アレンたちを乗せた船は一路ルプガナへと向かっている。
大変な思いをしながら沈んだ船から手に入れた財宝を
ルプガナに今も住む持ち主に返しにいくためだ。
宝箱の中には、文字通り財宝がざっくざくと入っている。
ミゲルはごくりと息を飲んだ。
船乗り・・と言うか、冒険者ならこの財宝を見たなら
心が踊らない者はいないはずだ。
この宝石の一つ一つが道具屋に持って行けば
何ゴールドになるだろうか・・。
ミゲルの思いは尽きない。
「持ち主に返すのは良いけどさ。
このネックレスの一つくらいもらっていってもばれないって、
兄ちゃん。」
沈んだ船から探索してきたその労力、
そしてルプガナへと運ぶ運搬料を考えても
ネックレスの一つくらい拝借しても罰は当たらないだろう。
「そんなの盗ってどーすんだよ。
ミゲル金に困ってんのか?困ってるなら素直に言えよ。
俺たち魔物退治で結構金あるからさ。」
びしょぬれになった体を拭きながら、
アレンは宝の方には興味もなさそうだった。
「いや・・俺が金に困ってる訳じゃないけどさ。
このネックレスの代金くらいは、俺たち労働したんじゃないかって。
なあ、緑の兄ちゃん・・そう思わないか?」
アレンが興味なさそうなので、
ミゲルは今度はカインに話を振った。
カインはバスタオルで体を包んだまま
体を拭くでもなく、ぼーっと座り込んでいた。
「なあって、緑の兄ちゃん!」
「え!?何!??」
話しかけられたカインは驚いている。
本当にぼーっとしていたようだ。
「あ。宝?無事で良かったね。
って・・・へっくし!!ごめん。僕何だか冷えてきたみたい。」
そう言うとカインは服を着なおして、
甲板から出て行こうとした。
「ちょっとカイン。ちゃんと体拭きなさいよ。」
見かねてマリアが声をかけた。
「うん。冷えてきたから、ちょっと温かいものでも作ってくる。」
そしてそのまま船室へと去っていった。
「あーあ。兄ちゃん達せっかくあんな思いして宝物見つけてきたのに。
なあ姉ちゃん、姉ちゃんはどう思うよ?」
相変わらず宝物にばかり興味を向けているミゲルに
マリアはため息をついた。
「この宝物は持ち主にそのまま返すべきよ。」
「ちぇー。意外と堅いんだな。」
これだけの宝を前にして、心が動じないとは
やはりこの3人は自分のような庶民とは違うのかと思うミゲルであった。
実際彼らは王族なのだ。このような宝物など見慣れているのかもしれない。
庶民なら宝物の山を見たら心揺れずにはいれないだろうに・・。
アレンも結局、ルプガナに到着するまでの間は休息を取ると言って
船室へと引っ込んでしまった。
「ルプガナまではあと4・5時間だ。少し姉ちゃんも休んでてくれ。
到着したら知らせるよ。」
大きな魔法を使ったマリアをミゲルは気遣った。
「ありがとう。そうするわ。」
マリアも一時の休息を取ることとした。
カインは調理室でポットに湯を沸かしながら
それが沸騰するのを待っていた。
アレンに殴られた頬が痛い。
はぁ・・・
「また怒られたなあ。」
一人カインはぼやいた。
せっかく大きな魔物を3人の力で倒せたのに
その喜びより、アレンに怒られた事で心が沈んでいた。
「いつまで僕ってアレンの足を引っ張ってるんだろう・・。」
思えば、最初は足手まといになるから国に帰るように
言われていた所を、アレンに懇願して一緒に着いて来たのだった。
湖の洞窟だって、倒れてからアレンに背負われて助けられた。
さっきだって自分は溺れて、アレンに助けられた。
今も昔もずっと一緒だなあ・・と思った。
そう言えば、大灯台では魔物たちが気になることを言っていた。
復活した巨神が国々に降り立つと言うようなことを・・
サマルトリアは無事なんだろうか。
出来れば早めに一度帰ったほうが良いかもしれない。
いや、ルーラができるんだから、とっとと帰ったほうが良いのかもしれない。
「とりあえず・・・一人で帰ろうかな・・・サマルトリア・・・。」
カインはそう呟いたとき、
調理室の扉からマリアが入ってきた。
「ちょっと!何言ってるの!?
