギリのところで魔法を避けた。
「…………。」
こんな渦巻き状の火の玉は初めて見たと思った。
なんだか自分の使う炎とは違うようだ。
アレンたちは大魔神と対峙している。
こいつは自分たちが相手になるほかない。
「くっ!」
クリスから手を放して、
地を蹴り、カインも反撃に出てみる。
先ほどの石像魔人よりは、こっちの羽の魔物の方が
守備力も低いようだ、隼の剣での一撃ではじけ飛ぶ。
攻撃が通じる。
「メラゾーマのお返しよ!
マヒャド!」
クリスの氷系魔法が辺り一面に氷吹雪を巻き起こした。
吹雪はフロア一面で巻き起こり、
目の前の魔物だけでなく、
アレル達と対している大魔神にもダメージを与えた。
見ると大魔神も相当のダメージを受けている。
その様子を見て、エナが飛び出した。
「いくわ、とどめよ!」
速攻の飛び蹴りでサタンパピーを地面にたたきつけた。
魔物はひくひくと痙攣している。
「やったわ!相手は虫の息よ!」
大魔神にはアレル達が攻線一方の状態だ。
魔物の群れの全滅は時間の問題と思われた。
しかし、ほんの一時の間を魔物に与えたことで、
歯車が狂いだした。
「え?」
目の前で瀕死のはずのサタンパピーが、
何故か背後から鋭い爪で襲い掛かってきたのだ。
「きゃああ!」
鋭い爪の一撃は油断したエナの背中をえぐった。
エナはその場に倒れた。
「エナ!?どうしたの!?」
クリスは慌てて、倒れた仲間のもとに駆け寄った。
エナを攻撃したのは、今倒したはずのサタンパピーだった。
いや、厳密には同じ魔物ではない。
見ると、魔物は2体いる。
マドハンドが仲間を呼んだのだ。
そして呼び出された魔物は腕をひらげて回復魔法、ベホマラーを唱えた。
「しまった……!」
ベホマラーは目の前の倒れてる魔物も、
前方の大魔神の傷も一挙に癒していく。
マドハンドはまだ仲間を呼び集めようとしている。
正直、一番嫌な展開だ。
「ぐ……あああ!!」
今度は前方からも仲間の悲鳴が聞こえた。今のは戦士ジェフの声だった。
大魔神もどうやら回復してしまったようだ。
仲間が倒されていき、
魔物が増殖する。
「アレル!やばいぜ!先にマドハンドを倒さないと、
いつまで経っても全滅させられないぜ!」
「そうだな……っ」
大魔神の一撃はアレンでさえ受けきれない。
稲妻の剣で、一撃を受け流し、寸前でかわしている。
こんなギリギリの状況長くは続けられない。
魔物につかまるのは時間の問題だろう。
周囲を見渡して状況を把握したアレンは、
勇者アレルと戦略を練り直した。
「おい、お前たち、先にマドハンドを討て!」
「う、うん、分かった!」
アレンの声にでカインは剣の矛先をマドハンドに向け直した。
マドハンド自体はさほど強い魔物ではない。
何とかその一撃で相手を打ち倒すことが出来た。
「いいぞ!
