「……そういう訳で、この広大な海を自由に航海できる
航海士という仕事が大好きなのさ。」
そうキラキラとした目で
アレン達の船の航海士ミゲルが語ってくれる話は
アレン達を高揚させた。
「ミゲルは、航海士って職業に誇りを持ってるんだねえ。」
「ああよ。俺の天職だと思っている。」
言われてうんうんとカインもうなずいた。
ミゲルは航海してるときが一番生き生きしている。
「良いわね。
好きな職業を仕事にできるのは幸せなことだというわ。」
「好きな職業ねえ。
俺たちの職業って何よ。王子?お前は王女?
お前たち好きな職業か?それ。」
「…………。」
王族である自分たちは、
好きな職業なんて考えたことは無かった。
考えても詮無いことだと思っていた。
「希望したって好きな職業になんてつけねえのさ、俺たちは。」
「確かにねえ。」
アレンは何やら投げやりにそういって、カインも同じように頷いた。
「なー、カイン。
お前も本当ならパン作りとかお菓子作りとか、
そういう職業が良かったんだろう?」
「は?いや。別にそんな事考えたこともないけど。」
本当に考えたことがない。
「ほら見ろ。考えたこともないって。
天職があっても俺たちには職業選択の自由はないのさ。」
自嘲気味にアレンは笑った。
「兄ちゃんそれは違うと思うぞ。」
「ん?」
「兄ちゃんが王子だってのは職業っていうより生まれだ。
王族の生まれであるという事。」
「そうだぞ。
いやも応もない。俺は生まれた時から王族。
カインも、マリアも。選択の余地とかない。」
「だからあ、職業って言うと
今の兄ちゃんなんてあれじゃないか?
戦士。とか、そういうの。」
言われてアレン達は顔を見合わせた。
「そっか!それだ。」
「面白いもんがあるぜ。
これが勇者ロトも通ったルイーダの酒場の職業一覧だ。」
そういうとミゲルはすらすらと紙に何やら書いていった。
「なになに?
勇者・戦士・武道家・魔法使い・僧侶・盗賊・商人・遊び人・賢者。
ほうほう。」
アレンはその用紙を覗き込んで書かれた職業を読み上げた。
「なるほどね。これが勇者ロトの時代の職業一覧か。
この中だと俺は……戦士か?
お前は?」
「えー……この中で?
サマルトリアは聖職者の国だし、この中なら僧侶かなあ。」
「僧侶?なんか、ぴんと来ねえな。」
アレンは納得しかねている様子だ。
「マリアは、これだよね。賢者。」
「賢者ってなんだ。」
「なんだか良く分からないけど、賢き者なんてまさにマリアじゃない?」
「良く分からず言ってんのかよ。」
アレン達は楽し気に何やら言い合ってる。
ミゲルはそんな様子を見守りつつ、ある提案をした。
「そこでだ。
職業選択の自由の時間がやってきました!」
「あん?」
「兄ちゃんたちも選べば良いんだよ。
好きな職業を。今日だけは自由に。」
言われて再度一覧の書かれた用紙を覗き込んだ。
「おお、何か楽しくなってきたな。
好きな職業ってなんだ。」
「マリア、やりたいことやって良いんだって。
どうする?」
「そ、そうね……。」
やりたいことを言われても、
マリアは商談もできないし、何かを盗むのも、
全てを忘れ遊ぶのもできそうにない。
「わ、私は魔法使いで良いわ。」
「いつもと同じじゃん。
マリアいつも難しい顔してるから、たまには遊び人してろよ。」
「ええっ!?」
「決定な。」
アレンからのご指名にマリアが驚いているが、
なんだったら戦いの場に巻き込みたくないのはカインも思うところだった。
「いいんじゃない?」
といった。
「アレンこそ、何かやりたいことがあるの?」
「えー、選んでいいなら俺が魔法使いする!」
「ほえ、アレンが魔法?」
どうやってと思いつつ、
アレンはいたずら顔で提案した。
「マリアの魔導士の杖を使ったら魔法使えるだろう?」
「ああ、そういう事ね。
それで言うなら僕は……武道家とかどう?」
「ぶへっ。また急にどうしたんだよ。」
「僕、素早さには少し自信があるんだよね。」
カインの素早さはアレンを少し上回る。
「ほほー。
じゃあ、この職業でいっちょやってみますか。」
新職業に転職したアレン達。
航海の風向きは暮れ行く天気とともに移ろいで行った。
「でたぞ!!魔物だ!」
空飛ぶホークマンとしびれくらげの群れが現れた。
「行って来いよ!特攻隊長!」
「いっくぞー!」
カインはその場を駆け出した。
素早いとは言っても、こう切り込み隊長のような攻撃を仕掛けるのは
あまりないことだった。
「……で?
