海の財宝 2


「逃げるぞ!あんなの相手に出来るわけ無い!!」

ミゲルは大王イカを見てパニックになっている。

「何言ってんの!アレンを置いて逃げれるわけ無いじゃないか!」

完全に腰が引けているミゲルは慌てて操縦室に走り出そうとするが、
カインが手を引いて反対した。

「ふざけんな。兄ちゃん達がいくら強くてもあんな巨大な魔物
 どうやって相手にするつもりだ!?」

確かに大王イカは下手な船一隻くらいの大きさがある。

「どうやってって・・・。とにかくまずアレンを助けないと。」



大王イカに足を捕らえられたアレンは身動きが取れないようだ。

「あのままじゃ溺れてしまうわ。」

マリアはそう言うと大王イカの長い触手に向かってバギを唱えた。
大王イカは唐突な衝撃にアレンを手放した。
だが、バギは大きなダメージにはなっていないようだ。

ようやく身体が自由になったアレンは、船に向かって泳ごうとするが
大王イカの方が動きが早い。

「アレン、急いでーー逃げてーー!!」

船上から大声を張り上げるが、アレンはどうやらどこか痛めているのか
いつもの動きではなかった。

カインは時間稼ぎのために、大王イカに向かってベギラマを唱えた。
しかしその巨大な魔物は、身体の大部分が海中にある。
ベギラマの炎は、海の中では無効化されてしまう。
表面上多少の火傷にはなったようだが、これも大王イカに大きなダメージが無い。

「くそー。」

悔しがるカインに対して、アレンが何やら叫んでいる。

「ーーーーーーーっ!!ーろーー!!」

「え? 何!?アレン何!?」

「何か、投げろって言ってる・・・?」

叫んでる間にも大王イカがアレンに迫ってくる。
アレンは逃げようとしない。

「アレン!危ないって!!逃げて!」

逃げるよう促すカインにアレンは大きく首を振った。

「早くーーー!!投げろ!武器!!」

アレンが要求しているのは武器だった。

逃げるつもりは毛頭ないらしい。
カインとマリアはその意図を読み取った。
そしてロトの剣をアレンに向かって投げ、アレンはそれを受け取った。

その一連の流れを見ていたミゲルはいよいよ反発した。

「バカな!戦うつもりか!?バカじゃねえか!??
 相手はあんなにでかいんだぞ。あんな剣1本でどうすんだ!
 あんた達の魔法だって、ほとんど効いてないじゃないか!!!」

確かに大王イカと戦うなんて普通に考えると正気の沙汰ではないだろう。
バギでは致命傷には至らないし、ベギラマは水中戦には向かないのだ。

「ミゲル・・・」

「俺はこんな所で死にたくねえぞ!死にに来たんじゃねえんだからな!」

はなから戦うことを諦めていた。一刻も早く逃げようとばかり考えているようだ。

「ミゲル・・では聞くわ。
 もうこの船はあの魔物の目にも入っているわ。
 本当に逃げられると思うの?」

マリアは静かに言った。

「ルプガナの豪商の船もきっとあの魔物に沈められたのね。
 同じ道をたどるつもり?」

「じゃあ!じゃあどうするんだ!!戦うっていうのか!?
 勝てるって言うのか!?」

あくまで逃げようとするミゲル。そんなミゲルにマリアは
きっぱり毅然と言った。

「勝つわよ。必ず。あんな魔物に私たちが負ける訳無いわ。」

「へ・・!?」

いつも強気なアレンではなく、普段はおとなしいマリアから
そんな強気な台詞が出たのがミゲルには信じられなかった。

「ねえ、カイン?」

マリアはそう言って、笑顔でカインに同意を求めた。
正直、カインもマリアからそんな言葉が出たのは驚いていた。
でも確かに、こんな所で死んでたら、ハーゴンなんて倒せやしない。

「うん。そうだね。」

カインは力強く頷いた。




見るとアレンは迫り来た大王イカの触手を1本をうまく切り捨てていた。

しかしやはり敵はあまりに巨大であった。
8本ある触手の内、一本を切り離されその痛みに大王イカは暴走していた。

アレンは襲い掛かる触手をその場で斬り付け攻撃しているが、
大きくその場から動こうとはしない。いや、厳密に言うと動けないのだ。

実は先ほど足を捕らえられたとき、ひどく足を締め付けられていた。
早く泳ごうとすると痛みが走った。

「はぁ・・はぁ・・・!う・・っとうしいなぁ・・・!」

痛みをこらえつつ、ロトの剣を手に何とか奮戦するアレンであったが、
触手は7本も残っている。
縦横無尽に襲い掛かってくる触手はついにアレンを捕らえた。

「うわ!」

触手がアレンの身体に巻きつく。そして激しくアレンを締め付けた。

「ぐああーー。」

身体が激しくきしむ。ボキボキッと非常に嫌な音がする。肋骨をやられたかもしれない。
激しい痛みがアレンを襲った。
だが、敵が動かないのは、ある意味返って好都合でもあった。