お次は最強の魔法であいつらを一網打尽だ。
クリスと言ったか。イオナズンだ!イオナズンを唱えろ!」
アレンは続いて、クリスにイオナズンを要求した。
まるで、マリアに言うようだなとカインは思った。
「おい、何故お前がクリスに指示を出すんだ。」
「ん?」
だが、勇者アレルはそれがちょっと気に入らなかったらしい。
「いや、だって、魔物がこう多いときは、
最強の魔法で一網打尽にするのが一番効率が良いだろう?」
今までアレンが戦ってきた戦いのセオリーであった。
「お前が言うなと言うのだ。」
「…………。はぁ。」
どうも、アレンが自分の仲間にあれこれ言うのはちょっと好まないらしかった。
「それに最強の魔法なら、この俺が。」
「え?」
勇者アレルが王者の剣を天に掲げた。
それに合わせて、大気の空気が変わる。
イオナズンじゃない、最強の魔法。
「あ……!」
カインも思わず顔をあげた。
これが勇者の本物の……。
「ギガデイン……!!!」
急速にゆがんだ天空から、
幾重にも稲妻が降り注いだ。
この魔法から逃れる術などなかった。
大魔神もサタンパピーもギガデインの直撃を受けた。
「おお……。」
勇者の使う勇者の魔法。
アレンもカインもそれを目の当たりにした。
「すげえ……。」
本物の雷の魔法は、一味違う迫力だった。
「アレル!やったわね!」
クリスもそう言って立ち上がろうとした。
確かに、ギガデインはすさまじい威力だった。
だが……。
「クリス!立つな伏せろ!!」
それでも、ギガデインをもってしても、
強固な守備力とけた外れの体力を誇る大魔神は
仕留めきることが出来なかった。
そのボディーはぷすぷすと黒焦げになり朽ち果て始めている。
それなのに、どうやら痛点がないのか、
勇者アレルに向かってその朽ち果てたその腕を振り回した。
大魔法を唱えた直後で、一瞬の油断があったアレルは受け身も取れず
その直撃を受けた。激しく壁に打ち付けられる。
「ぐふっ!」
「いやあ!アレル!」
慌てて駆け寄ろうとするクリスに向かって
その太腕を再度振り上げた。
「きゃああ!!」
大魔神の一撃に身構えたクリスの前に
カインが立ちはだかった。
「カインっ!?」
クリスをかばったカインが隼の剣で大魔神の一撃を受けた。
激しい一撃に、体勢を崩してしまう。
「ううう……っ。」
何とか堪えようとするが、
その負荷は半端なものではなく、細身な隼の剣がみしみしと音を立てた。
「ど、どうして……!」
どうして出会ってまだ間もないのに、カインは自分を助けようとするのか?
クリスはそれを聞きたかった。
だが、そんな問答をする暇などなく、
大魔神はクリスともどもカインを蹴りつけ地面にたたきつけると、
そのまま踏みつぶそうとした。
「ううっ……。」
追い詰めた大魔神は、
今度は振り上げたその足で倒れこんだカインの上半身を踏みつけた。
「がはっ!げほっ……!ああ……っ」
「こ、こいつめ……!」
クリスはすぐそばでヒャダルコを唱えた。
大魔神を凍らせて、攻撃の手を止めたかったのだ。
だが、氷は一瞬足を凍らせたものの、
大魔神はその氷を吹き飛ばした。
「なんて、恐ろしい体力と守備力なの……!?
魔法が効かない!」
実際は効いていない訳ではない。
ただただ相手を止めるに至っていないのだ。
それほど相手のレベルが高かった。
「あああ……っ!」
大魔神の攻撃の手は止まらない。
このままでは殺されてしまう。
それなのに返す手が思いつかない。
手は無いわけではないはず。
だが、次々に仲間を倒されてしまい、
アレルまで倒れ、クリスは委縮してしまった。
大魔神を倒せない。
「べ……ぎらま……!」
そう委縮したクリスの背後から、
火炎魔法が飛んだ。
「ごほっ。
ク……リスさん……。止まっちゃ、駄目……だ。げほっ。」
手をあげてカインの唱えた火炎魔法が大魔神の顔面を直撃した。
一瞬だが、相手の動きが止まる。
炎による煙幕が魔物を包み込んでいる。
「いま……だ、逃げて!」
「!」
炎と煙が晴れたら、大魔神がまた顔を出す。
逃げるなら、視界が遮られている今がチャンスだった。
「はや……く……!」
早くしないと手遅れになる。
でも自分は逃げられたとしても、カインがやられてしまう。
そう焦ったが、
突然次の瞬間大魔神の腕は真っ二つに千切れる飛んだ。
そしてそのまま腕は明後日の方向の地面に突き刺さった。
「おいカイン、大丈夫か!」
この間合いに飛び込んできたのはアレンだった。
アレンの一撃が大魔神の腕をちょん切ったのだ。
「ア、アレン…!?