あんなアレンのヒステリックな癇癪、真に受けなくて良いんだからね!?」
「え・・・あ、マリア?どうしたの?」
カインは驚いて顔をあげた。
「サマルトリアに帰るって、本気なの!?」
「あ、いや・・帰るって言っても別に帰っちゃう訳じゃなくて・・
ちょっと見てこようかなあ・・って・・・。」
思いのほか真剣な様子のマリアにカインの方が戸惑った。
「金の鍵が必要って言ってなかった!?」
サマルトリアに眠る至宝(ロトの盾?)を手に入れるのに
金の鍵が必要だと言っていたのはカインだ。
「そうだったねえ。金の鍵がないと駄目だよね。」
初心を忘れてはいけない。
サマルトリアではロトの盾を手に入れて、自分達は戦力アップしなければならないのだ。
「ねえ、カイン少し良い?」
「どうぞ。」
マリアはそう言って隣の席に座ろうとした。カインは座ってもらうよう促した。
「私・・・あなたに伝えたいことがあるわ。」
「なに?」
マリアはゆっくりと席に座り話し始めた。
「あなたは何故か自分の力に自信を持てないのかもしれないけど、
私は一度だってあなたが足を引っ張っているなんて思ったことないの。」
「・・・・・・・。」
「さっきの戦いだって、あなたがいなければ、私たちはきっと・・」
カインは笑ってマリアの言葉をさえぎった。
マリアはきっと落ち込んだ自分を力づけようとしてくれているのだろう。
「そんなことないよ。結局魔物を倒したのはマリアだもの。
新しい魔法、陸で使ったとしてもベギラマより強いと思うよ?」
目もあわせずカインはそう言う。
「ねぇ、ちゃんと聞いて!」
「だって、僕アレンみたいに武器も使いこなせないよ。」
「アレンはアレン、あなたはあなたでしょう!?」
マリアはそう言ってテーブルに拳を押し当てて訴えるように言った。
「マリア?」
「さっきの魔法だって、カインが道を作ってくれたから出来たのよ。
バギの時だって・・・・・。あなたが背中を押してくれたのよ。」
「え・・・?・・・・僕が?」
マリアは魔法の天才だ。魔法についての知識も深い。
精霊たちにも愛されている。そう思っていた。
「アレンは確かにその力とリーダーシップで私たちを引っ張ってくれる。
でもあなたも・・カインだって時にその勇気で私たちを引っ張ってくれてるわ。」
「え・・えぇ・・・・?」
カインは目を丸くしている。
「あなたの事、本当に頼りになる仲間だと思っているの。
だから、だからさっきの戦いだって負けると思わなかった。」
確かにマリアは巨大な大王イカを前にして『必ず勝てる』と力強く宣言していた。
カインはマリアの魔法が完成に近づいているから、そう言ったのだと思っていたが・・。
「だから、一人でサマルトリアに帰っちゃうとか言わないで。」
「・・・・・・・・・・・。」
「私の言うこと伝わってる?」
「う・・・うん。」
相変わらず目を丸くして呆然とした様子だったが、マリアの言いたいことは
とりあえず伝わったようだった。
「あ、そうだ。」
一つ伝え忘れたことがあった。
「アレンが怒ったことはあなたが足手まといだとかそんな事じゃないから。」
次はアレンの話になったようだ。
「私だって思ってることだわ。
命を粗末にするようなことはしないでって。」
「うん・・そうだね。・・ありがとう。」
カインはようやく照れくさそうに笑いながら、頷いた。
そのとき背後でビィーーと言うけたたましい音がした。
「え!?何の音?」
マリアは驚いたが、カインは落ち着いた様子で立ち上がった。
「あ・・沸騰したみたい。あったまるよ。紅茶飲む?」
見ると卓上にはカップが4つ置かれている。