「い・っ・・いてえんだよ・・・この馬鹿力のタコ野郎が!!」

アレンは自分の身体を巻きつけている触手にロトの剣を斬り付けた。
触手からは急激に力が抜けて、アレンは解放された。




船上からその様子を見ていたカイン達3人。

「兄ちゃん・・・頑張ってるけど、やばそうだぜ。」

「・・・・・さっきの・・アレン骨折れたんじゃない・・・・・?」

一度触手から解放されたアレンだが、最早泳ぐのも厳しそうだ。
しかし大王イカ本体はダメージもなく、残った触手がアレンを捕らえるのも
時間の問題だろう。

「マリア、ミゲル、行って来るね。」

カインは立てかけてある鉄の槍を手にした。
海に飛び込むつもりだ。

「緑の兄ちゃん、あんた泳ぎが苦手だって言ってなかったか!?」

「うーん。そうだけど、そんな事言ってられないよ。」

苦笑気味にカインが笑った。

「ミゲル、あいつ倒したらアレン連れてすぐ戻ってくるから、
 そのときは縄の用意よろしく。」

「え・・ああ。分かった。」

カインの言葉にミゲルは頷くしかなかった。

「マリア」

次にマリアの方を向いた。
そして視線を合わせて、何かをそっと目配せした。

「え・・・?」

「とりあえずやってみるけど・・・
 マリア、後はお願いね!」

何事かをマリアに託すとカインは、鉄の槍を持って海へと飛び込んだ。

「何だ?緑の兄ちゃん何言っていったんだ?」

ミゲルは今ささやいたことが何なのか、マリアに尋ねた。
マリアは一言だけ答えた。

「・・・・必勝の秘策よ。」





アレンは痛めた胸を押さえながら、襲い来る残った触手と懸命に戦っていた。

「う・・・っざ・・・・うぜんだよ!さっきから・・何回・・・やって・・・!・・あと何本あんだよ!」

息を切らしつつも懸命に戦うが、最早剣を持つことすら重くなってきた。
動きが鈍くなるのを見ると、触手はアレンの手から武器を奪った。
そして、再び丸腰になってしまったアレンに今度こそ止めを刺そうと
襲い掛かってきた。

「・・・・!!」

ほとんど身動きも取れないアレンは、最早防御するしかなかった。
その時上空から何者かが飛び込んできた。

ザクッ!!