ご、…ごめん……げほっ」
カインは顔をしかめつつ、さっきから何度も咳き込んでいる。
胸を押さえていて、
起き上がれないようだ。
「馬鹿だな、あんな細身の剣で無茶するからだろ。」
なにか言おうとしたが、
とりあえずそれだけ言ってアレンはカインを助け起こした。
そして、いったん魔物の間合いから離れるべく地面を蹴った。
だが、その衝動でカインがうめき声をあげる。
「大丈夫か、しっかりしろ」
「待って、無理に動かさない方が良いわ。
肋骨が折れてるのかもしれない。」
追ってきたクリスに言われて、アレンが一瞬身じろぎした。
そしてゆっくりカインをその場に横たえた。
「カインを頼む。」
アレンはそう言うとすっと立ち上がった。
煙幕が晴れた大魔神はターゲットを再度見つけ、
こちらをぎらりと睨みすえる。
そんなとき、カインはアレンの足をつかんだ。
「なんだ?お前、じっとしてろよ。」
「ア……レン。あれ……。」
「え?」
「あれを……」
「あれって?」
カインは、震える手で勇者アレルのすぐそばに落ちるそれを指さした。
アレンはその指先に示されたものに視線を向けると、
怪訝な顔をした。
そこに指示されたのは、王者の剣だった。
「ロトの剣……。」
持ち主を失った王者の剣が地に落ちている。
手を伸ばせば届く場所にある。
アレンは大魔神からの攻撃を避けながら、
それを拾い上げた。
王者の剣を手にして、改めて実感する。
手に吸い付くような懐かしいこの感覚。
何年経っても忘れられないものだった。
間違いない。
変な話だが、確かに自分のものではない。
それなのに、自分の剣だったものだ。
「お前、こんな姿だったんだな。」
まだ産まれて間もない真新しい剣は
伝説の重みを感じさせることはない。
ただ、久しぶりに大切な相棒の昔の姿をみたような、
そんな気持ちになった。
カインも、アレンのそんな様子を見て目を細めた。
かりそめではあるが、
それは、懐かしい在りし日のアレンの姿に見えた。
だが、感傷に浸っている時間などは許されない。
魔物たちとの戦いが終わっていないのだから。
「ベホマラー!」
そばにいたクリスが全体回復魔法のベホマラーを唱えた。
目の前にいるカインだけではなく、
横たわる仲間たちも癒されていく。すごい魔法だった。
「あ、……ありがとう、クリスさん。」
カインはそばのクリスに礼を言った。
隼の剣を地面にさして上半身を起こした。
仲間たちも気が付いたようで、次々に立ち上がる。
クリスはその様子に安堵の笑みを浮かべた。
「…………。」
勇者アレルは、アレンの持つ獲物に当然すぐ気づいたが、
鬼気迫る様子に一瞬言葉が掛けられなかった。
アレンは大魔神への大上段の攻撃をしかけ、
再度カインの元へと飛び降りた。
起き上ったエナが何やら怒っている。
「ちょっと!あんた何やってんの!?
なぜあんたがアレルのその剣を使うのよ!」
「はは、悪い悪い。心配するな、すぐに返すから。」
クリスが非難めいた声をあげるが、
あまり悪気もなさそうな様子で、たしなめるように返事をすると、
アレンはカインの方を向いた。
「何か、考えがあるんだろ?
俺にこれ、持たせて。」
「僕さ……どうしても、一度見たかったものが……あるんだ。」
見たかったもの?
