はじまりと終わりの話 12



「うおおおお!!」

激しい裂帛の気合と共に、
真っ先に勇者アレルが炎の中に飛び込んでいった。

「ちょっとアレル!?」

パーティーのリーダーであるアレルのその行動に、
普段特攻隊長の役割を務めるエナも驚いている。

飛び込んだ勢いで炎を突っ切ると、
そのまま魔物に一撃を食らわせた。

苦痛に呻き、魔物は猛った。

「続け!サラマンダーに隙を与えるな!」

「え、ええ!」

「おう!」

アレルの檄に、エナとジェフも魔物に斬りかかる。
強力な連続攻撃にサラマンダーと呼ばれる魔物も動きが鈍る。

一歩後ろで戦況を見つめているアレンは、
思い切った戦略だなと思った。
勇者アレルが先頭を切ってこういう行動をするのは初めて見た。

「まだだ!まだ仕留め切れていないぞ!」

動きの鈍ったサラマンダーはそのまま倒れ落ちるかと思ったが、
再び闘志を盛り返し、雄たけびを上げた。
そして巨大な炎を吐き出した。

「くっ!」

盾を眼前にかかげ、勇者アレルは反撃の機会をうかがった。
この炎をしのいで再度とどめの一撃を……。

その意図をアレンも理解したが、
無茶な戦略ばかり選ぶこともない。アレンはそう考えて、一行に指示を出した。

「皆、伏せていろ!」

そう合図すると、耳に届いたようで皆その場に身を伏せた。
そして、アレンは剣を横一文字に大きく振るった。
剣戟は炎を真っ二つにすると、そのままサラマンダーの足を直撃した。
相手の攻撃を無効化し、機動力の無効化にも成功した。

「アレル!やるなら、いまだぜ!」

「よ、よし!!」

身構えていた勇者アレルは、この好機を逃さず、サラマンダーにとどめを刺した。
魔物は数度苦しみながら尾を振り回したが、次第に朽ち倒れていった。

「やったな!」

アレンは勇者アレルにハイタッチを求めたが、アレルはそんな気分ではないようで、
ふうっと息を整えるのみだった。
なんか変な様子だった。アレンは振り上げた手を下ろして、ため息をついた。

「どうしたんだ、歴戦のアレル様ともあろうものが血走った顔をして。
 あんな炎の攻撃に飛び込んで行ったりして、無茶な戦法だぜ。」

今までしばし共闘した中でも初めて見た光景だった。

「そりゃ、今まではクリスがフバーハしてくれてたもんねえ。」

エナの一言に、なるほどと思った。
魔法のエキスパート賢者クリスがいてこその、今までの余裕のある戦法だったのか。

「だからと言って、相手の攻撃に飛び込んで行ってばかりじゃ
 いくら体力馬鹿でも命がいくつあっても足りないぜ。」

「確かにな。
 アレンの先ほどの戦法は俺も驚いた。
 剣術だけでも炎を切り裂いたりと、あんな工夫ができるんだな。」

戦士ジェフは素直に感嘆の声をあげた。
剣術でも工夫があれば、魔物の攻撃をかわすことができる。
アレンの戦法は新鮮で、効果的だと思った。

「ま、俺だって剣しか使えないからな。
 それでもさっきのとか、遠距離攻撃とか、魔物を一網打尽にする戦法とか、
 色々考えるさ。」

「参考にさせてもらおう。」

「ああ。」

剣士同士通じるものがあったのか、頷きあった。
しかし、その話に勇者アレルは入ってくるでもない。

相変わらず血走った目で、どこかを見つめている。

「どうしたんだ?」

視線を追うと、その先はクリスが飛び降りた塔の奈落だ。

「追うぞ!行くぞ、お前たち!」

勇者アレルはそう言うと今にも飛び出さんという風であった。
クリスを心配しているのだろう。
それで先ほどから余裕のない様子なのだろう。

「ちょっと待てよ!」

アレンは少し落ち着かせようと、勇者アレルの肩に手を伸ばした。
だが、すぐに払いのけられた。

「待てるか!
 クリスは、あいつは覚悟を決めたら何をするか分からない奴なんだ!」

「え?」

勇者アレルの言ったことを、エナが説明してくれた。
どうもエナはパーティーのためと思うと、見境がなくなり、
どんな危険を負ってでも意にも介さないような面があるらしい。