小気味良い音を立てて、鉄の槍は触手に突き刺さった。
飛び降りてきたのは鉄の槍を持ったカインだ。

「アレン!!大丈夫!?」

「・・・・・。おま・・え・・・何で飛び込んで・・・・来るんだ・・・。
 つか・・・お前ら・・・魔法の援護全然ないでやんの・・。」

ぜえぜえと息も絶え絶えに悪態をつくアレン。
そのそばに泳いでいくと一人で奮戦した負傷があちこちに見える。
やはり肋骨は折れているようだ。

「ごめんね。」

一言謝るとカインはべホイミを唱えた。
全快とは行かない様子だが、たちどころに負傷が癒されていく。
手を振り回しても胸の負傷に響かない。どうやら治ったようだ。

「よし。これでも一回あいつらぶった切ってやる。」

鼻息荒くそういうアレンであったが、ロトの剣をあの触手に取られてしまっている。

「アレン、これ持っててね。」

そういうとカインはアレンに鉄の槍を手渡した。

「お、おお。お前どうするんだ。」

今度はカインが丸腰である。

「うん。アレン援助お願いね。僕泳ぐの苦手だから。」

「あ?」

まさか丸腰で泳ぎの苦手なカインを守りながら、
アレンに一人奮闘しろと言うのかと思った。
・・・が、どうやら違って、何かカインに考えがあるようであった。

「この触手と戦っててもきりがないよ。
 あの本体を潰さないと。」

「それは俺もそう思う。が、こう触手が多いと近づけねえぞ。」

「だから、アレン、よろしく。」

カインはニッコリと笑う。

なるほど、本体に近づきたいから、
アレンは泳ぎの苦手なカインをフォローしつつ
やっぱり結局奮闘しなければならないと言うことだ。

「それは良いけど!何か手があるんだろうな。」

「うーん。ベギラマを遠くから唱えてもあいつ効かなかったからねえ。」

「そうだろうが!炎なんだから、効かねえだろ!海では!」

「海では・・ね・・・。とりあえず一度試してみるよ。
 あとはね。マリアがきっとやってくれると思うんだ。」

「マリアが??」

何か考えがあるようだが、アレンには今一つ何が行われるのか
分からない。しかしぐだぐだと話している時間は無かった。

「ええい。ままよ!行くぜ!!」

結局作戦も聞かずにアレンはカインの手を引いて泳ぎだした。

カインは自分達にスクルトの魔法をかけた。
守備力が上がって、多少の攻撃には耐えられるはずだ。

そしてこれから行われる作戦においても守備力アップは必要だと感じたのだ。





「ほら、あとは行けるだろう!!」

アレンは器用に槍で襲い来る触手が近づかないよう何度も突き上げながら、
敵を威嚇していた。

「うん。ありがとう。」

カインはそう言うと、本体に一気に近づいた。
そして両手を大王イカの本体にぴたりと押し当てた。
その位置はもちろん海面より上で・・。

「遠距離で駄目なら、至近距離からぶっ放してやる!!」

カインはこの至近距離でベギラマを唱えた。
海面ぎりぎりのところで大爆発が起きた。
大王イカの身体は大きく揺れ、水面も激しく波打つ。

「う・・・わ!」

その爆風の衝撃をアレンは肌で感じた。

海面より上の部分の大王イカの身体は大きく燃え上がった。
身動きが取れない様子だ。
だが、そうは言っても炎などはすぐに海水で消えてしまうだろう。

そうなる前に止めを刺す必要があった。

「マリアーーー!!」

カインは船上にいるマリアに大声で合図した。





「おお!すげえ!緑の兄ちゃんすげえじゃん。
 姉ちゃん、今チャンスじゃないか!?」

ミゲルは興奮して船上でその様子を見ていた。

「ええ・・・。ミゲル、下がっていて。」

そう言うとマリアはある魔法の詠唱に入った。

カインが起こした爆発は魔物に大きなダメージを与え
あの魔物は身動きも取れない。

さらに、大きな大爆発を起こせば、
きっと今なら大王イカを倒せる、そう考えた。

初めて使う魔法だが、2人が活路を見出してくれた。
マリアは集中力を高めて、魔道師の杖を暴れ苦しむ大王イカに差向けた。

「大気とまじわる精霊よ。今我が命に従い、力の限りの暴発を起こせ!!
  イオラ !!!」



マリアの起こした大爆発は確実に大王イカを捕らえた。


パァーーーーーーン !!


大きな爆発音が起きた。巨大な大王イカの巨体が所々に飛び散る。

「うわあああ!!」

爆風の勢いでアレンはその場からすっ飛ばされてしまった。
再び海面に上がってきたとき、大王イカが水面深くに沈んでいく様子が見えた。

どうやら大王イカを倒したようだ。

「すげえ!やったぞ!!」

アレンは喜んで、船上にいたマリアとミゲルに手を振った。
マリアもそれに手を振り返す。



「姉ちゃん、すげーー!!やったーーやったーーー!!
 すげーーー!!!本当に大王イカを倒しちまった!!」

ミゲルも間近に見た強力な魔法の威力に興奮を隠し切れない。

「ああ、そうだ。縄だ縄。にいちゃーん、掴まれ〜」

そしてカインが言ってたとおり、縄を投げ捨てた。

「おーー。サンキュー!」

投げ捨てられた縄を手にしたアレン。
さて、戻ろうとして、ふと見渡すとカインがいないのに気がついた。

「あ・・・れ・・・?あいつどこだ?」

海面には沈み行く大王イカの姿しか見えない。

カインは大王イカの至近距離にいた。
そしてあの爆発の瞬間に・・・アレンはカインが取った行動を思い出した。
巻き添えを受けたのかもしれない。
あわてて前後左右見渡したが、やはりいなかった。






カインは先ほどの衝撃で大量の水を飲み込んでいて、
今どちらが海面でどちらが海の底なのかも分からなくなっていた。

マリアの魔法が大成功だったのは分かった。
ラダトームを出てから、マリアは少しの時間も無駄にせず
新たな魔法の習得を目指していた。
大灯台では結局使えなかったが、自分が爆発を起こせば
(炎を使った仮想爆発であるが)、
マリアならきっとその意図が伝わると思い・・・実際その思惑は大成功だった。