聞き返そうとして、アレンははっと気づいた。
いつかもあったこんなシチュエーションに。
「アレルさまが呼んだ雷雲と精霊たちはは、まだ残ってるしさ。」
「おい。」
「絶対、いけるよ。」
「おい、馬鹿。お前。」
そう言ってカインはアレンの手を握った。
直後にふわりと二人の体が緑色に輝いた。
「おまっ……!!」
「我儘でごめんね。勇者が使える魔法……、
それ……アレンのカッコいい姿、僕見たいんだ。」
「はぁぁぁ!?」
アレンはカインの意図を悟った。
勇者だけが使える雷の魔法、
かつて一度だけロトの剣を使ってアレンが使った魔法。
それをやれと言うのだ。
「本気で言ってんのか!?」
このやりとり、前にもした覚えがある。
まさにデジャヴだ。
でもそうなんだ、こいつは、どうにも本気なんだよな。
前もそうだった。
これは破壊神シドーを倒したときにアレンが使った究極の裏の手だ。
そう言えばカインはその時気を失っていたから、アレンの雷が見れなかったと悔やんでいた。
「確か、そんなことも言ってたけど……。」
そんな過去を思い出しながら、呆れながら天を仰ぎ、
アレンは腹をくくった。
そこまでして言うカインの願いを、
聞いてやろうと思ったのだ。
「知らねえぞ。どうなっても怒んなよ。」
雷雲は勇者アレルが呼んでいた。
天がごろごろと鳴り響いている。
カインの魔法力ももらった。
ロトの剣もある。
「ええい、破れかぶれだ!!」
相変わらず何をどうやれば成功するのかなんて分からない。
ただ信じて、大きく剣を天に掲げて、
アレンは一度大きく剣を振るった。
+++
「それで、俺たちは、結局何を見せられたんだ?」
ジェフは狐につままれたような顔をしている。
あれだけ苦戦を強いられた魔物の群れは全滅した。
アレンの会心の一撃と、
雷が落ちたのは、確かに同時だった。
「急に天気悪くなって、外今暴風雨だしね。
自然現象じゃない?こわっ。」
おそらく先の勇者アレルのギガデインで魔物の群れも大きなダメージを受けていたのだろう。
魔物の群れは全滅させることができた。
ジェフもエナも自然現象の雷だと思った。
だって、アレンは魔法力がない戦士だと言っていた。
アレン自身だって、
今のはただの自然現象な気がしてきた。
なぜなら空がごろごろ言って、今にも雷が落ちてきそうだったからだ。
だが、勇者アレルは今の現象を目の当たりにして、
アレンたちが何者であるかの認識を改めざるを得ないと思った。
王者の剣は、生まれたばかりの剣だ。
それなのに、ありえないことだが、
王者の剣を使いこなすアレンの姿は
全く違和感もなく、長年の愛剣を手にしたかのような姿であった。
「その王者の剣、本当にお前の剣だったのだ……な?」
自分でも何を言ってるのか分からないと思ったが、
そう思わずにはいられなかった。
だが、アレンはアレルをちらっとかえりみると、
大きく首を振った。
「違う、何言ってんだ。これはあんたのだよ。
アレルが作った剣じゃないか。」
「え?」
「悪かったな。勝手に拝借して。
ありがとう。返すよ。」
アレンから王者の剣を受け取り、
勇者アレルは怪訝な表情だ。
「今のはカインの我儘を聞いただけなんだ。」
「どういうことなんだ?」
アレル一行は、何が何だか分からないと言う様子だ。
その一行の面々を見て、アレンはふっと笑った。
「勇者アレル、お前たちは皆強い。すげえ強い。
アレルは最強の魔法が使えるんだしな。すげかった。
仲間たちも皆実力者だ。あんた達ならなんだってできる。
こんな強い4人パーティーは他にないだろうさ。」
「…………。」
「でも、ちょっとの隙で、戦況ってひっくり返るもんだ。
やっぱ油断大敵だぜ。」
何やら助言めいたことをアレンが言った。
確かに、そうかもしれないと身に染みて、勇者アレルは頷いた。
そして、アレンは手をあげた。
今度は何の真似かと皆その手を見上げた。
すると、驚くことをアレンが言った。
「そんでさ、もう一個勝手を言って悪いが、
俺たちの同行はここまでで良いか。」
「は?」
その突然な言葉で、
カインを含め、皆一様に驚いた。
「え?し、しかし、きっともうすぐ精霊ルビスがいるはずで……。」
そう、アレル達の目的であった
精霊ルビスにもう少しで会えるはず。
その先にはいよいよ大魔王との戦いも待ち構える。
アレンたちの実力も知ることが出来て、
色々な戦い方もあるものだと、仲間として心強いと思ったところだった。
「ああ、そうだな。
けど悪いが、世界を救うより、
大事なことが俺にはあってな。」
「はぁぁ、何それ何それ!