「へえ。」

その説明に、アレルの焦りようも理解した。

「止めるな。俺は行くぞ!」

勇者アレルの形相を見て、アレンも合点がいった。

「止めねえさ。
 でも少し落ち着けって。ここから策もなく散れ散れに飛び降りても危険なだけだ。
 俺に任せな。」

「何?」

少し周りが見えなくなっている勇者に
アレンは一計を講じた。





+++


既に何度も攻略失敗したダンジョンだった。

今までのスキルを活かし、各フロアは綿密にマッピングした、
動く床も攻略できた。
隠し通路も、壁をつたうようにして、しらみつぶしに調べた。

それでも道が開かれなかった。
だから、残された道は……もうここにしかないと思った。

動く床から見える塔の吹き抜けの、さらに下だ。
塔から飛び降りた先に、私たちはまだ行っていなかった。

勿論ただの奈落の底かもしれない。
下手をすると落下の衝撃で死ぬかもしれない。
でも可能性があるのならば、この身を差し出すことに何の抵抗もなかった。

空に身を投げ出すと、背後から仲間たちの自分を呼ぶ悲鳴のような声が聞こえる。
大丈夫、待っていて皆……。私が必ず道を見つけてくるから!

クリスは、心で仲間たちにそう答えると、
すぐさまスカラを唱えようとした。

自分の考えが当たっていたとしても、外れていたとしても、
落下の衝撃による負傷は免れないからだ。

ワンテンポ遅れてクリスを追って飛び降りていたカインは
その一部始終の様子を見ていた。
クリスの考えが何故だか手に取るように分かった。

「……そんなの、だめだよっ」

「えっ?」

衝突に身構えていたクリスは
ふいに浮遊感を感じた。

そして、そのまま衝突することもなくゆっくりと着地した。
カインが衝突間際の自分を抱え、助けてくれたのだ。

スカラは無駄になってしまった。
いや、そんな事より。

「どうして、あなたがここに?」

「驚いた、急に飛び降りるんだもの。」

互いに驚いた様子だ。
今のはカインの魔法であろうか、あれほどの高さから飛び降りて怪我もない。

それにクリスの考えは当たっていたようだ。
吹き抜けから飛び降りた先には、隠れたフロアに存在していたのだ。
そこへ、無事に降り立つことが出来た。

クリスは周りを見渡して、先に進む通路を見つけた。

「見て、やったわ!道が開けたわ!
 隠し通路はここにあったのね!」

クリスは思わずぐっと拳を握り締めて喜んだ。
これで道が開けたのだ。

「良かったわ、
 きっとこの道を進めばルビス様に通じるのよ。」

クリスは突き動かされるように、先へと進んだ。

「う、うん。
 それは良かったけど、……待ってよ!」

慌ててカインが後を追う。
クリスの気持ちは分からないでもないが、
わが身を顧みることのないクリスの様子が気にかかった。

それに、パーティーが無暗に分裂するのは得策ではないと思った。

ばさばさっと背後から何者かの音がした。

「魔物っ!?」

ハッと背後を振り返るのと、
魔物が炎を吐き出すのが同時だった。
カインは思わずクリスを抱えて、その炎を横っ飛びにかわした。

「サラマンダー!!」

クリスは魔物の名前を叫んだ。
一度は攻撃をかわしたカインたちであったが、
サラマンダーはゆっくりその首を向けると、再び炎を吐き出した。

「くっ、フバーハッ!!」

クリスの魔法が見えない防壁となって2人を包み込む。
カインに唱えられない魔法であった。

確かに、魔法は効果があり、随分炎の勢いが軽減されている。

「う、ううっ……!」