大王イカは倒れたのだ。

本来ならベギラマを唱えたらすぐに後ろに下がればよかったのだ。
実際その予定だった。

だが、ふと大王イカの触手が捕まえていたロトの剣が目に入った。
大事な剣なのだ。魔物と一緒に海に沈んでは困るのだ。

あわてて、その剣を取りに向かって、
爆発の巻き添えを受けてしまった。

元々泳ぎは得意ではなく、その衝撃のダメージと剣の重みとで
思うように海上にも上がれなかった。

『失敗したなあ・・・。』

自分がしゃしゃり出なくても、きっとアレンはロトの剣を見つけてただろう。

『・・・こんな失敗してたら・・・きっと怒られるなあ・・・・』


【 挿絵を見る 】




誰に、とは考えず、ふとそう思いつつ意識を手放しそうになったとき、
強く自分の手が何者かに掴まれた。

それが誰なのか確認も出来ず、成すがままにカインは手を引っ張られていった。



「っぷは!!・・・っげほ!!げほ!」

半ば無理やり引っ張られつつも、カインを海面に引き上げてくれたのは
アレンの手であった。

「・・ア、アレン・・・・?」

アレンは無言のまま、自分と、自分が手にするロトの剣とをしばし凝視していた。

「アレン、ありが・・・・うわ・・!」

カインは助けてくれたお礼を一言言おうと思ったが、アレンはその言葉をさえぎった。
そしてそのままカインを連れて船まで泳ぎ、その身体を抱えてミゲルの投げた
縄を上っていった。




「アレン!カイン!!大丈夫だった!?」

マリアはびしょぬれの2人にタオルを用意を渡した。

「ああ、俺は大丈夫だ。」

「う、うん・・・。僕も・・・平気。」

水を飲み込んだせいかカインは咳き込み息を切らせていたが、アレンもカインも無事に戻ってきた。

「兄ちゃん達に姉ちゃん!すげえな!俺興奮したぜ!!」

ミゲルは3人の戦いをたたえた。

「いや・・・それよりマリア・・・すごかったね!完璧だったじゃない!」

しゃがみこんで息を整えながら、カインは笑顔でマリアの魔法の成功を
喜んだ。

「ええ、あなたのおかげで、何とか形になったわ。」

「ねえ、アレン、すごかったよね!」

次にカインはアレンに顔を向けた。

お互いの健闘と無事を喜び合おうと思った・・のだが、
アレンはカインに視線を向けると
平手でその頬を思いっきり殴った。

「・・っ!!え?・・な、何!?」

一瞬何が起きたのか分からなかったカイン。

「アレン!?」

「兄ちゃん何すんだ!?」

マリアとミゲルもせっかくの戦勝気分だったのに
何事かと思った。

「アレン・・・どうしたの?
 また僕が足を引っ張ったから怒ってるの?」

せっかくマリアの魔法が成功したのに、
それに巻き込まれたりしたから、役立たずだから
アレンは怒っているのだろうかと思った。

「そんなんじゃねえ!」

「じゃあ何・・?」

アレンが何に怒っているのか分からない。

「お前あんな爆発だったのに、なんで飛び込んでいくような真似したんだ!」

「え・・・だって、ロトの剣大事でしょう?」

「・・・・・・・・・・。」

触手に捕らえられたロトの剣を追ってカインは迷いも無く飛び込んでいったのだ。

そしてアレンに助けられて無事だったとはいえ、
今も飛び込んでいったことは当然のことだと言わんばかりの様子のカインに
アレンはまだ怒っていた。

「ご・・・ごめん。僕がしゃしゃり出なくてもアレンがきっと取ってくれたよね?
 だからアレン怒ってるんだよね。ごめんね。僕が下手くそだから。」

「・・・違う。・・・・・・・俺は・・・・・。」

正直に言うとアレンはあの瞬間ロトの剣のことなんて頭に無かったのだ。
アレンは首を振った。


ロトの剣は確かに大切だ。とても大切なものだ。

だけども。
アレンは静かに口を開いた。


「いいか、覚えておけよ。
 命より大切なものなんて無いんだ。あんな無茶したら次は許さねえからな。」



- 続く -

2010/12/04
▲

戦いだけで終わってしまったよーー(汗)
海の財宝はどこへ行った?という今回のお話でした。

スイマセン、次で終わるでしょうね。きっと。

水中戦はなんだか息が切れます。

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