そう言えば暖かいものを作るとか言っていた。紅茶を作っていたらしい。
「ありがとう。頂くわ。」
「どうぞー。」
ポットからマリアの前に置かれたカップに紅茶をそそいだ。
「アレンも飲むかなあ。」
あれだけアレンにへこまされていても、カインはアレンの分も用意しているのだ。
「飲むわよ。アレンとミゲルの分、私持っていくわ。」
「え、いいよ。僕持っていくよ。」
「あなたが作ってくれたんだし、運ぶくらい私がやるわ。
あなたは休んでいて。」
「そう?ありがとう、マリア。」
そう言って残りのカップをお盆に乗せた。マリアはそれを手にドアへと向かった。
部屋から出ようとするマリアにカインはもう一度声をかけた。
「マリア、こぼさないよう気をつけてね。」
「やあね、大丈夫よ。」
いくら自分が不器用であっても紅茶を運ぶくらいできる。
「マリア」
「なあに。大丈夫だってば。」
そんなに心配しなくても良いのにと思い振り返ると
カインはその顔を見てゆっくり微笑んだ。
「ありがとう・・・ね。マリア。」
「う、ううん・・・」
「さっきの言葉嬉しかったよ。」
「カイン・・・。」
もうカインは最初の落ち込んだ様子ではなかった。
「それにマリアにもアレンにも僕思ってるから。
命を粗末にするようなことしないでって。」
「もちろんよ。じゃあ、後でね!!」
マリアはそう言って、部屋を出た。
調理師から出たマリアは早足でアレンの休む部屋へと向かった。
「アレン!開けるわよ!!」
「あ・・・?誰?」
マリアは許可を取る前に部屋のドアを開けて入っていった。
「ちょ・・お前な。男部屋にいきなり入ってくるなよ。」
文句を言うアレンを尻目にマリアは小さな作業机にカップを置いた。
「何だよ、いきなり入ってきて。」
アレンは簡素な作りの船室のベッドに横になっていたが、
マリアが急に入ってきて驚いて起き上がってきた。
「紅茶よ。カインから。あったまるからどうぞって。」
「ああ・・・、悪いな、ありがとう。カインどうしてんだ。」
アレンは紅茶を手にすると一口ぐいっと飲んだ。
海の戦いで冷え切った体には、暖かさが嬉しかった。
「気になるんなら見てきなさいよ。」
「え、いや。別に気になんかしてない。」
どうせいつもみたいに調理室にこもって甲斐甲斐しく料理でも
作ってるんだろう。
「あなたね、そんな事言っててカイン一人でサマルトリアに
帰っても知らないからね。」
「ええ!?あいつ帰るって!?そんな事言ってんのか!?」
実際にそんなようなことをカインは呟いていたけど、厳密には帰る結論にはならなかった。
「子供みたいな癇癪起こして、カインにぶつけたからでしょう。」
「そ、それで帰るっつってんのか!?」
思いのほかアレンが慌てている。どうやら殴りつけたことは
まずかったと思っているらしい。
「帰らないわよ。私がよーく言っておいたから。
あなたが言いたいことも汲み取って伝えておいたから安心して。」
「ああ・・なんだ。びっくりさせんなよ。
何をどう伝えたんだ?」
マリアはそれには答えず、またお盆を手にして立ち上がった。
「おい。マリア。」
「冷めないうちに、これミゲルに持っていくわ。
悪いと思うんなら、後で謝っておきなさいよ。」
マリアはそれだけを告げてアレンの部屋を後にした。
「なんだあ?あいつ・・・。」
取り残されたアレンは残った紅茶を一気に飲み干して、再びベッドに横になった。
- 続く -
2010/12/12
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