だが、炎の勢いは収まらない。このまましのぎ切るのは難しいだろう。
攻撃に転じなければ。

どのような戦術を取るのが良いか。
炎の使い手であるあの魔物には、
カインの得意の炎の魔法はきっと効果が薄い。

カインは駆けだすと、狙いを定めて一撃を振るった。
ドラゴン属の狙いどころは顔面だ。
特にその瞳を狙った。

その攻撃は命中し、サラマンダーは暴れくるっている。

「追撃よ!くらえ、バギクロス!!」

激しい竜巻がサラマンダーを襲った。
刃のような竜巻が、強固な魔物の皮膚をじわじわと斬りつける。

しかし、視界を奪われたサラマンダーは、
めくらめっぽうに身をよじるように暴れまわった。
その尾の一撃がクリスを直撃し、その身を吹き飛ばした。

「きゃああ!!」

その悲鳴を聞きつけ、音でターゲットを確認したように
その場から炎を吹き付けた。
クリスは身を起こすことも出来ない。
肋骨が折れたかもしれない、激しい痛みで力が入らなかった。

カインは全力で駆け出して、
左手を差し伸ばした。

炎なら、掻き消せるはずだ……!

クリスに直撃するその直前、
サラマンダーの炎はふっと掻き消えた。

「え……?」

倒れたままのクリスは
今の出来事が何だったのか一瞬分からなかった。

眼前にまで迫った炎が消えたのだ。
だが、決して幻だったわけではない。

焼け付くほどの周りの大気がそれを証明していた。

カインは、炎を掻き消すと、
倒れているクリスに視線を向けた。
骨でも折られたようだ。それほどの激しい衝撃であった。
回復魔法をかけて、再度態勢を整え直すことも出来ただろうが、
視界を失い、攻撃を無効化された今が、
魔物を倒す絶好の好機だと思った。

自分の最強の魔法で、今、とどめを刺すべきだと思った。

カインはちらっと天を仰ぎ見た。

「天空の精霊たちよ……。」

カインの静かな詠唱に、空が応える。

「な……何をするの?」

そのただならぬ空気にクリスも周りを見渡した。

「雷よ……、我が力となり敵を討て……!」

鋭い雷が魔物を一閃したのは、瞬きほどの瞬間であった。
ともすれば見逃してしまうほど一瞬、しかし、
次の瞬間にサラマンダーは全身を焼け付くしていた。

「え……これは……。」

クリスは驚いて目を見開いた。
今、目の前で見た魔法は……。
強力な魔物を一撃で絶命させたこの威力、
勇者アレルとは少し違う詠唱ではあったが、
雷の魔法ではないか?

カインは、息を飲んで、その場で一度深呼吸した。
そして大きく息を吐いて、崩れ落ちる魔物の最期を確認してから、
クリスの方を向き直した。

「怪我は、大丈夫だった?」

そう言うと、ベホイミを唱えた。
肋骨の痛みが癒されていく。
そうして、体を起こした。

「あ、ありがとう。
 あなたは……一体……」

何者なのか。

そう聞こうとしたが、
立ち上がったクリスとは逆にカインはその場にゆっくり膝をついた。

「クリスさん、ストップだよ。」

「え?何?」

何を言われたのかと思った。

「アレルさんたちが来るまでストップだ。
 これ以上、僕らだけで進んだら危険だよ。」

「え……あ……。」

油断できない強さの魔物ばかりが現れる。

「いたずらに命を散らしても、
 アレルさんも誰も、きっと喜ばないよ。
 もっと皆を信頼しようよ。」

「!」

パーティーのためにと、危険を冒してでも道を見つけるのが
自分の役割だと思った。
道さえ見つければ、きっと勇者アレルと仲間たちは
さらに先に進んでくれるし、自分の覚悟を喜んでもらえると思っていた。