勝手についてきて、勝手に離れて!
世界を救うより大事なことがあるって、
私たちを馬鹿にしてんの!?自分勝手すぎない!?」
エナが勝手な言い分に怒っている。
それももっともだろう。
「悪いとは思う。思ってる。
でもごめん、事情があるんだ。」
そう言ってアレンはなんと頭を下げたのだ。
「事情?事情って何よ」
「……。秘密だ。」
「何よそれー!!」
理由を言わないアレンにエナはぷんぷん怒り、
他の一行にも戸惑いが見えた。
「お前たちは……どこかの世界の勇者だと言ってたよな。
その言葉が本当のようで、志を同じくするものがいたのかと、
正直俺は嬉しく思えたのだが……。」
勇者アレルもその思いを語った。
「俺も、アレルと共に戦えたこと、嬉しくて楽しくてたまらなかったぜ。
絶対忘れないさ。
でもこの世界はアレル達は救うだろうと思っているから、
心配してないし、何の問題もないさ。」
「ふんっ、だから言ってるじゃない。
そんなの最初から分かってたことよ。」
エナがぷんぷんしている。
「俺たち、この世界に朝が来るのを
待ってるぜ。」
「なによ。
あんたほんとどこかの王様みたいね、勝手な言い分だわ。全く。」
何を言っても、もうすっかりアレンは気持ちが固まってしまったようだ。
カインは先ほどからその決断に何も口を挟まない。
その様子に勇者アレルも仕方ないと頷いた。
「アレンよ、お前とはもう少し剣術の話がしたかったぞ。」
「ああ、俺もだ。また……機会があればな。」
戦士ジェフも少し名残惜しそうだ。
「カイン。ねえ、何度か助けてくれたこと、ありがとう。
何故私を助けてくれるのだろうと不思議だったんだけど。」
クリスはカインに向かって礼を言った。
「ああ、いや……。
僕らはあなたによく似た……仲間がいるんだ。
それで……。
はは。」
「そうだったのね。
いつかお礼をさせて。」
クリスの言葉に、カインは「そんなのはいらない」と優しく首を振った。
「ただ、命は大事にして、ご無事で……。」
それだけ伝えた。
「よし、じゃあお前たち。
長居していても仕方がない。行こう。
アレン、武運があれば、また会おう。」
「ああ。吉報を待ってるぜ。」
勇者アレル一行は、
先への道を進んでいった。
残されたのはアレンとカインの二人だけだ。
「あーあ、行っちまったな。」
アレンは一行の消えていく先を少しの間見つめていた。
「……アレン……。」
「…………。」
そして、アレンはカインと向き合った。
「勝手に決めて悪かったな。」
「アレン……ごめん。」
アレンが先に進まなかった理由。
アレンはきっともっと先が見てみたかったはずなのに。
アレンにはそれが出来たのに。
「ごめん……。」
「謝んな。
俺、何より、お前を失うのは絶対嫌なんだ。」
とっくにカインが限界を超えて戦っているのが
アレンには分かった。
さっきのベホマラーが効いていないのも分かっていた。
アレンは全部分かっていた。
先に進めなくてもいい。
何を諦めてもいい。どう思われてもいい。
ただ、カインを失う事だけは嫌だった。
「つーか、俺、お前が結構我儘だから、びっくりしたぜ。」
その言葉に、ふっとカインは笑った。
先の戦いで見れなかったアレンの雷が見たいって言うのは本当に贅沢な我儘だった。
もう最後だから、一度目に焼き付けたかったのだ。
「だって……僕に……とっては……
勇者は、君……だもの。」
「馬鹿なことを言ってら……。
って、おいお前……!」
胸の奥から何かがこみあげてくる。
口元を手でおさえて、ぐっとこらえようとするが、止められない。
「ご……め…………。」
ぽたぽたと手のひらから血が零れ落ちた。
「カイン!!」
力を失ってゆらりと崩れ落ちるカインを
アレンはその腕で抱き留めた。
- 続く -
2019/06/01
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【後書き】
色々テンポあっぽしていきたいなとは思ってるんだ……。思ってんだぜ?
うーん。。。あかん感じ。