えっと……。」
飛び上がったは良いけど、
武道家は魔法も使わず武器も使わない。
「えーっとえーっと。」
どうやって攻撃するんだっけと、敵の間近まで言って慌てだしている。
「アホかー!!素手じゃ素手!!男なら殴り掛かれ!」
「素手ー!」
言われてそりゃそうだと思って、カインは思いっきりホークマンを殴りつけた。
つもりであった。
「あれ。」
効いてない。ホークマンはポリポリと殴られた個所を掻いている。
そして翼をはばたかせて、空中から勢いづけて反撃してきた。
「うわっ。」
反撃を受けて、思いっきり甲板にカインはたたきつけられた。
「ああもう、見てられねえ。
くらええ、紅蓮の炎よ。魔物たちを焼き尽くせ!」
魔導士の杖を掲げたアレンの攻撃で
しびれくらげが炎に包まれた。
「よーし、マリア!とどめだ!」
「アレンが言ったじゃない。
マリアは遊んでろって。」
「ああー!!」
当の本人のマリアは遊び方が分からず、
甲板から伸びた草を抜きながら戸惑いの笑みを浮かべている。
「しょうがねえ。マリアは存分に遊べ!
ええい、くっそくらえ、烈火の炎よーー!」
アレンは諦めず魔導士の杖を遠方から振り続けている。
ぽうっ、ぽうっと出現する炎が魔物を襲う。
「効いたか、どうだ!?」
炎の煙が消えるのを待ってみるが、
魔物たちはまだうごめき動いている。
「だー!死んでない!
大体、この遠方から攻撃して、遠くから魔物の生死を確認とか
それ自体が、まどろっこしい!」
「ああ、なるほど。
アレンはいつも自分の武器で手ごたえを感じ取ってるからなあ。」
「カインも!お前も、武道家だったら、もっと力に任せてガンガン行けよ!」
「いやあ、ガンガン行けと言われましても、
剣と魔法両方封じられた僕がどうやって戦えば良いのかなあ……って。」
「確かに!
そんなお前には何も残ってない!」
「正論だけど、ひどい!」
腕力がないなら、カウンターで行けとか
正攻法をアドバイスしてみるものの、
今までやってないことを急にはできないだろう。
「わ、私も、アレンとカインが戦ってるのに、
遊んでるなんてできない!」
一番苦痛そうにマリアが音をあげた。
アレン達は真顔で顔を見合わせて、そしてその後笑った。
「やめたやめた!
俺のこんな炎の攻撃より、カインの炎のがよっぽど強いもんな。」
「やった!ベギラマは好きな呪文なんだ!
任せてよ!」
そういってカインはベギラマを唱えた。
ホークアイは炎に包まれた。
「よし、マリアも良いぜ。
好きな呪文ぶっ放してやれ!」
「分かったわ、バギ!!」
マリアの巻き起こした竜巻は魔物をすべて包み込む。
カインの炎攻撃と合わせて、魔物たちは絶命していく。
「やったわ!」
「いや、まだだ!」
アレンはピクリと動いた魔物のを見逃さず、
柄から抜いたロトの剣をくるっと一閃させて、とどめを刺した。
「よし。」
魔物の至近距離でその絶命を確認して、
魔物の群れは全滅した。
「はああ。
結局いつも通りだなあ。この方が良いわ。」
「それが私たちには一番良いみたいだわ。」
「ちょっと面白かったけどね。
アレンの魔法の叫び声とか、マリアの戸惑いまくりの遊びとか。」
カインはあははと笑った。
そのカインをアレンはぽかりとたたいた。
「お前のは面白くもなんともなかったわ。
貧弱なんだよ。鍛えなおしー!」
「ひええ!ごめんーー!」
そういうアレンは、しかし満足げに
剣についた血を振り払って、鞘に戻した。
++
そんな3人を遠巻きに見守っていたミゲルは、
相変わらずの3人を見て思った。
「やっぱり、これ時代にそぐわなかったかな。」
そう言って試みに書いてみた職業一覧の用紙を破った。
「失敗失敗。
なんでか選ばなかったけど、
兄ちゃんたちは、3人とも勇者だもんな。」
そうぼやきながら、船室へと戻っていた。
- 終 -
2020/08/23
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【後書き】
復刻DQワンドロ第3回にも参加してみました。
冒険中の船旅のわちゃわちゃ感が出せていたら良いかなと思います。
ミゲルさん書けて良かったです。