「それどころか、クリスさんの犠牲で、道が開けてもきっとアレルさん、
 悲しい思いをしちゃうと……思うよ?」

「……。」

クリスはその真摯な言葉に答えられないでいた。
カインもそれだけ言うと、クリスから目を反らして空を見上げた。

「大丈夫、きみの大事な勇者様、きっと
 空を飛んで来てくれるよ。」

カインが見上げた先に、クリスも視線を向けた。

「……ア、アレル!エナ!ジェフ!」

何より大事な仲間たちが本当にカインの言う通り、
空を飛んでやってきたのだ。その姿に目を疑った。

「……皆……っ。」

そして、その中央にいたのは……。

「お前の今の言葉、
 マリアにも聞かせてやりたかったな〜」

「アレン!」

一行の中心にいたのは、風のマントをまとったアレンであった。
いつかのように、アレンは風のマントを身に着けて、
塔から飛び降りたのだ。
風のマントの浮力を受けて、一行は無事に着地した。

「クリス!心配したぞ!」

「アレル……、ご、ごめんなさい!」

地に降り立つと、勇者アレルは我先に駆け出して、
クリスを抱きしめた。

アレンはその様子にひゅうっと口笛を鳴らした。
ふーむ、2人はそういう関係な訳か。
それなら、先の戦いでの勇者アレルの様子にも合点がいく。

なるほどと腑に落ちて、
アレンはカインに視線を向けた。

「アレン、来てくれると思ったよ。」

「ああ、勇者は空から現れるって通説だからな。」

「相変わらず、格好いいなあ。」

カインはアレンの言葉に笑みを浮かべた。

「お前も随分格好いい事言ってたじゃねえか。
 あのカインさんの言葉とは思えないぜ。
 いたずらに命を散らすな?仲間が悲しむだって?」

以前のカインこそがそうだったじゃないかと、
あえて、そういたずらっぽく言うアレンだった。

「ふふ……。耳が、痛いね。」

カインの笑みが少し陰る。
しかし、それよりも、アレンは気づいていた。
先ほどの大気の変化。

カインたちもここで激しい戦いをしていたに違いない。

座ったままのカインにアレンは無言で手を差し伸ばした。

「……ありがとう。」

カインはアレンの手を取って立ち上がった。
妙に汗ばんだ手だった。

「お前……。」

アレンは再度カインに声をかけようとしたが、
その前にクリスが声をあげた。

「アレル、皆心配かけてごめんなさい!
 カインに助けてもらったわ。
 彼、こう見えてすごい力があるのよ。」

そう言って、先ほどの戦いの次第を仲間たちに話した。

「私、どんな魔法でも使えると思ってたけど、
 まだまだ工夫の余地ってあるんだって思ったわ。」

「へえ、面白いわねえ。炎を消したり、空を飛んだり?
 クリスもまだ学ぶべきことがありそうね。」

エナも興味深そうに聞いている。

「それを言うなら、このアレンもすごかったぜ。
 アレルを前にして冷静な戦略だった。」

ジェフも興奮気味に先ほどの戦いを語った。
剣一本でも戦い方に工夫はあるのだと思った。

「アレンもカインもここまできた実力は伊達ではないのだな。
 頼もしい仲間ができてうれしく思う。」

アレルがそう言ってくれた。
勇者ロトが自分たちを認めてくれたとアレンは嬉しく思った。

「2人とも引き続き頼むぜ。」

そう言って、勇者アレルは再び先頭に立ち、
クリスが切り開いた道を進んだ。

ここから先は、勇者一行も来たことのない未開のエリアである。
油断ならない危険な挑戦だ。

「なあ、カイン……。」

アレンは先に進む一行から目を離して、
再度カインの方を向いた。

雷の魔法を唱えたのだ。
体への負担があるに違いなかった。

アレンはカインの手を捕まえた。
そして、何と言うべきかと思ってるうちにカインの方が小さく頷いた。

「お願い。
 あと、少しだけ……。」

「……え?」

「アレルさんがせっかく僕らの事、認めてくれたんだ。
 早く行かなきゃ、置いてかれるよ?」

カインは逆にアレンの手を引いて、一行の後を追った。






- 続く -


2019/05/04

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【後書き】
同じ展開を繰り返すマン←
戦う一行でした。




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